●ルンルン気分で悪路を舗装
草木も眠る丑三つ時。人々もまた深い眠りについていく、暗く沈んだベッドタウン。車の通りが少ないためか後回しにされ続けた結果、歪み、ヒビ割れてしまった小さな道路を、一台のロードローラーが舗装していた。
色は灰、先端には人の顔が付いているこのロードローラー。六六六人衆、二八八位のロードローラーの分身体。
鼻歌交じりにルンルン気分。弾んだ調子で地面をならし、平でひび割れもない状態へと戻していく。
決して塀を壊すことはなく、家を潰してしまうこともなく。ただただ舗装を終えた後、満足したかのように立ち去って……。
●夕暮れ時の教室にて
灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、どことなく複雑な表情を浮かべながら口を開いた。
「謎に包まれた六六六人衆、???が動いたみたいです」
???は特異な才能を持つ灼滅者、外法院ウツロギを闇堕ちさせ、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆、二八八位ロードローラーを生み出した。
二八八位の序列はクリスマス爆破男が灼滅された後、空席となっていたのだが、得意な才能を持つロードローラーの誕生により、その空席が埋まったのだと思われる。
「序列二八八位ロードローラーは、分裂により日本各地に散り、次々に事件を起こそうとしています。皆さんには、この分裂したロードローラーの起こす事件を解決して欲しいんです」
概要を説明した上で、葉月は今回相手取るロードローラーの説明へと移行した。
「皆さんに相手取ってもらうのは、灰色のロードローラー。彼が、道の舗装を行うことが判明しました」
道の舗装? と、様々な反応を見せ始めたように思える灼滅者たちを無視し、葉月は先を続けていく。
「はい、道の舗装です。ですのでこの場所。ベッドタウンの中にある、舗装が後回しにされ続けた結果、歪み、ヒビ割れてしまった道路へと赴いて下さい。深夜二時辺りに、灰色のロードローラーが道を舗装しにやって来るはずです」
幸い、その道路を通る車は少ない。周囲を気にせず戦うことができるだろう。
敵戦力はロードローラーのみ。分身体であるが故か、力量は八人ならば倒せる程度。
破壊力に特化しており、威圧する轢き潰し、押しつぶした上での追撃、道の舗装をする事で心を楽しませ毒などを消し去る、と言った行動を取ってくる。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡した後、葉月は言葉を続けていく。
「道の舗装を行うロードローラー。本来の使い方と言ってはそれまでですが、正直、目的などはさっぱりわかりません。また、どことなく、他の色のロードローラーと雰囲気が違う気もします」
もっとも、と、葉月は締めくくる。
「戦闘力は高いので、決して油断せぬようお願いします。何よりも無事に帰って来て下さいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029) |
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
狩野・翡翠(翠の一撃・d03021) |
風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902) |
ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118) |
レナード・ノア(都忘れ・d21577) |
黒揚羽・柘榴(魔術の蝶は闇を祓う・d25134) |
橘・愛美(自称暗殺者・d25971) |
●手がかりを求めて
草木も眠る丑三つ時、ベッドタウンの小さな道路。利便性などの関係か後回しにされ続け歪み、ヒビ割れてしまっている道路へと、灼滅者たちは足を運んでいた。
各々の立ち位置で今宵の相手、六六六人衆二八八位ロードローラーを待つ傍ら、黒揚羽・柘榴(魔術の蝶は闇を祓う・d25134)は静かな願いを口にする。
「この間戦った青色とは様子が違って、灰色は会話が通じるみたい……? ウツロギさんの救出につながる情報が手に入るといいけど……」
「いっそ、灼滅しないで尾行したいくらいなの」
古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029)は軽口にて返答し、ロードローラーがやって来るのを待ち望んでいた。
時間に直せば、ほんの十数分ほど後の事だっただろうか?
