ロードローラー頑張ってますが

    作者:陵かなめ

     人通りもまばらな田舎に、普通車がようやくすれ違うことが出来るような、細い道路がある。表面はでこぼこしていて、いわゆる悪路だ。
     その道路の真ん中に、大きなローラー車が見えた。
    「へいへいほほー。へいほほー。ロードローラー整備チュー☆」
     でこぼこの悪路を、ロードローラーが整備しているのだ。
     普通のローラー車なら問題ない。むしろ、悪路を整備するのはありがたいことなのだけれども。
     そのロードローラーは灰色で、車体には”殺戮第一”の文字。
     さらに車体には、ご機嫌な顔がくっついていた。
     
    ●依頼
    「まさか本当に見つかるとはのう」
     和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)が腕を組んだ。
    「あ、見つかったんだ」
     何かを察した空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が、何となくの笑みを浮かべる。
    「そうなんだよ。もう皆知っているかもしれないけど、謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』によって生み出されたロードローラのことなんだ」
     『???』は、特異な才能を持つ灼滅者『外法院ウツロギ』を闇堕ちさせ、序列二八八位『ロードローラー』を生み出した。このロードローラーは、分裂により日本各地に散った。そして、次々と事件を起こしているのだ。
    「うむ。では妾達は今回、どのような事件を解決するのじゃ?」
     風香の言葉に、太郎は詳細の説明を始めた。
    「今回見つかったのは、灰色のロードローラーだよ。田舎の悪路を舗装しているんだ」
    「舗装?」
     紺子が首を傾げる。
     太郎によれば、ロードローラーは人通りの少ない田舎の悪路を舗装している。
     その現場に赴いて、灼滅して欲しいとのことだ。
    「ロードローラーは殺人鬼相当の強力なサイキックを使うよ。現場は、一応歩行者立ち入り禁止の看板が立っているけど、土地柄か、一般人があんまり気にせず入ってくるみたい。自転車が通ることもあるよ。ロードローラーは、基本的に通行人を襲うことは無いんだよ。けど、戦闘になると危険だし、避難させてあげてね」
     説明を聞いて、紺子は手を上げた。
    「あー、それって避難が終わっても、戦闘中に入ってこないようにもしないといけないよね? じゃあ、私避難誘導のお手伝いをするよ」
    「うん。よろしくね。ロードローラーの目的はわからないんだけど、放置するわけにも行かないよね」
     話は単純で、一般人を避難させつつロードローラーを灼滅すればいいのだ。
     だが、と、太郎は一呼吸置いてこう続けた。
    「このロードローラーも分裂体なんだけど、他の色のロードローラーとはちょっと違う雰囲気がするんだ」
    「ふむ。じゃが、油断は禁物じゃの?」
     風香が言うと、太郎が頷く。
    「うん。戦闘力は高いから、皆気をつけてね」
     説明を終え、太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


    参加者
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    立見・尚竹(非理法権天・d02550)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)
    鬼塚・良介(不定の道化・d10077)
    本田・優太朗(歩く人・d11395)
    災禍・瑠璃(ショコラクラシック・d23453)
    白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)

