色々なクラブ企画を見て回りながら、桜庭・照男(高校生エクスブレイン・dn0238)は自由を噛み締めていた。
二年に及ぶ囚われの身はつらかった。
でもこうして開放され、その仲間たちの学園祭を楽しめるというのは不思議で、とても胸が弾む。
歩いていると生徒たちが話しかけてくれたり、笑顔で手を振ってくれて。
「マジでこの学園はワンダフルすぎるぜ、エブリバディ! さあ、レポートもアゲて行こうか!」
今日はクラブ企画『展示&体験学習』部門の人気投票の結果をレポートするのだ。
●第3位~文月探偵倶楽部~
着ぐるミステリー◆白か黒か着ぐるみか
クラブ企画部門二連覇の実績ある、着ぐるミステリー。その歴史こそ知らないが、照男は出てくる生徒たちの楽しそうな様子にテンションが上がりまくりだった。
用意されたいくつもの謎、推理にアクション、カオスもある中、直面した事件を解決する楽しさが人気の源なのだろう。
「やあ、ひとつ事件を解決してみないか?」
ネコの着ぐるみで文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が飛び出してくると、照男は思わずコームを取り出した。
「ひとつオレに髪をセットさせてみないか?」
「へっ?! あ、そのリーゼントは!」
「おっと違った。ここの企画の『着ぐるミステリー◆白か黒か着ぐるみか』が展示&体験学習部門で3位に選ばれたぜ! おめでとうエブリバディ!」
話を聞きつけて、着ぐるみカフェのスタッフたちから歓声があがった。
「今年も入賞はすごいよ!」
「やりましたね!」
ヒマワリ着ぐるみのミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)やサボテン着ぐるみの山門・新(ドレッドノート・d02429)が喜びの声をあげる。
カフェのメニューも普通のドリンクからヒネったお菓子まで充実している。それも人気の一因だろう。しかも着ぐるみを謎解きの間ばかりでなく、カフェでも楽しめる。
薦められるままに着ぐるみを着てみた照男が驚いた声をあげた。
「ここの着ぐるみ、着てて暑くないとかすごいな!」
着ぐるみの口からリーゼントがびょーんと飛び出してるのもたいがい強烈ではある。
話している間も、3位入賞を聞いた客から感想が次々飛び出していた。
「まだ3ルートしか終わってないからもう一周いく!」
「事件を追うのに夢中になっちゃうんだよな」
「他のルート気になるなー」
感想を語りあいながらお茶やスイーツを楽しめるので、つい長居してしまったり。そうした居心地のよさもまた、人気が集まる要因なのだ。
「よし、もう1回行ってくるぜ!」
「行ってらっしゃいなんだよー」
垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)に見送られ、照男もミステリーの世界へ一歩を踏み出したのだった。
●第2位~屋上菜園【万華境】~
フラワーアレンジメント体験学習
謎解きを済ませた照男は屋上菜園【万華境】へやってきた。風がよく抜ける屋上に作られた菜園は、色とりどりの花だけでなく各種ハーブ、野菜とさまざまなものが植えられている。
菜園を見回していると、竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)が顔を出した。
「こんにちは。屋上菜園【万華境】です。フラワーアレンジメントをご希望ですか? ……あら」
実は照男は一度来ている。ガーベラとカーネーションの華やかなアレンジメントを持って帰ったのだ。今日はクラブ企画のレポートで来たのだ、と照男は事情を説明した。
「ここのフラワーアレンジメント体験学習が、展示&体験学習部門の2位に選ばれたんでレポートにまた来たんだ。おめでとう!」
「そうでしたか、ありがとうございます。もう一度、今度はちょっと違うイメージで作ってみませんか?」
藍蘭に薦められ、照男は頷いた。レポートも兼ねてやろうと思っていた。それに、こうした体験もヘアメイクのためになるはずだ。
前回はカラフルなイメージでやってみたが、今度は同系色で【自然形重視】にまとめてみようか。そう思うとやりたくなって、照男はアレンジメントの部屋に入った。
トルコキキョウとヒヤシンスをとり、高さをつけながら色を合わせてみる。落ち着いた佇まいをイメージして向きを揃えると、また全然違った印象の花束ができた。
「ん、こんなもんかな」
少し離れて眺めていると、見守っていた藍蘭が会釈をした。
「素敵だと思います。個性が出ますからね。今年もたくさんの方に楽しんで頂けたようでよかったです」
静かな部屋で花と向き合うという体験が、思いのほか人を虜にしたようだ。花束にして持って帰れるというのも嬉しいポイントだったに違いない。
「去年も2位だったそうだな。来年も楽しみにしてるぜ! じゃあ花束、サンキュー!」
花は人の心を豊かにするという。こうして気持ちが穏やかになるのを感じると、改めて実感する。本当に、この学園は色々な生徒が色々なことをしているものだ。
