軍艦島攻略戦 ファーストアタック

    祟部・彦麻呂VS 黒い語り部

    ●軍艦島攻略戦

     早朝。長崎半島の沖合を、波を蹴立てて何隻もの船が進んでいく。
     それぞれの船に乗るのは、多数の灼滅者だ。
     進行方向にあるのは、まるで軍艦のようなシルエットを持つ孤島だった。

     長崎県長崎市端島は、その形から通称『軍艦島』と呼ばれる。
     明治から昭和にかけて、海底炭鉱によって繁栄した軍艦島は、昭和49年の閉山に伴ってその役目を終え、人の住まない無人島となった。
     現在では近代化遺産として観光地化も進んでいるが、廃墟と化した建物の老朽化は激しく、観光客が入ることが出来るのは島の一部のみだ。

     だが、そうした表向きの顔とは全く別に、この軍艦島が九州に数々の事件を起こしている刺青羅刹「うずめ様」の拠点と化していることは、武蔵坂学園の灼滅者が行ったHKT六六六への潜入調査によっても確かめられていた。
     「うずめ様」と呼ばれる女性羅刹は、刺青を奪うことで力を増す『刺青羅刹』の中でも、特に奇妙な一人として武蔵坂学園の灼滅者達にも知られている。
     配下の『彫師』と呼ばれる羅刹を使って兵士のように統率された強化一般人達を量産したり、灼滅者達の動向を察知してHKT六六六を事件現場に送り込んだりといった独自の能力は、他の刺青羅刹にも見られないものだ。

     そして現在、軍艦島には彼女によって支配された灼滅者組織「七不思議使い」が捕らわれている。
     闇堕ちさせられ、ダークネス「タタリガミ」となった彼らは、九州で次々と都市伝説事件を起こしていた。
     潜入調査にも協力してくれた淫魔ラブリンスターからの情報によって、「七不思議使い」の存在を知った武蔵坂学園は、九州各地の学校に現れた20体ほどのタタリガミを七不思議使いに戻し、助け出すことに成功した。
     だが、彼らの情報から、軍艦島にはいまだ多くの七不思議使いが残されており、捕らわれていることが判明。
     同じ灼滅者としての運命を背負う彼らを助け出すことは、今回の「軍艦島攻略戦」における最大の目的だった。

     やがて船は島唯一の桟橋、ドルフィン桟橋へと辿り着く。大人数が一度に乗り降りするには、はっきり言ってしまえば適していない場所だが、灼滅者達の常人をかけ離れた身体能力は、わざわざ桟橋を使わずとも直接岸壁へ飛び乗ることすら容易に可能とする。
    「救護拠点は今のところ船内に維持。貯炭場制圧次第、船外に移すぞ!」
     4D椿の平・和守 (用意周到動脈硬化・d31867)はそう確認すると、侵攻開始地点の確保にかかる。
    「それじゃ、こっちも急ごう!」
     そう言いながら軍艦島に降り立った祟部・彦麻呂 (誰が為に鐘は鳴る・d14003)は、ふと何かを感じ、先を向かう方角へと突きつけた。
    「キリング、リヴァイヴァーっ!!」
     その宣言と共に、光の柱が空から降り注ぐ!
     ラグナロクが体内に秘めた膨大なサイキックエナジーを吸収した時、サイキックアブソーバーに装填される武蔵坂学園の切り札、「殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー)」。
     広がる光は灼滅者達に、激戦を乗り切るための力を与えていく。
     ドルフィン桟橋から島内に侵入した灼滅者達は、即座に島の北部を目指し突撃する。
     9つの組連合のうち、7つまでを動員しての大規模な奇襲攻撃は、軍艦島内のダークネス達に混乱を与えようとしていた。

    ●奇襲攻撃

    「さっさと出て来なさい! もうライブは始まっていますよ!」
     HKT六六六のTシャツを模した、黄色いシャツを着込んだ7G蘭の丹下・小次郎 (神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)達が、廃墟ライブ会場へと侵攻していく。
     かつて何万という人々が生活していた入り組んだ団地は廃墟と化して老朽化し、灼滅者達の優れた観察力をもってしても、敵に隠れられれば発見は容易とはいかない。
     敵の混乱を招くべく、建物への攻撃を加え始める侵入した灼滅者達の頭上に、うずめ配下の強化一般人達が銃弾の雨を浴びせかける。
     それを建物に飛び込んで回避すると、中から飛び出してくるのは六六六人衆だ。
     団地の地上部を中心として、突入する灼滅者と迎撃するHKT六六六とがぶつかりあう。

