「これが武蔵坂学園の学園祭。とっても賑やかです」
企画やコンテストに参加する生徒達の姿に圧倒されながら、野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)はきょろきょろと辺りを見回した。
すれ違う生徒がにこやかに手を振ってくれる。
おっかなびっくり手を振り返し、迷宵は少しだけ安心したように微笑んだ。
賑やかで、楽しくて、この学園の皆は迷宵を除け者にはしない。
嬉しい気持ちを抱き、迷宵は手元の紙を何度も確かめた。
それは、クラブ企画『展示&体験学習』部門の人気投票結果だ。
「あ、3位が同点で2ヶ所もある。えっと、この場所に行って、レポートすればいいんですよね」
いったい、どんな所なんだろう? 自分にきちんとこの仕事は務まるのだろうか?
期待と不安を胸に、迷宵は目指す場所へと歩いていった。
●第3位~
光画部独自主催水着コンテスト&写真撮影
「光画部さん独自主催の、水着コンテスト、ですね」
迷宵は水着姿の生徒をきょろきょろと見ながら、足を進めた。
「あの、こんにちは」
沢山の参加者に囲まれている光画部部長、保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)の姿を見つけ声をかける。
「こんにちは! 光画部独自主催水着コンテストへようこそ」
巨大なマグロフロートを手にするまぐろが、元気良く振り向いた。
「えっと、実は、皆さんの企画が、学園祭の人気投票で第3位に選ばれました」
「本当?! 嬉しい」
「えっ、3位に入ったって!」
「やりましたね!」
それを聞きつけ、周囲にいた部員達も喜びの声を上げた。
「それで、私も、こちらのコンテストを、見せてください」
「どうぞどうぞ、こちらです」
受付エントリー作業をしていた日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)が、やってきて迷宵の手を引いた。
「もう100人を超えてるんだよっ」
墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)も、迷宵を案内するように先導する。
「えっと、100人以上、エントリーですか」
皆それぞれ、思い思いにアピールポイントがあり、眺めているだけで楽しい気持ちになれる。
自分が色々な衣装を着る時の高揚感を思い出し、迷宵の顔が自然とほころんだ。
「あ、いい笑顔ね」
パシリ、まぐろがカメラのフラッシュを光らせる。
「え、わわわ」
驚く迷宵に、まぐろが笑顔を見せた。
「このコンテストではね、上位に入賞すると部員が撮影した水着の写真を、額付でプレゼントすることになっているのよ」
「それは、とっても良い記念になりますね」
部員達の説明を聞きながら、迷宵はしばらく光画部の水着コンテストを見て回った。
「あの、今日はありがとうございました。みなさん素敵で……。とっても楽しかったです」
最後に1つぺこりと頭を下げ、迷宵は光画部を後にした。
●第3位~
撫子荘名物~日本庭園と足湯とランダムな食べ物~
宿のような建物の入り口から、そっと中の様子を伺う。
「いらっしゃいませ。下宿施設『撫子荘』のクラブ企画会場へようこそ御出で下さいました」
部長の久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)がにこやかに出迎えてくれた。
「あ、こんにちは。あの、失礼します」
1つ頭を下げ、促されるまま迷宵は会場の中に足を進める。
「実は、皆さんの企画が、学園祭の人気投票で3位に選ばれました」
「本当に?」
「去年に引き続きじゃないですか! 良かったですね」
スタッフとして働く部員達が喜びの声を上げる。
「その、それで、レポートしたいのですが、お邪魔しても大丈夫ですか?」
「どうぞ、いらっしゃいませ」
公庄・巫音(停滞の迷い刃・d19227)が迷宵の手を取る。
案内されたのは、日本庭園のような庭園を望める場所だった。
「それでは、失礼します」
長椅子にに腰掛け、足を湯に浸してみる。
「あ、気持ち良いかも」
ほっと1つ息を出し、ゆったりとした気持ちになった。自然とリラックス出来る気がする。
「いらっしゃいませ。デザートや飲み物はいかがですか?」
通路の水滴を拭き取っていた天峰・結城(全方位戦術師・d02939)が近づいてきた。
「わ、あの、ええとどうしようかな」
きょろきょろと周囲を見回す迷宵に、撫子が笑いかける。
「お茶もありますし、各種ジュースもお出しできますよ。今日はお天気も良いですし、ジェラートやゼリーなんかも人気ですね」
説明を聞きながら顔に手をやると、自分の頬がぽかぽかとしているのに気がついた。足元から温まってきたのだろう。
なるほど、冷たい飲み物やデザートがあれば、きっと美味しいと思う。
「それじゃあ、冷たいジュースを、いただけますか?」
「はい、どうぞ」
差し出されたコップを受け取り、飲んでみる。温まった身体には、とても気持ちが良かった。
迷宵は美味しいジュースを飲みながら、しばらくゆっくりとした時間をすごす。
温かくて、ひんやり冷たくて、とても心地の良い時間だった。
気づけば手元のコップが空になっている。
「ありがとうございました。あの、とっても気持ちよかったです」
「はい。こちらこそありがとうございました」
コップを部員に受け渡し、皆に見送られ足湯を後にした。
●第2位~
花の色付け実験~毛細管現象~
