●歓喜の門、開く
2015年12月、第2次新宿防衛戦における歓喜のデスギガス出現によって崩壊した新宿中心部は、復興工事が着実に進められていた。
急ピッチで、といかなかったのは、破壊をもたらした『黒い巨大な怪物』の存在が、見た者の心に刻まれていた影響もあるのだろう。
バベルの鎖によって情報が拡散しないとはいえ、当日現地に居た者達の記憶が消えるわけでもない。
いつ再び、あのような事件が起きるとも限らない。
その恐怖は、事件当時に現場にいた、あるいはデスギガス出現を遠方から目にした者達の心に刷り込まれていた。
そして、再発の危険を形にするように、再びデスギガスは出現した。
新宿駅の上空に巨大な『黒い渦』が現れたかと思うと、その穴を潜り抜けるようにして、デスギガスはその巨体を現実世界へと現す。
今回は、それだけにとどまらず、デスギガスに引きずられるようにして、さらに上空にも『穴』が開いていた。
そこから現れるのは、浮遊する島のような空間……プレスター・ジョンの国だ。
デスギガスは再建中のビル街をかつてのように再び脚部として吸い寄せるが、以前と異なり再建中のビル街は完全に足を形成するには及ばない。
『え、なんか足短く見えちゃうんじゃないこれ?
しょうがないから浮いてようっと。
じゃあアガメムノンくん、タロット出すよー。
赤の王の力、ちゃんと得られたかな?』
言いながらデスギガスは、胸の渦……『歓喜の門』に手を当てる。
蓋を開くような動作と共に、歓喜の門の奥からは現れるのは、事物を抽象化したような、奇妙な存在達だ。
それは、『赤の王』タロットと呼ばれるものの姿だった。
デスギガスと共に現れたタロットの群れは、渦巻く竜巻の如く、デスギガスを取り囲むかのように空へ、そして地上へと展開していく。
●ソウルボードからの奇襲
3C桜と7G蘭が共同で開催した壮行会から一夜明けた武蔵坂学園でも、新宿方面で生じた異変は見えていた。
華宮・紅緋 (クリムゾンハートビート・d01389)が、焦燥混じりの声をあげる。
「スペードエンドを現実世界に出すには、まだ時間がかかるのでしょうか?」
事前に行政に働きかけ、デスギガス出現直後から、周辺の封鎖は行わせている。
タロットがいる間、一般人が駅周辺から逃げることも困難であろうと予測されていたため、救出した一般人はスペードエンドに一時避難させることとなっていた。
それをするためには、当然ながらソウルボードの主である贖罪のオルフェウスの助けが必要なのだが……。
「そう急くな」
紅緋達の待ち侘びていた声が、虚空から響いた。
光の線が、ハート型とスペード型に空間を切り取る。
その向こうから現れるのは、慈愛のコルネリウスと贖罪のオルフェウスだ。
足を踏み出した少女の姿をした四大シャドウ達は、灼滅者達に自分が出て来た空間、それぞれの入口を示す。
「現地と繋げておきました。どうぞ」
「分かりました! ……と、その前に
キリング・リヴァイヴァーッ!!」
紅緋が指を天に突き上げ、新宿方面へと向ける。
着弾を確認すると、待ちかねたように灼滅者達が動き出した。
ハート型の入口は、ハートエンドを経由して、新宿駅上空に現れたプレスター・ジョンの国へ。スペード型の入口は、スペードエンドを経由して新宿駅中心部へと、それぞれ繋がっている。
ソウルボードはシャドウハンターのソウルアクセスを使い、精神体だけで行くのが灼滅者達にとっても常識だ。だが、現実世界に現れた2つのソウルボードに関しては、それすらも必要としていないようだった。
「流石は四大シャドウというところですかね……私達も行きましょう」
