絆の芽吹く時

    作者:牧瀬花奈女


    「あ、お兄ちゃん」
     学校帰りに立ち寄った本屋で、十時裕也はそう声を掛けられた。振り返れば、妹の清美がこちらに手を振っている。
    「なんだ、清美もいま帰り――」
     なのか、という語尾は、声にならずに呑み込まれた。妹の隣に、見知らぬ男の姿があったからだ。あろうことかその男は、妹と親しげに言葉を交わしながら、裕也の側までやって来た。
    「清美、誰だそいつ」
    「高木君。同級生っていうか彼氏」
     さらりと紡がれたその言葉に、裕也の中で何かが切れた。
    「何考えてるんだ! お前、まだ高校生だろ!」
    「いきなり大きな声出さないでよ! 高校生で彼氏がいるくらい、普通でしょ!」
    「清美にはまだ早い!」
    「何よ、お兄ちゃんだって、彼女いた事あったくせに!」
    「今はいない!」
    「誇らしげに言わないで!」
     まあまあ、と、高木というらしいその男は、裕也と清美の間に穏やかに割って入った。
    「清美もお兄さんも落ち着いて。他のお客さんに迷惑だから、外に出ませんか?」
     温厚そうなその物言いが、余計に腹立たしい。
    「お前にお兄さんとか言われる筋合いはない!」
     追い掛けて来る妹の声に背を向けて、裕也は本屋を飛び出した。
     
     帰宅してからも、裕也の心は晴れなかった。課題をやろうとしても、妹と高木の姿が脳裏にちらついて集中できない。
     寝てしまえ。
     半ばやけくそのように胸の内で呟いて、裕也はベッドに倒れ込んだ。
     それから暫くの後。静かな寝息を立てる裕也の元に、ふらりと一人の少年が現れた。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     少年がそうささやいた瞬間、裕也の中から、何かが消えた。
     
     翌朝。
     裕也は何事も無かったかのように目を覚ました。洗面所で顔を洗っていると、清美がやって来る。
    「お兄ちゃん、昨日のことなんだけど……」
    「ああ、騒がしくしてごめんな。高木君だっけ? 今度また紹介してくれ」
     清美の言葉をさえぎるようにして、裕也はそう言った。
    「……反対しないの?」
    「清美が選んだ人なんだろ? 真面目そうだったし、いいんじゃないか?」
     瞬きを繰り返す清美の脇をすり抜けて、裕也はダイニングへ向かう。
     昨日、何故あれほど腹が立ったのか。その理由が、裕也にはもう分からなくなっていた。
     

    「これは強力なシャドウである、絆のベヘリタスによる事件です」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、空き教室に集まった灼滅者達にそう告げた。
     絆のベヘリタスと縁の深い謎の人物が、十時裕也という大学生の最も深い絆――妹との絆を奪い、ベヘリタスの卵を産み付けてしまったのだという。卵はやがて孵化の時を迎え、新たなベヘリタスがそこから現れることだろう。
    「裕也さんに産み付けられた卵は、皆さんの目には見えますが、触ったり攻撃したりする事はできません。皆さんには、新たなベヘリタスが産まれた直後に、撃破をお願いしたいんです」
     ベヘリタスの卵は、産み付けられた相手の絆を栄養源として成長する。産まれた直後のベヘリタスは、卵の栄養となった相手――宿主が絆を結んだ相手に対しては、攻撃力が減少し、受けるダメージも増加するという弱点を持っている。
     ベヘリタスは強力なシャドウだが、産まれる前に灼滅者達が裕也と絆を結んでいれば勝ち目はあるという事だ。
    「裕也さんは学校が終わった後、18時から1時間ほど本屋さんへ寄る習慣があるので、この時に接触すると良いかもしれません」
     絆を結ぶのに使える時間は、およそ二日だという。
    「ベヘリタスの卵は明後日の19時。裕也さんが本屋さんの駐車場へ出た時に孵化します」
     ベヘリタスとの戦いの場は、自然とその駐車場になるだろう。駐車場には車や自転車がまばらに停まっているが、戦いの障害となる事は無い。
    「産まれたベヘリタスは、10分が経過するとソウルボードを通じて逃走してしまいます。戦闘時は時間にも気をつけてくださいね」
     卵から産まれ落ちるベヘリタスは、黄金の仮面を着けた巨大な芋虫のような姿をしている。吐き出す粘液は遠くまで届き、標的となった一人に毒を植えつける。また白い糸を吐き出した時は射程は短いものの、一列を傷つけると同時に催眠の効果を与えるという。それに加えて、自らの傷を癒すと同時にバッドステータスを解除する事もあるようだ。
    「ベヘリタスを倒せば、失われた絆は戻って来ます。可能なら、その後のフォローもお願いします」
     十時裕也は妹を溺愛していた。その妹との絆を奪われたのだから、戸惑いや悩みもあるだろう。ベヘリタスに勝てたなら、少しくらいは言葉をかけてやっても良いかもしれない。結んだ絆の種類によっては、難しいかもしれないけれど。
    「絆が強ければ、それだけ有利に戦う事ができます。頑張ってくださいね」
     行ってらっしゃいと、姫子は灼滅者達を見送った。