     一方、アフリカの植物が生い茂るグラウンドでは、3C桜の灼滅者達がアフリカンご当地怪人達への奇襲攻撃を仕掛けていた。
     グラウンドに隣接した小中学校から、ダークネス達へとサイキックが降り注ぐ。
     首をすくめながらバオバブの樹の下へと逃れたキリン怪人が、こわごわとした様子で首を左右に向ける。
    「ひぇっ……灼滅者の奇襲があるかも知れないとは聞いてマーシタが、朝っぱらから来るなんて聞いてないデスキリーン!」
    「御愁傷様!」
     声と共に駆けこんで来た石見・鈴莉 (偽陽の炎・d18988)が、キリン明太子怪人が伸ばした首を蹴り飛ばす。
    「キリキリマイ!?」
     樹にぶち当たったキリン怪人は、後続の灼滅者達によって完全に灼滅された。
    「こっちは優勢……前にロシアン村で戦った時よりは強くなってるみたいだけど、そこまで強さは変わっていないみたいだね」
     ご当地怪人達は奇襲を予期していなかった様子で、与えるダメージは順調に拡大している。
     もっとも前回の武神大戦獄魔覇獄から十分に時間が経過しているとはいえず、殲術再生弾の力も十全とは言い難い。
    「『うずめ様』の予知も完全じゃないのかな。とはいえ、油断は禁物だろうけど」

     3C桜と7G蘭の両組連合が戦う間に、他の組連合はさらに先へと進んでいく。
     地下大坑道の内部はダークネス達の手によって、まるで地下都市のように改造されていた。
     九州の各地方の風物がごった煮になったような状況になっているのは、おそらくアフリカンご当地怪人達の影響によるものであろう。
     数多くの勢力が集まっている軍艦島だが、統制が取れているのは『うずめ様』直属の羅刹達だけのようだ。
    「なるべく倒してはいるが……奇襲の情報を完全に封鎖するってわけにはいかねぇな」
     強化一般人が持っていた通信機を破壊しながら、狩家・利戈(無領無民の王・d15666)はそう考える。
     ダークネス達の中でも、うずめ配下は目に見えて態勢を立て直すのが早い。
     うずめの予知に対する信頼性の差が表れているのだろう。
     同じようにHKT六六六も予知の正しさは知っているはずだが、統率もろくに取る気もなさそうな六六六人衆なのでよく分からない。
     かつて、『彫師屋敷』と呼ばれた敵拠点でもそうであったが、軍隊めいた規律はうずめ勢力にとっての大きな力なのだ。
     その結果として、灼滅者達が奇襲攻撃を行うにあたり、ほぼ一本道とも言える大坑道と、その先に設けられた地底拠点は、深層部の奇襲を行おうとする組連合にとっての厄介の種となっていた。
     慌てて出て来た定礎怪人達を捨て石に、うずめの軍勢は確実にこちらを削りに来ているのだ。
    「道は俺達が開けといてやる、早いところ行って来い!」
     利戈の繰り出した拳が、定礎怪人達の一体の頭部の定礎石を打ち砕く。

     先を急ぐ者達は、異様に長い坑道をライドキャリバーなども動員し、全速力で駆け抜けていった。
    「敵はここの守りを固めるだけで、深入りした灼滅者達を簡単に孤立させることが出来てしまう……なるべく時間は稼ぐ。先のことは任せたよ」
     WOKシールド『不死贄(ふしにえ)』を展開し、羅刹の攻撃を受け止めるクレンド・シュヴァリエ (サクリファイスシールド・d32295)の言葉に見送られ、さらに先を目指す組連合は、地下深くへと進んでいく。