軽快な鼻歌が聞こえてきた。
視線を向ければ、灰色ボディが徐々に近づいてくる。
灼滅者たちは頷き合い、まずは会話のための行動を開始した。
「~♪ ……?」
道中、灼滅者たちの姿に気づいたのだろう。ロードローラーは停止する。
「こんばんはー♪」
「こんばんは。突然ですが質問してもよろしいでしょうか?」
気軽な挨拶に礼儀正しく返した上で、灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)が話を切り出した。
ロードローラーは調子よく、弾んだ調子で頷いていく。
「なんだい♪」
「貴方々。同族襲ったり餃子襲って糧にしたり騒音原因や悪路を整理して廻ってるようですが。戦争前に軍隊がやる人員再編と増強。それに輸送路確保にも似てますが・・何か大きい事でもやる気ですか?」
許可を得るや、フォルケは他の色を含めたロードローラーたちの所業を軸に己の推理をぶつけていく。
ロードローラーは小首を傾げ、やはりお気楽極楽、口を開いた。
「やりたいことをやってるだけだよー」
「それじゃあ、ちょっと突拍子もない質問になるけど……」
続いて、ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)が前置きした上で問いかける。
「???の能力は相手を完璧にコピーすることか? だとしたらあなたはウツロギではなく???なんじゃないか? 見当違いならわたしを舗装していいよ。人を間違えるなんて失礼だし」
相手を完璧にコピーできるなら、???がロードローラーの分裂体からコピーしたのが灰色なのではないか。で、灰色で分裂し続けているのではないか。
故に、六六六人衆???は、序列は???、正確には番外、コピーできる相手なら何にでも、何位にでもなれるのではないかと、推理の内容を補足する。
ロードローラーはしばし固まった後、エンジン音を唸らせた。
「それじゃ、レッツ、舗装ターイム」
暗に違う、と言う石を示したのだろう。
わたしを舗装していい、との言葉に従って、ロードローラーはハノンを踏みつぶそうと迫っていく。
そうは問屋が降ろさぬと、電信柱の影に隠れ奇襲の機会を伺っていた風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)が結界を起動した。
「仕方ない。外法院部長の事は気になるが、まずは抑えるぞ!」
「うん、質問はまた後で、だね」
会話役として質問する予定だった狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)はスレイヤーカードを取り出して、短きワードと唱えていく。
「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
彼女が巨大な剣を握り締めていく傍ら、レナード・ノア(都忘れ・d21577)は殺気を解き放った。
「残念だがダークネス。特別敵意はないが、オシゴトだし強敵だし、全力で行くぞ」
「なるほどなるほどー、倒しに来たんだねー♪」
されど、ロードローラーの勢いは弱まらない。飛び退るハノンに迫り、プレッシャーを与え続けていく……。
●ロードローラーは自由に歌う
外法院ウツロギとは初対面。こんな形ではあるけれど……。
「あなたのクラブの新入部員です、よろしくなのです」
光輪を手元に引き寄せながら、橘・愛美(自称暗殺者・d25971)は小さく頭を下げる。
未だに非現実的な光景……人間がロードローラーと合体するような姿を前にして思考が追いつかない限りではあるけれど、とりあえず敵だという事はしっかりと認識していた。
「とりあえず、退治してしまいましょう」
返答を待たぬままに光輪を智以子に投げ渡し、守りの加護を与えていく。
直後、ロードローラーの進路が智以子へと差し替わった。
轢き潰されそうなプレッシャーに晒されながらも何とか逃れていく智以子。
もっとも、陣は崩れていない。序盤の混乱は収まったと判断し、翡翠が改めてという形でロードローラーに話しかけていく。