「ここが、屋上菜園ですか」
迷宵は様々な種類の植物を見ながら、菜園に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ、屋上菜園【万華境】へようこそ」
出迎えてくれたのは、部長の竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)だ。
「あの、花の色付け実験、ですよね」
「そうです。毛細管現象を利用して、実験を行っています」
赤、青、黄色から始まり、様々な色が用意されているようだ。
「それで、あの、こちらの企画が、学園祭の人気投票で2位に選ばれました。それを伝えに来たんです」
薔薇に、コスモス、アサガオ、カーネーション。様々な花を準備していた藍蘭が驚きの表情を浮かべる。
「ありがとうございます。そういえば、沢山の方に来ていただきました。良ければ、迷宵も花を作っていきますか?」
「は、はい。お願いします。体験に来たんです。どんな花が出来るのか、わくわく、ですね」
色を吸い上げ今までの色からガラリと雰囲気が変わる。
それは、様々な衣装を身に着け変わる自分と少し似ている。そんな気がした。
「どんな色が良いですか? 花は何にしましょう?」
「うーんと。どうしようかな。虹色……どんな花になるんでしょう? あ、あの、でも、ピンクのヒマワリでお願いします」
沢山の花びらがピンクに染まるのは、大好きなひらひらドレスの甘ロリファッションのような気がしたから。
「綺麗な花が出来るように、頑張ってくださいね」
かなり濃いピンクの水を、硬いつぼみに吸わせる。
どんな花になるのだろう。迷宵はヒマワリを眺め、目を細めた。
周囲では、赤いアサガオや青いコスモス、虹色の薔薇なども完成しているようだ。
しばらく、花が色水を吸う様を見ていた。
「調子はどうですか?」
再び藍蘭に声をかけられた時、迷宵の選んだコスモスはほんのりと色づいてきていた。
「は、はい。うっすらとピンクになってきましたよ」
やや興奮気味に、両のこぶしを握り締める。
「良かったです。お土産もあるんですよ」
「わ。ありがとうございます」
ハーブ入りのクッキーを受け取り、迷宵はヒマワリを両手で抱えた。
「とっても不思議です。花の色が変わるなんて。でも、でもとっても素敵。人気が出たのも分かる気がしました」
素敵な花をありがとうございます、と。
丁寧に礼を述べ、屋上菜園【万華境】を後にした。
●第1位~
着ぐるミステリー◆開かずの扉のその先へ
「ここが、着ぐるミステリー」
ごくり、喉を鳴らす。扉を巡って繰り広げられる、血生臭い四つの事件とは、いったい……?
緊張の面持ちで、迷宵は扉の前に立った。周囲には、学ラン姿のアルパカ着ぐるみや制服を着たもぐらの着ぐるみを身に纏い、企画に挑戦している生徒の姿が見える。
「呪い渦巻く旧校舎、開かずの扉の入口へようこそ!」
その時、クロネコの着ぐるみが近づいてきた。この目付きの悪いクロネコの着ぐるみこそ、部長の文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)なのである。
「俺達は今、旧校舎にある開かずの扉の謎に挑む名探偵を探してるんだ。もしミステリーに興味があるなら、どうかな、どうかな?」
着ぐるみのしっぽを楽しげに揺らし、妙に明るい感じで話しかけられた。
「えっと、あの、着ぐるみは着てみたいです。あ、じゃなくって、お仕事で来ました」
「と、言うと?」
「こちらの企画『着ぐるミステリー◆開かずの扉のその先へ』さんが、今年の学園祭人気投票、展示&体験学習部門で1位に選ばれました」
おめでとうございます。その言葉を言う前に、カフェに集まっていた着ぐるみ……いや、メンバー達が駆け寄ってきた。
「すごいじゃないですか!」
「もしかして、連覇ですか?!」
「大盛況だもんね☆」
新城・七波(藍弦の討ち手・d01815)や巽・空(白き龍・d00219)、ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が次々に声を上げる。なお、ビジュアルとしては怪獣、狼、ヒマワリの着ぐるみである。
他にも、部員や客が入り混じり、次々に祝福の言葉をかけた。
「ルートが次々開通するのが良かった!」
「いや、まさかあんな事になるとは」
「もう一度、別ルートやり直すかなー」
企画を体験した客達は、あれやこれと語り合う。捜索を終えてからのカフェでの語り合いもまた、この企画の醍醐味の1つなのだろう。
「よかったんだよー! もふもふだよー!」
今年初めてシナリオを書いたという垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)も満足げだ。
「おめでとうございます! あの、それで、あの」
「どうした? 迷宵」
もじもじと何かを言おうとする迷宵の顔を、直哉が覗き込んだ。
「わ、私もやっぱり、行ってみたいです。着ぐるみ、着たい……」
だって、着ぐるみとコスプレは、ちょっと似ているし。それに、皆とても楽しそうで、嬉しそう。
迷宵の言葉を聞いて、部員達が手を引き扉へ案内する。
おっかなびっくり扉をくぐり、迷宵は気に入った着ぐるみに身を包む。
そして……。
「ありがとうございました。とても、楽しかったです」
事件を解決し、元の姿に戻った迷宵は、無事に大役を果たしてた喜びと、学園祭でのたくさんの思い出を胸に、笑顔をこぼすのだった。