「~~~んもう!」
八つ当たりするように、みちるは掴んだクッションをぼふっとベッドに叩き付けた。
(「パパが悪いのよ! 全部、ぜーんぶ!」)
あんなにデレデレとしちゃってさ、と小さくぼやく。
パパの仕事が終わった後、映画を見てレストランにでも行こうって約束をしてた。最近パパ忙しくて、ゆっくり一緒に過ごすなんて久々だったから、「しょうがないから付き合ってあげる」って言いながら、これでも結構、楽しみにしていたのに。
――実は、お前に紹介したい人がいるんだ。
そう言ってきたパパの隣に知らない女の人がいて。にこにこ笑っているのを見ていたら、そんな気持ちなんて、どこかへ行ってしまった。
本当のママの顔なんて覚えてない。ずっと、ずーっと、みちるにはパパしかいなかった。
それなのに。
「うー……もういい寝るぅ……」
じわりと目尻に涙を浮かべて、みちるは、いじけるようにベッドへ潜り込む。
しばらくして――。
かすかな寝息が響く部屋に、いつしか、どこからともなく、その少年は入り込んでいた。
「君の絆を僕にちょうだいね」
ベッドの中で、すやすやと眠っている少女の耳元へ、そっと囁きかける。
その瞬間、彼女の中で何かが消えて――なにかが生まれた。
「おはよう」
翌朝、みちるは淡々と父親に朝の挨拶をする。
「お、おはよう。あの、みち……」
「昨日はゴメンね。お父さんが選んだ、いい人なんでしょう? 今度改めて紹介してよ」
おろおろしている父親に、みちるは先んじてそう告げる。父親が幸せになるのが、悪い事だなんて思えない。
(「でも、なんでだろう……?」)
それなのに、昨日どうして自分があんなに腹を立てていたのか、わからない。
まるでぽっかり胸に穴が空いたようで……でもそれが何故なのか、どういうことなのか、みちるには理解できなかった。
「これは、『絆のベヘリタス』と呼ばれる強大なシャドウに、関係した事件です」
事件のあらましを伝えた五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者達に、そう言いきった。
「どうやら、絆のベヘリタスと関係の深い謎の人物が、眠っているみちるさんの枕元を訪れて、『みちるさんにとって、一番大切な絆』を、奪ってしまったようなのです」
しかも、それだけではない。みちるには『ベヘリタスの卵』が産み付けられているというのだ。
「まるで、みちるさんが一番大切にしていた絆から生まれたみたいに……。そして、絆のベヘリタスの卵は、更に『みちるさんと周囲の人々との絆』を養分にして育ち、孵化しようとしています」
そうして生まれてくる『絆のベヘリタス』は強大なシャドウ。野放しにすれば、大変なことになってしまうだろう。そうなる前に、何とかしなければならない。
「ただ、ベヘリタスの卵に触れる事はできません。そのため卵のうちに倒してしまうことは難しいようですね。機会は『卵が孵化し、ベヘリタスが生まれた直後』しかありません」
そのタイミングを狙って、ベヘリタスを倒して欲しいと、姫子は告げる。
「とはいえ、ベヘリタスは非常に強力なシャドウです。普通に戦っても勝ち目はないでしょう。……ただ、幸いにも、孵化した直後のベヘリタスには『弱点』が存在します」
どうやら生まれてくるベヘリタスは、自分の栄養源となった相手には思うようにダメージを与えられず、反対に攻撃されると甚大なダメージを負ってしまうようなのだ。
栄養源とは、つまり『みちると絆を結んでいる相手』のことだ。何らかの方法で、みちるとの絆を結ぶことができれば、戦いを有利に運ぶことが出来るだろう。
「ベヘリタスの卵は、明日の18時に孵化します。みちるさんは学校へ行った後、15時頃から近所の公園でぼんやりした後、17時半過ぎに帰宅しようとするようです」
そこへ接触するのが良いだろうと姫子は告げる。18時までの時間を、どのように使うかが、鍵になるはずだ。
絆と弱点を逆手にとって活用しなければ、倒すのは極めて困難に違いない。
「生まれたベヘリタスは10分経つと、ソウルボードを通じて逃亡してしまいます。それまでにベヘリタスを倒してください。ただ、ベヘリタスは非常に強力なシャドウですから、倒すのが困難だと判断した場合は無理をせず、引き上げるようにしてください」
