学園祭クラブ企画 結果発表!

    西園寺・アベル
    ●グルメ力ってグルメカって読めてしまうよね。
     西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)は、特製の泡立て器で空気を撹拌する事で、微弱な風を起こしつつ、グルメストリートを散策していた。
     微弱な風といえど、風は風。
     気持ちのよい盛夏の陽気を、少しだけ和らげてくれる。
     ちなみに、風を起こすコツは、繊細かつリズミカルな左手のスナップにある。
     闇雲に泡立て器を動かすだけでは、ただ疲れるだけで、風は起こらない。
     一流の料理人であるアベルだからこその技なのだろう。

    「やはり、武蔵坂学園は素晴らしいですね。まさか、ここまでのグルメ力を弾き出すとは。私の目には、グルメストリートで調理された数々の食材達が、至高の料理に昇華され、満足して消化されていく様子がまざまざと見えるのです」
     アベルは、武蔵坂のグルメ力に戦慄を感しつつも、グルメストリートの人気3位の店へに向けてゆっくりと歩みだした。何故なら、彼こそは、グルメストリート人気投票の結果を、上位のクラブへ伝えるメッセンジャーであったのだから……。

    ●第3位~たこ焼き屋『魚立早(うおたちはや)』
     アベルがまず足を向けたのは、たこ焼き屋『魚立早』である。
     本格的なたこ焼きを提供する『魚立早』は、学園祭にありがちな、罰ゲーム的なメニューもなければ、なにが提供されるかわからないギャンブル的な要素も無い。
     つまり、たこ焼きの味だけで、グルメストリートの上位入賞を果たしたというわけだ。
     ちなみに、魚立早という店名の由来は、鱆(たこ)の文字を3つに分解したものであり、一片一片は小さなたこかもしれないが、3たこで力を合わせれば大だこスダールにもなる……という教訓があったりなかったりするのだろう。
     その魚立早の暖簾をくぐると、
    「こんにちは。たこ焼き6こ、いただけますか?」
     アベルは、近接たこ焼き師の異名を持つ、店主のギィ・ラフィット(近接たこ焼き師・d01039) に声をかけた。
     店主のギィは気さくに、
    「はい、らっしゃーい。おっ、アベルさんっすね。また来てくれて嬉しいっす」
     と答えると、手慣れた手つきでアベルの為にたこ焼きを焼いてみせた。
     彼のたこ焼き師としての腕は熟練の域に達していたが、特に、絶妙な火加減での返しは素晴らしく、その技量は、彼の面倒見の良い性格の賜物であろうと思われた。
    「旨いたこ焼きを焼くコツはね、たこ焼きを恋人のように扱うことっすね」
     ギィの言葉に、アベルは大きく頷いた。
    「その通りです。料理こそ至上の愛、料理こそ恋人、料理こそ命なのです。そんなあなたにこそ、グルメストリート第三位入賞の栄誉が相応しい」
     アベルは剣型のピンが刺さったたこ焼きを受け取ると、店主のギィを賞賛した。
     賞賛、いや、大絶賛。
    「粉物の粉は本来は、あまり大きく自己を主張する事は無い。何故なら、自分たちが脇役であると知っているから。しかし、このたこ焼きの粉達は、魅惑の愛のハーモニーを奏で、食べろ食べろと私を誘惑するのです。そして、その中に隠されたタコは粉達の大いなる愛を受けて、まるで母なる海の底にいるように、くつろぎ、食べられる事を待っている。そう、これこそがたこ焼き、日本食文化の極みの一つなのです」
     ギィは、ちょっと引き気味に、だが、嬉しそうに頭を掻いた。
    「いや、嬉しいっすけど、ちょっと大げさっすね」
     明日等と凛を始めとした居合わせた店員達も、客達も、やはり、ちょっと引き気味であったが、喜びに顔を綻ばせる。
    「アベルさんありがとう」
    「とっても嬉しいです」
     そんな声に、アベルはゆっくりと首を横にふると、
    「いえ、私は何もしていません。全ては皆さんのグルメ力のなせる技なのです。あなた達ならば、このたこ焼きを更に磨き上げ、ゆくゆくは世界征服する可能でしょう。これからの皆さんの活躍、心からお祈りしていますよ」
     と、たこ焼き屋『魚立早』の今後の活躍を祈りつつ、席を立った。

     世界征服すら可能なたこ焼きを食べたい人は『魚立早』へ! 粉物の極みが、キミを待っているぞっ♪
     きっと。

    ●第2位~オリジナル迷宮カレーを作ろう!
    「深い地の底から、助けを求めるグルメ力を感じます。このグルメ力こそ、私が求める至高の料理の一つとなることでしょう」
     グルメストリートの一角で、まるで啓示を受けたように、アベルは足を止める。
     そして、足を踏み入れた迷宮にて、アベルは食材を集めるべく探索を開始した。

