天下の台所にロシアの味を

    作者:泰月

    ●日露粉物文化の融合と見せかけて
     大阪市内のとある公園。
     野球場が隣接したそこの広場の一角に――『お好みブリヌイ』なる暖簾を掲げた屋台が立っていた。
    「今なら焼き立てだよー。お好みブリヌイあるよー」
    「お好みブリヌイ? お好み焼きとちゃうんか?」
     屋台から漂う、何かが焼ける音と匂いに誘われたか、会社帰りらしいサラリーマンが屋台の前で足を止める。
    「ブリヌイはロシア料理の1つで――いや。言葉で言うよりこの方が早いな。食え!」
     サラリーマン達の前に突き出される、お好み焼きのソースの上に白いクリームがかかった、お好み焼きに似た何か。
    「なんやこれ……ってウマっ!?」
     恐る恐る口に運んだサラリーマンだったが、一口食べて顔色を変えた。
    「これこそが、ロシアと大阪の味の融合。お好みブリヌイや!」
     お好みブリヌイを夢中で食べるサラリーマンに、満足気な店主。
    「融合と見せかけてお好み焼きをロシア化する事で、姉妹都市である『大阪市』全体のロシア化を促進。そのロシアンパワーをロシアンタイガー様に捧げ、ついでに売上金で大阪城をエカテリーナ宮殿風に改築し、ゆくゆくは世界征服や!」
     誰も聞いてないのに計画を大声で喋る店主の頭は、サワークリームの乗ったお好み焼きであった。

    ●大阪をロシア化したる、と言う計画
    「集まってくれてありがとう。ロシアンタイガーの事で判った事があるの」
     夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、集まった灼滅者達にそう切り出した。
    「黒蜜あんずさんの調査で判った事よ。どうやら全国各地の日露姉妹都市を転々としていたみたいなの」
     立ち寄ったと思われる都市では、ロシア化怪人によるご当地パワーのロシア化が始まっている事も判明した。
    「ロシアンタイガーの現在位置は不明だけど、ロシア化怪人を放置しておくと、ロシアンタイガーが力を蓄えて復権するかもしれないわ」
     折角力を削いだ相手の復活を黙って許す手は無いし、ご当地のロシア化も見過ごせない事だ。
    「と言う事で、皆には大阪市に行って貰いたいの。敵は『大阪お好みブリヌイ怪人』よ」
     ブリヌイとは、クレープやパンケーキに似たロシア料理の1つだ。
    「まず戦闘能力だけど。ご当地ヒーローと同じキックと投げ技に加えて、ロシア化した事で爆発と毒の力を操るわ」
     ブリヌイの生地も主原料は小麦粉なのだが、混ぜる材料と行程に違いがある。
     イーストを混ぜ発酵させるのだが、その際、生地がガスを生成する。
     爆発と毒はそこに起因しているのだろうと思われる。
    「怪人がいるのは、大阪市内のこの公園よ。地図の、ココ」
     ココ、と広げた大阪市の地図で柊子が指差したのは、大阪港のちょっと下にある人工島の一角だった。
     南港ポートタウンと呼ばれる区域――要するに、大阪市のかなり端っこに当たる。
    「そこで、お好みブリヌイの屋台を出してるわ」
     お好みブリヌイとは、お好み焼き風に作られたブリヌイだ。
     中の具材は、キャベツはザワークラウトに、豚肉の代わりはサーモンに。
     あとは、お好み焼き風に厚めにブリヌイを焼いて、お好み焼きのソースとスメタナと言うロシアのサワークリームをたっぷりかけ、トッピングはイクラかキャビア。
     そんなロシア化されたメニューを広める事で、大阪のロシア化を狙っているらしい。
    「何でこんな交通手段も限られてる所で活動してるのか判らないんだけど……午後4時になると、公園に屋台を出すわ」
     屋台を出すのを妨害したり、それまでの潜伏先を探すのは、怪人のバベルの鎖で気付かれてしまうと言う。
    「でも、屋台出した後なら、どう接触しても怪しまれないわ。普通にお客を装って近づいても良いし、地上げ屋みたいに屋台を壊しに掛かっても大丈夫よ」
     どうせ不許可の屋台なんだし、とさらりと付け足す。
    「このロシア化がロシアンタイガーの為でもあるなら、ロシア化を推し進める為に、いずれ梅田とか難波とかに出て来る可能性があるわ。そうなる前に、この辺にいる今の内に、お願いね」


