学園祭クラブ企画 結果発表!

    須藤・まりん
    ●喫茶店巡りのことだったら、私に任せて!
    「やっぱり、武蔵坂学園の学園祭は盛大だよね!」
     喫茶店だけでも、普通の学校の学園祭の規模をぶっちぎるような勢いに、エクスブレインの、須藤・まりんは、うきうきとした足取りで校内を練り歩いていた。
     その右手には、書き込みや付箋で一杯になったノート、左手には愛用のペンという完全装備。
     勿論、ノートの中身は、まりんが足と舌で稼いだ、喫茶店レポートだ。
    「それに、どの喫茶店も、いろいろ趣向をこらしていて本格的だよね。こんな素敵な喫茶店の中から入賞を選ばなければならないなんて、難しすぎるよ」
     まりんは、はぁっと息を吐いた。
     全員一等賞でも良いんじゃないのかな? と思いつつ、しかし、決意の眼差しで、持っていたペンをギュギュっと握りなおした。
    「耐えがたきを耐えて、忍びがたきを忍ぶのが、エクスブレインの仕事だもの……この使命、いかにても果たさなくちゃね」
     そう言うと、まりんは、数ある喫茶店の中でも、ひときわ賑やかな店へと足を踏み入れたのだった。

    ●第3位 四季彩~彩り華やか 四季彩喫茶
     彩り華やか 四季彩喫茶 は、喫茶店である。
     しかし、ただの喫茶店ではない。
     淫魔の天原・京香さんと、男の娘の四季・彩華さんがパーソナリティーを勤める、四季彩ラジオ(仮)’の放送も行っているのだ。
     お便りコーナーなどの楽しいラジオ放送を聴きながら、喫茶店で一服。
     そして、ラジオ放送をネタに盛り上がりつつ駄弁る。
     まさに、中高生の喫茶店ライフを凝縮したような、楽しいお店なのだった。
    「こんにちわー!」
     早速、最ももりあがっているテーブルへとまりんは近づいていく。
     どうやら、水着コンテストの話をしているらしい。

    「可愛らしいチェック柄水着にガーターリングとかくそう! あちこちにリボンをあしらうのは解かれたいって事やろ! 」
     そう、熱く語っていたのは、水無月・咲良。彼は、様々な水着にコメントを付けまくる、水着コンテストの鬼のような存在だ。
    「確かに、最近の男の娘はレベル高いよね! でも、水着のリボンって解いても飾りが取れるだけじゃないかな」
     思わず突っ込みを入れたまりんだが、とても可愛い男の娘である事には同意せざるをえない。
     というか、女子力勝負をしたらきっと負けるだろう。
    「それはそれ、これはこれ、リボンには、おっさんの夢と希望が詰まってるんだ」
     そう胸を張る咲良に、まりんは、それも理解できると頷いた。
    「夢と希望は大切だからね!」
     と。
     そのまりんの言葉に、咲良はにっこりわらって頷いた。
    「さすが、まりんは、良くわかってるぜ。ところで、何か用かな?」
     そう問われれば答えざるを得ない。
     まりんは、大きく息を吸い込むと、店の人全員に聞こえるように、来店の目的を話してみせた。

    「そうそう、大事な用事があるんだ。なんと、彩り華やか 四季彩喫茶が、喫茶店めぐりの第3位になったんだよ!! おめでとうございます!」
     そのまりんの言葉に、店内にいた全員が、サブパーソナリティーを勤めていた男の娘団長、四季・彩華の方を見て、そして、一斉に祝福を浴びせた。
    「おめでとう」
    「凄いね」
    「やったね」
     ワーパチパチパチ。
     その祝福してくれた仲間とそしてお客さんに、彩華は、マイクを片手に立ち上がる。
    「えっと、ラジオを聴いてくれた皆、喫茶店で楽しんでくれた皆、ありがとう。この賞は、皆のおかげで取れたと思うんだ。高校最後の思い出になったよ」
     そう言って、一礼する彩華。
     だが、勿論、それだけでは終わらない。
    「でも、まだまだ、これから。僕達の四季彩は、まだまだ終わらないよ! さぁ、学園祭も残りわずか、最後まで楽しむよ!」
     そう言うと、ノリノリで一歌歌い出した。
     この団長のノリの良さも、四季彩~彩り華やか 四季彩喫茶の人気の秘密なのだろう。
     まりんも、皆に混じって楽しく歌を聞いたり御菓子を食べたり、ちょっと歌ってみたり踊ってみたりして楽しく過ごし、そして、最後に、彩華と握手とハグをして、店を出たのだった。

