学園祭クラブ企画 結果発表!

    天野川・カノン
    ●カノンと仁左衛門のライブ&ゲームツアー
     天野川・カノン(高校生エクスブレイン・dn0180)はご機嫌だった。2日間に渡る学園祭で、沢山美味しいものを食べ、楽しいゲームで遊び、とにかく色々満喫した。
     時々はちょっと不運な目にも遭ったけれど、終わってみればそれもまたいい思い出だ。どんな気がする。
    「さて、そろそろ投票の結果が出る頃だよね。仁左衛門仁左衛門、今年の優勝はどこかな?」
     移動型血液採取寝台・仁左衛門に繋いで充電していたケータイを手に取り、カノンはわくわくとメールボックスを開く。
    「ふむふむ……なるほど、ここだねっ。それじゃ早速、しゅっぱーつ♪」
     『極秘!』と件名の最初に書かれた新着メールを確かめたカノンは、仁左衛門を動かして意気揚々とライブ&ゲームのエリアへ向かうのだった。

    ●第3位~武蔵坂軽音部Secret Base 音楽テラリウム~武蔵坂軽音部LIVE2016~
     仁左衛門をライブ会場の入り口近くにお留守番させたカノンは、さっそく観客席へと向かう。
     ステージ上に人の姿は見当たらない。どうやら、まだライブ開始までは時間があるようだ。
     とは言え、客席には既に何人もの観客が入っており、楽しげに歓談している。
     中には『サマーソング・バーガー』など、会場近くのブースでテイクアウトしてきたフェス飯を食べている者もおり、ライブ前のワクワクした空気を一層感じさせる。
    (「あっ、ライトが点いた」)
     それまで真っ暗だったステージにライトが灯ったのを見て、思わずカノンは息を呑む。 それぞれ花の装飾が施された衣装を身に付けたメンバーが一人ずつステージに上がり、ポジションについていく。
     青和・イチ(藍色夜灯・d08927)の弾き語りから始まる曲に、鮫嶋・成海(マノ・d25970)のベースが寄り添い深みを与える。
     イチが視線を上げれば、その声を聴き続けていた北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)が微かに頷いてギターの弦を弾いた。
     万事・錠(ハートロッカー・d01615)がトゥ&ヒールからステップを踏み出すようにリズムを打ち、楽曲の温度を上げていく。
    「良ければ、どうぞ前へいらして下さい」
     客席で仲間たちのステージを見守っていた東郷・時生(天稟不動・d10592)が、ドア際にいた生徒たちにそう囁いて前列の空席を手で示す。ほぼ同時にドラムのフィルが入り、緩やかだった音楽ががらりと表情を変えた。客席の空気もまた、強い光が差したかのようにぱきりと切り替わる。
     その後は、一瞬のような感覚だった。熱く盛り上がっていたライブの、最後の音が残響とともに消えていく。
     短い静寂――そして、割れんばかりの拍手が場内に巻き起こる。もちろんカノンも目いっぱい背伸びして大きな拍手をステージへと送った。
    「ほわぁ……あっ、感動してばっかりもいられないよ! えーっと、みんなはフェス飯配布ブースかな?」
     急いでブースに向かうと、そこは既に多くの生徒たちでごった返していた。軽音部のメンバーに話しかける者、メンバーから手渡しでお礼を受け取る者、誰の顔もライブの熱気に火照っているように見える。カノンも人垣を掻き分けて、ようやく錠たちの前へと顔を出した。
    「ふぅふぅ、こんにちはっ。ライブ、すっごい盛り上がりだったね! わたし、感動しちゃったよ!」
    「あ、聴いてくれたんだな! ありがとうな」
     アイスボンボンで体を冷やしていた葉月がにっと笑うのに続けて、他のメンバーも口々に観客への感謝を口にする。
    「お客さんも大満足だったみたいだね。さすが、ライブ&ゲーム部門で3位になるだけのことはあるよ!」
    「えっ、3位?」
    「あっ、しまった! せっかくドラムロールの準備とかしてたのに、仁左衛門を向こうに置いたままだったよー!」
     錠に聞き返されたところで自分のうっかりに気付いて頭を抱えたのも束の間、カノンは満面の笑顔で軽音部の面々を見回して。
    「そうだよっ、みんな3位入賞おめでとう!」
     改めて告げた言葉に、ライブの時にも劣らない拍手と歓声が上がる。
     熱いライブはもちろん、フェス飯やテラリウム製作など、多彩な企画が学園生を楽しませたのだろう。かく言うカノンも、初日の朝にはテラリウムのイヤリング作りを満喫していた。
     その場に居合わせた生徒たちと『カレンデュラのひんやりポタージュ』で乾杯してから、カノンは次の企画へと向かうのだった。