    ●定礎石の謎

     大坑道最深部に置かれた巨大定礎石。
     その間近にまで辿り着くことが出来た灼滅者は、この地点への奇襲を計画した2B桃の中でも一部に過ぎなかった。
     途中で侵攻を遮られた者達は、道中にいる敵との戦闘中だ。
    「これでは、大きなダメージを敵に与えることは不可能だな」  そう判断した組連合の灼滅者達は、敵への被害よりも、情報収集へと頭を切り替えていく。
    「しかし、巨大とは聞いていたが……」
     不動峰・明 (大一大万大吉・d11607)達は、最深部の空洞の中央に『そびえ立つ』巨大な定礎石を見上げる。
     本来であれば、建物の一角に収められるべき定礎石。
     だが、灼滅者達の目に映るそれは、それ自体が建造物かと見紛う巨大さだ。
     頭に定礎石を被ったような姿の定礎怪人達は跳梁しているが、巨大定礎石はそれらを何重にも積み重ねたよりも、なお大きい。
    「あれだけ巨大なものならば、潜入調査の際に確認されていてもおかしくはないはずだが……?」
     訝しげに呟きながら、灼滅者は後ろからハンマーを振り下ろそうとした定礎怪人へとサイキックを叩き付ける。
     そして何より異常なのは、その定礎石が時折発光し、震動すらしているということだろう。
    「日本を真に導かれる指導者が復活なさろうとしているのだ!」
    「我らが主の復活にとって、今が最も重要な時……邪魔立てする者は万死に値する!」
    「げ……なんだよ、あいつら!?」  葛木・一 (適応概念・d01791)が驚きと呆れが混じったような声をあげた。
     他の定礎怪人の何倍もの巨体を持つ、巨躯の定礎怪人が灼滅者達の眼前に姿を見せたのだ。
     巨大化フードを食べたわけでもあるまいが、見上げるような巨人となった指揮官2人に率いられ、定礎怪人達はハンマーを振るう力をより強める。
    「彼らにとって重要な儀式であることは間違いがありませんね」
    「だが、今はこれ以上の戦闘継続は困難のようだな。……2B桃、これより帰還する!」
     他の組連合に通信連絡を入れると、さらに激しさを増す定礎怪人達の抵抗をいなしつつ、灼滅者達は撤収していくのだった。

    ●七不思議使いの収容所

     灼滅者組織「七不思議使い」達が捕らえられている収容所は、幾つもの長い怪談が連なった、『怪談階段』を降りた先にある。
     その怪談階段には、無数の都市伝説と、それを率いるタタリガミがひしめいていた。
    「あれはどういうタタリガミなんだ……?」
     階段の下方から巨大なビームを撃ち出して来るタタリガミに、綱司・厳治 (真実の求道者・d30563)は疑問を抱きながらも殲術道具を向ける。
     戦い始める5E蓮の灼滅者達に『怪談階段』の敵を任せ、9I薔薇の灼滅者達は階段の突破を図っていた。
     長い長い怪談階段は途中で分岐し、どれが先へと通じるものかは分かり辛くなっている。
     先日救出された、タタリガミと化していた七不思議使い達の僅かな記憶を頼りに、灼滅者達は正しい階段を選び下って行く。

     メインの坑道から横にそれた怪談階段の奥は暗く、空気も淀んでいた。
     ほとんど最深部に匹敵するような深度だろう。
     各々が持った灯りだけを頼りに進む灼滅者達の先に、突然真新しいコンクリートの壁が見えて来る。
     幾らかの脱落者を出しつつも、収容所付近までの突入に成功したことに、9I薔薇の灼滅者達から安堵の息が漏れる。
    「予兆で見えた男子は、うずめに捕らわれた時に不在だったとかで難を逃れたうちの一人、って話だったけど」
     少し前の事件で救出された七不思議使い達から聞いた話を思い出しながら収容所に近付いていく灼滅者達の前方に、不意に人影が現れる。
    「おや、こいつは意外なお客さんだ」
     灼滅者達の前に現れたのは、黒い外套を着た少年だった。
     口元に浮かんだ笑みが、手にした蝋燭に照らし出される。
    「もしかして、あなた七不思議使い? 他の人は……」
    「まあ、そう焦ることは無い。大事なのは余裕だろう」
     言葉を遮り言う少年に、彦麻呂の中に、特大の危険信号が灯る。密かに彼我の力量差を計り、彦麻呂は形の良い眉をしかめた。
    「灼滅者にしては強過ぎる……気をつけて、闇堕ちしてる!」
     警告の言葉と同時に牢獄の中から溢れ出したのは、様々な都市伝説、そしてそれを率いるタタリガミ達だった。
     灼滅者達と敵との間に戦端が開かれる中、戦いの向こう側から声が聞こえる。
    「ある灼滅者の少年がおりました。彼は捕らえられた仲間を助けるため、無謀にも敵の拠点である孤島に忍び込んだのです」
    「ですが、それは無謀に過ぎました。少年はあっけなく捕まり、そして牢獄に捕らえられたのです」
    「怨敵の望みを叶えさせぬためにも、決して闇堕ちなどするまい。そう決意していた少年ですが、何昼夜にも及ぶ責苦は、彼の仲間達を闇堕ちさせ、あるいは死に追いやっていきました」
    「仲間達の命を救い、憎き敵を倒すために少年が力を求めるまで、そう時間はかかりませんでした……嗚呼、美しきかな仲間意識! 仲間を思う心こそが、少年が新たなタタリガミとなる手助けとなったのだ……!」
     くつくつと笑った少年の手に、黒い『本』が現れる。
    「そして、『私』は新たに自分達を助けに来た灼滅者を倒し、闇堕ちさせる……。ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこの事」
     語り終えると共に、少年の手にしていた黒い書物から無数の『物語』が溢れ出し、少年の体を覆い尽くしている。
    「タタリガミ……!」
     手にしている本は殲術道具ではなく、それ自体がタタリガミの肉体の一部というべきものなのだろう。
    「囚われてた人達って、かなりの割合が闇堕ちしてるんだろうね」
     この場ですぐに彼らを救出するとはいかないようだ。そう判断すると、灼滅者達は一当てすると即座に後退を開始する。
     敵を減らすという意味では効果は薄かったが、ここで七不思議使いが闇堕ちしているという事実を再確認出来た影響は大きい。
    「絶対、また助けに来るからね! あなた達の『矜持』を忘れないでよ!」
     無数の都市伝説の向こう、灼滅者達の言葉がタタリガミと化した七不思議使い達に届いたかは定かでは無かった。