「ロードローラーさん、色んな所に現れてますけど、どこから来てるんですか?」
「あっちだよー♪」
示したのは、ロードローラーがやって来た方角。恐らく、警察署(の方角)から来ました的なノリだろう
「ええと、そこにはどうやったら行けるか教えて下さい」
「歩いて行けばいいんじゃないかな♪」
「そこにはウツロギさん本人がいらっしゃるのですか?」
「本人って何だい?」
やはり、全てはけんもほろろ。まともな回答はない。
小さく肩を落としつつ、翡翠は巨大な刀を振り上げ空高々と跳躍する。
振り下ろされた刃が硬質な音を響かせる中、レナードが指輪に魔力を込めながら小さく肩をすくめた。
「そっちの仕事は楽しそーでいいな」
「ふふっ、君も楽しくお仕事すればいいんじゃないかな♪」
軽口とも本気とも採れる返答を受け取った後、レナードは改めて目を細めた。
心を完全に戦いへと切り替えて、鈍重に動きまわるロードローラーを観察。斜体とローラーの隙間に狙いを定め、極彩ピンク色の弾丸を撃ち出した。
後を追うように追いかけながら、剣を引き抜いていく。
「……」
急停止により弾かれた弾丸を飛び越えローラーの上へ。
ローラーを足場に更に跳び、反対側へと着地。振り向き、一閃。
「っ!」
硬質な音が響くと共にローラー部分に小さな、けれども確かな傷が刻まれた。
ロードローラーは静かに笑い、鈍重な体からは考えられないほど軽快に飛び上がる。
「それじゃ言っくよー、ロードローラーだーッ!!」
強大な質量に踏み潰され、無事でいようはずはない。レナードは転がり込むように飛び退り、情報からの押しつぶしを回避した。
けれども、ロードローラーの調子は変わらない。相変わらず軽い鼻歌を歌いながら、鈍重に暴れ回っていく……。
バックステップで距離を取ると共に、フォルケは影刃を差し向けた。
「……」
誤ることなく車体に斜め傷を刻み込み、新たな弱点であると示していく。
たまらぬと思ったか気まぐれか、ロードローラーは道の舗装を始めていく。
反撃無き今こそ攻める時と攻撃が集う中、智以子もまたニゲラの花の刺繍が施されているエアシューズを軸に周囲に駆け回りながら問いかけた。
「あなたは、???の操る道具に過ぎないの」
「さっきも言ったけど、やりたいようにやってるだけだよー♪」
「その真の目的、洗いざらい話すがいいの」
「話してるんだけどなー。もっとも、言った所で信用するのかい? でたらめをいうかもしれないよー♪」
今、ロードローラーから目的を聞いたからといって、裏を取れるわけではない。聞くだけではなく別のアプローチが必要となるだろうか?
もっとも、これ以上、智以子が訪ねようと思った事はない。ため息とともに飛び上がり、流星の如き飛び蹴りを車体後方にかまして行く。
推理が大きく外れたからか未だに顔を赤くしているハノンは、腕を砲塔に変えて黒き砲弾を撃ち出した。
質量に押されたか、重なりゆく攻撃に押されたか、ロードローラーがローラー二周分ほど後方に退いていく。
「んー、ずいぶんと激しいんだねー♪」
今度こそ確実に、激しい攻撃にたまらなくなったのだろう。再び、ロードローラーは道の舗装を開始する。
一部が修復されていくさまを眺めつつ、柘榴は剣を非物質化させながら挑発した。
「分身にだけ暴れさせて、本体は引きこもり?? 二八八位のくせにチキンなんだねっ」
「ん?」
道の舗装を行いながら、ロードローラーは声を上げていく。
「そういう、お前の右手に比べて左手が働いていないのでないか?」
「……?」
「そもそも、お前の内臓は外の空気に触れもしない引きこもりに違いない」
「……」
右手と左手、そして内蔵。ロードローラーたちに置き換えて見るとどうなるのか。
判断を保留し、柘榴は非物質化させた剣を構え駆け出した。
「剣よ! その力を解放せよっ! 闇を貫け! 神霊剣!!」
真正面から斬りかかり、ロードローラーの内包する力を斜めに裂く。
僅かに車体が揺らいだものの、ロードローラーの調子はやはり変わらない。