    ■リプレイ

    ●ロードローラー整備チュー
    「へいへいほほー。へいほほー。ロードローラー整備チュー☆」
     田舎の悪路を灰色のロードローラーが整備している。
     その姿を遠目に見て、和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)が腕を組んだ。
    「うぅむ? 見つけたのは良いが一体何がしたいのかますますわからんの」
    「悪路を舗装してくれるのはありがたい事なのだが、その目的が分からん事にはな」
     立見・尚竹(非理法権天・d02550)も、渋い顔をして灰色の重機を眺める。ロードローラーは行ったり来たり、色々な方向へ向きを変え、せっせと悪路を舗装しているようだ。
    「ロードローラー……どこにいこうとしてるんだろうなあ」
     いろんな意味で、と槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)。
     以前他の色とも闘ったことがあるけれど、灰色は何が違うのだろう?
     今はまだ、首を傾げるしかない。
    「空色さんには、避難誘導をお願いしたい」
    「人が入らぬようにもじゃな」
     尚竹と風香の言葉に、空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が頷いた。
    「了解だよ。サポートのみんなも居るし、避難や一般人対策は何とかなると思う」
     それにしても、と。
     紺子の言葉を聞いて後、灼滅者達は再び灰色のロードローラーに視線を移した。
    「部長は一体何がどうしてこうなったんだ……」
     鬼塚・良介(不定の道化・d10077)が、何となく遠い目をして呟く。
    「……真面目に舗装だけしてるロードローラー……? ん? 他の色との違いはそれだけなのか……? どうなんだ、一体」
     佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)も、小首を傾げた。
     本当に、一体どういうことなのだろう?
    「舗装……殺戮第一で、舗装……。舗装と見せかけて……何かの下準備! ……と見せかけて、やっぱり舗装なのかな……」
     ぐるぐる思考が回る。白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)は一通り考え、ぽんと手を打った。
    「……ん、わかんないや! とりあえず頑張ってくればいいよね!」
     そうしている間も、ロードローラーはせっせと作業を進めていた。灰色の車体に日の光が反射し、きらりと光る。
    「ええ、頑張ってるのは伝わってきますよ。ええ」
     その光を手で遮り、本田・優太朗(歩く人・d11395)がなんともいえない表情で頷いた。
    「ロードローラーしてますし……見た目は少しおかしいですけど、正しい使用法ですし」
    「へいへいほほー。へいほほー♪」
     遠くから、ロードローラーが上機嫌で歌う声が聞こえてくる。
    「ただまあ……放っておくわけにもいかないので、ここで灼滅しますね」
     そう言って、優太朗が武器を構えると、仲間達も一斉に戦いの準備を整えた。
    「知り合いでも分裂体なら容赦はいらなねぇな!」
     良介が槍を手にする。
    「とりあえず、何されるかわからないなら今のうちに、だな」
     嶺滋がそう言うと、それまで話を聞いていた災禍・瑠璃(ショコラクラシック・d23453)も立ち上がった。
    「よっし、じゃあ行こうよ」
     仲間は頷き合い、ロードローラーに向かって駆け出した。

    ●ロードローラーのお仕事
     のどかな田舎道を、自転車が走る。のんびりとした運転をしている老人は、ロードローラーの生み出す重機の音など気にしていない様子だ。
     それを見て、工事作業員の格好をしたアガサ・ヴァーミリオン(燃えるイナズマヒーロー・d27889)がホイッスルを吹いた。
    「今日は道路工事中で通行止めです。危ないので別の道に迂回してください」
    「あー。そうなんか? あんがとなー」
     老人はにこりと笑い、ゆっくりとした動作で自転車を反転させた。
    「誘導有難うー。その姿、なんか様になってるね」
    「そうッスか? まだまだサポートがんばるッス」
     紺子とアガサの会話を聞いて、仲間が頷き合う。
    「そろそろ人払いをするわね」
     周囲を確認し、唯済・光(つかの間に咲くフリージア・d01710)が殺気を立ち上らせた。
     ぽつぽつと見えていた人影が、やがて周辺から消えていく。
     人の気配がなくなったことを確認し、紺子がオーケーサインを出した。
     それを確認し、良介がロードローラーの前に躍り出る。
    「部長! おひさ!」
    「皆キッチリ守るぜ、任せとけ!」
     何か問いかけようとする仲間の行動に、康也が声を張り上げる。フォローはするから、何か確認したいことがあるのなら、任せると言うのだ。
     瑠璃や純人も、慎重に武器を構え仲間の動向を見守っている。
    「えー? ちょっと、作業中なんだけど、見て分からないかなー?」
     現れた灼滅者をちらりと見て、重機の音を響かせながらロードローラーはため息をついた。
    「それだ。なんで灰ロードローラーは整地作業に奉仕しているんだ?」
    「そうだよな。何で悪路を舗装してるんだ? 楽しいのか?」
     嶺滋と良介が問いかけると、ロードローラーがくすくすと笑った。
    「ちっちっち。何でも何も、ロードローラーといえば舗装でしょ!! それが、ローラーの仕事だもんね♪」
     得意気な様子で、返答される。
    「で・も。どうやら、もう一つ、仕事の時間のようだねー☆」
     今までのんびりとした走行で悪路を舗装していたロードローラーだったが、この言葉を境に突然高速でローラーをスピンさせ始めた。
    「ひゃーはっはっは。何でも下敷きになっちゃえ、ローラー♪」
    「来るぞっ」
     天星弓・雷上動を手に待機していた尚竹が叫ぶ。
     同時に仲間が一斉に動いた。
     ロードローラーの一撃を受けた前衛の仲間は、それでも互いに庇い合い一撃で沈むことは無かった。だが、体力が大幅に奪われたと感じる。
    「なるほど、確かにこの力は」
     ――強い。
     見かけや言葉は何か変でも、相手は戦闘力が強いとされるダークネスなのだ。
     すぐに尚竹が癒しの矢を自身に放つ。
    「回復しようね」
     続いて純人が優太朗に癒しのオーラを向けた。
     それを補うように、嶺滋も清めの風で前衛の仲間を回復させる。
    「よっし、じゃあ行くね!!」
     仲間の回復の間に、瑠璃が飛び出した。風をうけ白衣の裾がひらりと舞い上がる。飾りの翼をはためかせ、指輪から強力な魔法弾を放った。
    「貴様は外法院の分裂体の中の、一体何なのじゃ?」
     風香もディーヴァズメロディを放ち、ロードローラーを押し返す。
    「んもー。痛いよ痛い。何なのじゃって、灰色じゃ!!」
     ロードローラーは、一旦距離を取るように後退した。
    「回復を有難うございます。では、攻撃に移りましょうか」
     仲間からの回復を受けていた優太朗が立ち上がる。灼滅者達は視線を交わし、再び攻撃の体勢を取った。

