●はじめのいっぽっ!
「今年も喫茶店日和だなっ! 今日はどんな喫茶店に出会えるのか、とっても楽しみだよ! なあ、ブラックタイガー号!」
車・小虎(小学生ご当地ヒーロー・d08114)は、賑やかな喫茶店を巡っている。
その手には、極秘と書かれた書類が一つ。
「今日はここを巡るのか。つぎつぎと巡っていたら、もしかすると運命の出会いがあったりして……こほんこほん。と、とにかく、まずはここに入ろう」
ぴっとブラックタイガー号を店先に止める。
「あ、ブラックタイガー号は、ここで留守番を頼むよ!」
ちょっとブラックタイガー号が寂しそうにしていたが、気にせず小虎はその店に入って行ったのであった。
●第3位
執事喫茶フィラルジアVS
ホーンテッドまたたび館!?
最初に小虎が入った店は、純潔のフィラルジア主催の『執事喫茶フィラルジア』。
「こ、これは……」
入ったとたん、ある意味混沌と化していた。いわばカオス。
【純潔戦隊フィラルジアン】のスペシャルヒーローショーをやってる側で、なかなかイケてる(?)変身ベルトが売っている。
入ってくる客は、何故か水着。どうやら、水着だと秘密の特製ドリンクが貰える模様(とはいっても、サービスを受けた者達が次々とうずくまっているのは、気のせいだろうか?)。
そんな中、出迎えてくれるのは、執事である……。
「ようこそ!執事喫茶フィラルジアへ!! 個性派執事がお嬢様&お坊ちゃまを全力投球おもてなし! 学園祭のひとときをお楽しみください」
部長の早鞍・清純(おっぱい執事・d01135)だ。その後ろで、十七夜・狭霧 (うさぎ執事・d00576)や遊城・律 (普通の執事・d03218)、片倉・純也 (可変執事・d16862)ら執事集団が華麗にお客をもてなしていた。
「こ、これは……いったい……」
「喫茶店ですよ、お嬢様?」
にっこりとメニュー表を携えて、清純は至極当然と答える。
こんな何でもアリな面が受けたのだろう。
小虎はメニューを見て、凍らせたフルーツを氷代わりにしたノンアルコールカクテルと、お嬢様のわがまま和菓子セットを頼む。ぺろりと小虎はそれらを平らげて。
「これは美味いっ!!」
小虎は、さてと頷き、部長の元へと向かう。
「おめでとう。執事喫茶フィラルジアが喫茶店巡り部門で、3位に選ばれたよ!」
「え? ほ、本当……ですか? お、お嬢様……!?」
小虎の申し出に部長は思わず、慌てふためいたのは言うまでもない。
次にブラックタイガー号に乗って、小虎が向かった場所は。
「おおう、これは見た目も楽しめるってやつだな!」
股旅館主催の『ホーンテッドまたたび館』。
部員達がお化けの格好をして、接客するという、一風変わった喫茶店だ。
「いらっしゃいませなのだー! ご飯にする? コスプレにする? それとも、りょ・う・ほ・う?」
猫又の格好をした獅之宮・くるり(猫又・d00583)がさっそくお出迎え。
「コスプレもできるのか……し、しかも血糊まで準備してある……」
「どれも無料で貸し出ししていますよ。ただし、学園祭期間中に限りますが。それと、スタッフに申していただければ、記念写真も撮影できますよ」
そう教えてくれたのは、スタッフの烏丸・奏(酒呑童子・d01500)。一緒に遊びに来ていた友人にいつもと雰囲気が違うと言われて、懸命に口止めしているのは、きっと気のせい。
「恐山入りまーす!」
その声を聞いた途端、スタッフ達の顔が変わった。そう、まるで注文した者に同情するかのような哀愁を漂わせて。
「恐山ってなん……!!」
小虎の言葉がそこで止まった。
「おまたせー、恐山いっちょー!」
沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)が持ってきたソレは……何とも恐ろしいものだった。
テーブルの上に置かれるは、30cmを越すであろう巨大なガラス製のパフェグラス。かつてこの山へ挑んだ猛者たちの苦痛や呻きが聞こえてくるかのように、遠慮なくテーブルへ重みを伝えている。中に積み重なるはコーンフレークの壁。飽きの来ない単調な味も、量が増せば脅威となる。その上をバニラアイスと生クリームが厚い雲のように覆う。冷気は体力を奪い、甘みが気力をみるみるウチに奪っていく。さらに詰まれるホイップクリームの山、溶岩のように流れるストロベリーソースとキャラメルソース。まるで霊峰かの如くそびえ立ち、入山者を立ち入る糸口を掴ませず、挑戦する意志を初手から潰しに掛かる。剣山かのような無数のチョコスティックは内に秘めた攻撃性を剥き出しに襲い掛かる。貴方は思うだろう、これは糖分で出来た凶器に他ならない、と。
