学園祭クラブ企画 結果発表!

    淫魔アイドル『ラブリンスター』
    ●ラブリンスターの学園祭突撃レポート
    「皆さん、こんにちは!
     歌って踊ってエッチもできるスーパー淫魔アイドル・ラブリンスターです♪」
     くるりと回って、ラブリンスターはポーズを取った。
    「今日は武蔵坂学園さんの学園祭にお邪魔していまーす! 去年と同じくライブ&ゲーム部門の投票結果発表を担当しますね。それでは、さっそくいってみましょう!」

    ●第3位~Le jardin secret
     フランス語で秘密の花園を意味するクラブ『Le jardin secret』。
     普段は男子禁制のこのクラブは、学園祭期間中だけ、その制限を解かれるのだ。
    「せっかく可愛い子が多いのに、男の子と会えないって勿体なくないです? それはともかく、【花園迷宮】が3位入賞です! おめでとうございます!」
     入口に立つ部長の黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)にラブリンスターが入賞を伝える。
     りんごは慎ましげに微笑した。
    「ありがとうございます」
    「それじゃ部長さん、早速この企画について紹介してもらえますか?」
    「はい、この迷宮の中には、【花園】の部員たちが大勢、挑戦者の来訪をお待ちしています。迷宮の要所要所の別れ道にて、挑戦者の皆さんに様々な質問、選択肢を提示しています。それに回答する事で次の道を選び、迷宮を進んでくださいね」
     迷宮内には多くの部員がいるが、一度の挑戦で会える人数には限りがある。
     最大で10人に会えるのだが、実際に会えた挑戦者は1人しかいないらしい。
    「では、さっそく私も、【花園迷宮】に挑戦してみたいと思いまーす!」

     ラブリンスターは意気揚々と【花園迷宮】に挑んでいく。
     正面に進んだところにいた香祭・悠花(ファルセット・d01386)の霊犬コセイをもふもふし、次いで悠花本人の胸を合法的に探ろうとしていたラブリンスターは、気がつくと小さなステージの前に辿り着いていた。
    「ふむふむ、どうやらここは、ライブ会場みたいですね!」
     わくわくしながらラブリンスターが待つと、やがて始まるのは青江・みかん(中学生神薙使い・d22762)によるライブだ。
     観客達が思いのままに全力で温州ミカンを投げ合うという、どこかの奇祭のようなライブをきゃーきゃー言いながら楽しんでいたラブリンスターを、ステージ上からみかんが手招きする。
    「みんなぁ♪ ありがとう~♪ 今日はぁ、スペシャルゲストがいるのぉ♪ ほら、あなた~♪ ……ってえっ」
    「はーい、それじゃいっきますよー」
    「えっ、えっ?」
     ステージに上がって来るラブリンスターに驚いたような顔をしているみかんをさておいて、ラブリンスターはステージに上がった。
    「それじゃぁ、折角お招きに預かりましたから、今日はここだけの曲を披露しますね!」
     そして流れて来るのはドイツ国歌をモチーフとした、アイドルポップにロボットアニメのオープニングらしさを混ぜた、どこか勇ましいメロディーだ。

    【合体ロボ・ブレーメン5!】
     作詞・作曲:アスタリスク

     ガンガンガガン ねこさん
     ガンガンガガン いぬさん
     ガンガンガガン ろばさん
     にわとりシャキーンで、ブレーメン5!
     みぎてにねこさん ひだりていぬさん
     ろばさんに乗って にわとりかぶれば
     てんかむてきのひっさつわざだ「ゲルマンビーーーム」!
     「ねぇ、にわとりだけ呼び捨てじゃない?」
     むてきのちからはさいきょうだ なんてったってゲルマンなのーさー!
     たたかえ 最強鋼鉄無敵合体ロボ ブレーメン5!

    「な、なんだか、いつもと全然違う雰囲気の曲だねぇ?」
     戸惑い気味のみかんに、ラブリンスターは朗らかに言った。
    「タイアップの予定だったんですけど、版権元が死んじゃって……」
     会場ドン引きの発言をするラブリンスター。
     ゲルマン戦闘員やゲルマン怪人向けにCDが大量に売れるチャンスだったのだが。
     CDの初回特典になるはずだった超合金ブレーメン5フィギュアの金型代も未納である。
     やはりタイアップは怖い。
    「まあ、全然無敵じゃなかったみたいですから、しょうがないですね♪」

    ●第2位~放課後創作部
    「でってって、てってってて、ててててってれっててれて♪」
    「これ流れてんの?」
    「後夜祭があると明日が……」
    「ロスタイムってことで」