    参加者
    陽瀬・瑛多(高校生ファイアブラッド・d00760)
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    笠井・匡(白豹・d01472)
    色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    七篠・零(旅人・d23315)
    炎道・極志(飛ばないロケット・d25257)
    月島・海碧(凍刻の狂詩曲・d26917)

    ■リプレイ

    ●一日目
     ベヘリタスの卵が孵化する前日。灼滅者達のうち、何人かは図書館へ来ていた。
     ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)が書棚から数冊の本を抜き出し、仲間達の待つ机まで持って行く。
    「周りの方々の思考を探った限りでは……この辺りが人気のようでしたわ」
    「ありがとう。それじゃあ、早速……」
     陽瀬・瑛多(高校生ファイアブラッド・d00760)はその中から1冊を手に取って、文字の妖精さんを呼び出した。彼の隣では月島・海碧(凍刻の狂詩曲・d26917)が、同じESPを使用している。
     向かいの椅子に腰掛けた色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)は、短時間で読めそうな薄めの本を手に取った。
     今回、灼滅者達が絆を結ぶ相手は、読書好きの大学生。事前に本に対する知識を深めておこうと、彼らは図書館で人気のある本を調べておく事にしたのだ。
     黙々と活字に目を通していると、不意に緋頼の携帯電話がメールの着信を告げた。差出人は七篠・零(旅人・d23315)だ。
    「……裕也さんの自宅を調べるのは、難しかったようです」
     メールの内容を確認し、彼女は抑えた声で仲間達に告げる。十時という珍しい名字から、零は電話帳で住所を探せないかと思ったのだが、うまく行かなかったようだ。
    「やはり最初は、本屋さんで接触するしかなさそうですね」
     海碧は妖精さんに教えて貰った内容を、ここにはいない笠井・匡(白豹・d01472)と炎道・極志(飛ばないロケット・d25257)、そして守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)へメールで送信する。
     十時裕也の通う大学を探しに行った彼らから、まだ連絡は届いていない。ベヘリタスの卵という目印があっても、大勢の人間が行き交う大学では一人の学生を見付け出すのは難しいのかもしれない。
     けれど灼滅者達に落胆の色は無かった。元より本命は本屋での接触だ。
     彼らは2冊目の本に手を伸ばした。