「うん、そろそろ大丈夫かな。それじゃもっかい、ロードローラーだーッ!」
軽々と飛び上がり、柘榴を踏みつぶさんと落ちてくる。
勢いのまま転がりかすめるのみに止めた柘榴に、愛美が光輪を投げ渡した。
「避ける、だけでも、体力が、削られてしまう。押し潰されたら、その時が……」
最後になるとの言葉を示しつつ、治療のための光輪を手元に引き寄せていく。
光輪の加護をかせね続けていけば、あるいは、押しつぶされても生き残れるかもしれないのだから。
●残されたもの
各所に傷が付き、スパークさせ、廃車寸前とも思しきボロボロの状態に成り果てたロードローラー。
されど変わらず軽い調子で飛び上がる準備を始めたから、フォルケがセミオートライフルで側面を指し示していく。
「……側面からサプレッション掛けます」
己の影を解き放ち、車体を包み込まん勢いで広がった。
影に覆われたのも束の間。すぐさま打ち破り飛び上がったロードローラーを包む形で、孤影が結界を起動する。
「虚像か、さっさと消えろ!」
「む……」
結界に力を奪われたか、ロードローラーは誰へと向かうこともなく落下する。
抜けださんとじたばた暴れていくさまを眺めながら、孤影は瞳を細めていく。
この前に戦った青いやつと違い、意志の疎通は可能なように思えるこのロードローラー。マイペースな外法院部長らしいとは思うが、こっちにとっては面倒なことしかない。
せめて、もっと情報を引き出せれば……とは切なる願いか。
いずれにせよ、目の前の相手を倒さなければならない事に違いはない。孤影は中国の魔道書を開き、禁呪をロードローラーへと注いでいく。
灼熱の炎に包まれゆくロードローラーに、智以子は拳にオーラを宿して殴りかかった。
一撃、二撃と刻むたび、体中のひびが深くなる。決着は近いと感じ取り、智以子は静かに言い放った。
「いつまでも、思う儘にはさせておかないの」
「ん……」
「そこっ!」
やり取りがなされる前に、柘榴が高く飛び上がりロードローラーの上方部分に埋め込まれた顔面に杖を叩き込んだ。
「魔力収束……弾けて消えろっ! フォースブレイク!!」
魔力を爆発させるも、他所を狙った時との違いは見られない。
ロードローラーは変わらぬ調子で体を震わせ、霊力などによる拘束から抜けだした。
進路は、翡翠。
レナードが翡翠にタックルをかまし、もろとも道の脇へと対比する。
「くっ」
積み重なっていた痛みが強まったか、レナードが立ち上がるのに失敗して転んでしまう。
一方の翡翠は安堵の息を吐いた後、穏やかな調子で立ち上がった。
「ありがとうございます、レナードさん」
真っ直ぐにロードローラーを見つめたまま、刀に炎を宿してく。
「ウツロギさんが帰ってくる道を作るため……全力で行きます!」
一歩、高く、強く跳躍し、ロードローラーの側面へと着地。
腰を落として、一閃。
横一文字に両断され、ロードローラーは断末魔も紡がぬまま闇の中に溶けていく。翡翠は静かに瞳を閉ざした後、小さな問いを投げかけた。
「……貴方はどこに行こうとしているのですか」
返答はなく、道路にはただ優しい風が流れ込む。
ロードローラーが消えた後、残されしは灼滅者たち。そして、舗装され尽くした道路だけで……。
治療が終わり、帰還前の休憩の時間へと移行した頃。
ハノンは一人、仲間から顔を隠しながらブツブツとつぶやいていた。
曰く、仮説であったと。当たるほうが珍しいのだと。
一方、孤影は薄ぼんやりと思い抱く。
「外法院さんの真意を推測するには足りない。五色のロードローラー、まさか本当に合体するのか?」
「何にせよ、早く、帰って来て欲しい、ですね」
概ねの思いを愛美が纏め、遥かな夜空を仰ぎ見た。
月は輝き、星は瞬く。これまでも、これからも……きっと、ウツロギが戻ってきても変わらずに……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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