ゆめのいざない

    作者:高遠しゅん

     夢ともうつつともつかぬ空間で。
    『……燃える……あたしの体が、燃える……』
     嘆く声が。
    『痛い、痛い……このまま消えるのは、嫌……』
     怨嗟の声が響く。
    『あたしが……殺す……死ぬのは嫌、嫌だ嫌だ!』
    「あなたの願いは届きました」
     生に縋る残留思念と成りはてた不定形のそれに、ふわりと降りかかる淡い光。
    「あなたの傷ついた姿が、私には見えます。私は『慈愛のコルネリウス』。あなたの苦しみを取り除くために来ました」
     少女の姿をした強大なシャドウ、『慈愛のコルネリウス』は。まるで幼子を抱き留める母親のように、両腕を残留思念に差し伸べて目を閉じた。
    「……プレスター・ジョン、聞こえますね。この哀れな娘を、あなたの国にかくまってください」


     教室の扉を揺らす音と呼ぶ声に、灼滅者の一人が気付いた。開けたそこには、分厚いファイルを重ねて抱えた櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)がいた。
    「すまない、両手が塞がっていた。慣れない力仕事はするものではないな」
     どさりとファイルを机に降ろし、苦笑する割には表情が曇っている。
    「『慈愛のコルネリウス』が動き出した」
     灼滅者達の間に緊張が走る。
    「灼滅されたダークネスの残留思念に力を与え、どこかに送ろうとしているようだ」
     伊月は手帳を開いた。ページにはぎっしりと文字が書き連ねてある。
    「これまでの経緯から、コルネリウスは灼滅者に強い不審感を持っている。そして残留思念は激しい恨みと執着心を持って、コルネリウスに力が欲しいと訴える」
     力を望むままに与えられる残留思念は、ダークネスに匹敵する戦闘力を得る。
    「復活した残留思念がすぐに事件を起こすことはないが、見過ごすことはできない。君たちには、コルネリウスが残留思念に呼びかける現場に乱入し、作戦の妨害をしてほしい」

     伊月が予知した場所は、元は学生に人気のブティックだった。現在は、ある事件が元で閉店し、内装も当時のまま放置されているという。
    「残留思念の名は、六六六人衆序列六三三位──古池・まなび。学園の灼滅者の前に三度現れ、三度目で灼滅されたダークネスだ」
     持ってきた資料ファイルは三冊。どれも元六三三位が関係したものだった。
     灼滅される最期の瞬間まで生に執着した六三三位は、学園の灼滅者に強い復讐心を持っている。
    「残留思念はコルネリウスに、灼滅者を倒すための力を望むだろう。戦闘は避けられない。厳しい戦いになる」
     生前と同様に、殺人鬼と鋼糸、新たに得たシャドウハンターの力を駆使して、自分を殺した灼滅者を殺すため、戦いを挑んでくる。
     現れる『慈愛のコルネリウス』は幻影のようなもので、戦闘力もなく一切の交渉などは行えない。シャドウが現実世界に実体化するには、膨大なサイキックエナジーが必要だからだ。
    「残留思念に力を与えるなど、今まで聞いたことがなかった。しかし、高位のダークネスであれば、そういった事も可能なのだろうか」
     手帳の頁を繰りながら、伊月は息をつく。
    「コルネリウスの『慈愛』が何に向かっているのか、不明な点は未だ多すぎる。今回の動きは、残留思念にとっては願ってもない機会だろう」
     ──しかし。
    「この先何が起こるかまでは見通せない。気を引き締めてかかってほしい」


    参加者
    向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)
    藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)
    レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)
    上條・和麻(迷い人・d03212)
    時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)
    オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)
    茂多・静穂(千荊万棘・d17863)