     アベルの探索1→宝箱を見つけた。
      宝箱の中身はマシュマロだった。
      アベルはマシュマロを手に入れた。
     アベルの探索2→ダークネスと遭遇!?
      アベルは勝てる筈が無かった。
      アベルの敗北。アベルは納豆を手に入れた。
     アベルの探索3→横浜中華街の肉まんマンに遭遇!
      アベルは豚肉を手に入れた。

     迷宮を抜けたアベルは、キッチンへと歩を進める。
     手に入れたのは、豚肉、マシュマロ、納豆であるが、アベルは余裕の笑みを深めていた。
    「これは良い食材を手に入れました。おそらく究極のカレーが完成することでしょう」
     その言葉の通り、アベルは『神々しい』までのカレーを完成させたのである。
     完成したカレーの名は『神々しい納豆ポークカレー、マシュマロ添え』。すなわち、マシュマロがカレーに溶けていく瞬間ごとに味が変化していく、時空神クロノスの祝福が詰まったカレーであった。
     そのカレーを一口食べたアベルは、感動的に泡立て器をシャカシャカと振ってみせた。
    「料理は一期一会。この店はそれをよく理解しています。そして、その真髄こそが、このカレーに含まれる膨大なグルメ力の正体なのでしょう。この迷宮よりいでし全てのカレーに、神の祝福をっ! このカレーこそ、グルメストリート人気投票第二位に相応しいと、ここに宣言しましょう」
     アベルの祝福を受けたオリジナルカレー達。
     だが、ちょっとどうかと思うカレーを手にしたお客様は、微妙な表情を浮かべる。更に、特強でまわる換気扇の音が、その微妙さに拍車をかけていた。
    「えっと、とりあえず、ありがとう? 本気を出した甲斐があったのだろう……か?」
     審査員のアベルが来たということで、併設の薬局から顔を出した若紫・莉那(とりあえずフルボッコ・d20550) は、少し驚いたようだが、
    「勿論ですも、この成果こそは、『K.H.D』の本懐と言えるでしょう」
     とのアベルの言葉で、破顔して、アベルの手を握った。
    「アベルも、迷宮カレーを楽しんでくれたんだね。嬉しいよ」
     莉那とアベルが手を握り合い、そして、アベルが莉那を褒め称えた事で、店員やお客達も、嬉しそうに微笑んだ。

    「この調子で来年は優勝だねっ」
    「来年も本気出すぞ!」
     来年も本気を出す場合、クラブ名は、R.H.D に変更になるのだろうか?
     それは、来年のお楽しみである。

    ●審査員特別賞~涅槃の安息
    「審査員特別賞……ですか」
     アベルは、思案げに腕を組みながらグルメストリートを徘徊する。
     この2日間、自分は、様々な店に顔を出し、それぞれのグルメを堪能してきた。
     審査員特別賞であるならば、その中から最も印象の良かったものを選ぶべきなのだろうか。
    「いいえ、それは違うでしょう。私は、私の主観に頼る事無く、グルメ力の導きに従うべきなのです。私が、食材の……料理の声を聞くことができるのは、まさに、この時の為であったのだから」
     アベルは、雲散を払った晴れやかな表情で、グルメストリートを歩む。
     アベル自身、何処に向かっているかを把握していなかったが、その歩みに一片の迷いもなかった。
     そして辿り着いたのは、人気投票第四位にして、審査員特別賞受賞、暑い時に涼むのにピッタリのデザート専門店、涅槃の安息であった。

    「なるほど、この店にはニルヴァーナの力を感じますね」
     店内に入ったアベルは、そのなんともいえない癒しの雰囲気に、肩の力を抜いた。
     店内からは、
    「へい、らっしゃー!」
     という威勢の良い声。声の主は、店主の外道・黒武(外神の憑代・d13527)であるようだった。
    「この店のグルメ力に惹かれて、やってきました。この店こそ、審査員特別賞に相応しい……間違い無いでしょう」
     その黒武に、アベルはそう言うと、手を差し出す。
     手を差し出された黒武は、大量のクーラーボックスに手を伸ばすと、シャーベットを取り出して、アベルに手渡した。
     アベルのダイス出目という運命は、シャーベットを指し示したらしい。
    「この、冷たいシャーベットは体に……いえ、魂に染み入りますね。ただ美味しいだけではありません。この店の雰囲気になじませてくれるような、そんな優しさまで感じます」
     アベルの真面目な感想に、黒武は少し照れたように礼を言った。
    「暑い日には冷たいデザートだ。この冷たいデザートで誰かが少しでも楽しい気分になってくれれば、それでいいんだよ」
     この世界は優しい世界では決して無い。しかし、だからこそ、人は人の為に何かをしてあげたいと感じるものだ。
     もし、世界が優しすぎれば、人は他人を思いやる気持ちを無くしてしまう事だろう……。
     アベルは黒武の優しい心に、心から同意するのだった。
    「あなたの優しい心が、この店の周囲に安らぎを与えていたのですね。だから、こんなにも寛げる空間になったのです。まさに、涅槃の心持ちです」
     アベルは、そう言うと、黒武と、そして、店内で寛ぐお客達と共に、シャーベットを堪能すると、もう一度審査員特別賞の祝福を言うと、席を立ったのだった。

