「これが『学園祭』というものなのですね」
飾りつけされた武蔵坂学園を歩きながら、納薙・真珠(高校生ラグナロク・dn0140)は目を細めた。
生まれてからずっと『新宿迷宮』にいた真珠にとって、武蔵坂学園での生活は新鮮なことばかり。もちろん、学園祭だって目にするのは、はじめて。
たくさんの飾りつけがされて、大勢の人でにぎわう武蔵坂学園を歩くことは、とても楽しい。
「あ、でも、そろそろ頼まれたお仕事をしなければいけませんわ……」
嬉しそうに眺めていたおみやげを片付けて、真剣な表情になる真珠。
真珠の手元には今、クラブ企画『展示&体験学習』部門の人気投票結果がある。
みんなからの投票を集計した結果、上位になった企画を巡って、それぞれの企画についてレポートするというのが今回、真珠がお願いされたお仕事である。
「さっそく回ってみましょう。……楽しみです」
緊張感と嬉しさが入り混じり、とても真剣な顔をしつつ、真珠は歩き出した。
●第3位~
撫子荘名物、日本庭園と露天風呂で足湯とカキ氷
まるで宿のような雰囲気を醸し出している入口を、真珠はくぐった。
「いらっしゃいませ。下宿施設『撫子荘』のクラブ企画会場へようこそ御出で下さいました」
「こんにちは、失礼いたします」
にこやかに出迎えてくれるのは、部長の久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)。ぺこりとお辞儀を返してから、真珠は告げた。
「実は皆さんの企画が、今年の学園祭での人気投票で、第3位に選ばれました」
「本当ですか?」
「嬉しいですの!」
それを聞き、付近にいたスタッフ――撫子荘の住民達が歓声をあげる。
「第3位、おめでとうございます。それで、皆さんの企画をレポートするために、体験させていただきたいのですが……」
「もちろんです。ここでは、足湯に浸かりながらカキ氷を楽しむことが出来ますよ。まずはご注文をどうぞ」
「では……イチゴをお願いします」
10種類の中から、目をつぶって『えいっ』と選んだのは2つめのイチゴ味。
「かしこまりましたー。足湯会場の方へどぞー、カキゴーリは出来次第オトドケします」
受付票を書き込んだレナータ・レシェトニコヴァ (ルサールカ・d14779)に促されて、真珠は足湯のある会場へ向かった。
「これは、見事ですね……」
そこに広がっていたのは、まさしく『日本庭園』。美しい景観を楽しみながら足湯ができるようになっている。早速、周囲のお客さんの様子を真似して、足をつけると、
「程良い温度で気持ちがいいですね……」
熱すぎず、あたたかいと感じるお湯に、思わずほうっと息をつく真珠。
「いちご、上がりました」
「運びますね。おまちどうさまでした」
氷を削っていた天峰・結城 (全方位戦術師・d02939)の声に、殿ヶ谷・理彩 (白き拳の・d18691)が出来上がったカキ氷を取ると、そのまま真珠のところまで運んできてくれる。
「足湯で熱くなりすぎないように、のんびりカキ氷を食べつつ……これが風流というものでしょうか」
日本の文化とは、もしかしたらこういったことを言うのだろうか。真珠は景色を眺めながら少しずつカキ氷をつついて(途中「あぅっ」と小さく呻いたりしつつ)、足湯を堪能する。
「ごちそうさまでした。とても気持ちがよかったです」
「有難う御座います。あ、器の方、お預かりいたしますね」
空になった器をスピン・ジラルド (ブライニクル・d06949)に渡すと、真珠は撫子荘のメンバーに見送られつつ会場を後にした。
「ひんやりと美味しくて、あたたかくて気持ちのいい、『和』の時間を過ごせる企画でした……と」
●第2位~
簡単アクセ作り体験!サーヴァントアクセも作れるよ!
