病弱少年の正体は俺と彼女だけが知っている

    作者:るう

    ●とある男子校、体育前の休み時間
    「おいカオル! お前また体育休むのか?」
     からかう口ぶりのヤンキーの胸倉へと、ナオキは掴みかかった。
    「仕方ねえだろ、こいつは病気で体育ができねえんだ! それ以上カオルを馬鹿にするなら俺が相手になってやらぁ!」
    「やめてよナオキ君。ボクの事はいいからさ……」
     カオルが止めに入る。その瞳はじっとナオキだけを見つめ、心なしか潤んでいる。
    「……っち。お前に言われちゃしゃあねえよ」
     放り投げるように、ナオキはヤンキーを手放した。慌てて立ち上がったヤンキーは、「またホモホモしやがって」と捨て台詞を吐くと、逃げるようにその場を後にする。
    「ごめんね、いつもボクのために……」
    「仕方ねえだろ、お前の秘密は俺の秘密でもあるんだからな」
     ナオキは背の小さな病弱同級生から顔を背けると、カオルに聞こえるか否かの小さな声で呟いた。
    「男子校で正体バレないように頑張ってる女の子とか、健気すぎて反則だろ……」

    ●武蔵坂学園、教室
    「カオルと名乗る少女淫魔が、一般人を闇堕ちさせようと活動しているみたいです」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)の未来予測によると、ボーイッシュなカオルは美少年のフリをして男子校に潜入、同級生のナオキにだけ秘密をバラす事で保護欲を掻き立て、彼を忠実な配下ダークネスに仕立てようと目論んでいる。
    「秘密を守るため、また自らの恋心を満たすため、ナオキさんは常に淫魔の傍にいます。挙句の果てには……同棲も。闇堕ちはじきに起こり、新たなアンブレイカブルが生まれます」
     ベストは淫魔を灼滅し、ナオキの闇堕ちも防ぐ事だが、それは難しいだろう。
    「私が想定している方法は三つですが、他にも方法があるかもしれません」
     一つは、小細工なしの正面突破。カオルを灼滅し、ナオキが怒って闇堕ちすればこれも灼滅。
     二つ目は、何とか両者を引き離してから淫魔を灼滅。事後、ナオキにカオルが姿を消した理由を納得させねば闇堕ちしてしまう危険はあるが、その場合も各個撃破で済む。
    「最後は、最初にナオキさんの義務感と恋心を萎ませてしまう方法です。これでしたら、ナオキさんが闇堕ちする心配は二度とありません」
     何にせよ、カオルの非常識な設定は、上手く使えばナオキの闇堕ちを防ぐための説得に有益かもしれない。

     幸いにしてカオルは、ダークネスにしては弱い。病弱なフリをしているが実際には運動が得意、という意外な罠はあるものの、知っていればどうという事もないし、配下もいないので、彼女を灼滅するだけなら容易だろう。
    「ただし……それは、ナオキさんを強いと見込んだからこそ近付いた、という意味でもあります。こちらは、戦って勝てない相手ではないでしょうが……危険な相手です」
     赤いオーラを纏ったアンブレイカブルは、遠距離攻撃手段こそ乏しいものの、手の届く範囲の相手には猛威を振るう。幸いなのは、放課後の教室なり、二人の棲家なり、一日の中で周囲の被害を考える必要のない場所は幾つかあるという事だ。
    「無理は、しないで下さい……せめて片方だけでも灼滅できれば、ダークネスの陰謀はまた一つ潰える事になるのですから」
     もちろん槙奈だって、灼滅者たちがベストの結果を出してくれる事を願うのだが。


    参加者
    神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)
    二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)
    海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    咲宮・響(薄暮の残響・d12621)
    海北・景明(色執事たちの沈黙・d13902)
    駈岳・拓(肯定者・d23362)
    エーファ・シャルブロート(藍玉の心臓・d24026)

