「学園祭って、こんなに盛り上がるのね。凄いわ」
廊下を歩きながら遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)はあたりをきょろきょろ見回した。
お土産を抱えた生徒達と、たびたびすれ違う。みんな笑顔で、とても楽しそうだ。
鳴歌にとって、武蔵坂学園の学園祭は今年が初めてのこと。水着コンテストにクラブ企画、見るもの全てが珍しく、また楽しくもあった。
「それで、今回はこの企画が入賞したのね」
結果の書かれた紙を確認し、鳴歌は歩き始めた。
早くみんなに知らせたい。それを思うと、占いの結果を知らせる時以上に、どきどきと胸が高鳴るのであった。
●第3位~光画部
お米たっぷり! おこめカフェ
「こんにちは。またお邪魔するわね」
「あら鳴歌! いらっしゃい! また来てくれたのね」
一日目と同じように、保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)が鳴歌を出迎えてくれた。
今年光画部が企画したのは、『おこめ』をコンセプトにしたカフェだ。
スイーツ、ドリンク、軽食のメニューが揃っており、米粉のケーキやライスオレ、ライスバーガーなど、全ておこめをコンセプトにしている。
一日目の昼に鳴歌が注文した『ライスミルクバナナ』は、さらっとした甘みが本当に優しいと感じられた。
それに、米を使ったメニューがこんなに豊富にあるなんて本当に驚く。
周りでは、訪れた生徒達もその話題で持ちきりだ。
「凄い……これだけお米メニューがあるモノなんですね~」
「お米ってこんなにおいしいデザートにもなるだなんて」
注文したメニューを目の前にして、古海・真琴(占術魔少女・d00740)やファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232)も驚いた様子だ。
彼女たちに、まぐろが丁寧に解説をしているのが見える。
それぞれの米の特性を活かしたメニューを考案したようだ。
周囲の生徒も感心したように聞き入っている。
「主食として頂いてるおこめにもいろんな品種があって、食感や炊き上がりに結構違いがあると聞いたことがありますです」
調理道具を洗いながら、巽・空(白き龍・d00219)も顔を出した。
「お米って、深いのね。ためになるわ」
鳴歌も席に着き、改めてメニューを見る。
「そうだ、鳴歌は何を注文する?」
まぐろに声を掛けられ、鳴歌ははっと顔を上げた。
「あのね、光画部さんの『お米たっぷり! おこめカフェ』がクラブ企画第3位に選ばれました! それを知らせに来たのよ」
「え?! 本当?!」
まぐろは、びっくりしたように口元に手を当てる。
「うん。本当よ! おめでとう」
鳴歌が頷くと、周囲の生徒達が一斉に祝いの声を上げた。
「わー、おめでとうございます」
「おめでとう」
一気にお祝いムードに包まれたカフェを見て、鳴歌はにっこりと微笑んだ。
●第2位~撫桐組事務所
任侠喫茶『一年振りのシャバの空気』
「こんにちは、再びシャバの空気を味わいに来たわよ!」
撫桐組事務所の企画した任侠喫茶『一年振りのシャバの空気』の訪問は二度目。鳴歌は周囲の空気に合わせるように、やや渋めな表情を作って喫茶店のドアを開けた。
任侠喫茶『一年振りのシャバの空気』、二日目はワンドリンクとお土産持ち帰りのコーナーが設置されている。
ダイスを振って注文するスタイルなので、どのようなドリンクが手元に届くのかはダイスのみぞ知るのである。ちなみに、数時間前に鳴歌が飲んだのは、『曰く名状し難く起源的なコーラフロート』だ。それは、何とも言えない味わいだが、さっぱりしたコーラフロートだった。
メニュー表には、『静かにじっと何かを訴え掛けて来る感じの』『電光石火・抜き打ちの速度でご提供する』『ほら貝が添えられた』など、各部員が考えたのであろう、独特のメニューが羅列されている。
なお、喫茶店を出た折には、『一年振りシャバの空気はうまかった』と友達に語ると良いらしい。
「きっと、楽しいことになるわよね。ビックリされるかしら?」
その場面を想像し、鳴歌はくすくすと笑った。
他にも、一日目には席で注文できるメニューもあったようだ。
ちらりと残されたメニュー表を見てみると、『特製ケジメパスタ』や『今月のシノギデザート』など、『なんやねんコレ』と思わずにはいられないネーミングのメニューが並んでいる。
だが、それが面白いのか病み付きになるのか、一日目の喫茶店は大盛況だったようだ。
さて、ワンドリンクのコーナーで個性的な名前のドリンクを飲んでいる生徒たちに向かって、鳴歌が声を上げた。
「聞いて! 実はここ『一年振りのシャバの空気』がクラブ企画の投票で第2位に選ばれたの!」
「ティーカップから何かが……」
じっと自身の『曰く名状し難く起源的な紅茶』を眺めていた西御門・鉄五郎(数寄者・d05896)が顔を上げた。
「ほお。それはめでたいですね」
「おっ! おめでとうだな! この『めっちゃ包容力を感じさせるレモンスカッシュ』も美味かったぜ!」
三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)も、ぐっとレモンスカッシュのグラスを持ち上げ祝福の声を上げる。