    ●第2位~ラジオ放送制作部 ラジオ放送制作部☆生ラジオ
    「お邪魔しまーす。はぁ~、やっぱりここは涼しいねっ」
     次にカノンが訪れたのは、冷房の効いた放送室。ラジオ放送の拠点と言うことで声のボリュームを落としつつ入ってみると、来栖・清和(武蔵野のご当地ヒーロー・d00627)をはじめとするラジオ放送制作部のメンバーが学園祭限定のスペシャル番組を放送中だった。
    「はい、と言う訳でお次は……」
     多くの生徒から寄せられたお便りを片手に、コメントを挟みつつ軽快にトークは進んでいく。どうやら、今は水着コンテスト参加者のアピールコーナーらしい。テーブルに積み上げられた写真の束の分厚さが、このコーナーの人気と水着コンテストの熱気を物語っている。
     放送の邪魔にならないようにそっと壁際に寄って、カノンは放送室の内部を見回してみた。
    「水着紹介に、ゲームの実況に、ナンパ王決定戦? まで、色んなコーナーがあるんだね。これは飽きずにいつまでも聴いちゃってもしょうがないかもっ」
     貼られていたタイムテーブルを見て、カノンはうんうんと独りごちる。
    「勿論、普通のお便りふつおたも絶賛募集中だったよ!」
    「わっ! あっ、清和くんお疲れ様ー」
     いつの間にかブースを立ってペットボトルの水を飲んでいた清和にサムズアップされ、思わずサムズアップを返すカノン。
    「すごい量のお便りだねっ。お礼のお便りもこんなに!」
     カノンが指さした先には、段ボールいっぱいの投稿用紙と新着メールが次々増えていくパソコンの画面があった。
     藤原・広樹(過ぎる窮月来たる麗月・d05445) が深々と頷いて、また増えたらしいお便りを箱の中に片付ける。
    「今年の水着紹介は自薦オンリーにしたんすけど、それでもこれだけの人数がお便りくれたんすよ。ありがたいことっす」
    「そうなんだ。これだけあると、全部紹介するのも大変そうだね」
    「ははは、役得役得」
    「え?」
     首を傾げるカノン。肩をすくめて口を閉じる清和。何のことだろうと聞くか聞かないかちょっぴり迷って、カノンは聞かないでおくことにした。ほら、なんとなく想像はつくし。
    「あ、それでね。清和くんたちにお知らせがあってここに来たんだったよ」
    「ほうほう?」
     声を重ねる部員たち。ノリのいいリアクションに笑って、カノンは両腕を広げてみせた。
    「おめでとう、【ラジオ放送制作部☆生ラジオ】が今年もライブ&ゲーム部門の2位になったよ!」
     おおお、と室内がどよめく。
    「速報? 速報する?」
    「いや待て、もうすぐ水着コンテストの投票終わるから。水着紹介先にやれるとこまで……」
    「乾杯じゃ! ペットボトルで乾杯じゃあ!」
     にわかに忙しく動き回り始めたラジオ放送制作部に手を振って、カノンは再び仁左衛門に乗り込んだ。

    ●審査員特別賞~猫のたまり場 ストラックアウト オブ 猫
    「昨日に続いて、お邪魔しまーす」
     そう言ってカノンが顔を出したのは、ストラックアウトの会場だった。
     【ストラックアウト オブ 猫】という企画名ではあるが、的とボールはごく普通の使いやすいものだ。
     では、何が猫要素なのかと言うと……。
    「いらっしゃい、よく来たわね」
    「なー」
    「みゃー」
     忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)と一緒に、猫たちがカノンを出迎える。その中の1匹は、よく見覚えのある猫だった。
    「あ、この子! 昨日わたしのボールを持ってっちゃった猫ちゃんだっ!」
     そう、ゲーム場内にいる猫たちはボールが大好き。猫の気まぐれでゲームの結果が思いもよらない方向に変わってしまうのが、このゲームの一筋縄ではいかない部分なのだ。
    「そんなこともあったわね。やはり、最後の方になると猫達も動き回るボールに反応してウズウズしてしまうみたい」
     くすりと笑う玉緒の表情を見るに、どうやらあの後も似たような事件が起きていたらしい。一方、当の猫は悪びれる様子もなく玉緒の足元ですましている。その口には、やはりボールがくわえられていた。
    「……また誰かのボールを拾って来たの?」
     カノンの質問に、猫はすっくと立ち上がって歩き出す。そして、丁度ゲームに挑戦していた白尾・白(ホワイトケルペロス・d07130)の足元にボールをころりと落とした。
    「あ、猫さんだー」
     思いがけず増えた持ち球を手に取って、ぽいっと的へ放る白。その様子を見て、カノンは玉緒と顔を見合わせて。
    「ああいうこともあるんだね」
    「時々ね。それで、今日は再挑戦かしら? あっちの的が今空いているわよ」
    「それじゃあ、今日も張り切って……いやいや違ったよ。今日は別の用事なんだ」
    「あら、何かしら」
     笑いながら猫を撫でる玉緒に、カノンは笑い返す。
    「今年の審査員特別賞は、【ストラックアウト オブ 猫】に決定だよ! おめでとうっ!」
    「本当? ……嬉しいわ、ありがとう」
     微笑む玉緒の周囲で、猫たちも喜ぶように鳴き声を上げていた。