     時計の針が18時より少し手前を指した頃。灼滅者達は本屋に集まっていた。店内で適度にばらけ、十時裕也の到着を待つ。
     やがて自動ドアが開き、一人の青年が入って来た。
     彼の頭上にあるものを見て、灼滅者達は息を呑む。紫と黒の、気持ちの悪い卵。あれが、ベヘリタスの卵だ。
     裕也は店内をざっと見渡した後、まっすぐに小説のコーナーへと向かった。平台に積まれた文庫へ手を伸ばす彼に、匡と極志、そして瑛多がそろりと近付く。
    「その本、興味あるんですか?」
     そう声を掛けた瑛多に、裕也は少し驚いたような表情で振り返った。
    「僕達、この辺りを中心に活動してる読書サークルなんだ。君、どこの学校?」
    「えっと。ここからずっと東に行った所にある――」
     戸惑いながらも、裕也は大学名を答えてくれた。ああ、と匡が笑顔を浮かべる。
    「偶然だね。明日、弟が見学に行く予定なんだ」
     そう言って匡が極志を示せば、裕也の表情が和らいだものに変化した。
    「そうなんだ。学部とかはもう決めてあるのか?」
    「詳しいことはまだ全然っす」
     まだ中学生だからねと匡の紡いだ言葉の端に、遠くから少女の声が重なる。
    「匡お兄ちゃん、こんなところにいたよ!」
    「や。あれ、同好の士を見付けたの?」
     ラブフェロモンをまとった結衣奈に続き、零も側までやって来る。妹だよと紹介されて、結衣奈は小さくお辞儀をした。
    「へぇ……いいなぁ、可愛い妹で。俺も妹がいるけど……」
    「奇遇だね。俺にも妹がいるんだよ」
    「そう、なんだ」
     笑みを含んだ瑛多の言に、裕也はぎこちない返事を返す。僅かな表情の変化を見逃さず、結衣奈は匡へアイコンタクトを送った。
    「ところで結衣奈。一緒にいるのは誰? 彼氏とかじゃないよね?」
    「もう、お兄ちゃんたら何言ってるの。この間サークルに参加してくれた、零先輩じゃない」
     本当に付き合ってるとかじゃないよねと言い募る匡に、違うと結衣奈は軽く頬を膨らませる。二人の間で極志は、喧嘩しないでとおろおろして見せた。
    「どうしたんですか、結衣奈さん?」
     押し問答を続けている二人の声を聞きつけた格好で、緋頼とミルフィを連れた海碧が現れた。同じサークルのメンバーっすと、極志が裕也に説明する。
     どうもこうもと、呆れ顔を作る結衣奈に、海碧が察したような顔を見せた。
    「すいません、巻きこんでしまいまして」
    「わたくし達、これからカフェへ行く予定ですの。よろしかったら、ご一緒して頂けませんかしら?」
     頭を下げる緋頼の傍ら、ミルフィがそう誘いをかける。いいよ、と裕也はすんなり頷いてくれた。なんだか君達、楽しそうだしと。
     目的のカフェは本屋からほど近くの場所。そこで暫しの時を過ごした灼滅者達は、明日も会おうと約束してから裕也と別れた。

    ●二日目
     翌日。図書館には、前日と同じ面々が集まっていた。昨日のカフェで、裕也から薦められた本を読むためだ。
     瑛多は妖精さんの力を借りず、自力で本を読み進めていた。図書館では普段は雑誌しか読まない彼には、少し頭がくらくらする。
    「大丈夫ですか? 無理そうなら妖精さんを使っても……」
    「ありがとー。でも、1冊くらいは読み込んでおきたいから」
     隣で同じく本を広げている海碧に、おすすめされた本だしねと瑛多は小さく笑って見せる。向かい側の席で、緋頼がそっと頭を上げた。
    「大学の方は、どうでしょうか」
    「きっと、うまく行っていると思いますわ」
     ミルフィはそう言って、広げた本に再び目を落とした。

     時計の針が12時を指す頃。匡と極志は大学の食堂で裕也と向かい合っていた。
    「十時くん、今それ読んでるの?」
    「うん。このシリーズの5年ぶりの新作なんだ」
    「それはすごいっすね……」
     昼食に箸を付けつつ、二人は裕也と会話を進めて行く。前日に濃密な時間を過ごしたお陰か、裕也の表情は柔らかい。
     講義が終わった後、また一緒に本屋へ行こう。どちらからともなくそう言い合った時、昼休みの終了を告げる鐘の音が響いた。