そうすれば10分経たずともベヘリタスが逃亡し、戦いは終わるだろう。
ただ、逃がせばそれだけベヘリタスの勢力が強大化することになる。可能な限り、ここで倒してしまいたいところだ。
「絆が強ければ強いほど、戦いは有利になります。みちるさんと結ぶ絆は、どのような種類でも構いません。最悪、軽蔑とか憎しみとかでも大丈夫ではあるのですが……」
そう告げる姫子は、さすがにちょっと言いにくそうな表情だ。
「あ、あとそれから、絆のベヘリタスを倒せば失われた絆は取り戻すことができます。その辺りのことも、上手くフォローしてあげられるといいですね」
もっとも、相手から軽蔑されたり憎まれている状況では、さすがにそうしたフォローは無理だろうから、そうした点も考えつつ、みちると絆を結ぶのが、良いのかもしれない。
「ベヘリタスを阻止するためにも、みちるさんのためにも……よろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781) |
有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923) |
空井・玉(野良猫・d03686) |
リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213) |
月原・煌介(月梟の夜・d07908) |
天神・ウルル(イルミナティ・d08820) |
野乃・御伽(アクロファイア・d15646) |
佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733) |
午後3時。灼滅者達が訪れた公園には、ベンチで溜息をつく女の子がいた。その頭上には紫と黒が混ざったような卵がある。
「あれがベヘリタスの卵?」
「悪趣味ですね」
眉をひそめる灼滅者達。どうやら、あれがみちるで間違いないようだ。
「じゃ、行ってくる、すよ」
みちると『絆』を結ぶべく灼滅者達は3組に分かれた。最初に接触するのは月原・煌介(月梟の夜・d07908)と結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)だ。
ラブフェロモンを使った影響か、2人に気付いたみちるが煌介を見つめてくる。煌介は彼女と視線を合わせ、ゆっくり近付いた。
「えっ、あの……」
「ちょと、視えたから……気になって」
煌介は、目線がみちると同じ高さになるよう屈む。
「君は今、何かを失くしてしまったようで、それが何故かわからない……そんな不安を、感じているよね」
「どうしてそれを……」
みちるが戸惑うのも無理はない。まさか最初から知っていたとは思いもしないはずだ。
「良かったら……話してみない? 声をかけたのは俺だし、今日は無料」
「無料?」
「占い師さんなのですよ。お休みなのに職業病ですね」
隣で静菜が付け加える。ちなみに私は、と静菜は片手を握り、もう片方の指先でつつく。すると開いた掌から紙の花が舞った。
「すごい! 占い師にマジシャン? 初めて会いました」
みちるは顔を輝かせ、やがて少し何かを考え込んだ後、身の上話を始める。どこか不思議で知らない相手……だからこそ、話しやすいと思ったのかもしれない。煌介は話をしっかり聞き、思いやるように相槌を打つ。
「大丈夫。安心、して」
それはみちるのせいじゃない。彼女は、ただ奪われた被害者なのだ。
「これも御縁です。あなたが信じてくれるなら、その悩みの種退治、お手伝いしましょう」
「すぐに全て取り戻す。これを持って、待っていて」
解決方法を知っているかのような2人に目を丸くし、みちるは約束の証かのように、煌介から差し出された紅水晶を受け取る。
「みちるお嬢さん、また後でね」と、そんなみちるに手を振って静菜達は公園を出た。
「……あれ、なんで私の名前……?」
名乗っていなかったはずなのに、とみちるは呟いた。
次に訪れたのは野乃・御伽(アクロファイア・d15646)と有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)。そして、