「あ、えっと……おめでとう、ホーンテッドまたたび館が喫茶巡りで3位に選ばれたよ」
小虎は、そっちを見ないようにして、部長にそう告げたのだった。
●第2位
四季の気まぐれ亭
「できれば、この次は普通の喫茶店で会って欲しい……」
ブラックタイガー号に乗った小虎が思わず、そう呟く。
その願いを受けたのか否か。
そこは穏やかな空気に包まれた場所だった。
喫茶『Four Seasons』が主催の『四季の気まぐれ亭』だ。
美味しい具だくさんのスープやナポリタンや和風パスタなどの軽食、季節のフルーツをふんだんに使ったフルーツポンチや珍しいフルーツシロップが揃っているかき氷など、見た目の鮮やかだ。
「あんずのかき氷を一つ! あ、さくらんぼも」
さっと、一度、店の外に出て、ブラックタイガー号にもさくらんぼかき氷をおすそ分け。
何だかほんわかのんびり出来る場所のようだ。
「やぁ、小虎。いらっしゃい。これからガレット・デ・ロワを行うんだけど、どうかな?」
「ガレット・デ・ロワ?」
しゃりしゃりとかき氷を食べ終えて、小虎は七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)に誘われて、ちょこちょことやってくる。
待宵・沙雪(ちびっこアルテミス・d00861)が運んできたのは、大きめの美味しそうなパイ。
「この中に指輪や王冠などのマスコットが入ってるんだよ。当たった人は、ラッキーだね!」
「面白そうだな、あたしもやってみるぞっ!!」
さっそく沙雪から取り分けられたパイを貰って、ぱくぱくり。
「ん、何か入ってる……」
取り出したのは、指輪。
「恋愛運が良いみたいだね!」
「ほ、本当っ!?」
思わず貰った指輪を指にはめて喜ぶ小虎。
「も、もしかして……おっと、それよりもやることがあったっけ!」
小虎は自分の役目を思い出して、告げた。
「おめでとう! 四季の気まぐれ亭が喫茶巡り部門で2位に選ばれたよ!」
それを聞いて、部長の誰歌が嬉しそうに微笑んだ。
●ちょっとブレイク? 特別賞
【納涼喫茶】そうめんマウンテン
ご機嫌になったブラックタイガー号と共にやってきたのは、ひんやりとするイオン的な何かを感じた場所だった。そうここは、水各務神社「琥珀館」が主催する『【納涼喫茶】そうめんマウンテン』。
「ちょっとここらで休憩でもするか。もしかしたら、思いがけない出会いが……むふふ」
ひょいっとブラックタイガー号を寄せて、小虎はその店に入っていく。
「おお、流しそうめんなんて、なんて風……りゅうー!?」
店の3分の1を占める不思議な形の流しそうめんの前で、何人もの猛者達(灼滅者達)が倒れていたり、戦々恐々としている。
「ルールは簡単です。どちらかの箱を選んで頂いて、その中身をわたしは流すのみ。見事に美味しいめんを食したならば、えくすとりーむ流しそうめん界にその名を残すことになるでしょう。あと副賞として、クリア時点で店番をしているメンバーの中から誰かを指定して、そうめんをアーンで食べさせて貰える権と、お食事代無料権が授与されます。さぁ、覚悟はいいですか? わたしは出来てます」
日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)が最後の関門……らしき流しそうめんの側でそう告げていた。その様子に思わず小虎は息を飲む。
既に挑戦した小碓・八雲(リスクブレイカー・d01991)と外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)は、凍りついたかのようにばったりと倒れてしまっていた。
次に挑戦するのは、アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)。
「せっかくじゃから、妾はこの赤の箱を選ぶのじゃ」
選んだのは、正解の箱!