「ようこそ。こちらではアクセサリー作りを体験する事ができます」
次にやって来たのは、八坂・善四郎(戦い望む混沌銀狼・d12132)がそう呼びかけてくれる『シルバー・ウルフカオス』のアクセサリー作り体験だ。もともとシルバーや天然石で出来たアクセサリーを扱うお店を開いている彼らが、学園祭出張所と称して行っている企画である。
「お客様もいかがですか?」
「……アクセサリーとは、自分でも作れるものなのですね」
誘ってくれる善四郎達だが、そもそも真珠にとっては、まずそこが驚きだった。
「そうです。型に銀粘土をつめ、それを焼きつつ天然石で飾るだけだし、簡単っすよ」
丁寧に説明してくれる善四郎の言葉に、興味がわいて挑戦したくなってくる真珠だが、ハッと我に返ると、その前に大事なことを伝えに来たんです、と善四郎に本題を告げた。
「皆さんの企画が、今年の学園祭での人気投票で、第2位に選ばれたので、それをお伝えに来たんです」
「え、本当っすか!? た、たしかに、大勢の人でマジ盛況ですけどっ!」
目を丸くしながらも喜ぶシルバー・ウルフカオス一同の様子に「おめでとうございます」と祝福の言葉をかける。
「あの、それで良ければ、私も体験させていただきたいのですが……」
「もちろんです! どうぞー!」
真珠は中に入ると、体験コーナーの席に座った。まずは、どんなアクセサリーを作るか決めて、そのあとモチーフや使う天然石などを選んでいくらしい。
「どれにします?」
「……あ、お守りを」
リストを順に見ていった真珠は、最後に書かれていた『お守り』を選ぶ。
モチーフに選んだのは『四葉』。天然石も少し教わったことがあるけれど、あまり詳しくはないので、なんとなく直感で『グリーンファントムクォーツ』を選ぶ。
「四葉は葉の一枚ごとに意味があり、希望・幸福・愛情・健康の意味を持つと言われてるんです。グリーンファントムクォーツは、魂を成長させる効果があるらしいっすよ」
「そうなんですね。素敵なお守りになってくれそうです」
解説を聞いて微笑むと、一転して真剣な表情で真珠は銀粘土を取る。
慎重に、丁寧に。簡単と聞いていても、やはり初めての体験はドキドキしてしまうものだ。
「はい、完成です!」
仕上がったお守りを見せて貰った真珠は、達成感と喜びに思わず顔を輝かせた。
「ありがとうございます。こんなに素敵な物が出来上がるなんて、丁寧に教えてくださったお陰です。人気の高さは、ここにあるのでしょうね」
もう一度、ありがとうございますとおめでとうございますを告げて、真珠は次の企画へと向かった。
●審査員特別賞~
メイド・執事喫茶~月恋~
「あっ! お客様、よければメイド・執事喫茶はいかがですか~?」
歩いていた途中の真珠は、そう呼び止められた。
掲げられている看板は『メイド・執事喫茶~月恋~』。惜しくも3位までの入選は逃したものの、上位に入っていた企画の名前だと気付き、なんとなく興味を持って真珠は足を止める。
「ええと、メイドや執事というと、ご主人様や奥様やお嬢様などにお仕えするお仕事、ですよね」
それが喫茶とは一体どういうことでしょう? と首を傾げる真珠に、メイドさん姿の日暮・紫音(小学生魔法使い・d00520)が解説する。
「ここ『メイド・執事喫茶~月恋~』は、女子がメイドや執事になってご奉仕する喫茶店です。写真撮影や料理へのお絵かき、メイド・執事体験などもできますよっ」
ほら、と紫音が示した店内には、オーソドックスなメイド姿の咲々神・美乃里(ひつじ執事・d16503)や執事姿のフィルギア・アストレド(少年型少女・d08246)だけでなく、猫耳メイド姿の月夜・結奈(中学生ダンピール・d01212)や白兎の執事なミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)など、バリエーション豊富な執事とメイドになったメンバー達がいて、訪れているお客様のテーブルを回っている。
「そういえば、少しお腹が空きましたね……」
「そういうことなら、美味しいスイーツがたくさんあるよ」