     ラブリンスターが訪れる直前まで行われていた生放送のブースでは、部長をはじめとする面々が放送を切らないままに雑談をしていた。
     彼らがスイッチを切るのを見計らい、ラブリンスターはブースに飛び込む。
    「こんにちはー!」
    「おっ……ラブリンスター!」
     来栖・清和(武蔵野のご当地ヒーロー・d00627)はラブリンスターの姿を見ると、椅子から飛び上がり、彼女をブースに迎え入れる。
     ラブリンスターがハンディマイクを清和に向けた。
    「改めてご紹介しまーす。今回第2位に輝きました、放課後創作部【生放送ぼいらじ!学園祭SP2014】、部長の来栖・清和さんでーす♪ 来栖さん、一言お願いします」
    「こんにちは、部長の来栖です! 投票いただいた皆さん、ありがとうございました!」
     清和は自然な様子でそう挨拶する。この手の収録には当然ながら慣れたものだ。
    「昨年の1位には惜しくも届きませんでしたが、今年も2位というのは流石の貫録ですねー。ちなみに去年より得票数は上みたいですよ」
    「え、マジで!?」
     昨年の放課後創作部は、トラブルのために1日目だけで放送が終了してしまっている。
     2日目も夕方まで放送していた今回の方が得票数が増えるのは当然なのだろう。

    「今年は昨年行っていたようなクラブ企画や水着の紹介に加えて、武蔵野散策なども行っていたんですね!」
    「俺のご当地であり、みんなが普段過ごしている武蔵野のご当地情報を紹介することで、新たな発見があるかも知れないからな」
    「ガイアチャージの参考にもなるぞ」
     しみじみという武蔵野散策担当、伏見・武(暖色戦士オーミヤイザー・d00144)。
     彼は埼玉県さいたま市大宮区のご当地ヒーローである。
    「そんな、ためになる過去の放送も確認できますからねー。それでは長丁場の放送、お疲れ様でした! 夜の放送も頑張ってくださいねー♪」
     部員達に挨拶をして、ラブリンスターはブースを後にする。

    ●審査員特別賞~駅番
    「これはなんだか私を呼んでいるような気がしますね♪」
     そうラブリンスターが目をつけた企画には、【KJJ48総選挙】と書かれていた。
    ■KJJ48ってナニ?
    吉祥寺をより盛り上げるべく、駅番がプロデュースし発足した女性アイドルグループ。女性アイドルグループ。大事な事なので2回。
     ラブリンスターは寡聞にして知らなかったが、3回も総選挙をやるとはなかなかのご当地アイドルに違いない。
     どうやら名簿を見るに、本当に48人いるらしい。
    「六六六人いるんだかいないんだか分からないHKT六六六辺りとはアイドルグループとしての格が違いますね」
     なお、HKT六六六はアイドルグループではない。

    「それにしても、あからさまに男性名混じってますけど、これ女の子の名前だとすると芸名なんですかね。過去の総理大臣の名前とか……」
    「その辺りをそれ以上追及しないでくれ」
     危険な発言を聞き付けて現れたのは梅澤・大文字(枷鎖の番長・d02284)である。
     司会に投票の集計にと駆けずり回っていた彼は、今日は休養を取っていたようだ。
     獲得票数1位でセンターを勝ち取った前田・上様(好きな飲み物は抹茶ココア・d13272)や部長でもある2位の梅澤・梅澤(おっぱいが黄金色の梅澤・d13269)をはじめとしたメンバーがラジオ放送を行っているブースからは、元気な声が聞こえて来る。
    「……なんだか前田さん、いきなり淡路島にいったとか聞こえてくるんですけど、今日学園にいなくていいんですか?」
    「アイドルってのは忙しいものだからな」
     吉祥寺駅発というだけでご当地アイドルではないのかも知れない。
    「ところで部長さんが6位にいるみたいですけど、実は女の子とかいうギャップ萌えアイドル路線ですか?」
    「これはおれじゃない、おれじゃないんだー!!」
     絶叫する大文字。
     きっとプロデューサー業も兼ねているので大変なのだろうとラブリンスターはほのぼのと彼を見守る。ラブリンスターのプロデューサーもいつも大変そうにしているし。
     ラジオブースから水城・悪魔(お風呂場でほのぼの・d19703)の奇声が響く中、ラブリンスターは会場を後にするのだった。

    ●第1位~MM出張所
     ラブリンスターが最後に訪れたのは、クラブ『MM出張所』の会場だった。
    「ラブリンスター! ということは……」
     部長の一恋・知恵(鏡の国のチェシャ・d25080)が、ラブリンスターを目にして期待を抱いた様子で立ち上がる。
     ラブリンスターは、彼女にハンディマイクを向ける。
    「はい、こちらの企画、【MM出張所PRESENTS 不可思議な国のアリス達】がライブ&ゲーム部門の1位を獲得しましたー! 得票数も全部門中トップ! 文句なしの一位です!」
     発表を聞き付け、居合わせた部員や客から次々と拍手が起こる。
    「す、すごい人数ですね……」
     圧倒されたようにラブリンスターは目を瞬かせた。
    「とりあえず劇を見て感想をどうぞ」
     そう言って、知恵はラブリンスターをモニターの前へと案内する。

    「流石に大人数で行う演劇だけあって、力入ってましたね~」
     劇を一通り見て来たラブリンスターがしみじみと感想を述べる。
     MM出張所が演じた三編の劇は、いわゆるルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を元として、いずれも異なる大胆なアレンジを加えたものとなっていた。
     演劇練習用の場などもわざわざ学園に申請して用意していたりと、凄まじい力の入れ具合と言えるだろう。