    ■リプレイ


     日も傾いた繁華街は、仕事帰りの会社員や帰り道の学生達などで賑わっている。日の入りが最も遅くなるこの時期は、夕方と言っても街灯が灯れば、真昼となんら変わりなく歩くことができた。
     そんな通りに、窓をベニヤ板で塞いだ一件の店舗跡がある。周囲の華やいだ店舗に埋もれ、ひどく寂しげだ。
    「コワイ、コワイ、執念深い女って」
     向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)は、殺気の結界を張り周囲を見渡した。人通りはすぐに途絶えることはないが、徐々に減っていくだろう。
     人通りの切れた箇所に通行止めのコーンを立て、オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)が通行人に声を掛ける。
    「ガス漏れの点検です。危険ですので通行止めになります」
     作業着姿だが、少女の容姿のオリキアから説明を聞いた通行人は、顔を見合わせてその場を立ち去る。プラチナチケットの効果か、殺気のためかはわからない。
     通行人を偶然にも巻きこまないために、人払いは必要だった。通行止めの看板を立てつつ、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)は小さく溜息をつく。
    (「慈愛を振りまくのも結構ですが、相手は選んでほしいものです」)
     強大なシャドウ、『慈愛のコルネリウス』。残留思念に力を与えて、何を企んでいるというのか。
     レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)は遮音のESPを発動させる。ビハインドを封じてあるカードを胸に、戦場となる店舗跡の前に立つ。
     建物の周囲を巡るのはエリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)。建物内部に入るための通用口を探すが、それらしいドアは見あたらなかった。そもそもが学校の教室程度の、広くもない店舗だ。表の出入口から従業員も出入りしていたと考えられた。
    「入口を壊すか、剥がすしかないだろうか」
     もし通用口があれば、エクスブレインが情報として伝えるだろう。それが無かったということは、元から存在しないのだ。
    「目立たないところといっても、どこも同じだな」
     上條・和麻(迷い人・d03212)は、かつてショーウィンドウであった場所に貼られたベニヤ板を軽く叩く。店は全面が通りに面しており、どこを剥がしても壊しても、不自然に目立つのは仕方ない。
     明かりを借りようとして、時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)は空を見上げた。初夏のこの時期の陽は長く、この時間になっても充分に外は明るい。ベニヤ板一枚で遮られた内部はどうだろうか。
     徐々に人通りは少なくなってきている。殺界形成は即効性のあるものではなく、わずか数分が何十分にも感じられる。泣き出した小さな子供が、母親に抱えられ通りすぎていった。
     道路封鎖に動いていたオリキアとアロアが戻ってきた。内部の様子を見ようと、オリキアがベニヤ板の隙間を覗く。他の者が板を剥がしに触れたとき──
    「伏せて!」
     オリキアが叫び、咄嗟に全員が身を伏せた。その頭上に、弾け飛ぶように木っ端微塵になった、ベニヤ板が降りそそいだ。破壊したのは、内側から放たれた金色に陽を弾く糸の束。
     わずかに残っていた一般人達が、悲鳴を上げて逃げていく。
     鋭利な刃物で輪切りにされたマネキンが、元は衣料品が置かれていただろう棚が、割れたガラスが厚い埃を被って、無残な姿を晒している店内。
     外からの光さす中央に、金色の光に包まれた少女がいた。小さな囁きに耳を傾けるように、そっと目を閉じる。
     金色に輝く少女、『慈愛のコルネリウス』は、わずかに頷いた。
    「わかりました、哀れな娘。『私』の力すべてを与えましょう。あなたの願いは、叶えられます」
     コルネリウスの体が眩しいほどに輝く。
     灼滅者達は一斉に動いた。
     サーヴァントたちが弾けるように飛び出した。レインのビハインド・モトイがチェンソー剣を掲げ、オリキアのビハインド・リデルが水晶を削り出したような剣を腰だめに、コルネリウスに飛び込んでいく。
     二体のビハインドが放つ霊撃が、金色の少女に吸い込まれる一瞬、コルネリウスの体は光の粒となって消滅した。ビハインドたちの攻撃は空振りに終わる。
     コルネリウスの姿は、どこにもない。
    「何が起こったんだ?」
     霧栖が呟く。コルネリウスの気配を追おうにも、欠片すら残っていない。
     耳障りな笑い声が聞こえた。けらけらと、嘲笑うかのような笑い声。
    「あいつがあたしに力をくれた。灼滅者を殺す力、欲しかった、欲しかったよ!」
     代わりに現れたのは、高校生ほどに見える娘の姿だ。
    「久方ぶりだな。六六六人衆、古池・まなび」
     藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)が低く呟く。
     漆黒のお下げ髪にシルバーフレームの伊達眼鏡。
     見た目だけなら、品行方正な学校に通う優等生といった様子の制服姿。きっちりと結んだタイに、膝上丈のプリーツスカートが揺れる。
     徹也は既視感を覚える。剣を交えた、あの時と変わらぬ姿だ。
     外から入る光が、実体を持ったまなびの足元に影を落とす。眼鏡の奥の黒い瞳が、狂喜を帯びていた。
    「あたしを殺した灼滅者。今度こそ、今度こそ殺してやる。全員まとめて殺してやる!」
     どす黒い殺気の渦が部屋に満ち、爆発した。


