小さき豪勇の矜持

    作者:御剣鋼

    ●逢魔が時の邂逅
     島根県・出雲の温泉街のはずれ。
     のどかな田園地帯が続くあぜ道を、緋色の髪を靡かせた少年が全力で疾走している。
     否 、只の少年ではなかった。
    『アイツ、スゴクカッコイイケド、スゴクムカツクナ!!』
     半人半獣の少年イフリート、『ヒイロカミ』が不機嫌に眉を寄せる。
     ちらっと後方を見やると、緑色の重機のような物体が、地響きと共に迫らんとしていて。
    『素敵にプレスしてあげるからね♪』
     ヒイロカミを執拗に追いかけるのは、人の頭部がついた緑色のロードローラー。
     その重量から考えられない速度を出しながら、ヒイロカミを押し潰さんと迫る。
    『ウゥ、疲レテ眠クナッテキタ、ケド……ペシャンコサレルノ、イーヤーダー!!』
     背が低いことを気にしているヒイロカミは反射的に頭を抑え、速度を緩めてしまう。
     距離が更に狭まり、エンジンを甲高く噴かしたロードローラーが、一気に加速する。
     同時に。炎の幻獣種としての矜持と殺戮欲が、ヒイロカミの闘争心を熱く駆り立てた。
    『オマエ、ツヨイカッコイイ。デモ、オレモ……ツヨイゾ!!』
     素早く踵を返したヒイロカミは強く地を蹴ると、炎を纏った剣斧を煌めかせて。
     緋色の髪がふわりと靡いたのも一瞬、駆け出した炎は、果敢にも反撃に転じた——!
     
    ●小さき豪勇の矜持
    「外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)様が闇堕ちしたことは、既に周知の事と存じますが、不肖里中が軽く補足させて頂きます」
     謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』。
     彼は、何らかの方法でウツロギを闇堕ちさせ、稀有な能力の六六六人衆へ仕立て上げた。
    「その六六六人衆こそ、序列二八八位『ロードローラー』でございます」
     二八八位の序列は『クリスマス爆破男』が灼滅されたあとは、空席のままだった。
     しかし、特異な才能を持つ六六六人衆の誕生によって、その席が埋まることとなる。
    「ロードローラーは5色に分裂して日本各地に散り、次々事件を起こしております」
     里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)がアウトプットしたのは、緑色のロードローラーが起こす事件。
     ロードローラーは、倒したダークネスのサイキックエナジーを利用し、更なる分裂体を生み出す力を持っているという。
    「そして、このロードローラーに狙われている、ダークネスでございますが……」
     穏やかな瞳に少し戸惑いのようなものを浮かべ、執事エクスブレインは続ける。
     ガイオウガ一派のイフリート、『ヒイロカミ』でございます、と——。
    「幸い、今のヒイロカミは、武蔵坂学園の灼滅者には、敵意を抱いておりません」
     初めての邂逅から一貫した協力的な姿勢が、ヒイロカミに影響しているのは間違いない。
     どちらかというと、眼前のロードローラーに対して鬱憤を爆発させる気満々なので、共闘を持ち掛けた場合は、1も2もなく乗るだろう。
    「事件が起きるのは、島根県・出雲の温泉街のはずれにある、田園のあぜ道でございます」
     執事エクスブレインはバインダーから地図を取り出すと、1人1人に手渡していく。
     人や車が通ることはないが、ヒイロカミは小さくても目立つので、直ぐに分かるはずだ。
    「ヒイロカミは体力を消耗してますが、それでも足手纏いにはならない実力の持ち主です」
     協力関係にあるダークネスとの共闘に加えて、時間制限もない。
     しかし、まだ手放しで喜ぶことはできなかった。
    「今回は味方といえ、ヒイロカミは一派の中でも、短絡的な思考の持ち主でございます」
     一言で言うと、猪突猛進馬鹿。思考パターンは3〜4歳くらいの幼児だろうか……。
     子ども扱いしたり、ちょっとしたことで直ぐに機嫌を損ねてしまうので、注意が必要だ。
    「ロードローラー撃破後のヒイロカミの対応でございますが、現場の皆様にお任せします」
     敵の敵は味方といえ、ダークネスというのはかわりない。
     戦闘後、ヒイロカミは傷ついた体を休めようと、すぐにその場から離れようとする、が。
    「彼に余力があり、信に置けるものがあれば、少しは耳を傾けてくれるかもしれませんね」
     難しい言葉や考えることは苦手らしいので、返答は2つくらいが限界だろう。
     疲れて油断している状態なら、灼滅することも可能かもしれない……。
    「何はともあれ、まずはロードローラーを撃破することに、集中して下さいませ」
     これ以上、ロードローラーが力を手に入れるのを、黙って見過ごすことはできない。
     執事エクスブレインは瞳を細め、深々と一礼するのだった。