    ●投げつけた物は
    「てめーはぶっ飛ば……していいんだよな?」
     多分、いいと思う。いや、ぶっ飛ばす。
     康也がWOKシールドを構え飛び上がった。勢いを殺さず、力の限り殴りつける。
    「分裂ができるなら、逆に合体とかもできたりするのかな? 5色混じって黒色に! とか、ちょっとかっこいいかも……」
     同時に、純人も走り込む。
     康也とは別の角度から、同じくシールドで殴りつけた。
    「むっかー!! 暴力反対だぞ☆ あと、ちょっとじゃなくて、ロードローラーはかなり格好良いと思います♪」
     ロードローラーは勝手なことを叫びながら、その場でぐるぐる回る。
     タイミングを見計らい、尚竹が死角から敵を斬り付けた。
     敵の重要な部分である場所にあたりをつけ、確実にダメージを与える。
    「それはそうと、どの方向に向かって舗装しているのか?」
     反撃が来る前にステップして距離を取り、そう問いかけてみた。
    「そんなの、明日に向かって頑張ってるよ!! いたたた」
     ロードローラーが唇を尖らせる。一体どういうことなのか。はぐらかされたのか、真面目におかしいのか、判断に困る。
    「なんか金属チックな体持ってる相手に刃とか拳とか効きそうにないけど大丈夫かなっ!」
     そこへ、再び良介が近づいてきた。
     槍を回転させ、薙ぎ払う。
    「おっとっと」
     敵がバランスを崩すのが見えた。
    「それはそうと……」
     良介は懐から餃子を取り出し、ロードローラーに投げつけてみた。
    「ほかの色のように餃子をつぶしたりしなくていいのか?」
     まあ、餃子は勿体無いけれど、これで何か反応があれば儲けモノだと。
    「ふう、この身体、意外と重いのよ」
     バランスを崩していたロードローラーが体勢を立て直したようだ。投げつけた餃子には、特に反応が無かった。
    「うーむ。他の色とどう違うのかのぅ?」
     風香が首を傾げる。こちらの呼びかけに何となく反応は返ってくるけれど、何とも、掴みどころが無い。
     とは言え、アレが分裂体と言うことに変わりは無い。
     風香はバスターライフル・Lanzeの銃口を、しっかりと敵に向けた。
    「手加減は無しじゃ」
     出現させた赤きオーラの逆十字が、敵の躯体を裂いていく。
    「ぐぅ。ロードローラーがピンチ!!」
     そう言う割には随分元気そうに、ロードローラーが灼滅者達を見回した。
     思わず目が合いそうになり、瑠璃がそっと視線をずらす。
     正直なところ、あの顔はちょっと受け付けない。
     どちらかと言えば、こっち見んな、である。
    「おっけー、舗装した功績をたたえて石像立ててあげるね! 材料あなたで!」
     と言うわけで、とにかく瑠璃は攻撃する。
     指輪をかざし、石化の呪いをぶつけた。
    「攻撃を続けますね」
     続いて、優太朗が殺人注射器をぶすりと突き刺す。回復も兼ね、生命エネルギーを吸い取った。
    「くっ。だがしかし、ロードローラー負けないっ。行くぞ、強力体当たりっ」
     一瞬よろめいたかに見えたロードローラーは、更に勢いを増して疾走する。
     そのまま、真っ直ぐに純人向かって体当たりを繰り出してきた。
     瞬間、防御の構えを取るも、純人の身体は大きく吹き飛ばされた。
    「てめぇ!! ぶっ飛ばすっ」
     仲間が吹き飛ばされる姿を見せ付けられ、康也が激昂する。影業・シャドウビーストを伸ばすと、それは狼の姿を取り、ロードローラーを目指した。
    「白樺、すぐに回復する」
     嶺滋が純人の身体を起こす。かなり重い一撃だった。もしディフェンダーでなければ、沈んでいたかもしれない。改めて敵の強さを思いながら、嶺滋は癒しの矢で純人の傷を癒した。
    「ん……。ありがとう……いたた」
     完全に体力が戻ったわけではないけれど、まだ、闘える。純人はくらくらする頭を一度振って、立ち上がった。