    参加者
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    水無瀬・楸(蒼黒の片翼・d05569)
    白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661)
    下総・水無(少女魔境・d11060)
    佐竹・成実(口は禍の元・d11678)
    御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)

    ■リプレイ

    ●お好みブリヌイ1つ300円
     大阪市は南港ポートタウンの一角にある公園。その広場のど真ん中に、屋台があった。
    「おっちゃん、ぶりぬいって美味いのか?」
    「それおいしそうだね? 初めて見たよ」
     葛木・一(適応概念・d01791)と白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661)が、興味津々と言った様子で『お好みブリヌイ』と書かれた暖簾をくぐる。
    「すみませーん、4人でひとつずつ下さーい」
    「……奢らないよ? 小銭は300円しかないしね?」
     暖簾をくぐりながら既に注文を告げる下総・水無(少女魔境・d11060)と、財布に視線を落とした風宮・壱(ブザービーター・d00909)も後に続く。
     屋台の中にある客席は4つ。これで丁度埋まった形だ。
    「き……客席が始めて全部埋まった! おおきに! おおきにな、君達!」
     その事実に感涙に咽びつつ、ブリヌイ頭の怪人は鉄板の上に具材を入れた生地を乗せて焼き始める。
    「あんなに感激するなんてね」
     怪人のその様子に、佐竹・成実(口は禍の元・d11678)は呆れたような声を上げる。
    (「このままでも大丈夫そうだね」)
     少し離れた木陰で様子を伺っていた遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)は、怪人が客になった4人以外をまるで気にせずに調理に掛かったのを確認し、そのまま屋台の様子を伺い続ける事にした。
     興味はない事もないが、それ程食べたいものでもない。
     一方、屋台ではお好みブリヌイが早くも焼き上がっていた。
    「おまたせ! 焼き立ての熱々や!」
     白いクリーム状のものが掛かったお好み焼きっぽい何か、に4人が箸をつけ、口に運ぶ。
     生地の歯応えはお好み焼きよりもふわりと柔らかく、ザワークラウトとスメタナの酸味が味の濃いお好みソースと以外に良く合い、中のサーモンと添えられたキャビアとイクラがアクセントになっている。ような気がする。
    「おお……スッゲー美味い!」
     一口食べて、壱が素直な感想を口にした。
    「うん、美味しい……もっとブリヌイについて教えて欲しいな?」
    「ブリヌイはロシアではもっと薄く丸く焼いてな。マースレニッツァ言う祭りん時――」
     4人の客の反応が良い事に気を良くしたか、身を乗り出しそうな勢いで柚理が訊ねれば、怪人の口数が増えていく。
     残る2人も、はふはふと冷ましながら箸の動きは止まらない。
    (「……食べても害になる事はないみたいだね」)
     ESPの準備をしながら様子を伺っていた御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)は、無言で箸を動かす仲間達の様子に、胸中で安堵する。
    「何だか普通に美味しそうなんだけど……いや、今は任務中」
     気が緩んで思わず呟いてしまい、我慢我慢と靱は自分に言い聞かせる。
    (「さっきへら使ってたし、元々はお好み焼き怪人だったりするのかなー?」)
     公園内の散歩を装い裏側から屋台の様子を伺っていた水無瀬・楸(蒼黒の片翼・d05569)は、怪人の使った調理器具からロシア化前の怪人を推察していた。
     まあ、お好みブリヌイ怪人と言う名前からして、恐らくお好み焼き怪人だろう。
    (「情けない……ご当地愛はどーしたのさ、ぉい」)
     胸中で溜息を吐きながら、楸は身体から殺気を広く放出する。周囲に人の気配もなく、今使っても怪人に怪しまれないであろう事は確認済みだ。
    「こんな美味しいのに、どうしてこんな目立たない所に屋台を出しているんです?」
     屋台の中では、水無が怪人の行動の理由を聞き出そうとしていた。
    「そうそう。難波とかで出しゃ、もっと売れそうなのにさ」
    「実は理由があるんやけどな……それは、企業秘密や!」
     一もよいしょして聞き出そうとするが、口を閉ざす怪人。
    「どうしても教えてくれない?」
    「自分らが、他の店でうっかり口滑らせん保証はないやろ?」
     柚理も食い下がってみるが、灼滅者達を一般客だと思っているからこそ怪人は口を滑らせなかった。
    「じゃあ、仕方ない。後は戦うだけだね! 正々堂々決着をつけよう!」
     周囲の仲間達への合図も兼ねて、大きな声で壱が告げる。
    「おう、望む所や! ……決着?」
     頷いちゃってから、首を傾げる怪人であった。