    参加者
    天衣・恵(無縫・d01159)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    九葉・紫廉(春風を駆ける紅葉・d16186)
    ターニャ・アラタ(破滅の黄金・d24320)
    ミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)

    ■リプレイ

    ●競争
    「さーて面白いことになったな」
     強敵の一手一足を間近で盗めるのは、実に僥倖と言えよう。
     剣戟が間近に迫り、2体のダークネスを眼前にした八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)の唇から、静かに気性の激しい言葉が洩れる。
    『オマエタチ、ハ』
    「ヤメロと言ったって止めないよ☆ ボクはねぇ、こう見えて頑固だから♪」
     ダークネスとの共闘を不思議に感じていたのは、ミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)も同じ。
     警戒を露にしたヒイロカミにミーシャは簡単な挨拶を返すと、三つ編みを靡かせながら発光性塗料の入ったカプセルを、ロードローラーにぶつける。
     目印というより素敵アートと化したロードローラーに、九葉・紫廉(春風を駆ける紅葉・d16186)はこめかみを抑えながら、ヒイロカミに笑みを向けた。
    「一回遊べばダチで、一緒に戦えば仲間だろ?」
    『オマエ、ミタコトアル……スレイヤーカ!』
     一行が灼滅者だと確信したヒイロカミの警戒心が、瞬時に薄まる。
     普通の戦場でダークネスと共闘するのが初めての紫廉の背に、冷たいものが流れた。
    『スレイヤー、ナンノツモリダ』
    「簡単な事だ。私達武蔵坂もアレをぶっ飛ばしたい、それだけの事だ」
    「わたくし達の目的は、ろーどろーらー様分体の灼滅のみですの」
     あのロードローラーは武蔵坂も倒さなければいけない相手だと黒衣のミリタリー服を着た少女、ターニャ・アラタ(破滅の黄金・d24320)が答える。
     聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)も簡潔に告げると、焔桜の切先を敵に向けた。
     幸い顔見知りがいたので事なきを得たが、武蔵坂と名乗る方が先だったかもしれない。
    「あれの存在は我らの不始末、我らでケリをつける。それとも——」
     傍らに降り立ったワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)は口元に笑みを浮かべ、軽く挑発するように言葉を投げる。
    「お主もやる気なら、ひとつどちらが倒せるか競争でもしてみないか?」
    「勇ましい豪傑さん、私達とどっちが先にロードローラーを倒すか競争よ」
     あのロードローラーをどちらが先に倒せるか。
     そう、競争を持ち掛けたワルゼーと神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)に、ヒイロカミの闘志が一気に燃え上がったのは言うまでもなく。
    『ガイオウガノ戦士、スレイヤーニ負ケナイ!』
    「私も負けへんで!」
     普段から明るくノリが良い天衣・恵(無縫・d01159)は、更にテンションが上がってランナーズハイ!
     ライバル意識に似た対抗心をメラメラと燃やしながら、突出して疲労を濃くしていたヒイロカミを癒さんと、戒めを取り払う符を飛ばした。
     