「わふっ」
耳をぴくぴくさせ、みちるへ近付いた犬はリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)が変身した姿だ。
「あ、この間一緒に遊んだね。久しぶり!」
へるは顔見知りの子を装って話しかけるが、みちるは首を傾げる。その反応に、へるはすぐさま「ボクの勘違いかな、ゴメンねっ」と誤魔化す方針に切り替えた。
「人間違いだなんて、そそっかしい奴だな」
「なにおうお兄ちゃん!」
咄嗟に兄妹ゲンカを演じれば、みちるは微笑ましげに笑う。
「仲がいいんだ……あは、くすぐったい!」
更にじゃれつくリュシールに笑い声を立てた。犬嫌いではないらしく、擦り寄るリュシールを優しく撫でている。
「リュシールって言うんだ、投げて呼んでみ?」
御伽が渡したボールをリュシールがキャッチしてみせると、みちるは更に楽しげだ。
貸して、とへるが指先だけでボールを自由自在に操って見せれば「すごいね!」とみちるは目を輝かせた。
「昔、親父とよくこうして遊んだんだ。ま、今は俺が父親代わりなんだけどな」
御伽はみちるの隣に座り「みちるは?」と問いかける。
父親と遊んだ思い出、父親への想い……辿って答えようとして、言葉に詰まる。
「……わからないの」
「そうか。今はわからなくても、いつか分かるさ」
頼りなげな肩を優しく叩いて御伽は笑う。
大丈夫、彼女は父親そのものを失ったわけじゃない。彼女はまだ、取り戻せる。
(「俺らが取り返してやる。絶対にな」)
頃合を見て3人が引き上げると、最後に空井・玉(野良猫・d03686)達が近付く。玉がライドキャリバーのクオリアを入口に止め、
「ああっ、ボールがぁ~!」
天神・ウルル(イルミナティ・d08820)はバレーボールを転がし「取ってください~」と呼びかけた。
「はい。大丈夫?」
うっかり躓いちゃって~とウルルは笑う。それをきっかけに挨拶した玉は「近所の人?」と尋ねていく。
「私達は小学校のそばに住んでるんだ」
地図で調べた方角を見る玉に、みちるは「うちはその角を曲がってすぐ」と気さくに応じる。
「よかったら一緒にやらん?」
佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)はボールを指す。結希達は3人、バレーをやるならもう一人欲しい。じゃあ、とみちるは頷く。
が、
「わたしのアタックがナンバー1なのです!」
「しかしここで私がスーパーレシーブ!」
灼滅者パワー全開で攻めるウルルのボールを、結希が激しくスライディングして受け止めるのを見、みちるは呆然とする。
(「ああっ、視線が刺さる! けどこれも絆のため……っ!」)
そう自分を鼓舞し、結希は派手にバレーを続ける。
「す、凄い……」
「普通あんなの無理だよね。ねえ2人とも、私達のこと忘れてない? 一緒に遊べるように手加減してよ」
みちるの声に玉が同意するように頷き、2人へ呼びかけてクールダウン。
改めて普通レベルのバレーで遊ぶ。体を動かす事で少しスッキリしたのか、時折、みちるの顔に笑顔が浮かぶ。
「よかったぁ~、笑ってますねぇ」
ウルルは安堵の表情で、実は気になっていたのだと語りかける。悩みがあるなら聞くと申し出るが、みちるは大丈夫だと首を振った。
「それより続き!」
どうやら、バレーがすっかり楽しいようだ。
5時半。公園の様子を覗く静菜達だが、みちるはまだバレーボールを楽しんでいる。このままここに残ってくれるのなら逆に有難い、が。
じきに試合の区切りがつき、時間に気付いたみちるが慌てて帰ろうとする。もう少し遊ばないかと結希達は誘うが、
「ごめんね、パパがそろそろ帰ってくるの。今日は早く帰るって言ってたから」
その前に帰りたいのか駆け出そうとするみちる。と、爽やかな風が吹き付けて、みちるの体はゆっくり崩れた。魂鎮めの風だ。
「他に人はいないみたいですね」
「見回っておくよ」
みちるを受け止めたウルルの隣で結希が周囲を確認し、玉はクオリアと合流がてら様子を見に行く。みちるへ近付いた静菜は、体が冷えないようにとストールを掛けた。