    ●代金は先払いでした
    「美味かったよ、ごっそさん♪ けどロシア化は勘弁な! 適応概念(トランスアジャスト)!」
    「うん。ブリヌイについては満足したから、さっさと倒しちゃおうか」
     笑顔で席を立った一と柚理の傍らに霊犬とナノナノが現れるのを見て、怪人が目を見張る。
    「おお? 自分ら灼滅者か!」
    「ごちそうさまでした、大変美味しかったです。ちぇすとー!」
     返答代わりに、水無の槍が螺旋の捻りを加えて突き込まれ容赦なく屋台ごと怪人を貫く。
    「のわ! ワイの屋台が!」
    「その野望をブリヌイごとぺろっと平らげちゃいましょう!」
    「ぐぬぬぬ!」
    「鉄、最初はドカーンと行くぜ!」
    「あたしたちも行くよ、もも」
     屋台の右からは一が摩擦の炎を纏った蹴りを放ち、左からは柚理のカラフルなハンマーが弧を描いて叩き込まれる。
     霊犬が咥えた刃で、ナノナノもしゃぼん玉で追い討ちをかける。
    「大阪城をなんとかかんとか宮殿にはさせないよ!」
     灼熱色のグローブに橙に輝く障壁を纏わせた壱が、屋台を飛び越え、拳を振り下ろす。
    「ちっ。4人と2匹程度やったら隙を見て逃げ――っ!?」
     屋台から離れようとする怪人の背中を、制約の力を込めた魔弾が撃ち抜いた。
    「どーこへ逃げる気かなー? 油断大敵って知ってるー?」
     振り向いた怪人が目にしたのは、指輪を嵌めた指を向け、にまりとイイ笑顔を浮かべた楸の姿。
    「逃げるわい! お好みブリヌイをもっと売らんと――」
    「別に料理に文句はないけどね。見てた限り、食べるに忍びないようなものでもなさそうだし」
     怪人の言葉を背後から遮る、瑪瑙の声。
     既にその片腕を鬼の様な巨大な異形に変化させ、瑪瑙が地を蹴った。
    「でもなんかちょっと喋り方がいらっとするから、とりあえず殴っといていい?」
     表向きのにこやかな表情をよりイイ笑顔に変えて、さらっと毒を吐きつつ答えを待たずに鬼の拳で怪人を殴り飛ばす。
    「殴っといていい? って、自分、答える前に思いっきり殴っとるやんげふっ!?」
     真横から撃ち込まれた死の光線が、思わずツッコむ怪人の台詞を遮った。
    「まあ、倒すのが任務だしな」
     光線の元には、寄生体の作る砲台を構えた靱の姿。戦場の音は遮断済み。容赦なく攻撃出来る。
    「逃げられるなんて思わない方が良いわよ」
     真っ向から間合いを詰めた成実が、オーラを纏わせた両の拳を叩き込む。
    「くっ……囲まれたか。だが、お好みブリヌイでロシアンパワーを集めるワイの計画の邪魔は、させんで!」
     8人に囲まれたと悟って、怪人の纏う空気の質が変わる。
    「元々お好み焼き怪人だったんじゃないの? 地元の名物すり替えよーなんて、この売国奴」
    「すり替えやなくて融合! 姉妹都市なんやから、名物融合くらい問題ない事や!」
     灼滅者達に掌を向けながら、楸の言葉にとても強引な理屈を返す怪人。
    「……ところで姉妹都市って何?」
     それを聞いた柚理が、沸いた疑問にふと首を傾げる。
    「文化交流を目的とした都市間の関係や。つまりロシア化も交流の一環や!」
     律儀に答える怪人の掌から放たれた毒々しいもやが、瑪瑙に纏わり付いた。