    ●競闘
    「まずは厄介な敵をヒイロカミと共に討つ!」
     ワルゼーは雑念を振り払うように軽く頭を振ると、ロードローラーを鋭く見据えて。
     螺旋の捻りを加えた槍を鋭く突き出すと、強烈な気魄の一撃を追うように剣撃に特化した剣斧の一閃が、素早い軌跡を描く。
    『回復イラナイ!』
     剣斧を旋回しながらヒイロカミは恵とミーシャの治癒に獣に似た唸り声を返していて。
     しかし、回復で気を害するのも計算の内、灼滅者達は至って冷静だ。
    「するなと言われるなら気をつけますが、わたくしには強い方を支援するのが普通なので、むつかしいですのね、ううん」
    『ソ、ソウカ』
     戸惑うような素振りで『強い方』と告げるヤマメに、ヒイロカミは嬉しそうな様子。
    「イーブンな状態で競争してこそだし!」
     立場は違っても分け隔てなく回復するのが、メディックの仕事。
     そう、さらりと告げた恵にヒイロカミも「オシゴトナラ、仕方ナイ」と前を見据える。
    「強き『戦士』であるか否かは外見とは無関係。そうであろう?」
     LEDランプを腰に差し、ターニャは軍用サーベルを模したクルセイドソードを振う。
     自身よりも小柄な少女が繰り出す白光の斬撃に張り合うように、ヒイロカミも剣斧に激しい炎の奔流を乗せていく。
    「ヒイロカミとお友達になれたらいいなぁ♪」
     次々とクリアされる難題にミーシャは安堵し、白兎印の杖を高らかと掲げる。
     善なるものを救う裁きの光条が味方を癒すと同時に、ライドキャリバーのカゲロウと共に壁となった紫廉もシールドを広げて護りを固めた。
    「ロードローラーの目的は分かりませんが……」
     宗次郎は第三勢力等の介入を警戒しつつ、ヒイロカミの動きを注視していて。
     今はまだ、ヒイロカミを倒されるわけには行かないと思うのは、宗次郎も同じ。
     ーーそう、ヒイロカミとは争わない。
     機嫌を損ねて戦いを挑まれたとしても、応戦しないというのが、全体の方針でもある。
     8人と2体の意識は、ロードローラーを倒すことに統一されていた。
    「良い腕前ね。私も負けてられないわ」
     そして、そのためにはヒイロカミの力が必要なのは、華夜も自覚している。
     剣戟を追うように華夜の影も鋭い刃と化して緑の凶体を斬り裂くが、僅かに浅い。
    「普通に接する、それだけですの」
     ヤマメはヒイロカミに対して思うことはない。
     根本で相容れぬ存在であるというのが当然、ことさら態度を変える理由にならない。
     疲れているなら気遣うし、失礼なことを言われれば怒る。ただそれだけのことだった。

    ●共闘
    「この振動、受けてみなさい!」
     動きを封じるべく華夜がロケットハンマーを勢い良く地面に叩き付ける。
     しかしロードローラーは気魄系の衝撃波に怯むこともなく、至って廃テンション!
     嬉々とエンジンを鳴り響かせると、近列を押し潰さんと迫って……♪
    「くるなああ!!」
     発光性塗料で煌めくボディに迫られた紫廉は全力回避——も、虚しく押し潰される。
    「後衛の方は大丈夫ですか?」
     視界も暗く深くなってきている。
     浄化をもたらす優しき風を招きつつ、宗次郎は林檎を模したランプを足元に置いた。
    「回復の手は十分足りてますわね」
     一瞬だけ後衛の状況を伺ったヤマメは、直ぐに前衛へ視線を戻す。
     列攻撃は脅威ではあるけれど、単体攻撃に比べれると命中率と威力が劣るものが多い。
     前衛に3人と2体、ヒイロカミも一緒に並んで誘発している状態では更に限定され、中衛後衛は余裕をもって治癒に専念することが出来た。
    「みんなでがんばろー」
     列攻撃を多用するロードローラーに対して、恵はバイオレンスギターをかき鳴らす。
     立ち上がる力をもたらす響きと癒しはヒイロカミにも行き渡るけど、気を害する様子もなく、眼前の敵に攻撃を仕掛けていて。
    「貧弱と罵られようが! 矮小だと見下されようが! ボクは絶対に諦めない!」
     後列のダメージにはミーシャが剣に刻まれた祝福の言葉を解放し、即座に癒す。
     一瞬、最前線から殺気めいたモノが湧いたような……いやきっと気のせいですね!
    「さすがはイフリートの戦士といったところか」
    『スレイヤータチモ!』
     魔力の奔流を叩き込むワルゼーに、ヒイロカミも強撃に特化させた剣斧で薙ぎ払う。
     呼吸を合わせるようにヤマメが振った刃が緑の胴に巻き付き、動きを封じていく。
    「油断せずに堅実に戦うとしよう」
     見た目ユニークでも、高位の六六六人衆である事には変わりない。
     回復と支援を後方に委ねたターニャも足止めを狙わんと、死角からの斬撃を繰り出す。
    「流石に身体構造の違うロードローラーやヒイロカミから、技術は盗めないか」
     宗次郎は印象強化も兼ねて積極的に声を掛けようとしたが、言葉が見つからない。
     指先に集めた霊力で味方を癒しながらも、静かなバトルマニアらしくダークネスらの観察を怠ることはなかった。