     もっとも、だからといって順風満帆に劇が進んでいたわけでないというのは、ラブリンスターにも見て取れた。
    「二十分前にエンディングが完成したり、劇本番に入ってから台本削り始めたり……」
    「やっぱり、アドリブ大事ですよねー」
     遠い目をする知恵に、知った風なことを言うラブリンスター。
     知恵やアンリ・シャノワーヌ(微睡みの中の眠りネズミ・d25247)といった脚本を担当した者、昼の部のリーダーを務めた堺・丁(ニサンザイの守護者・d25126)の努力は、ひとかたならぬものがあっただろう。
     各々の役を演じている部員たちは、協力して一つの演劇を創り上げるという楽しみを味わっているように、ラブリンスターは見ていた。
     生物学的な欲求とは別に、人間が何を楽しみ快いと感じるか。
     そうした点は、淫魔アイドルである彼女にとって重要なことだ。
    「ライブとかもそうですけど、やっぱり参加して協力して何かをするっていうのは、良いものですよね!」
     うんうんと知ったかぶって言うラブリンスターに、知恵は問う。
    「ちなみに、ラブリンスターは誰の演技が気に入った?」
    「えーっと、そうですね。主演の皆さんはみんなお見事でした。あとはそうですねぇ、昼の部の王様と、午後の部のカカシさんと、夜の部の劇のハンプティ・ダンプティ役の子が良かったですね。雷に撃たれるのとかここは俺に任せて先に行け!とか頭ゴンゴンぶつけるのとか素敵でしたよ!」
    「え、そこ……?」
     間・棒人(スティックマン・d28532)、井上・あるは(ハンプティダンプティ・d25216)は複雑そうな表情を浮かべた。
    「そこを褒められたのと一緒に並べられると何か不思議な……」
     首を傾げる望月・一夜(心無いブリキのスキッダト・d25084)。
     どの演技にもラブリンスターの琴線に触れるものがあったようだが、淫魔の審美眼はよく分からない。
    「今度やる時はブレーメンの音楽隊も混ぜて下さいね。主題歌すぐにつけられますから♪」
    「いや、流石に続けて同じ題材はやらないと思うし」
     余所のタイアップ曲を流用しようとするラブリンスターの野望は、こうして阻まれるのであった。

    ●収録を終えて……
     星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)は、数カ月前より意志を決めていた。
     ラブリンスターと再び接触したら、武蔵坂学園との協力関係を深くして欲しい。そう考えていたのだ。ライブ&ゲーム部門で盛り上がる会場の中で、彼女は意を決して、ラブリンスターにその話を持ちかけてみた。

     ラブリンスターは口元に手をあてて、少し考え込んだ後。話し始めた。
    「今年の学園祭も、ほんとうにステキでした。
     みんなキラキラしていて、楽しそうで、夢と活気に溢れていて!
     この光景は、まさにアイドルとして私がみんなに与えたい光景と同じです。
     ……私にとっては、壊れてほしくない、夢のような光景なんです」
     愛おしいような、悲しいような表情を一瞬見せるが、ラブリンスターはすぐその表情を隠し、いつもどおりの笑みを浮かべた。

    「たしかに、みなさんは【まだ闇堕ちしていない】という、最後の切り札を残しています」
    「えっ、ええっ……」
     突然とんでもない事を言い出したラブリンスターに、面食らうえりな。
    「言うまでもないでしょう? サイキックアブソーバーによって生まれた隙間とはいえ、これだけの灼滅者が一同に介したのです。この戦闘力と統率力のまま、全員が一度に闇堕ちし、しかも絶対に死なない『蒼の王コルベイン』を灼滅したという皆さんの切り札(私はそれが何か知りませんけど)を使用すれば、武蔵坂学園は恐るべき戦力になることでしょう。
    ……でも」
     さらに、ラブリンスターは言葉を続ける。
    「おそらく、それは最後の手段。皆さんのダークネス種族はバラバラです。皆さんが闇堕ちした後に、武蔵坂学園が組織としての体を残していけるとは、私には思えません……。そうすると、この楽しい学園祭を、私はもう見ることができなくなってしまいます。
     そんなのは、嫌です!」

     そして、えりなの両手をガッと掴む。

    「もし、鞍馬天狗さんが現在進めている作戦が成功すれば、皆さんの命はありません。
     だから、もし鞍馬天狗の作戦が成功して、爵位級吸血鬼達の思惑が現実のものとなったなら……一度だけ、わたしは、わたしの全軍で皆さんを助けます!
     わたし達が戦いに介入すれば、どこかに皆さんの生き残る道があるかもしれません。
     だから、一度だけ、わたし達も命を賭けます……!」

     鞍馬天狗、爵位級吸血鬼!?
     突然飛び出した不穏なキーワードについて詳細を聞こうとしたえりなをよそに、何らかの決意をしたような表情をしたラブリンスターは、手を振って去っていくのだった……。