「まさか素麺一口で涙がでるとは……」
制覇1番を手に入れたアリシアの瞳には、その台詞通り、きらりと光った涙がこぼれ落ちていた。
「素晴らしいっ!! 良いものを見せてもらったよ!」
ずるずると普通のそうめんを啜りながら、小虎は決めた。
「この、【納涼喫茶】そうめんマウンテンを、特別賞として認めるっ!!」
高らかにそう宣言すると、周りにいた者達が一斉に歓声を上げたのだった。
●目指すは1位
水喫茶「むーみん」
店に入って、思わず小虎は凝視した。
そして、理解した。
ここが、水喫茶と言われる場所だということに。
地下にある特設プールに、これまた水着な店員達がお出迎えするという、ある意味素晴らしい場所……かもしれない場所だった。
そう、ここが地下秘密クラブ「夢兎眠」主催の『水喫茶「むーみん」』だ。
「いらっしゃいませ! 本日は水喫茶『むーみん』へお越しいただき、ありがとうございます☆ まずはこちらで受け付けをいたしますので、希望のスペースとお名前を教えてくださいね?」
カウンターの奥からやってきたのは、ここの部長、七里・奈々(淫魔ななりんすたぁ・d00267)だ。輝くような笑顔で出迎えてくれている。
「希望スペース?」
「はい、当店では、喫茶スペースとプールスペースがありまして、喫茶テーブルは4人とスタッフの5人でくつろげる様になっています。プールは、沢山の方と一緒に楽しめますよ」
そう説明するのは、もう一人の案内役、笙野・響(青闇薄刃・d05985)だ。
「なるほど……少人数での楽しみと大人数での楽しみを分けているのだな」
小虎はふむふむと人気の秘密を探っていく。
現に小分けされたテーブルには、会話が盛り上がっており、どのテーブルも楽しそうである。それもスタッフがしっかりとフォローしているお陰だろう。
そして、テーブルに入れなかったり、大人数と会話したいというお客は、プールで楽しんでもらっているという形だ。
こうすることにより、来てくれた者達に大いに楽しんでもらおうという工夫がなされている。それが、人気に繋がったのだろう。後、水着。意外とこれが目当ての客も……きっといるに違いない。たぶん。
「さてと、そろそろ行くか」
プールを一通り楽しんだ後、やっと一息つけた奈々に声をかけた。
「あら、小虎ちゃん。来てたのね。楽しかったかしら?」
「ああ、とっても楽しかったよ。それともう一つ、嬉しい知らせがあるんだ」
にこっと微笑んで、小虎は告げる。
「1位おめでとう! 水喫茶「むーみん」が喫茶巡りの1位だよ!」
その言葉に奈々は思わず、その場ではね飛んだのは言うまでもなく。
こうして、全ての報告を終え、小虎はゆっくりと喫茶店巡りの看板を後にする。
「お土産もいっぱいもらったし、学園祭、本当に楽しかったなぁ~。ねえ、ブラックタイガー号」
小虎の呼びかけにブラックタイガー号は、ぶるるんというエンジン音をふかして頷いたように見えた。