     四季彩~彩り華やか 四季彩喫茶のひと時は、とても楽しい時間だったが、まりんは一つだけ不満があった。
    (「うーん。水着の男の娘は小学生だったから、可愛さで負けても悔しくなかったけど、彩華さんは高3で年上なんだよねぇ。私の女子力、もっと仕事してくれないかなぁ」)
     それは、まぁ、今後に期待という事で。

    ●第2位 地下秘密クラブ「夢兎眠」~水喫茶☆むーみん
     さて、まりんが次に向かったのは、水喫茶☆むーみんだ。
     水喫茶☆むーみんは、毎年、喫茶店部門の優勝争いを繰り広げる競合喫茶店だ。
     メニューは、団長の七里・奈々特性の、生ちょこばななをはじめとした魅惑的なメニュー。
     だけど、今年は、なんか異様な雰囲気が漂っていた。
     舞台の中央で、奈々団長が、音頭を取り、多数の店員と客が円陣を組んでいるのだ。
     まりんも、いつのまにか、円陣に巻き込まれてしまう。
    (何をやっているか良く見ようと前に出たのが悪かったのだろう)
     円陣の中心には、可愛いちびななとかぼちゃななが30体づつ、どうやら、これが御神体らしい。

     デンデンデデン、デデンデデン!デンデンデデン、デデンデン!
     どこからともなく聞こえる太鼓の音。
    「アソレ!」
     の合いの手と共に、くるくるくるくる左旋回。
     更に、くるくるくるくる右旋回。
     左に右にまわりすぎて、まりんの眼鏡が牛乳瓶の底みたいになる直前、
    「おんぬに一礼! おんぬりゃー!」
     という掛け声と共に、熱い歌と踊りが始まった。
    「DAKARAさけーべー! MINNAさけーべー!」
     という歌声の勢いに、まりんも意味もわからずに、左手をふりあげて、
    「おーんぬー! おーんぬー!」
     と合いの手を入れてしまう。
     まさに、不思議で無敵な超時空な力を感じてしまう歌と踊りだった。
     更に、演舞は続き、最後に、皆がダイスを手に握る。
     まりんも手渡されたダイスを手にとって。
    「おんぬりゃー!」
     と投げ入れた。
     出た目はパッとしなかったが、なにか、日ごろのストレス的なものが消え去ったような気がした。
     それは皆も一緒のようで、思いっきり叫んでダイスを投げた後は、なんだかスッキリした気分になっているようだ。
    「あくしゅ、あくしゅ」
     まりんは、記念にちびななと握手をすると、演舞の中央で歌って踊っていた、奈々団長へと駆け寄った。
    「はぁはぁ、えっと、楽しかったです! じゃなくて、水喫茶☆むーみんが、喫茶店部門の第2位に入賞したので、お祝いに来ました!」
     駆け寄ってきたまりんに、奈々は、おんぬダンスの余韻も覚めやらぬままハグして、上下に揺さぶったあと、
    「みんな、聞いたー! まりんちゃんが素敵なお知らせを持ってきてくれたよ! おんぬー!」
     奈々の言葉に、円陣からも歓声があがる。
    「おんぬー!」
    「おーんぬー!」
    「おーんーぬー!!」
     掛け声の意味はわからないが、とにかく凄い熱気だった。