     縛霊手『Moe`uhane』で殺気を切り裂くアロアが、真っ先に渦から飛び出した。
    「やだやだ、執念深い女ってモテないと思うし?」
     振りかぶる大爪がまなびの体を捉えたかに見えたが、食い込む刹那に絡め取るのは金の鋼糸。衝撃は半ばで留まり拡散する。
    「あんたってさ、頭ン中お花畑?」
     凶暴な笑みを浮かべ、まなびが指先を動かせば、ぎゅい、と音立て鋼糸が締まる。圧力から身をかわしたアロアの背後、ナノナノのむむたんが必死にしゃぼんを飛ばした。破裂の衝撃を避けもしない殺意の塊に、続けてエリスフィールが突き進む。
    「死にたくはないが殺したい、か。酷い勝手だ」
     アロアが身を引くと同時に、回り込んだエリスフィール。ジェット噴射の音とともに、星屑の燐光ひいた杭が撃ち込まれた。
     防御の糸は間に合わない。ごそりと体力が持って行かれる衝撃に、眼鏡の奥の瞳が面白そうに細められた。血の代わりに光の粒が飛沫と散る。
    「殺したいけど死ぬのは御免。あんたたちも勝手だよねぇ」
    「はは、確かに違わない」
    「どちらにしても」
     床を蹴り瞬時に間合いを詰める徹也。頭一つ分背の低いまなびに、屈んだ姿勢から鋼鉄の拳を突き入れる。
     拳の触れた感触は柔らかくも強靱で、かつて戦った生身の肉体とはどこか違っていた。
    「引き続きお前を、灼滅対象として認識する」
    「強い男は嫌いじゃないけど」
     軽く身を宙に躍らせ、三つ編みを揺らしてまなびは笑った。
    「しつこい男は殺しちゃうよ?」
     けらけらと耳障りな笑い声。遮音のESPが展開されていなければ、外に漏れ出ていただろう。人払いは順調で、破られていっそすっきりした入口から覗く野次馬などもない。お陰で外の光も入り、動くには申し分ない戦場だ。
    「その闇を、祓ってやろう」
     レインが唄えばWOKシールドが光を放つ。思いきり踏み込み、思いきり高い場所からぶん殴る! 吹き飛ばされそうになる足元を踏み込み力に耐え、まなびは醜く顔を歪めた。
    「慈愛だなんだと、虫酸が走る。お前はシャドウから力を得た、ならば私の敵だ」
    「やだなぁ、勝手な理屈押しつけないでよ」
     まなびにとって、今の状況は単純明快だ。
     恨み憎み、願っていたら誰かが来た。願いを叶えるというから、力をもらった。その力でもって、灼滅者と戦う。力をくれた相手が誰であろうと、何であろうと関係ない。
    「あんたらを殺せるなら、誰の力だろうと構いやしない」
     叫びは体に纏わり付く状態異常を消し去った。金の鋼糸にじわりと影が宿る。
    「守ってばかりじゃ勝てないよ!」
     金糸の網が、広げた盾ごとレインを呑み込んだ。ぎちりと締め付ける網をビハインドが切り裂く。破られた網を払い捨て、レインは正面からまなびを見た。
    「やだぁ、怖いカオ」
    「偽物って訳ではなさそうだね」
     霧栖は滑るような歩調で死角に回り込み、オーラのナイフを首筋に突きつける。
    「どういうカラクリ?」
    「さあね?」
     痛みを感じないのか、斬らせるままに、まなびは身を沈める。腕から逃れれば、下方から黒死の斬撃を霧栖に浴びせる。たたらを踏んだ霧栖は、数歩距離を取る。
    「やるね。でも人生にコンテニューは存在しないんだ」
    (「ダークネスの好きにはさせない」)
     音もなく和麻が疾走する。大きく迂回した経路でまなびに近づき、壁を蹴り天井を駆け、真上から勢い付けて逆手の刃で撫で斬った。
    「ちッ!」
     狭くはないが、縦横無尽に広くもない戦場。左右と上を抑えられ、逃れようとした半身に食い込み光粒が散る。
     身をよじらせ逃れた先を見通した静穂が、流星のきらめきと共に駆けた。
    「学園生達が成した灼滅、無駄にする訳にはいきません」
     星屑の尾を引く蹴りが、弧を描いて胴を薙ぐ。くの字に折れて吹き飛ぶ体を、片腕ついて立て直し、まなびもまた吠え壁を蹴った。
    「なり損ないの集まりが、偉そうに!」
    「君が蔑むボクたちが、君を倒したことを忘れないで」
     オリキアが爪弾くギターの調べ。ともに両手をかざしたビハインド・リデルの霊障波が空中のまなびを捉えた。
    「ちっくしょうっ!」
    「君が死んでいる間も、ボクたちは成長し続けてる」
     横倒しに転がるまなびから、光の粒がこぼれ落ちる。
     憎悪に歪んだ表情に、正気の色はなかった。