     その日の18時。灼滅者達が本屋で待機していると、匡と極志と共に裕也が現れた。
    「裕也さん、昨日おすすめしてくれた本、読んだよー。すごく面白かった!」
    「あ、もう読んでくれたのか。嬉しいな」
     手を振りつつ瑛多が言えば、裕也の口元が綻ぶ。伏線の張り方が見事でしたよねと、海碧も笑みを浮かべた。
    「裕也様は、童話はお読みになられますか……?」
     これは、わたくしの主のお嬢様がお好きな本なのですが、とミルフィの差し出した本を見て、子供の頃に読んだなぁと裕也が笑った。
     その後も本の話題を続けるうち、やがて時計の針が一巡りする。
    「あ。今日はそろそろ帰らないと」
     腕時計をふと見やって、裕也が言う。ミルフィがわたくし達も帰りましょうと呼び掛けて、灼滅者達も彼に続いた。
     そうして裕也と灼滅者達が自動ドアを抜け、駐車場へ出た直後。
     音を立てて、ベヘリタスの卵が孵化した。

    ●ベヘリタス
    「な、なんだ、これ!」
     突如として現れた巨大な芋虫に、裕也がおののく。匡が殺気を放ち、裕也はそれに合わせて灼滅者達に背を向けた。
    「貴方の大事なもの、取り戻します。その間、離れていてください」
     サウンドシャッターを展開しながら、緋頼は裕也の背中に呼び掛ける。傲慢かもしれないけれど、できる事はこれくらいだから。深い赤の瞳が、ベヘリタスを見据えた。
     もしも妹に彼氏がいたら。妖の槍を繰り、瑛多は考える。驚きはするだろうけれど、彼はそれだけだ。しかし、だからと言って、妹との絆を奪われていいなどとは思えない。
    「人の絆を勝手に書き換えるんじゃない!」
     鋭い叫びと共に、瑛多は捻りを加えた一撃を芋虫の体にお見舞いする。穂先が緑色の表皮を裂き、奇妙な色をした体液がそこににじんだ。
     絆は結び結ばれるからこそ尊く、互いの力となるもの。芋虫の放った毒液を受けながらも、結衣奈は断罪輪を構える。自身を闇から救ってくれた光とも呼ぶべきものを奪うなど、彼女に許せる筈がない。全身を転輪のごとく回転させ、彼女は芋虫の横腹に切り付ける。匡の広げたエネルギーの盾が、前衛を担う灼滅者達に加護を与えた。
    「それが孵化した姿……さしずめ、不思議の国に住む芋虫、ですかしら」
     けれど博識な芋虫では無さそうですわね、とミルフィは疾風のごとき蹴りを放つ。ローラーの摩擦が芋虫の表皮をなぞり、火花を生んだ。
    「人の絆を奪うなんて、許せないっす!」
     極志が芋虫に接近し、仮面の下を拳で打ち上げる。そのすぐ後を、緋頼の紡ぎ出した魔法の矢が追った。
    「絆を奪うってのは、ちょっと見過ごせないなあ」
     結衣奈に癒しの矢を放つ零の眼差しは、口調の軽さとは裏腹に真剣だった。海碧が束ねた符の1枚を取り出し、仲間に向けて放つ。
     瑛多の体に宿る寄生体が殲術道具を呑み込み、彼の腕が巨大な刀へと変じる。刃は青い軌跡を描いて、芋虫の体へ深く突き刺さった。
     芋虫は身をよじり、仮面の下から白い糸を吐き出す。絹糸にも似たそれにまとわり付かれ、前衛の灼滅者達が妖しい目眩に襲われた。
     結衣奈がマテリアルロッドを振り上げて、芋虫を強かに打ち据える。流し込まれた魔力が暴れるのに合わせて、緑色の体がぐにゃぐにゃと揺れ動く。
    「虫さんこちら、手の鳴る方へ……てね!」
     匡は軽く節を付けて言い、シールドの端で芋虫の頭を殴りつける。仮面の顔に変化は無かったが、もし表情を変えられたとすればその瞳は怒りに満ちていた事だろう。
     バトルドレスの裾をはためかせ、緋頼は芋虫との距離を詰める。螺旋の捻りを得た槍の穂先が、緑の体を貫いた。ミルフィの足がぽんとアスファルトの地を蹴り、流星のきらめきを帯びた爪先が芋虫を鋭く穿つ。零が矢を放つのに合わせて、海碧は聖なる風を呼んだ。
     極志がジェット噴射の勢いに乗って芋虫の懐に飛び込み、バベルブレイカーの杭で柔らかな腹を穿った。ぐじゅり、と体液にまみれた芋虫が僅かに体勢を崩す。
     戦いの音に混じって、ピピッ、と軽い電子音。結衣奈の仕掛けたタイマーが、5分の経過を知らせていた。