顔を覗かせた月夜・結奈(中学生ダンピール・d01212)の言葉は、とても魅力的。
というわけで……。
「お帰りなさいませ、真珠お嬢様。ご案内いたします」
席に案内された真珠は、メニューを前にしばらく考え込むと、近くを歩いていた胡麻本・愛(ラジオっ娘・d11864)を呼び止める。
「チーズケーキと、冷たいミルクをお願いします」
「了解だよ、ちょっと待っててねぇ」
オーダーからしばらくして、運ばれてきたケーキに、真珠は早速フォークを伸ばした。
「美味しい……」
舌の上に広がる味に、思わず真珠の頬が緩む。美味しくてついつい手が動いてしまうくらいだ。
(「……そういえば、どこか好きな企画を特別賞に選んでいい、と言われていました」)
どこにしようか迷っていた真珠だったが、それならここを……と心に決め、こっそり店内の様子や料理の感想をメモしていく。もちろん、人気投票の結果が発表される時、審査員特別賞として企画を紹介するために。
●第1位~
着ぐるミステリー◆謎は着ぐるみと共に
ちょっとした緊張感と共に、真珠は第1位の企画の入口を訪れていた。
『着ぐるミステリー◆謎は着ぐるみと共に』。
そうタイトルの付いた推理アトラクションの中では、ヤマネコの着ぐるみや霊犬着ぐるみ姿でチャレンジする挑戦者たちの姿がちらほら見える。ネコミミメイド服姿だったり、普段の格好のままピコピコハンマーを構えている人もいるようだ。
頑張ってください、と心の中からエールを送りつつ真珠が向かったのはその隣。
アトラクションの隣には、カフェが併設されているのだ。
「あ、真珠さんだ」」
クロネコ着ぐるみ姿の部長、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)をはじめ、『文月探偵倶楽部』の面々や、謎解きに挑む合間にカフェで過ごしていたお客さんたちが、そこにはいた。
「2日目から霊犬着ぐるみルートが追加されたよー、遊んでいく?」
「あ、実は、今はちょっとお仕事で来たんです」
真珠は深呼吸をすると、そこにいた皆に告げた。
「おめでとうございます。この『着ぐるミステリー◆謎は着ぐるみと共に』が、学園祭の展示&体験学習部門の人気投票で、第1位に選ばれました」
「ほんとにー!?」
「すごいすごい!」
「やりましたね」
「ええ、頑張った甲斐がありましたわ」
ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)や垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)、山門・新 (ドレッドノート・d02429)、緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)など、カフェに顔を出していたメンバーが大喜びで立ち上がる。
居合わせた多くのお客さんからも、祝福の声が飛んだ。
「楽しかったからな、納得だ」
「着ぐるみも多くて楽しかったです」
「こうなると犯人に逃げられたのが本当に悔しい……もう1回挑戦してこようかな……!」
なんて言い残して、再挑戦に向かう人までいる。
「やりましたね、文月さん」
新城・七波 (藍弦の討ち手・d01815)は直哉を振り返っている。彼の元で『文月探偵倶楽部』のメンバーが役割分担をしながら作り上げた、4つのバラエティに富んだ推理コースが多くの人に支持されたからこその結果だからだ。
一部の脚本を書いた鈴木・レミ(データマイナー・d12371)も「やったっす!」と嬉しそうにうんうん頷いている。
「おめでとうございます。それじゃあ……」
そう告げて、そっと歩き出した真珠に文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が気付く。
「真珠? どこへ行くんだ?」
「あ、いえ、その……せっかくなので霊犬着ぐるみルートに挑戦しようかと……」
猫も可愛いですけど犬もいいですよね、なんて照れ隠しに微笑んで、真珠は残り僅かな学園祭を楽しむべく駆け出した。