    ●今、そこにいる意味
     爆発が灼滅者達を飲み込んで、炎が身体を燃やしていく。
    「どや。ブリヌイの発酵パワーの味は!」
    「や、どうだと言われても……味ないし。爆発するとか、発酵させ過ぎだよね」
     燃え盛る紅炎の如きオーラを癒しの力に変えて、壱は自身を癒す。
    「ついでに、キミは少し口数が多過ぎるんじゃないかな」
     その背中越しに、青碧の瞳で冷たく怪人を見据えつつ、瑪瑙は心を惑わせる符を放つ。
    「皆、大丈夫か?」
     靱が展開した夜霧が前の仲間達を包み込み、その傷を癒し炎を消していく。
    「鉄。遊木月の炎を」
     靱の夜霧でも炎が消えていない仲間がいるのを見て、一は霊犬に指示を飛ばしながら自身も縛霊手の指先に癒しの霊力を集める。
    「ももは成実さんを。ボクは、ドカンと一発いっちゃうよ」
     柚理もナノナノに指示を出しながら、自分は地を蹴った。
     掲げたハンマーを振り下ろす。ロケット噴射の軌跡が、流星のように尾を引いて怪人に叩き込まれる。
    「口も商売の内や!」
    「だったら、なーんでココで店だしてんの? 中心地のほーがロシア化促進しやすいだろーに!」
     楸が闇夜の様に黒いショートコートの裾を翻し、星の煌きを纏った蹴りをツッコミ代わりに叩き込む。
    「ぐっ……敵に言う訳がないやろ!」
     重力の乗った重たい蹴りの衝撃に、怪人の足が一瞬止まる。
     間合いを広く取っていた水無は、そこを見逃さなかった。
    「怪人の考えなどお見通しです! どーせ港が目的でしょう!」
    「ぎっくぅっ!」
     波打つ金髪を揺らし連続で叩き込まれたオーラを纏った拳を耐えつつ、なにやら慌てる素振りを見せる怪人。
    「あら。その慌てよう……図星なのかしら?」
    「みみみ、港なんか関係ないで!」
     螺旋の捻りを加えて槍を突き込みながら、成実が問い詰める。
    「ああ、そっか。貧乏だから材料確保に輸入品狙ってるんだねー」
    「ぎっくーん!?」
     更にとってもイイ笑顔で楸が告げれば、深まる怪人の慌てっぷり。
    「ななな、何の事や! 使てる食材は港の倉庫からくすねたりとかしとらんで!」
     そしてとうとう口を滑らせた。
    「え。輸入品だけじゃなくて小麦粉から? 料理自体はフェアに作ってると思ったのに」
    「もう殆どただのこそドロだね」
    「こそドロやない!」
     やんわりと言いつつ冷たい視線を向ける壱と、溜息混じりの靱の様子に地団駄を踏む怪人。
    「くっ……こうなったらしゃあない。隠しといたホントの理由教えたる! それはな――」
     まだあるのか、と灼滅者達も思わず息を飲む。
    「他のお好み焼き屋が、この辺りに少ないからや!」
     シンと静まり返る戦場。どこか遠くのカラスの鳴き声がやけに響く。
    「そう言えば駅前を散歩したけど、飲食店は殆どなかったな」
     戦う前に散歩した光景を思い出し、一が呟く。
    「もしかして……キミ色々言ってたけど、実は売れる自信ないの?」
    「しゃーないやろ! バベルの鎖あるんやから、ライバル店多かったら宣伝効果の差で負けるやんか!」
     予想の斜め下をいくしょぼい理由に、瑪瑙が怪人に向ける視線に呆れの色が混じり出す。
    「もー怒った。こうなったら自分ら倒したら、梅田でも難波でも何処でも行ったる!」
     灼滅者達の総ツッコミに、怪人の頭を更に膨らませ、何度も地団駄を踏んでいた。