    ●絆というもの
     ピピッ、と二度目の電子音が鳴る。知らせたのは8分の経過だ。体をねじらせた芋虫からは、極志に向けて毒液が飛んで来る。
    「なかなか手強いですわね……」
    「でも、もうあと一息です」
     バベルブレイカーで芋虫を穿つミルフィに続き、緋頼が妖の槍を繰る。懐に入り込んだ瑛多が片手にオーラを集束させて、芋虫を幾度も打ち据える。
     炎の一撃を叩き込む極志に次いで、匡は剣を非物質化させた。魂を傷付けられ、仮面を着けた頭がぐらりと揺れた所へ、結衣奈が飛び込んだ。
    「奪った絆の力、わたし達の築いた絆が影を打ち砕いて元の主へ!」
     彼女のマテリアルロッドが芋虫を打ち、魔力の奔流を流し込む。
     ぐじゅり、と奇妙な音を鳴らして、芋虫は薄闇の中に溶けて消えて行った。

     本屋の中に入ると、裕也が灼滅者達を見付けて近付いて来た。
    「な、なあ、さっきの化け物は何だったんだ?」
    「ああ、気にしなくて大丈夫だよ。俺達が何とかしたから」
     さらりと言う零に戸惑いながらも、そうなのかと裕也は引き下がる。
     妹さん、と緋頼が静かな声音で言葉を紡いだ。
    「大事にしてくださいね」
    「どんなに仲が良くても、喧嘩する事くらいある。でも、それも絆の強さの証拠だ」
     常に上手く行く関係なんて、無いんだからねと零は続ける。
    「妹さんも心配して貰えるのはとっても嬉しいはずだから。話を聞いて言い合って、そして最後は笑顔でしょうがないなと応援してくれると、格好いいお兄ちゃんじゃないかな?」
     わたしもそうだったら嬉しいからと、結衣奈は匡と極志に目を向ける。
    「妹を応援するってのは兄にしかできないんすよ?」
     兄妹って関係はずっと変わらない物っすよと極志に言われ、そうかなと裕也は呟いた。
    「強い絆でも、小さなすれ違いで壊れてしまう事もある……大切な存在であるならば、ちゃんと、真摯に向き合ってください。失ってから後悔してしまわぬよう……」
     海碧はそう言って、身に着けたペンダント形の懐中時計に手を触れた。大切な妹ととの絆――否、絆だけではない全てを、彼女は失ってしまった。その痛みが分かるからこそ、裕也には同じ思いをさせたくなかった。
    「……ありがとう。帰ったら、また妹と話してみるよ」
     暫しの沈黙の後、裕也はそう頷いた。
    「教えてもらった本面白かったし、他の本も今度読んでみるよ! ありがとー」
    「また、機会があったら会おうね」
     瑛多の朗らかな声に、匡が言葉を重ねる。
     手にした新たな絆と共に、灼滅者達は帰途に就いた。

    作者:牧瀬花奈女 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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