●新所沢駅周辺
「ここに店を構えて50年……全て自家製にこだわり3割うまい餃子を埼玉県中心に提供し続けてきた……」
所沢の餃子怪人は携帯ラジオのイヤホンから埼玉の地域FM局の番組を聞きながら商店街にある餃子屋の前に立ってその店舗を眺めていた。
「さて、今日もここのラーメンと餃子で昼飯といくか……」
それが日課であるかというように所沢の餃子怪人は一歩その店舗へと足を踏み出そうとする。
そこへ響き渡る轟音。
「な、なんだと……!?」
餃子怪人が振り返った先には目の前に迫った黄色いロードローラー。
商店街の道路にロードローラーが入って来るわけがないという油断……そうでなくても自分に向かって減速せずに一直線に向かって来るロードローラーの存在など誰が予想できようか。
哀れ所沢の餃子怪人はロードローラーの前輪によって伸ばされた餃子の皮のように轢き潰されてしまうのであった。
●未来予測
「ふふ、皆さん揃ってますね? では説明を始めます」
教室に集まった灼滅者達を前に五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、いつものように説明を始める。
「謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』の手によって、特異な才能を持った灼滅者『外法院ウツロギ』が闇堕ちさせられ、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆、その名も序列二八八位『ロードローラー』が生まれてしまったことは、皆さんもご存知でしょうか?」
二八八位の序列は『クリスマス爆破男』が灼滅された後、空席となっていたのだが、特異な才能を持つ六六六人衆『ロードローラー』の誕生により、その空席が埋まったのだろう。
「序列二八八位『ロードローラー』は、分裂により日本各地に散り、次々に事件を起こそうとしています。今回皆さんに解決してほしい事件は、ロードローラーが餃子怪人を轢き殺そうとしているというものです」
ダークネス同士の戦いという意味では大きな事件性があるわけではないのだが、折角未来予測で察知できた行動である。
分裂体とはいえダークネスであるロードローラーを灼滅できる機会だ。
「皆さんは餃子屋さんに入ろうとする餃子怪人を、轢き殺そうとロードローラーが商店街に入ったところで戦闘に介入することができます。ロードローラーは強敵ですが、餃子怪人と共闘することができれば有利に戦うことが出来るでしょう」
ちなみに餃子怪人がロードローラーに轢き殺されるのを止めなくても、完全な奇襲により一撃で餃子怪人が轢き殺されてしまうため、ロードローラーの戦力が消耗されることはない。
「所沢の餃子怪人も、自分の命がかかっていますから、共闘を申し出ればロードローラーを灼滅するまでは、共闘を断ることはないでしょう」
所沢の餃子怪人もダークネスなので、2体同時に相手にすることだけは避けた方がいいだろう。
「ロードローラーが餃子怪人を狙う理由は全くわかりません。しかし、ダークネス同士の戦いに介入することで漁夫の利を得ることができるかもしれません。ロードローラー撃破後、余力があれば、餃子怪人も灼滅することができるかもしれませんが、どうするかは、現場の判断にお任せします。無理だけはしないで下さいね」
参加者 | |
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泉二・虚(月待燈・d00052) |
赤倉・明(月花繚乱・d01101) |
エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742) |
佐藤・志織(大学生魔法使い・d03621) |
皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155) |
海藤・俊輔(べひもす・d07111) |
深束・葵(ミスメイデン・d11424) |
楠木・朱音(勲歌の詠手・d15137) |
●