    「矢張り闇堕ちして居たか。願わくば外れて貰いたい懸念ほど当たるものだ」
     9I薔薇が合流した5E蓮の灼滅者のうち、倫道・有無 (夢路無明怪奇譚作禍宣誓・d03721)をはじめとした何人かは、気絶した灼滅者を抱えていた。
     彼らが奇襲攻撃を行う中で撃破したタタリガミの中にも、説得できた者達がいたようだ。
     ただ、どのタタリガミが説得可能で、どれがそうでないかはやってみなければ分からないというのが現状だ。
    「尤も、怪談階段のタタリガミでさえ説き伏せ元に戻す事が叶ったのだ。闇堕ちして間もないであろう収容所の者達ならば、尚のこと説得は容易であろう」
     有無の言葉を否定する者はいない。
     助け出すために、説得する必要がある……。
     軍艦島攻略戦は、ここからが本番だった。


    組連合 ファースト
    アタック
    ファーストアタック結果
    1A梅 (6)奇襲 (6)改造大坑道の敵戦力が350減少!
     長大な坑道での戦闘を行い、より深い地下を奇襲する組連合が帰還するまで耐え抜きました。
    2B桃 (16)奇襲 (16)巨大定礎石の敵戦力が250減少!
     地下深部のため、戦闘時間が通常より短くなっています。
     巨大な定礎石が鳴動する様を目撃。定礎怪人達の主が復活しようとしている?
    3C桜 (3)奇襲 (3)野生のグラウンドの敵戦力が400減少!
     遠距離攻撃を中心に、ご当地怪人達に対し有効な奇襲を行いました。
    4D椿 救護準備 全ての戦場で、KO時の重傷/死亡率が7%減少!
     救助された七不思議使いは船内にて保護しています(最終的に撤退するため)
    5E蓮 (8)奇襲 (8)怪談階段の敵戦力が200減少!
     地下深部のため交戦時間が通常より短くなっています。
     説得により、闇堕ちしていたタタリガミを元に戻すことに成功しました。
     (8)(9)のタタリガミ、都市伝説には気魄に弱いものが多いようです。
    6F菊 (7)奇襲 (7)軍艦島地底拠点の敵戦力が250減少!
     地下深部のため、戦闘時間が通常よりやや短くなっています。
     より深い場所を奇襲する他の奇襲班の帰還ルートを維持しました。
    7G蘭 (5)奇襲 (5)廃墟ライブ会場の敵戦力が250減少!
     
    8H百合 テンションアップ 敵戦力『450』までスルー可能に!
     攻め込む人数の関係上、直接軍艦島に乗りつける船は複数となっています。
    9I薔薇 (9)奇襲 (9)七不思議使いの収容所の敵戦力が150減少!
     救出すべき七不思議使いの多くが闇堕ちしていることが確認されました。
     有力敵「黒い語り部(救出可能?)」の救出には『説得』が必要となります(同戦場参加者のプレイングを参照します)。

    ●今回のテンションアップ

    残りの敵戦力が「450」以下の戦場をスルーできます。

    ●今回の撤退条件

     ファーストアタックに「撤退条件」を選択した組連合はありませんでした。
    「(9)七不思議使いの収容所」制圧後にまだターンが残っていた場合は、ファーストアタック『撤退条件』とは無関係に『撤退』を選べるようになります。行動した灼滅者の過半数が撤退を選ぶと、全軍撤退します(戦争は終了となります)。