    ●行きつく先はどこなのか
     攻防を繰り返す仲間を見つつ、紅羽・流希(挑戦者・d10975)が武器を構えた。
    「しかし、なんだな。仲間の顔をした存在を灼滅するとなると、やはり抵抗があるな」
     援護できる瞬間に、サイキックを飛ばす。
    「だが、やるしかない」
     神桜木・理(ミストレイヴン・d25050)も同じく、仲間を助けるよう攻撃を繰り出した。
    「ふおー!! しつこいな、もう。怒ったぞっ」
     纏わりつく康也の影と灼滅者達の攻撃を振り払うように、ロードローラーが車体を回転させる。
    「ふっふっふ。下敷きになっちゃえ、ロードローラー♪」
     続けて、ローラーを高速回転させながら迫ってきた。
    「康也、もう一度じゃ」
    「あいよっ」
     風香の言葉に、康也が再び狼の姿をした影を伸ばす。影は敵の躯体に絡みつき、足を鈍らせた。
    「上出来じゃ」
     すかさず、風香がディーヴァズメロディをぶつけた。
    「あ~れ~。敵はどっちだ~」
     ロードローラーが方向を見失い、その場でぐるぐると目を回している。
    「ここだっ。行くよー!」
     飛び込んできた瑠璃が、バベルブレイカーの杭を打ち付け、高速回転させる。巨大杭打ち機は、ロードローラーの躯体に食い込み、そこかしこをねじ切った。
    「ちっ。とにかく攻撃ロードローラーだ!!」
     だんだんとボロボロになってきたロードローラーが、なおも攻撃を繰り出してきた。
     しつこいほどに前列を狙い、仲間を巻き込んでいく。
    「大変。回復するからね」
     すぐに純人が周りを見回した。
     傷の深い仲間から、集気法で癒す。
    「ったく、やってくれるぜ」
     良介も、癒しのオーラを近くの仲間に向けた。
    「だが、もう一押しのようだな」
     こちらも傷ついたが、敵も相当のダメージを負っている。嶺滋はそう判断し、仲間を励ますように優しい風を呼び起こした。
    「最後の一押しと行きましょうか」
     受けた傷は、浅くない。けれどあと一息だ。優太朗は走った。
     オーラを拳に集中させ、敵のボロボロの躯体に苛烈な連打を叩き込む。
    「のーぉー」
     ロードローラーが悲鳴を上げて、吹き飛んだ。
    「この一矢必中させる」
     しっかりと狙いを定め、尚竹が矢を番えた。
    「我が弓矢に悪を貫く雷を」
     これで止めと、渾身の一撃を放つ。
    「彗星撃ち、轟雷旋風!」
     彗星の如き矢が、ロードローラーを打ち砕く。
    「ちょ……」
     言葉少なく、敵は消えていった。

    「ロードローラーの行きつく先はどこなのか……」
     それは、彼の意思かそれとも彼の者の指示なのか。尚竹が思いを巡らせる。
    「皆、お疲れ様。一般人の被害は無かったよー!」
     その時、紺子が近づいてきた。
    「空色さんも避難誘導お疲れ様でした」
    「いえいえ」
     言葉を交わし、辺りを見てみる。
    「何か残っておらぬかのぅ?」
     本体を追うヒントがあればと、風香が周囲を見回していた。だが、気になる物は何もない。
     嶺滋と康也、良介は、念のためにと整地された地面を元の荒地へと試みているようだった。
    「みんな、サポートありがとう」
     純人の言葉に、サポートに集まった仲間に笑顔が浮かぶ。
    「さてと、帰ろうよ」
     瑠璃が声をかけると、皆が頷いた。
     もはやこの場所に重機の音は無い。
     灼滅者達は、そのことを確認し帰路についた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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