     戦況は終始、灼滅者の優勢で進んでいた。
     ヤマメを始め、全員が細かい指示や子供扱いせずに自然に接することを徹底していて。
     その結果、戦いに集中できたヒイロカミは、最大火力として大いに貢献していた。
    「あちらこちらでゴロゴロゴロゴロと地ならし三昧、どこまで迷惑をかけるつもりだ……」
     ……が、相手は序列二八八位の分裂体、そう簡単に倒れてくれない。
     迫り来るローラーを槍先で受け流したワルゼーは距離を狭め、オーラを拳に集束させる。
     凄まじい連打が繰り出される中、中衛で回避を心がけていた華夜も静かに毒づいた。
    「防御なんて出来る気がしないわ、まだ動き回るようだったら——」
     前衛で攻めていた霊犬の神命に味方のフォローを命じると同時に、足元の影が揺らぐ。
    「お次は影の刃よ。バール、切り裂いてやりなさい!」
     華夜の足元から伸びた虎の形をした影が鋭利な刃と化すと同時に、ローラーダッシュの摩擦を利用して飛び出した紫廉が、炎を纏った回し蹴りを見舞う。
     しかしロードローラーの動きは鈍くなれど、止まらない。
     攻勢に転じた宗次郎が装甲を破壊せんと巨大化させた片腕を勢い良く叩き付けるが、惜しくも固い装甲に阻まれてしまう。
     疲労を濃くしたターニャに恵が傷を癒して耐性を高める符を飛ばし、ミーシャが温かな光でワルゼーを治癒しようとした、その時だった。
    『戦イデ受ケタモノ、戦イデ返ス!』
     煌々と輝く緋色のタテガミから放たれていたのは、フェニックスドライブに似た力。
     気魄と術式中心の自身より、灼滅者達の攻撃が効果的だと判断したのだろう。
     神秘系の攻撃はヒイロカミも持っているが、他より劣っていた。
    「いいのか?」
    『叩ク、回復サレル、アキタ』
     ターニャの声にヒイロカミの瞳が悪戯めいたものに変わり、行けと促す。
     助けや応援でなく、上から目線でもへりくだるのでもなく、一人前の戦士として尊重して接したことが、猪突猛進的なヒイロカミの戦法を変えたのかもしれない。
     今は、灼滅者達の力量を瞳に焼き付けようとしているようにも見えて……。
    「虎の一撃、甘く見ないでよ!!」
     華夜の虎の形をした影の一撃は堅い装甲に弾かれるものの、一瞬だけ態勢を崩す。
     すかさずヤマメが放った風の刃にロードローラーが大きく揺らぐが、まだ倒れない。
     それでも構わない。次に繋げてくれる者が、当てやすくなればいいのだから。
     そして、その願いを叶えるようにミーシャの非物質化した剣が霊的防護を破壊、低い位置から放たれたターニャの炎を纏った強烈な蹴りが、高い位置から繰り出した宗次郎の重みを乗せた飛び蹴りが、ロードローラーの機動力を奪う。
    「貰ったッ! Gute Nacht!」
     妖の槍の力で自身の力を向上し続けていたワルゼーが、強く地を蹴って跳躍する。
     蒼い結晶の羽根を飾ったペンダントが凄まじい魔力の奔流を受けて、煌めいて。
     その刹那。緑色の凶体は激しく上下に振動し、内側から大きく爆ぜた。