     残るは、人気投票1位を残すのみ。
     今年の優勝は、果たして……っ!
     多くの人々の期待と共に、アベルはグルメストリートの中央へと向かったのだった。

    ●第1位 鉄板焼き『もふリート』
    「やはり……再び、ここに来る事になりましたね」
     アベルは、グルメストリートの中でも最も喧騒を誇る鉄板焼き『もふリート』の前へとやってきていた。
     そう、こここそが、今年のグルメストリート1位のお店であったのだ。
     鉄板焼き『もふリート』は、2013年度グルメストリート1位の栄冠を獲得した老舗鉄板焼き店でもある。
     つまり、栄枯盛衰の激しいグルメ業界に燦然と輝く偉業を成し遂げたといって間違い無いだろう。
    (余談だが、北海道平岸界隈では、新しく出店した店の半分が3年位内に潰れて消えていくくらいらしい)

    「全く、見事なものです」
     そう言いつつ、店内に入ったアベルを出迎えたのは、
    「よぉ、やっぱり来てくれたな」
     店長の炎導・淼(真っ赤なビッグバード・d04945)の、にかっと輝く笑顔であった。

     『もふリート』の店内は、相変わらずイフリートへの愛に溢れていた。
     直径5cmのミニイフリート人形焼は可愛く。
     名物料理の直系50cmのイフリート焼きには、大物の風格がある。
     なにより、店長と店員とお客達からほとばしる愛のエナジーが、グルメ力を格段に引き上げていたのだ。
    「ほら、ミニイフリート人形焼きとこおリートだ。さすがに1日2枚はイフリート焼きは無理だろう」
     淼の気遣いと共に、ミニイフリート人形焼きとドリンクを受け取ったアベルは、カスタードクリームとライム風味のオレンジジュースに舌鼓をうつと、早速、今回の再訪の目的を話すことにした。
    「こういう時はドラムロールなどがあると良いのですが、生憎、不調法なもので……。代わりに、こちらで雰囲気を出しましょう」
     そう言うと、アベルは懐から泡立て器を取り出すと、目にも留まらぬ速度で動かし始める。
     すると、なんということだろう、泡立て器がドラムロールのように音をかき鳴らしたのだ。

     シャカシャカシャカシャカ……ジャカ!!!!

    「おめでとうございます。グルメストリート人気投票1位は、鉄板焼き『もふリート』となりました。皆さんの、料理とイフリートへの愛が、この偉大なるグルメ力を導いたのでしょう。本当に、おめでとうございます」
     感極まったようなアベルの言葉に、淼は得意気に鼻をすする。
    「へっ、もふリートは最高だぜっ! 優勝なんて当然じゃん」
     親指を立てて勝利を宣言する淼に、その場にいた店員とお客達が惜しみない拍手を送る。
     そして、優勝を祝して、イフリート焼きを注文したのだった。
     さっそく、イフリート焼き制作に入る、淼達。
     閉店間際だった、もふリートは、一気にランチタイムのような活況となったのだった。
     そんな中アベルは、
    「……私にも、一枚もらえるでしょうか。限定品を一人で2枚食べるというのは気が引けますが、ここで食べなければ、来年まで食べる事はできないと思うと……」
     と、イフリート焼きをもう一枚頼むのだった。
    「おぅ、もちろんOKだ。いくらでも焼くぞっ!」
    「おぉーーー!」
     そうして、イフリート焼きを手に入れたアベルは、頭から少しだけかぶりついて、焼きたての味を堪能する……。
     そして、
    「残りは、今日の夕御飯にするとしましょう。どんなアレンジをするか、今から腕がなりますね」
     と、嬉しそうに帰っていったのだった。

     こうして、2014年度グルメストリートは盛況のうちに幕を閉じた。

     余談であるが、本日のアベルさんちの晩御飯は、イフリート焼き麻婆、四川風味やイフリート焼き餃子など、中華風アレンジ4品であったそうな。
    「来年は、ロシア料理風イフリート焼きも試してみたいですね」(byアベル)