    ■リプレイ

    ●放課後の思惑
     教室には、見つめあうナオキとカオルだけが残っていた。この季節、窓から入る西日は高く、ロマンチックな夕日には程遠い。
     けれどそんな事は、二人の気持ちを何ら妨げたりはしなかった。これから二人を妨げうるのは、灼滅者たちが起こす、一連の事件だけ。
    (「あの子がカオルね。ほんと、手が込んでるってゆーか」)
     エイティーンの後に少し大きめの制服で体型を隠し、ウィッグで髪型を変えてしまえば、神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)はまるで美少年だ。その姿をちらと見て、駈岳・拓(肯定者・d23362)は思わず、どきりとするのだった。
    「青い春にある男の子の心を弄びやがって、この淫魔!」
     結月の男装姿を実際に見れば、ナオキがカオルに惚れる理由もよくわかった。もっとも拓には、恋人持ちの結月に不誠実な真似をする気などないけれど。

     一方その頃、咲宮・響(薄暮の残響・d12621)らは別の教室で控えていた。
    「おーおー、青いこった。こう言うのは燃えるだろうけどな」
     二人からの「予定通り決行」との連絡を読み終えると、彼は余裕の表情で黒縁の眼鏡をかけ直す。非現実的なドラマはここまでだ。
     教室の中では、やはり制服を着、髪型を変えてこの学校の生徒に扮したエーファ・シャルブロート(藍玉の心臓・d24026)が準備を整えている最中だ。後は、手筈の最終確認もしておかねば。
    「非日常から生まれる恋心、闇の道への灯にするのは阻止だ」
     唐突に、ふと仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)が呟いた。かっこいい事を言った筈の彼の姿は、その身長と童顔もあり、妙に中学生じみていた。

     予定通りなら、そろそろ結月と拓がカオル達を連れて来るはずだ。
    「恋心ってのは単純なモンじゃねぇ。まして、ト書きどおりに事が進むモンでもねぇさ」
     自らも恋人を持つ身ゆえの海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)は、果たして淫魔に向けたものだったのか? それともある種の自戒だったのだろうか?

    ●もう一人の男装生徒
    「カオルくんって、もしかして女の子だったりしない?」
    「てめえ! 言うに事欠いて何のつもりだ!」
     結月に訊かれて立ち上がったナオキを、慌てて拓が止めた。
    「落ち着いて下さい! 実は……僕たちも同じなんですから。貴方たちも男装女子と協力者の関係でしょう?」
    「……どういう事だ?」
     拓の言葉にナオキは、首を傾げるほかない。確かに自分はカオルに協力しているが、まるでそれが特別な事でもないような言い方だ。
    「俺たち『も』って事は……他にそういう関係の奴らがいて、俺たちもそれと同じだって言いたいのか?」
     こくり、と頷く結月。
    「実は僕も、こんなかっこしてるけど女の子なんだ。だから、カオルくんも仲間だったら、いいなって。だってカオルくん、着替えて体育してる姿みた事ないし、体つきだって華奢だよね」
    「だったら何だって言うんだよ! こいつには事情があるんだよ!」
    「ナオキ君!」
     カオルに叱られて、ナオキはふと我に返って恥じ入る。これじゃあ、カオルが女だと認めたも同然じゃないか。
    「……そうだよ。ボクは女。事情があってこんな事をしてるんだよ」
     ついにカオルが、秘密を暴露する。悔しげに顔を歪ませる少女を、ナオキはそっと後ろから抱きしめる。異性だとバレてしまった以上、人目を気にする事なんて何もない。
     ただ、カオルを慰めるナオキの表情には、一抹の不安が表れていた。他でもない、ナオキの事だ。
    「なあ。バレちまったら俺達の関係、終わっちまうのか?」
     ナオキの目下の心配は、それだった。同じ事が、カオルにとっても言える……もっとも彼女の心配は、二人の秘密が他者に漏れた事によって、自分のナオキへの支配力が揺らぎはしないかという方だったが。
    「そんな風にはならないよ」
     ナオキへと、結月が語調を強めてみせた。
    「そのためにも……秘密を知る人同士、お互いに協力しない?」