    ●決意
    「お疲れ様、豪傑さん。また一緒に戦えるかしら?」
    「剣斧での炎斬とかかっこよかったでー!」
     労いと強さを持ち上げる華夜と恵に、ヒイロカミは照れを隠すように横を向く。
    『スレイヤーモ、ツヨクナッタナ。……チョットダケ』
     そう洩らしたヒイロカミが去ろうとした、その時だった。
    「疲れた時には甘いものが一番だ、良ければヒイロカミ殿も半分食べるか?」
     ターニャはチョコレートバーを半分に分けると、同じ目線でヒイロカミに差し出す。
     一瞬で手元から消えるチョコレートバー、その目は嬉々と残りの半分をねだってる!
    『コレウマイ、モットチョウダイ!』
    「ふむ……ガイオウガはそう遠くない内に力を取り戻せそうなのか?」
     渡る世間はダークネスでも、世の中はギブアンドテイク♪
     上機嫌のヒイロカミにターニャはチョコ……ではなく、ガイオウガの近況を訪ねた。
    「ガイオウガの元にはお主のような戦士がどれ程いるんだろうな?」
     ワルゼーも言葉を重ねるけれど、ヒイロカミは不思議そうに首を傾げるだけで。
    『スレイヤーモ、ワカラナイコト、アルノカ? ナンデモシッテル、オモッテタ」
     逆に武蔵坂の調査能力に興味を持ったヒイロカミが「ナンデ?」を連呼する。
     その様子に紫廉は笑みを隠しながら、労いの言葉と共に拳を突き出した。
    「こうやって拳と拳を突き合わせるのは男同士の挨拶なんだぜ。カッコイイだろ?」
    『オレモヤル!』
     嬉々と交わされた拳は小さかったけれど、ガツンと重い衝撃があって。
     思わず苦笑を浮かべながらも、紫廉も聞きたかったことを訪ねた。
    「そういやなんで出雲にいるんだ?」
     ——前は確か、箱根に仲間に会いに行くって言ってたけど。
     同じことを聞きたかった宗次郎も静かに耳を傾け、ヒイロカミの言葉を待つ。
     遊んでいた可能性が高いけど、何か使命等を抱いている可能性も否定できないからだ。
    『ナニカ、アタラシイコト、アッタカナイカ、オレ、源泉ノ仲間ニ、キイテ回ッテタ』
     言葉が苦手なヒイロカミは、身振り手振りで説明する。
     武蔵坂と違って自分達には調査能力がないので、伝令のオシゴトを始めたとのこと。
     何か新しい情報がないか、全国の源泉を巡って現地のイフリートから情報収集したり、その地の源泉のイフリートに他の地域の情報を伝えることもしているようだ。
    「ひいろかみ様が、ですの?」
     疲労を濃くしていた理由にヤマメは納得すると同時に、疑問が浮かぶ。
     何故、そのようなことを『クロキバでなく、ヒイロカミがしている』ということに。
    「最近、ヒイロカミたちって何してんの?」
     さりげなく訪ねた恵に、疲れで微睡み始めたヒイロカミの眼が、大きく見開く。
     そしてイライラを爆発させるように頭を掻きむしると、空気を裂くように叫んだ。
    『オレガ知リタイヨ! クロキバ、アカハガネ、ドコニイッタカ、ワカラナイカラッ!!』
     顔を上げたヒイロカミの瞳は荒々しく、けれど今にも泣き叫びそうに潤んでいて。
     ふと、何か思いついたのだろう、ぱっと瞳を輝かせると、灼滅者達を見回した。
    『アノネ、ナニカ情報アッタラ、源泉ノミンナニ、オシエテクレルト、ウレシイナ』
     箱根でも何処でも構わないから、何かあったら源泉の近くに石板を置いて欲しい。
     そうすれば、その源泉を護っている仲間が見つけてくれるし、クロキバかアカハガネが気付いて連絡してくれるかも知れないから、と。
    『ミンナ、シンパイシテル。オレモ、スゴク……』
     己がすべきことに駆り出され、今度こそ風を切るように踵を返した。
     恐らく出雲の源泉に向かうのだろう。そこで情報収集も兼ねて、疲れた身体を休めるつもりなのかもしれない。
    「またね♪ また、逢えると嬉しいんだよ☆」
     ——ボクはね、キミと友達になりたいんだよ♪
     成り行きを見守っていたミーシャが手を振ると、ヒイロカミは足を止めて振り向く。
    「今度は遊ぼうなー」
     将来のことは分からないけれど、今この時だけでも友好でありたい。
     恵が大きく手を振ると、ヒイロカミも真似するように大きく手を振ってくれた。
    「宝物、増えたみたいだな」
     大切なものを探さんと夜風となった緋色の炎を見つめながら、紫廉は瞳を細めて。
     小さな背が夕闇に隠れたのを見届けた少年少女達も、静かに踵を返したのだった。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 40/キャラが大事にされていた 7
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