    ●やっぱりお好み焼き
     とは言え、勢いに任せた繁華街進出なんて許せる事ではない。
     灼滅者達は守備と回復を重視した体制を維持したまま攻撃を重ね、怪人を追い込んでいく。
    「なんや、その程度の突きっ!?」
     成実がロッドから流し込んだ魔力が、怪人の内側で破裂して衝撃が怪人を揺らす。
    「何でもロシア化すればいいってものじゃないからね!」
     そこに、摩擦で生み出した炎を足に纏わせ、飛び掛った柚理が炎と蹴りを叩き込む。
     灼滅者達が幾つも重ねた炎は静かに、しかし確実に怪人を燃やし続け、体力を削っていた。
    「さーて。そろそろ、ズドーン! とぶっ飛ばして決着つけさせて貰うぜ!」
     加速力を追求したエアシューズの車輪が猛回転。
     その摩擦で生まれた炎を纏わせ、一が蹴りと更なる炎を叩き込む。
    「ぐっ……まだやられへんぞ! お好みブリヌイキック!」
     ぐらりとふら付いた怪人は体勢を立て直すと、お返しとばかりに一を蹴り飛ばす。
    「仲間は倒させないよ。後ろは任せてくれ」
     すぐさま、後方にいる靱が癒しの霊力を縛霊手の指先に集めて飛ばす。鉄も魂を癒す視線を主に送る。
    「まあ、放っておくと後々面倒そうだし。逃がしはしないよ」
     常に在り続ける光を纏い怪人の横を駆け抜けた瑪瑙は、非物質と化した刃を振り抜いて怪人の霊魂を斬り裂いた。
    「で、ロシアンタイガー達ってどっち行ったの?」
    「で、答えると思うとんのか?」
     ボロボロになり肩を上下させる怪人に楸が飄々と訊ねるも、返って来たのは拒絶の意志。
    「そっか。じゃ、燃やし尽くして炭にしたげるよ」
     楸も摩擦で生み出した炎を足に纏い、怪人を蹴り上げる。
    「国際交流は相手の国と文化をソンチョーしてこそ。お好みブリヌイは美味しかったけど、それでもお好み焼きはお好み焼き! ブリヌイはブリヌイ!」
     壱の障壁を纏った拳を食らいながら、怪人は炎に焼かれるのも構わず後ろの灼滅者達に掌を向けた。
     追い詰められた瞬間、殴られた怒りを理性が上回ったか。
    「さようなら。ブリヌイはちゃんと美味しかったですよ」
     が、爆発を起こすよりも早く走り込んだ水無が、槍で掌ごと怪人の胴を貫いた。
    「すんません、ロシアンタイガー様ぁぁぁぁぁ!」
     謝罪の叫びと共に、お好みブリヌイ怪人は、大阪市の片隅で爆散した。

     戦いが終われば、既に夕方。
     激しい運動の後。でもって此処は大阪、と来れば。
    「てコトで、本場のお好み焼き食べに行こー」
    「よーし帰る前にお好み焼きだー!」
    「あら、いいわね」
     となるのも、無理のない事だ。遠征の役得である。
    「お好み焼きにゴーゴー。勿論奢りだよね?」
    「楽しみですねー♪ 勿論上級生の奢りですよね?」
     一と水無は、奢って貰う気満々。
    「……もう奢らないよ?」
     約2名分の期待に満ちた目に既視感を覚えつつ、後ずさる壱。
    「……奢るのは小学生以下だけねー。あとは自腹で」
     次に視線を向けられ、心の中で半分泣きつつ、条件をつける楸。勤労学生の財布は寂しい。
    「あたし、一応、自分の分は出すつもりだよ?」
     財布の中身を確認しつつ、そう申し出る柚理。
    「俺も行くよ。本場のお好み焼きって初めてだな」
     大きな傷を負った仲間がいない事に安堵し、靱も期待した様子で頷く。
    (「ブリヌイ食べてた人もいるのに、よく入るなぁ。……さて、僕はどうするか」)
    「中学生にも奢ってくださいよー」
     胸中で思案しつつ密かに感心する瑪瑙の視線の先では、水無が少し不満そうに声を上げている。
     奢って、奢らない、と言い合いながら灼滅者達は公園を後にするのだった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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