    ●共闘の誘い
     場所を変えよう、と言ってナオキ達が案内されたのは、例の、エーファらが準備していた教室だった。
    「今まで、秘密を守らなければならないというのは、辛かっただろう」
     カオルが何かを言おうとする機先を制して、既に集まっていた男装女子のうちの一人、二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)が声をかける。
    「君が選んだパートナーは……そのナオキか。ボクが協力して貰っているのは彼だ」
     機械のように淡々と、メイテノーゼを指す。男装女子とパートナーとの関係は恋愛などではなく、単なるビジネスに過ぎないと印象付けるように。
     その言葉を、メイテノーゼ自身も補った。
    「彼女にも事情がある。他の人にもな……だから共闘している。差し支えなければ、カオルさんの事情もお聞きしたい」
     折角の縁だ、助け合いましょう、と呼びかける彼が友好的で、ゆえにナオキが疑念を持たない事が、どうやらカオルを苛立たせていたようだった。
     そもそも、男子校への男装潜入なんて計画のために、彼女がどれだけ手の込んだ工作を必要としたか。なのに、同様の計画が彼女の知らぬ間に複数進行していた上、それらが突然同時に接触してくるなんて偶然が?
     灼滅者たちがナオキを説得する間に、プリンの詰まった淫魔の脳味噌は、何者かによる妨害工作というアイディアを生み出していたようだった。
    「キミ達の事、ボク、信じられないよ。共闘なんて嘘っぱちに決まってる!」
    「どうしたんだよ急に?」
     ナオキの顔に、困惑と非難が浮かぶ。真実を知らず、カオルの思考をなぞれないナオキにとっては、カオルが唐突にヒステリーを起こしたとしか思えまい。
    「共闘ったって、都合のいい時だけで構わねえんだろ? だったら別にいいじゃねえか、俺たちの関係が壊れるものじゃなし」
    「上手くは言えないけど……この人たちは、信用できない。行こう、ナオキ君」
     教室から出て行こうと、ナオキの袖を引っ張るカオル。どちらを信じればいいのかと迷っているナオキの元へ、エーファがつかつかと歩み寄った。そして……唐突に上着のボタンを外し、シャツの膨らみを露に。
    「ほら……本当でしょう? 僕……いえ『わたし』も、あなたたちの力になりたい。男装して潜入してる理由こそ違うかもしれないけれど、カオルちゃんとナオキくんを助けてあげたいの。これでも、信用してくれない?」
    「だったら『キミ達が』まず、どうして潜入してるのか言ってみせてよ!」
     絶叫するカオル。眼鏡の中の双眸を優しげに細める響は、想定の範囲内、などという考えをおくびに出したりはしない。
    「コイツは婚約者の候補を探してこの学校に来たんだ。健気なもんだよな」
     生憎俺じゃ候補にすらならないようだが、と冗談を言ってから、響はこう続けた。
    「まあまあ、アンタの事情については、どうしても他人に言えないって事なら必要以上の詮索はしないさ」
    「どうかな? わたしたちの仲間にならない?」
     もう一度、エーファが問うた。
    「その方が、こちらとしても心強い」
     続いてメイテノーゼ。是非とも、と右手を差し出そうとするナオキを、カオルが止めた。
    「何でだよ、誰もお前を取って食おうってわけじゃないじゃないか」
    「お願いだよナオキ君……この人たちを信じちゃダメ。ボクの事を信じて!」
     限りなく友好的に接触したこの六人が敵である可能性など、真相を知っているカオルにしかわからない。必死なカオルの言動がナオキに奇妙に映り、それが疑惑へと変わってゆくには、雪紗の計算が正しければあと一押しのはずだった。
    「信じるさ、信じてやるとも! けれどお前、どうして今日はそんなに頑ななんだ? 俺の知らないお前の事情が、もしかしてこいつらに関わってくるのか……?」
     ふと、拓が漏らした。
    「そう言えばカオルさんの事情、知ってる人がいましたよね。彼ら、ちょっと話したい事があるみたいで……」
     その時音を立て、教室の扉が開かれた!