    ●第1位~MM出張所 銀河鉄道 -Three Line-
    「ここが最後みたいだね。それじゃ、仁左衛門はお留守番よろしくねっ」
     仁左衛門から飛び降りたカノンは、しつらえられた巨大な舞台に近付いてみる。どうやら、ここは演劇の舞台だったようだ。
     今は上演していないようだが、近くにあるテレビで昨日の公演の様子が放送されている。今年のモチーフは、『銀河鉄道の夜』のようだ。
     画面の中では、鱗・海都(白昼夢のジョバンニ・d33124)演じるジョバンニと芳森・小晴(幼馴染のカムパネルラ・d31238)演じるカムパネルラが冒険している。いつの間にか不思議な建物の前迷い込んでいた2人の前に現れたのは……。
    「……ゴリラ!?」
     思わず海都=ジョバンニと一緒に叫ぶカノン。そう、建物のドアから出てきたのはゴリラ、もといグレゴリー・ライネス(案内役の山ゴリラ・d26911)だった。なかなか大胆なアレンジをする脚本家がいたようだ。
     テレビの下に張り出されている観客の感想を見ると、やはりこのゴリラは皆にインパクトを与えていたらしく、かなりの人気を博していた。
     隣の画面には、別の脚本で演じられる銀河鉄道の様子が映っている。斎倉・かじり(ジョバンニ翁・d25086)が老人となったジョバンニを演じるこちらもまた、愉快なアレンジが随所に効いている。
    「……」
     いや、愉快だ。愉快すぎた。愉快な乗客が愉快すぎるあまり、カノンはしばらく客席に抱きついて笑いと戦わなければならなかった。フィアー・スクリーム(泉の女神様派遣中・d31339)の女神業があんな感じで、さかアルルーナ・テンタクル(本日の特選ヒュドラ・d33299)があんな役で出てきて、ミュオン・ミューオニウム(カミュパネルラ・d26405)の計画があんな形でフィニッシュするとは。
    「はー、笑った笑った……最後のは、っと。うわぁ、すごい!」
     思わずカノンが声を上げたのも無理はない。画面いっぱいに映し出されていたのは、壮大な星空の映像だった。眩い星灯りをバックにタイトルが表示され、物語が始まっていく。
     望月・小鳥(乗客の少年・d06205)と御門・那美(乗客の少女・d25208)、一恋・知恵(列車に乗った少年・d25080)と文埼・マルタ(カムパネルラ・d30960)がそれぞれ演じる少年と少女が銀河鉄道を舞台に繰り広げる物語は、他の沢山の物語の登場人物を巻き込みながら展開していった。
     そして物語のクライマックスにシフォン・アッシュ(運命に抗う少女・d29278)が登場し、知恵の正体が明かされる。そのときを筆頭に何度も息を呑んだのは、カノンだけではないだろう。
     観客たちの感想を見ても、練り込まれたシナリオに脱帽という意見がそこここに貼られていることでそれが分かる。
    「いやぁ、濃い時間だったよ……まさにお腹いっぱいだね」
     などと呟きつつ、カノンは知恵たちが打ち上げをしている焼き肉パーティ会場に顔を出す。
    「今日は知恵のおごりだよ、どんどん食べて……あ、カノンちゃん。カノンちゃんも焼肉やってく?」
     網の前で肉が焼けるのを待ち構えていた知恵が、ひょいと振り返る。今は大丈夫と手を振って、カノンはふふんと胸を張った。
    「発表するよっ。今年の学園祭企画、ライブ&ゲーム部門第1位は【銀河鉄道 -Three Line-】になったんだ、おめでとうーっ! わたしも見たけど、最後のほうなんかもうほんとすっごく感動しちゃったよっ!」
     ぶんぶん両手を振り回して祝福するカノンに目を丸くしていたのも束の間、知恵は浮かんだ涙を指で拭って満面の笑みを見せた。
    「……ありがとう! みんな、やったよ!」
     言葉の後半は、肉を囲んでいた仲間たちの歓声にかき消された。うんうんと頷きながらそれを見届けて、カノンはそっとその場を後にする。

    「仁左衛門、ただいまー。ふう、レポート終了だよ! 何か冷たい物……あったあった♪」
     仁左衛門の冷蔵庫から取り出したラムネを飲み干して、カノンは未だ熱気の覚める気配のない学園を見渡してみる。
    「いやぁ、大盛り上がりだったねっ。来年もまた、きっと楽しいことがいっぱい……いやいや、その前に今年の学園祭を最後まで楽しまないとね!」
     そう、投票が終わっても学園祭はあと少しだけ終わらない。最後の最後まで楽しみつくすべく、カノンと仁左衛門は再びキュルキュルと校舎を目指すのだった。