「ロードローラーの走破した後が何か符合しないだろうか」
泉二・虚(月待燈・d00052)は地図を広げてマーカーで印をつけるが、今回のロードローラーについて未来予測でわかっていることは、商店街のどちらから進入して来るかくらいである。
「各地で暴走しているロードローラーは最終的に何がしたいのでしょうか? まあ、考えても無駄なのかもしれませんが……殺しがいがあるといいですね」
ダークネスの六六六人衆、取り分けこのロードローラーの考えていることは理解できない。
せめて灼滅しがいのある好敵手であることを皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)は願うように殲術道具の鞘を握りしめた。
「身内で殺し合ってるだけで何の生産性も無い連中より、日本の地場産業にほんのちょっぴり貢献してるかもしれないご当地怪人を助けた方が後味はすっきりしますよね」
その行動が必ず人間社会の害となる六六六人衆に比べれば、ご当地怪人である以上その行動は世界征服を目指すものなのであろうが、深束・葵(ミスメイデン・d11424)の目にはとりあえず所沢の餃子怪人が即人間社会の害になるようなものには見えなかった。
「怪人と共闘作戦だねー。ダークネスと共闘するのはイフリートの時以来かなー」
「餃子怪人と一緒に戦えるのか……まあ、ダークネスと共闘って珍しいもんな。せっかくだし頑張って行こう!」
被ったパーカーのフードの後ろで手を組み軽い調子な海藤・俊輔(べひもす・d07111)に対して、その生まれから郷土愛を持つ者に憧れを抱いているエルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)は、その相手がダークネスであるご当地怪人であっても、共に肩を並べて戦えることに少なからず気がはやっていた。
「今回の目的はロードローラーの灼滅。ダークネスと親しくなる気はありませんが、今回ばかりは仕方ありませんね。赤倉明、参ります」
ダークネスとの共闘、それが上手くいくならロードローラーの灼滅の大きな助けとなるだろう。
しかしそれは一歩間違えればダークネス2体を相手取らなければいけなくなるかもしれないという諸刃の刃である。
赤倉・明(月花繚乱・d01101)は仲間と自身に確認するように今回の作戦を口に出して言葉にする。
未来予測で示された時間は刻一刻と迫っていた。
●
「危ない!」
「な、なんだと……!?」
エルメンガルトの声に餃子怪人が、彼が轢き潰される未来より一瞬早く振り返ってロードローラーの存在に気づく。
「あんたが奴と戦うのを手伝う。だから戦うのに良さそうな場所に連れて行ってくれないか?」
それでも十分に戦闘態勢の取れていない餃子怪人に代わって、楠木・朱音(勲歌の詠手・d15137)は白光を放つ強烈な斬撃をロードローラーの側面から浴びせてから、クルセイドソードの刀身を盾にロードローラーの前進を阻んだ。
餃子怪人を轢き潰さんと前進を続けるロードローラーの質量に、それを押さえる朱音の手足が軋む。
「初めまして! 佐藤と申しますっ。突然ですが、アレ貴方を狙ってます。このままだと餃子好きの市民の皆様も巻き込んでしまいます。迅速に人気の無い方に誘導したいのでどうかご協力下さいっ」
佐藤・志織(大学生魔法使い・d03621)は朱音をエンジェリックボイスで支援してから、まだ状況に追いつき切れていない餃子怪人に声をかける。
「まー、敵の敵は味方って言うしねー。今回は一緒に戦おーぜー。でもここで戦うとお気に入りのお店に被害出ちゃうかもだから場所変えないとかー」
俊輔が弾丸のような速度でロードローラーの側面にバベルブレイカーを叩きつけるが、ロードローラーはその巨体からは想像できない機敏さで横滑りしながら射出される杭を避けた。
「悪いのだが、お前に問わねばならぬことがある故、こんなところで死なすわけにはいかん」
再び餃子怪人に向かって突進しようとするロードローラーを鏖殺領域の黒い殺気で牽制しながら、虚は餃子怪人の横に並ぶ。
「灼滅者の言うことを聞くのは癪だが、お前達の言うとおりだ。店を守りながらコイツと私だけで戦うのは難しい」