    ●明らかとなる真実
    「また会ったわね、カオルちゃん……」
     キザに扉に寄りかかって色目を使うオネエ言葉の男は、海北・景明(色執事たちの沈黙・d13902)。カオルに、キミなんて知らないよ、と否定されるも、とうとうと彼女の『過去』を述べ立てる。
    「アタシ、以前にカオルちゃんと協力してた事があったんだけどね、その後突然いなくなっちゃったのよ。ようやく会うことができて、嬉しいわ」
    「全部嘘だよ! ナオキ君、こんな奴の言葉、信じないよね!?」
     その通り。全部、嘘。
     けれど、カオルしか知らない『何か』について仄めかされた今、ナオキにはそれも『本当にあった事だが、カオルはそれを拒絶している』としか映り得ない。ダメ押しで、景明がアタシの時より用心深くなってるみたい、などと呟いたのを聞いた時には、特に。
    「……つまりな? 前の学校でもあったんだ、こういう事」
     眞白が、口を挟んだ。勿体ぶってんじゃねえよ、と凄むナオキの口調は、ほんの僅かに震えている。
    「過去は過去だ、と前置きはしておくが」
     眞白はナオキに、覚悟を問う。どうやら景明によると、あまり他人に聞かせるべき事ではないもののようなのだ。
     もっとも眞白は知っている。場合によると、ナオキに燃え上がる恋心は、今更否定できやしない。仮に、カオルが全人類の邪悪を集結させた存在であったとナオキに信じさせたとしても、それらを全て飲み込みうるのが恋なのだ、と。
     だが、それでも構いはしない。今はナオキを唆し、カオルと引き離せば良いのだから。
    「ああ、好きなだけ言うがいいさ……ただし、少しでも余計な事を言ってみろ。そん時はタダじゃおかねえ」
    「三人で別の所に行きましょ。そこで、教えてあげるわ」
     好きにしろ、と、吐き捨てるように景明に応じるナオキ。三人が、教室を出て行こうとした……その瞬間!

    「ボクもその話、聞いても構わないよね!? キミ達が何か誤解をしてた時に反論するくらいの権利、ボクにだってある筈だもの!」
     ナオキの腕に、カオルがしがみ付く! 潤む瞳でナオキの顔をじっと見上げ、一人にしないで、と懇願するカオル。
     面倒臭そうな顔をしていたナオキが、仕方なく折れた。
    「……って事だそうだ。別に構わねえよな?」
    (「どうしましょう? この様子では、二人を引き離す事はできなさそうですけど……」)
     拓は迷う。二人を引き離すのに失敗した時は、ナオキが二人の誘いを断って闇堕ちした時になるだろうと思っていた。
     けれど実際には、ナオキが乗って、カオルが拒否する逆のパターン。いっそこの時ナオキが闇堕ちしていれば、悲しいが、なすべき事は一つだったのに。
    「まあまあ、それよりアンタとは今後についての話をしたい。過去なんかの話より、そっちの話の方が重要だろ?」
     努めて平静に、響がカオルに声をかけた……苦しい事は承知の上だ。だがもちろん、答えはNO。
     このまま四人で教室から出せば、逆に仲間を分断される。ならば、今ここでカオルの『過去』をぶち撒ければ? いや、それではナオキも不誠実と憤るだろう。
     一発の漆黒の弾丸が、狙い違わずカオルの背を裂いた。ならば今、先手を取る。それが、雪紗の結論だった。
    「ソレイユ、みんなを守って」
     結月のナノナノが、カオルに向かう。ソレイユの吹いたたつまきとカオルの蹴りがぶつかり合い、鋭い刃となり辺りを襲う中で、結月の影だけが風に邪魔されずにカオルを包む!
    「騙して悪ィな……この女、お前を唆して良からぬ事に利用しようとしてたんだ」
     せめてもの眞白の弁解に、知ったこっちゃねえ、とナオキ。
    「そうだよな……済まなかった」
     その悔悟の言葉は、獣のごときナオキの咆哮の前に掻き消える。全身から噴き出す、おびただしい闘気。ボクを一生守ってくれるんだね♪ そんなカオルの歓喜の声が、教室に空々しく響く。
    「仕方ないわよね、アナタだって男の子だものね。もしもアナタの立場なら、アタシだってときめいちゃうもの」
     力任せのナオキの拳を、景明は受け止めてやる事しかできない。
    「アタシが止めてるうちに、早くカオルちゃんを!」
    「ふざけやがって!」
     体をひねり、カオルを庇うナオキ。そのせいでエーファは、カオルに接近できずにいた。
    「どかーん! といくデスヨー!」
     まずはカオルを倒さねば。焦るほど、一発の威力に頼りがちになる。その分狙いが疎かになり、外れてさらに焦るという悪循環。
    「ナオキが暴れてる今のうちに逃げよう、なんて思うなよ」
     メイテノーゼの鏖殺領域が大きく広がる。その中では影が生き生きと伸びて、カオルの全身を切り刻む! ……だが、肝心の足止めについては、カオルを巻き取るには影の長さが足りず、上手くナオキの妨害を避けられずにいた。