ベヘリタスの孵化が避けられないなら、場所は自宅より公園の方が良いだろう。その為、みちるをこうして足止めしたのだ。
5分前まで待ってから、リュシールは犬の姿でみちるを起こす。
「あれ……?」
貧血かな、と苦笑するみちる。そんなみちるの真正面で、リュシールは犬変身を解いた。
「……ふえっ!?」
「えへへ……ごめんなさい、驚かせて。リュシールです」
目を疑うみちるだが、リュシールが名乗った事で更に目をぱちくりさせている。
「可愛がってくれて嬉しかったです」という言葉も届いているかどうか……とりあえず強烈な印象を与えたのは間違いないだろう。
そんな驚きが抜けきらないうちに、時計が午後6時を告げた。
瞬間、みちるの頭上の卵が割れ、ベヘリタスが現れる。自分から生まれたことには気付いていないだろうが、その姿を見て、みちるは悲鳴と共に驚愕する。
「大丈夫。お任せください」
「闇夜を照らせ、再生の光」
すぐさま静菜が声を掛けながらサンドシャッターを展開する一方、封印を解除したウルルが鎧に包まれた足で地を蹴り、すぐさまクルセイドスラッシュを繰り出した。
「クオリア!」
玉の声にクオリアは突撃すると、そのまま手筈通りみちるの前へ滑り込んだ。こっちへ、と促す声に何とか頷き、みちるは下がっていく。
「今は解らないでしょうけど……パパとの絆、絶対取り戻しますから。みちるさんが、本当は大好きなパパとの、絆」
そこなら安全ですから動かないでくださいね、とリュシールは告げ、決して彼女が巻き込まれないように位置取る。
箒で運ぶ必要は無さそうだと見た煌介は、一気に炎を宿した。
絆が消えるのは純粋に不思議だと思うし、シャドウにも多分色々な存在がいるのだろう。だが、むざむざと渡す訳にはいかない。これは――大切なもの、だから。
「行け、白砂月炎」
炎はベヘリタスを燃やし続ける。そこへ玉が突っ込んだ。
シャドウは玉にとって宿敵にあたる。だがそれ以上に、玉の脳裏に過去をちらつかせる存在だ。――あの時、嫌いだった父親との関係を、この手が終わらせたことを心からは悔やんでいない。それでも少しは苦いものがあったのだ。
(「私ですらそうだった。なら父親が大好きな彼女は――」)
それを本人が知らないうちに失ってしまうだなんて、きっと、良くないことだと思うから。
だからこそ玉は全力で叩きつける。間髪置かずに結希と御伽はエアシューズを履いた足を構え、みちるの絆を取り返すべく、次々とスターゲイザーを炸裂させた。
衝撃にベヘリタスの動きが鈍ったのを、へるは見逃さない。
「キミの大きすぎる力に色んな人が振り回される。大体、キミのやり方には可愛らしさが足りない!」
軽やかに地を蹴り、アクロバティックに跳んだへるの蹴りが急所へ叩き込まれる。
十分すぎる程の手応え。それは、みちるとの間に生まれた絆がベヘリタスに作用しているからに違いない。
「強大なダークネスの攻撃とは思えない威力だね」
ベヘリタスが発射した漆黒の弾丸が玉を襲うが、その威力もかなり弱まっているのだろう。耐えられないような一撃ではなかった。
「確かに……これなら」
鬼神変を繰り出した静菜も頷く。時間は僅かしかないが、勝算は十分にあるだろう。
「行きます!」
ウルルは闇色のオーラを拳へ集束させていく。
みちるの境遇は自分と少し似ていると、ウルルはそう感じていた。幼かったあの頃、みちるとは逆で母親との絆しか無かった、あの頃。……それを失った悲しみは、よく覚えている。だからこそ、
(「わたしが絶対、お父さんとの絆はなくさせません!」)
強い思いを込めて、ウルルは渾身の閃光百烈拳を打ち込む。
ベヘリタスを包囲し、その機動力を奪い続けながら灼滅者達は攻撃を繰り返す。受けた傷も、的確なタイミングでリュシールが癒しの矢を撃ち回復させていた。ベヘリタスが一度に特定の誰か一人だけにしか攻撃して来ない事も有利に働いていただろう。
ふと鳴り響いたアラームは、予め残り時間を計るため静菜がセットしておいた物だ。
「大丈夫、きっと間に合う……っ」
結希は逸る心を抑え、超弩級の一撃を繰り出しプレッシャーをかける。御伽は残り時間を考慮して威力重視の戦法に切り替え、縛霊撃を叩き込んだ。
「行くよクオリア。いつも通り、為すべき事を為す」