餃子怪人はロードローラーを冷静に観察した。
一対一で戦えばロードローラーの方が自分より戦闘力で勝っていることを餃子怪人は一瞬で看破する。
しかし餃子怪人が背にしているのは、自分の分身にして自分の命に代えても死守せねばならぬ餃子店である。
餃子怪人に逃げるという選択肢は存在していなかった。
「まあまあ、後でおいしい餃子を食べながら、自家製野菜やハネの美味しさについて小一時間ほど語りましょうよ~。お土産の宅配用餃子もおごりますよ~」
餃子怪人の横から葵が餃子怪人に話しかけつつガトリングガンをロードローラーの車体に雨あられのように撃ち込みながら、ライドキャリバーの我是丸がその援護を受けてロードローラーに体当りを決める。
「今日で餃子のお昼ゴハンの日課を終えてもらおうってつもりはないよ! そこの黄色いのを倒すまで、共闘しない? 差し当たっては人気の少ない戦い易い所まで一緒に来てくれるとすっごく助かるアリガトどーも!」
エルメンガルトはロードローラーの足を止めるために、影業で作った刃物を手にロードローラーの後輪を狙って黒死斬を繰り出した。
「人気のない場所と言われても、ここは駅前商店街だ。戦うとなると目の前のコインパーキングに押し込むしかあるまい」
餃子怪人の言うとおり、駅前商店街であるここから人気のない場所までロードローラーに背を向けて誘導するのは現実的ではない。
幸い餃子店の目の前にはコインパーキングがあり、そこなら商店街の道路より戦い易いだろう。
そして餃子怪人が昼のピークタイムを避けて来店しようとしていたため、朱音の殺界形成で一般人が戦場に近づく心配もない。
「くらえ、餃子パンチ!」
勇猛果敢に前に出た餃子怪人のシールドを纏った拳がロードローラーに炸裂し、そのままコインパーキング奥のコンクリート塀までロードローラーを押し込んだ。
「さすがはダークネスですね」
桜夜の目にもロードローラーと餃子怪人、どちらが難敵であるかは一目で見切ることができたが、それでも灼滅者一人一人と比べれば餃子怪人の戦闘力は圧倒的である。
「私も遅れを取ってはいられませんね……さあ、狩りの時間だ!」
スレイヤーカードから力を解放すると、桜夜はその姿をかき消すように駆け出し、ロードローラーの背後から日本刀で黒死斬による斬撃を見舞う。
「我が炎、楽に消えるとは思わないことです」
明がロードローラーに向かって飛びかかり、炎を纏わせたサイキックソードを上段から振り下ろした。
既に足回りを執拗にズタズタにされていたロードローラーはそれを避けることができず派手に炎上する。
●
「たとえ一時のものとはいえ、味方を守ることが私の役目」
猛然と前輪に炎を纏いながら餃子怪人に迫るロードローラーを、明が縛霊手を装備した方の腕からぶつかることで止める。
前輪から燃え移った炎と、クリエイトファイアによって明の傷口から飛び散った血液の炎が駐車場を煌々と照らした。
「灼滅者とはいえ見上げた心意気。あとは任せるがいい。餃子ビーム!」
餃子怪人の声を合図に明がロードローラーから離れた瞬間に、餃子怪人のご当地ビームがロードローラーの前輪の炎を吹き消す勢いで着弾する。
「赤倉さん、今消火しますよっ」
火だるまのようになっていた明の体から志織の歌声が一息に炎を打ち払った。
「隙ありだぜー」
餃子怪人のご当地ビームで前輪の動きの止まったロードローラーの懐に俊輔が正面から潜り込み、車体を突き上げるように抗雷撃を打ち込む。
「そこから外には出しませんよ」
葵が固定砲台のように足を止めてブレイジングバーストの炎弾をロードローラーに叩き込み、我是丸がロードローラーの周囲を回るようにしながら機銃掃射を浴びせた。
「後ろがガラ空きだよ」
駐車された自動車を轢き潰しながらあくまで前進を続けるロードローラーを引き止めるように、エルメンガルトのバベルブレイカーから放たれた高速回転する杭が、ロードローラーの後部に突き刺さる。
「あまりこちらを無視されてはつまらんぞ」
ガラリと口調が変わり殺気走った視線をロードローラーに向けながら、桜夜は日本刀を鞘に納め、逆手に持ったマテリアルロッドを遠心力を乗せてロードローラー車体側面に叩きつける。