    「えっと、それはそれとして、おんぬーってなんなんですか?」
     歌って踊って喉が渇いたでしょうと、飲み物と、つるぺたパンケーキをご馳走になりながら、まりんが奈々に尋ねる。
     パンケーキは、柔らかクリームにブルーベリーがのった、暖かいタイプのパンケーキで、踊りつかれた体に染み込むようだ。
    「おんぬロボってあるでしょ。それの学園祭バージョンね。騒ぎメーターが1万溜まると、なんか凄いことが起こるとかおこらないとか」
     つまり、良く判らないらしい。
     というか、おんぬロボも知りません。
     まりんは、なぞの『おんぬー』への追求を諦め、つるぺたパンケーキに集中する。
     見た目も美しいが、味も美味しい。
     さすがは、優勝候補常連の仕事ぶりだ。
     そして、なにより、
    (「私の女子力も、このパンケーキよりは高いわよね」)
     ちょっと自信を取り戻したようだった。

     最後に、まりんは、奈々とちびななとかぼちゃななとそれぞれ握手をして、店を後にしたのだった。

    ●審査委員特別賞 白猫の館~猫カフェの館
    (「ちびなな可愛かったなー」)
     手に残るぷにっとした感触に頬を緩めながら、まりんは、次の目的地へと進む。
     やってきたのは、白猫の館が出展する、猫カフェの館だ。
     猫カフェの館は、普段から白猫の館にやってくる野良猫達と一緒に過ごせるいわゆる猫喫茶。
     にゃーにゃーなーなーと可愛らしい猫さんと戯れる優しい空間。
     それが、猫カフェの館。
     まりんはさっそく、じゃれついてきたキジトラ猫の三四郎を抱っこする。
    「なぁなぁなー」
     まりんがのどをごろごろしてあげると、三四郎も嬉しそうに鳴き声をあげる。
    「やっぱり、三四郎君は癒されるねー」
     まりんがそう黄色い声をあげると、団長のシエル・ワージングがやってきて、キジトラ猫の名前を教えてくれた
    「三四郎は本当に、まりんがお気に入りみたいだね」
    「そうなんですか~。三四郎君と私はらぶらぶなのかな? ねー」
     ねこなで声でそう言うまりんは、三四郎君大好きと手を握り合う。
     三四郎の肉球がぷにっとして、まりんは、またうっとり。
    「ぷにっと肉球萌えで、癒されるよ」
     まりんの猫萌えを微笑ましく思ったのか、シエルは、おっとりした縞三毛猫の太郎と、女好きのサビ猫のタマを連れてきてくれる。
     3匹の猫に囲まれたマリンは、まさに、逆ハー状態だ。
     そして、しばし、3匹の猫による逆ハーを楽しんだまりんは、その様子を微笑ましく見ていてくれたシエル団長に、キリっとした表情を造ると、来訪の目的を告げた。
    「この猫カフェの館の猫ちゃん達に、審査委員特別賞を送らせていただきます!」
     そのまりんの言葉を理解したのかしないのか、三四郎と太郎とタマだけでなく、次郎もきなこもシロもクロもだいふくもあんこもミケも、館中の猫が、にゃーにゃーなーなーなーんと喜んでくれたようだ。
    「うむ。まぁ、うちの猫達は可愛いらし過ぎるからしかたない」
     シエルも嬉しそうに頷いた。
     可愛らし過ぎる猫カフェの館の猫ちゃんたち。
     この猫ちゃん達に会いたければ、白猫の館にどうぞ。
     学園祭が終わっても、きっと、可愛らしい猫ちゃんと会う事ができるだろう。

    ●第1位 股旅館~天国★地獄のまたたびカフェ
     猫たちに充分に癒されたまりんは、再び、喫茶店巡りを再開する。
     次に行く喫茶店こそ、学園祭最高の喫茶店の呼び声高き、股旅館の、天国★地獄のまたたびカフェである。