駆動音を唸らせクオリアが突撃していく。すかさずCode:Overflowを突き立て、玉はベヘリタスからエネルギーを吸い上げた。その脇で大きく燃え上がったのは煌介の炎。一気に、それを叩きつける。
「可愛いは正義。それを見せてあげるよ!」
咎人の大鎌を振りかざし、へるは可憐なステップで距離を詰めてウインクと共に断罪の刃を刻んだ。更に再び電子アラームが時を告げるが、
「ここまでの負傷度合いなら……」
いける。
後衛から戦況を見極めていたリュシールは地を蹴った。
「――絶対逃さない。パパとの絆、返してよッ!」
そのまま煌きと共に跳躍し、叩き込む。側面からは再度結希が放った戦艦斬りが直撃し、鈍い音と共にベヘリタスが上体のバランスを大きく崩す。
すかさず、御伽は光の刃を撃ち出した。
「みちるの絆、返してもらうぜ!」
その一撃がベヘリタスの芯を貫く。よろめいた体は悲鳴すら上げずに倒れこみ――ゆっくりと、ベヘリタスは消えていった。
「あ……」
同時に。後ろから、みちるの声がする。
「わ、たし……?」
目を見開くみちる。ベヘリタスの消滅と同時に『絆』が戻ったのだろう。
「なんで……?」
身の上に起こったこと、目の前で繰り広げられた光景。様々な事が混ざり合って困惑しているのだろう。リュシールと静菜は、それを取り除こうと語りかける。
「あいつが、あなたの大事なものを食べちゃってたんです。もう大丈夫」
「あんなに大きな影が欲しがるくらい、みちるさんがお父さんを想う心がとっても素敵だったのですね」
「それを、みんなが取り戻してくれた……?」
灼滅者達は頷き返す。混乱した様子ながらも状況を納得している風に見えるのは、煌介達がした不思議な演出もプラスに影響したのかもしれない。
「今だったら、どうだ?」
御伽は先程と同じように語りかける。さっきわからないと答えたみちるも、今なら、わかるはずだ。
「大丈夫、お父さんもきっとお前と同じ気持ちだぜ」
「……ねえ、お節介でしょうけど。パパは、あなたのパパじゃなくなったりしませんよ。皆が好きになり合って、皆でもっと幸せにだってなれるんです」
隣でリュシールも、少し悩んで口を開いた。
それはもうリュシールには、決して、手が届かないものでもある。凄く羨ましいですよ、と紡いだ言葉はリュシールの、心からのメッセージ。
「絆は変わるんじゃ無い。増えて繋がる、すよ」
そして煌介は、視線をさっき渡した紅水晶へと動かす。
「これは愛と癒しの石……他人も、自分も赦し、愛せるようにしてくれる素敵な石、すよ」
だから渡したのだと想いを込めて語る煌介の言葉に、みちるも視線を握り締めた紅水晶へ落とした。
「それでも悩んだり辛いことがあれば、いつでも相談に乗りますよ~」
「だってボクら友達でしょ?」
ウルルの呼びかけに、へるも笑う。そんな灼滅者達の気持ちに微笑を浮かべて「うん」とみちるは頷く。
そこへ、ふと公園の外から声が掛かった。
「みちる?」
「あ……パパ。お、かえりなさい……」
そういえば父親がもうじき帰ってくると、さっきみちるは言っていた。どうやら彼が父親らしい。
「友達かい?」
「うん。とても大事な友達なの」
みちるは父親に答えると、少し恥ずかしそうに灼滅者達を振り返った。
「どう言ったら、いいのか……ありがとう。それから、」
帰らなくちゃと呟いたみちるは「またね」と、心からの笑顔と共に手を振る。灼滅者達は、そんなみちるへ手を振り返した。彼女と父親が見えなくなるまで。
「みちるさん、お父さんとまた仲良くなれたらいいな。新しいお母さんとも……」
「そうだね」
「きっと、大丈夫ですよ」
「それに……」
手を下ろしながら呟く結希に、皆が次々と頷き返す。
――彼女に何かあったら、また手を差し伸べてあげればいい。こうして今日新たに生まれた『絆』もまた、確かなものなのだから。
灼滅者達は顔を見合わせると、誰からともなく、学園への帰り道を歩き出した。
作者:七海真砂 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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