花束を手に、照男は屋上菜園【万華境】を後にした。
●審査員特別賞~下宿施設『撫子荘』~
撫子荘名物~足湯喫茶と日本庭園
旅館を改装したという寮は、なんとも純和風の雰囲気を漂わせている。【春夏冬中】という看板のかかる入り口をくぐり、照男は声をかけた。
「またお邪魔するぜ! レポートさせてくれ」
「いらっしゃいませ~」
長い髪を揺らして出てきたのは主の久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)とスタッフの一人、天峰・結城(全方位戦術師・d02939)だ。
ゆっくり足湯を楽しみながらデザートや飲み物を楽しめるというので昨年も人気の企画だった。今年もかなりの人気のため、照男も初日に体験しにきたというわけだ。
撫子が笑顔で問いかける。
「じゃあ受付しますね。デザートや飲み物はいかがですか?」
「そうだな、前はパフェだったし三色ジェラート盛りで頼む」
「はい、では会場で受け取れますから、どうぞ」
ちりんと鈴を鳴らして、撫子が照男を見送った。
目の前に広がるのは美しい日本庭園、長椅子に腰をかけて足湯を楽しんでいるととてもリラックスできる。
ジェラートは口どけがよく、体の中から冷やしてくれたが、足湯のおかげで身体が冷えることもなく、のんびりとした気持ちになれる。
ふと気がつくと、動物変身で過ごしたい客のためかタライが運び込まれていた。中で身体を伸ばして浸かっているうちに眠くなってきたのか、猫が船を漕いでいる。
寮の表で撫子が打ち水をする音が聞こえてきた。
この穏やかさは、いい意味で肩の力が抜ける。
すっかり気分転換できた照男は立ち上がった。空になったジェラートの器をスタッフに渡して受付に戻ってくる。
「今日もワンダフルな時間だったぜ。サンキュー」
「そうですか、それはよかった」
微笑む撫子と結城に、今年の投票の結果を告げる。
「ここの足湯は今年の展示&体験学習部門の審査員特別賞なんだ。おめでとう、エブリバディ!」
ちょっと驚いた顔になったものの、撫子は動じることなく優雅に会釈をした。
「あらあら、そうでしたか。ありがとうございます」
例年評判になるだけのことはある。涼を誘う風情と穏やかに流れる時間。
照男はひとつ伸びをすると、軽くなった身体で次のクラブへと向かった。
●第1位~Le jardin secret~
花園迷宮2015
名前のとおり、そこは迷宮だ。しかも普段は男子禁制、まさに秘密の花園。こうした体験学習の形でもなければ、男子が入ることはあるまい。
今年は規模を拡大し、巨大な迷宮となっているという。中をさまよい、女子部員に会うわけだ。一周したぐらいでは全ての女子部員に会うことは適わない。
そうしたことも人気の源なのであろう。今年は圧倒的な得票だった。
ゴールではLe jardin secretの部長の黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が待っていて、お茶とお茶菓子を出してくれる。
「途中でもらったお茶を飲んだら喉が渇いて……」
「あんまり会えなかったなあ」
「猫がたくさんいて楽しかった!」
出口で客が感想を語り合っている様子を見ると、やはり一筋縄ではいかないようだ。最大で一周15人に会えるというが、りんごにしか会えないというケースもあり、なかなかに難しいらしい。
「ちょっといいかい?」
照男に声をかけられたりんごがふわっと微笑んだ。
「いらっしゃいませ。あら、今日もいらして下さったんですか?」
彼女の問いに照男は首を振った。初日に迷宮でりんごに会った他、可愛い霊犬と戯れてきたのだ。
「実はな、ここの企画が展示&体験学習部門の1位に選ばれたんだ。おめでとう!」
照男の告知にりんごがぱっと笑顔になった。周りにいた参加者たちからも歓声があがる。
「おめでとう!」
「ゴールすると、ここの花園で育てたハーブがもらえるのもいいよ!」
「誰の写真にするか悩む……」
お土産のハーブセットには、それを育てた女子部員の写真がついている。それで誰にするか頭を抱えている者もいた。
「1位ってのはエブリバディが楽しんだ証拠だ。オレも楽しかったしな。マジですごいと思うぜ!」
「ありがとうございます。嬉しいものですね」
淑やかに微笑むりんごに部員の女の子たちが駆け寄り、訪問客からもたくさんの賞賛とおめでとうの言葉がかけられる。楽しそうな、嬉しそうな、華やかな笑い声が弾けた。
「よーし、オレももう一度チャレンジしてくるぜ!」
再び秘密の花園に挑む照男だった。
レポートを終えて、照男は日が暮れかける学園の中をのんびり歩いていた。
あちこち顔を出して色々な学園の生徒たちの企画を回ってみたが、どこもみんな楽しそうで親切で、居心地がよかった。
来たばかりでこんなでは、これから先が楽しみすぎる。
「これからもよろしく頼むぜエブリバディ! あ、あんた! その髪、オレに任せてみないか?」
以上、新米エクスブレイン桜庭・照男のレポート終了、である。