     金の糸が、何度目かの五星の結界を敷く。
     ぎりぎりの線を避け、受けては流し。身軽に正確な死の一点を狙う力は、確かに六六六人衆・序列六三三位を保持していたと思わせるものだった。
     かつては不利を悟れば、未練なく逃走していた。しかし再度姿を現した彼女は、目の前に現れた憎悪の対象に、歪んだ怒りと憎しみをまき散らしていた。
    「……哀れなものだな」
     和麻は無機質に呟き、無表情に床を蹴った。
     人間が蟻を踏み潰すように、六六六人衆は気の向くまま人間を殺す。殺しにある種の美学を持つ者もいると聞くが、目の前の娘からはそれが感じられない。ただ、憎悪に駆られて武器を振り回す子供のようだ。
    「面倒なことに、変わりはないが」
     利き手を鬼腕に変化させ、大上段から叩きつける。
     まなびはその腕に糸を絡めて勢いを殺し、返す指先で影を滲ませた網を放った。それは和麻の全身を絡め取り、心の奥底までもずたずたに切り刻む。
     どうと倒れた和麻を見下ろし、耳障りな笑い声を上げるまなび。
    「ほぉら、これで一人」
     両手に絡めた糸がとどめを狙う寸前、割り込んだのは静穂とレインのビハインド。
     ビハインドが縦横に切り裂かれ消滅する様子を目の端で見ながら、静穂は和麻を抱えると、そのまま後方へ下がった。まなびは決して、とどめを刺すことを諦めない。戦場の外へ出さなければ命が危険だ。
    「よくやった」
     レインは消えたビハインドの名を、唇の中でだけ呼ぶ。
    「貴様には全力で抗わせてもらう!」
     リヒャルト、と呼べば足元の影が唸りを上げる。疾走する影は幾本もの触手となって、まなびの体を締め上げた。ぎり、と悔しげに奥歯を噛みしめる音が聞こえる。
    「我々とて、死にたくないのは確かだが……それ以上に、生かしたいのさ」
     エリスフィールの袖から落ちたデモノイド寄生体が、その利き腕を包み込む。殲術道具を呑み込んだ腕は巨大な砲台となり、正面から死の光線を浴びせかける。
    「く……っ!」
     逃れようとして足をもつれさせる。光線は半身を抉り『力』を削り取る。
    「畜生、ちくしょうっ!」
     めちゃくちゃな軌跡で飛んできた鋼糸を、霧栖は避けることができなかった。それでも、後方から届くオリキアの癒しの光が、アロアのナノナノが飛ばすハートが体中に染み渡り力を取り戻す。
    「キミもそろそろ夢から覚める時間だよ。殺人鬼、さん?」
     霧栖は滑らかにまなびに肉薄する。拳にオーラを限界まで溜め、凄まじい連打を撃ち込めば、小柄な体が壁際に吹き飛んだ。
    「リデル、このまま畳み掛けるよ……!」
     水晶のスティックでリズムを刻み、オリキアはビハインドに声を掛ける。滑るように動くビハインドが剣を振り上げ、その後方からオリキアの影が迸る。
     衝撃が何度もまなびの体を震わせる。
    「……ちくしょう、殺す……ころして、あたしが」