フォースブレイクによる魔力爆発の衝撃でロードローラーが横に大きく傾いた。
「この一撃、その身に刻め!」
桜夜と入れ替わるように前に出た明のサイキックソードが、ロードローラーがその車体を立て直すより早く、その胴体下部に斬撃を加える。
「駆けよ、星屑!」
駐車場の入口からエアシューズで滑走した朱音が、勢いをそのままロードローラーの頭部に踵を叩き込むように浴びせ蹴りを繰り出した。
「問おう。お前は何を望むのか。何をこれからなすのか」
「…………」
虚は日本刀で緋色の軌跡を描くような斬撃でロードローラーを切り裂きながら語りかけるが、分身体であるロードローラーには不気味にただ餃子怪人を轢き殺そうという意思しか感じ取ることができず、問いかけた虚はおろか他の灼滅者達にもまるで関心を示していない。
それが即ちロードローラーの脅威を損なっているということはない。
その高い能力をただ突進力に傾けて、再びロードローラーの前輪が唸りを上げながら高速回転する。
「そう簡単に通しはしない。それが俺の役割だ」
一直線に餃子怪人に向かって走るロードローラーの前に朱音が立ち塞がり、クルセイドソードの刀身で前輪を受け止めるが、それを支える体が悲鳴を上げ、殺し切れなかった衝撃に全身から血飛沫を噴き出した。
「多勢に無勢と悪く思うな。私にも守らねばならぬものがある。餃子ダイナミック!」
朱音が耐えている間に餃子怪人がロードローラーを持ち上げ、2メートル近く跳躍した後に引っ繰り返すように地面に叩きつける。
「勝機です。逃しませんよっ」
志織は手裏剣甲をした手を貫き手のように構え、スパイラルジェイドで自身を棒手裏剣めいて錐揉み回転させながらロードローラーに突撃した。
「へへ、こいつでトドメだぜー」
俊輔は引っ繰り返ったロードローラーの上に着地すると、その中心にバベルブレイカーを突き立て、尖烈のドグマスパイクによる杭の射出でロードローラーを真っ二つに貫く。
俊輔のバベルブレイカーによる亀裂がロードローラーの全身に広がり、ロードローラーは爆炎を噴き出しながら爆発四散した。
●
「こー、ほら、広めると思って、奢ってくれたっていいよー?」
「次会った時は敵同士かもですが、今日は無事をお祝いし共に餃子を楽しみましょう!」
戦いが終わり俊輔と志織が餃子怪人を昼食に誘う。
「いや、遠慮しておこう。本来なら灼滅者を放置などせぬが、私もここで事を構えるほど恥知らずではない。せめてお前達が我が餃子を味わって行くがいい」
そういう餃子怪人は戦闘前の約束どおり、ちゃっかり葵にお土産の宅配用冷凍餃子を奢らせている。
今日は帰ってこれで昼ご飯にするのであろう。
「待て」
「む、お前は確か私に尋ねたいことがあると言っていたな?」
「何故、餃子一筋ではなくラーメンをも選択肢に含んだのか」
「それは日本餃子がおかずとして食卓を支えるものであり、他の炭水化物と共に食すべきものだからだ」
虚の問いに対して、餃子怪人は何を今更といった様子で答えた。
中国の餃子は主食として成り立つらしいし、餃子怪人的には餃子のみでも何ら問題ないのだが、日本の餃子はおかずとしてあり、それが食文化だからだとしか言いようがない。
「マタネは言えないけど、今日のお昼も美味しいとイイね」
「今日の昼も美味い、それだけは確信を持って言える。我が餃子を広めることこそ私の世界征服への足掛かり。今日を境にお前達も我が餃子の店に通うがいい」
エルメンガルトの言葉にそう答えると、餃子怪人はダークネスの跳躍力であっという間に灼滅者達の前から去って行った。
「餃子怪人ご執心の店か……ついでだし俺達も寄ってみようか?」
「はい、皆さんでご飯でも食べて行きましょうか」
朱音と桜夜の言葉に頷いて灼滅者達は所沢の餃子怪人と共に守った餃子店に足を向けるのだった。
作者:刀道信三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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