    ●恋の行方
    「ナオキ君! 一緒に逃げよう!」
    「わかった、今すぐに道を開ける!」
     強烈すぎるナオキの拳が、二度、三度、扉の前を塞ぐ景明と眞白に襲い掛かる。けれど。
    「悪いけど、させないわ」
    「お前の気持ちはわかる……けど、ダメなんだ」
     二人は決して倒れない。せめて、カオルだけでも倒すまで。
     決死の覚悟と決死の覚悟の、頂上対決。けれど力では、ナオキが二人を上回る!
     その格差を僅かでも埋めようと、拓も必死で癒しの力を振るう……けれど、足りない。
     遂に景明が、膝をついた。今、狂犬じみたアンブレイカブルが突破を企てんと思えば、彼の欠けた穴こそが最大の狙い目だ。
    「カオル! 逃げるぞ……」
     が……振り返ったナオキは見てしまったのだ。目の前で崩れ行く、最愛の女性の姿を。
     見切られても強引に狙いを定め、弾丸を当て続けていた雪紗。その、感情を押し殺した瞳が、今度はナオキを向く。声にならない叫び。
    「コイツを止めろ!」
     今日初めて、響が声を荒げた。ナオキの憎悪が燃える。
    「言われなくとも!」
     結月が応じた。この猛獣に殺されたくなければ、先に灼滅する以外の道はない!
    「止まれ」
     メイテノーゼの影が、鋭く腱を断った。が、それすらも気にならぬとばかりに、闇雲に暴れるナオキ。
     そして……鈍い音が響いた。全てを攻撃に注ぎ込んでいたエーファの体は、やけに軽々と宙を舞った。

     ナオキは、呆然と立ち尽くす。その気になれば、あと数人を血祭りに上げる事も、倒れた相手に止めを刺す事もできただろうに。
    「畜生……こんな弱い奴らに!」
     ナオキは許せなかった。灼滅者たち以上に、自分の事が。
    「アイツは俺に、あんなに必死に助けを求めてたじゃないか……」
     それを聞かず、こんな結果にしてしまったのは誰か? 溢れる涙が、両頬を濡らす。
     弾けるように、ナオキはその場を後にした。カオル、一体俺は、どうすればいい?
     修行だ。修行して、自らの弱い心を打ち砕く。
     今や心までアンブレイカブルとなっていた彼には、それ以上の解決法など、何も思い浮かびはしなかった。

    作者:るう 重傷:エーファ・シャルブロート(藍玉の心臓・d24026) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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