    「しつこいのって可愛くないんだよ」
     ふわりとアロアは笑いかけた。ごく普通のことのように片手に剣を持ち、軽いステップで距離を詰める。非物質化した切っ先が、まなびの胸に吸い込まれた。
    「もう一回死んじゃいな?」
     力を失いかけたまなびの目が、醜く歪んでアロアを睨めつける。
     瞬時に編まれた金糸の網は、後方から放たれた強酸性の液体が相殺する。デモノイド寄生体を腕に絡めた静穂が、戻ってきたのだ。
    「幾多の犠牲と戦いの上でやっと貴方を終わらせた。それを無駄にするなど、絶対許さない」
     強い瞳がまなびを射抜く。気圧されたように、壁に背を預けてしゃがみ込む。体から光の粒が止めどなくこぼれ落ちていた。
    「あたしの体……あたしの『力』が……」
     かしゃりと音を立て。床に散ったガラスを踏んで、その前に立つのは徹也の姿。
    「……いやだ、死ぬのは嫌……灼滅者なんかに、出来損ないに……」
     散っていく光を抑えるように、自分の体を抱きしめて身を縮める。
    「古池・まなびと呼ばれる存在は、現時点を以って消滅する」
    「いやだ、消えたくない。死にたくない!!」
     無情ともいえる静かな言葉と、悲鳴じみた叫びが交錯する。
     杭撃つ音を最後に、元六六六人衆・第六三三位は、光の粒となって溶け、消えた。


    「最後まで潔くない子だったね。ほんとに元六六六人衆?」
     アロアはまなびを貫いた杭の跡を横目に問うが、徹也はそれに答えなかった。
     霧栖は周辺を捜索するも、コルネリウスの姿どころか、存在した痕跡も見つけることはできなかった。
    「まだまだこんな事件が続きそうだね……」
     溜息交じりに呟く。
     オリキアも他勢力の介入を警戒していたのだが、それも杞憂に終わった。
    「力を与える目的は何だろうね」
    「今回は阻止できた。それでいい」
     カードに戻ったビハインドを労るように、レインは笑いかける。
    「生存競争のようなものかな、我らとあの残留思念とやらは」
     エリスフィールは首を傾げる。
     生と死に執着する残留思念。執念がコルネリウスを呼ぶのなら、これから先も同様の事件が起こるだろう。
     静穂が和麻を支えて歩いてくる。傷の深い和麻も、数日もせず回復するだろう。
    「『慈愛のコルネリウス』か。恐ろしい敵だな」
    「何を考えているか理解できない、厄介な相手と思います」
     灼滅者達は視線を交わす。

     何事もなかったかのように、街が夕暮れに沈んでいく。
     日常へと戻るため、灼滅者達は歩き出した。

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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