    「またたびカフェだけど、猫喫茶じゃないんだよね」
     まりんはそう言うと、ガラリと店の扉を開けて中に入る。
     店の入り口には、ねこまた様の置物。 
     でっぷりしたお腹がぷりちーで、尻尾が2つにわかれているのがチャームポイントだ。
    「えっと、この頭を撫でるといいんだよね」
     まりんは、説明書きの通りに、頭を撫でてみる。
     すると……ねこまた様の口から、おみくじが出てきた。
    「……末吉だね。吉とか小吉とか末吉とか、どの順番に運勢が良いのかわかり難いよねぇ」
     どうもパッとしない運勢のようだが、凶とかよりは良いかと考えて、まりんは店内に足を運ぶ。
    「すみませーん。ねこまた様の占いなので、ショコラサンクチュアリを一つくださーい」
     さっそく注文するまりん。
     ショコラサンクチュアリは、ミルクとホワイトチョコのあまーいショコララテ。
     飲み物だけだと寂しいので、おまけで、サマーエメラルドも注文。
     天使の格好をした店員さんたちが運んできてくれたサマーエメラルドは、キウイフルーツのジャムがさっぱりとした風味を引き出す、サワークリームとヨーグルトのスフレ。
     キウイフルーツの緑がエメラルドのように輝いている。
    「エメラルドパワーって、硬度8だけあるよねぇ」
     美味しい美味しいとスフレを頬張るまりん。
     その様子は、頬袋に美味しいものを溜め込むハムスターみたいで微笑ましく幸せそうだ。
    「いいね、いいね、その食べっぷり。美味しいは正義。全ては美味しいご飯と猫ちゃんのために!」
     そんなまりんを見つけて、団長の獅之宮・くるりが《超特盛》天国への階段のパンケーキの一部をもぐもぐしながらやってきた。

    「はい、美味しいは正義です!」
     サマーエメラルドを完食してそう答えたまりんに、くるりは満足そうに頷くと、せっかくだからと手を引いて、地獄へと誘った。
    「天国から地獄へ、ご招待だよ。どうせなら、両方味わった方が楽しいだろ?」
     甘くて白くて天使なカフェから、11種類の地獄が待つ激辛地獄カフェへ「あ~れ~」と連れ去られるまりん。
     そのまま、血の池地獄にご招待。
     血の池地獄は、骨付き手羽とウィンナーの辛口トマト鍋。
     ポコポコ沸き立つ地獄の鍋は、まさに辛旨の局地だろう。
    「からーい! でも、うまーい!」
     まりんは、ふーふー汗をかきながら食べきると、曇った眼鏡をふきふきすると、真面目な顔で仕事を開始した。
    「天国と地獄を堪能させてもらったところで、お知らせです。天国★地獄のまたたびカフェは、2016年度学園祭、喫茶店部門の第1位となりました! おめでとうございます! ぴゅーぴゅー」
     まりんがやってきた事でだいたい察していたのか、地獄カフェにいた鬼や悪魔の店員だけでなく、天国の天使な店員達も地獄カフェにやってきて、やんやの大歓声。
     団長のくるりも、ちょっと照れたように鼻を掻いた。
    「まぁ、あれだな。股旅館の大黒柱として、1位という結果を出せて良かったんだな。これからも、股旅館を盛り上げて行くから、見んな、私について来いっ!」
     おーっと左手を高く掲げるくるりに、団員達からも歓声があがる。
    「お父さん、格好いいー」
    「しびれる、あこがれるー」
    「一人はみんなの為に、みんなはお父さんの為に」
    「いえーー!」
     祝福が終わる頃には、準備良くお祝いの料理も並べられており、すぐに、優勝おめでとうパーティーが開始される。
     天国メニュと地獄メニューがちゃんぽんに並ぶおめでとうパーティー会場。
     団員もお客さんも一緒で、とても楽しそうだ。
     まりんもまた、天国と地獄をいったりきたりしつつ、美味しい料理に舌鼓を打つ。
     辛さは食欲を増進する上に、甘いものは別腹なので、際限なく食べ続けられるようだ。
    「甘さに慣れてきたら辛い料理。辛くなりすぎたら、甘いお菓子で舌を休ませる……。これ、無限ループで幾らでも食べられちゃうわね」
     こうして、フードファイターとなったまりんは、みなと一緒に優勝を祝うパーティーを食べつくしたのだった。