他の皆も、それぞれ注文したドリンクを飲みながら祝いの声を上げた。
最初はそのパンチの効いたネーミングに驚いていた面々も、意外に美味しいドリンクに納得の様子だ。
「よかった! みんな楽しそうね」
鳴歌は皆の様子を見て微笑み、そっと喫茶店を後にした。
●審査員特別賞~学生寮 【月恋】
月恋和風メイド喫茶
「お帰りなさいませっ。和風月恋喫茶へようこそですっ」
「こんにちは。お邪魔するわね。昨日はどら焼きにおみくじもありがとう」
喫茶店に入ると、日暮・紫音(双の紫月・d00520)が笑顔で鳴歌を出迎えてくれた。
鳴歌に気付いた他の部員たちも、皆おかえりなさいませと声をかけてくれる。
「おかえりなさいませー! こちらの席にどうぞ」
「ありがとう」
本山・葵(緑色の香辛料・d02310)の案内で席に座り、鳴歌がメニュー表を眺めた。
ここ『月恋和風メイド喫茶』では、和菓子がずらりと並んでいる。
丸い錦玉の中に色とりどりのフルーツ入りの『風鈴の夢』や、杏と蜜柑が入ったオレンジ色の葛『金色の満月』など、どれも想像するだけで素敵で可愛いメニューばかりだ。
また、好きな和菓子を選ぶことができるバイキング方式の和風パフェもあり、どれを注文するか非常に迷うところでもある。
「御注文お決まり次第どーぞー」
宮比神・うずめ(舞うは鬼の娘・d04532)からお絞りとお水が出された。
店内では、可愛いメイド姿の部員達が笑顔で接客をしている。
和風のメニューと可愛いメイドさんに癒されながら、鳴歌は思わず笑顔がこぼれた。
「メニューはお決まりですか?」
紫音と神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)が鳴歌のテーブルにやってきた。
「そうね、どうしようかしら。でもね、その前にお知らせがあります。あのね、学生寮 【月恋】さんの『月恋和風メイド喫茶』さんがクラブ企画の審査員特別賞に選ばれたのよ」
「え?!」
「本当に?」
メイド姿の部員達が顔を見合わせる。
「おめでとう」
「良かったね!」
それを聞いて、客席から祝福の声が上がった。
「ありがとう! 嬉しいですっ」
紫音が驚きの表情で周囲を見回し、手にしていたメニュー表を握りしめる。
「やったね!」
「嬉しい、良かったですね」
部員達も喜びの表情を浮かべ、笑い合う。
「ふふふ。良かった。和菓子、とっても美味しいものね」
鳴歌も笑顔になり、和菓子に手を伸ばすのであった。
●第1位~地下秘密クラブ「夢兎眠」
水喫茶むーみん
「いらっしゃいませ。カフェとプール、どちらをご希望でしょうか?」
受付で笙野・響(青闇薄刃・d05985)が出迎えてくれた。
地下秘密クラブ『夢兎眠』による『水喫茶むーみん』では、喫茶スペースとプールスペースが解放されている。受付で希望スペースを伝えると、案内してくれるシステムだ。
「えーと、プールはみんなで入るのね。それで、喫茶スペースは1テーブルに1人スタッフが付いてくれるのかしら」
鳴歌が案内をじっと見る。プールは皆でわいわいと遊び、喫茶スペースではゆっくりくつろぐと言う感じだろう。
他にも、フリーダムな絶叫領域やむーみん部員限定の水着コンテストも開催中のようだ。
「それじゃあ、喫茶スペースでお願いするわ」
「はい、それではこちらへどうぞ~」
響はテーブルの準備ができたことを確認し、丁寧に案内してくれた。
「いらっしゃいませー☆ メニューは何になさいますか?」
「どうしようかしら」
笑顔の霞・日麗(陽色闘華・d30389)の正面に腰掛け、鳴歌はメニュー表に視線を伸ばした。
ソフトドリンク各種に、『生ちょこばなな』や『まな板さんど』『チョコミントパフェ』など豊富なメニューが揃っている。
「何か飲み物を貰おうかしら」
「はーい☆ すぐにお持ちしますね!」
ドリンクを待つ間に、プールスペースを見てみた。
「プールもとっても楽しそうね」
どうやら、プールでも喫茶メニューを注文できるようで、皆それぞれ好きなメニューを食べながら話し込んでいる。
「お待たせしましたー」
てこてこと走りながら日麗がドリンクを運んできた。
「ありがとう。それでね、実はお知らせに来たのよ」
「お知らせですか?」
様子を見に来た響が首を傾げる。
「はい。こちらの『水喫茶むーみん』さんが、クラブ企画投票で見事第1位に選ばれました!」
「えっ?!」
「本当ですか?!」
日麗と響が驚いて顔を見合わせた。
「そうよ。おめでとう!」
しっかりと頷く鳴歌を見て、二人は喜びの表情を浮かべた。
「さっそく、みんなに知らせますね!」
響が慌てて受付に走り、プールスペースにも声をかけていく。
「ええ?!」「そうなの?」「おめでとう!!」
プールに入っていた生徒達や、準備をしていた部員達が、わっと一斉に声を上げた。
プールサイドも、喫茶スペースも、お祝いムードに包まれる。
「良かった。それに、美味しい。喉が潤うわね」
鳴歌が一口ドリンクを口に含み、にっこりと笑った。
互いに祝い、喜び合う部員達を見ながら、鳴歌はそっと席を立つ。
「学園祭、本当に楽しいわね!」
ふと時計を見る。何と、もうすぐ夕方になろうとしていた。
けれど、学園祭はまだまだ盛り上がっているし、鳴歌ももっと楽しみたいと思う。
「さて、次はどこに行こうかしら」
鳴歌はわくわくしながら、次の場所へ足を進めるのだった。