救護準備を担当する4D椿の蒼珈・瑠璃 (光と闇のカウンセラー・d28631)は、2つの入口のそれぞれへと物資を搬入するよう指示を出しながら、様子を眺めているオルフェウスに言った。
「シャドウの方達も、負傷したら治療しますので言って下さいね」
「慈愛の心でも示すつもりかも知れんが、不要だ。お前達ならば重傷で済むような負傷を負ったなら、我々は死ぬからな」
「……不便ですね」
「力の代償というものだろう」
オルフェウスは達観したように言った。
「しかし、少し前には私が現実世界に出るのを阻んだお前達が、わざわざ現実世界に出る力を寄越して来るとはな……」
歯車が一つずれていれば、オルフェウスとの共闘も無かったかもしれない。
敵味方も定かならざる混沌とした情勢の只中にいることを、瑠璃は感じていた。
そして、その情勢を造り出しているのは、紛れもなく武蔵坂学園なのだ。
●現実世界への進出
デスギガスと共に現実世界へ進出したシャドウの群れに、奇襲攻撃を行う組連合は果敢に攻撃を仕掛けていった。
スペードシャドウ軍と戦う8H百合の灼滅者達は、統率の取れていないシャドウ達を各個撃破していく。
「やはりシャドウは手強いですね……」
雲・丹 (きらきらこめっとそらをゆく・d27195)は、人造灼滅者たる雲丹めいた姿で箒に乗りながら戦況を分析する。
コルネリウスやオルフェウスもそうだが、現実世界に進出したことでシャドウ達の戦闘能力は大幅に向上していた。歴戦の灼滅者達の力でも、確実に勝利するとはいかないだろう。
「タロットの方は、あんまり強くないみたいだけど」
視線を、新宿駅周辺を取り囲むタロットの方へと向ける。
22種のタロット。そのいずれが弱点なのかは、いまだ判然としない。
「シャドウの数が全体的に少ないのは幸いっすね。シャドウ大戦の影響っすかね……」
プレスター・ジョンの国の側から攻め入ったギィ・ラフィット (カラブラン・d01039)は、無敵斬艦刀『剥守割砕』でシャドウを断ち切る。
シャドウの個体は強力だが、数はそこまで多くはない。
ソウルボードにおけるシャドウ大戦の間、シャドウ同士で殺し合って数を減らしていたこともあるのだろう。
今も、コルネリウスとオルフェウスがかき集めた残存のシャドウ達が、デスギガス側についたシャドウ達へと襲い掛かっている。
不幸にも駅にいた一般人が戦闘に巻き込まれないよう、6F菊は戦場に飛び込んではそうした人々を誘導していた。
一方で地上の新宿駅構内では、デスギガス出現の後も細かな震動が続いていた。
1A梅の灼滅者達は、その震動の源を目指さんと駅構内をひた走る。
震動の源は、新宿駅定礎。
かつての戦いのおり、デスギガスを食い止めたザ・グレート定礎が現れた地点だ。
その真下に広がる迷宮を突き破って、ご当地幹部『ザ・グレート定礎』は現れようとしていた。
昨年、一度は灼滅したはずの『ザ・グレート定礎』は、昨年六六六人衆による儀式によって、中途半端なかたちで生き返っていた。
力を大きく損なったザ・グレート定礎に、それでも利用価値を見出したのか、新宿定礎石周辺にはシャドウ達も集まって来ている。
「ザ・グレート定礎の力、デスギガスの力を制御する助けとなるやもしれぬ。邪魔をせぬことだ」
「好き放題にされても困るっすけど、制御されても困るっすからねぇ……」
シャドウ『黒蔦・怜』の言葉に、ギィは肩をすくめる。
シャドウ達の方も、灼滅者達が言葉で退くなどとは思っているまい。
●スサノオの力
かつて、昭和新山のイフリート達を駆逐するのを手伝った際の見返りとして、武蔵坂学園はスサノオを率いる『ナミダ姫』から、一度だけ助力するとの約束をしていた。
歓喜のデスギガスという強敵との戦いを前に、全ての組連合は、この権利を使う時機が来たとの見解で一致した。
とはいえ、相手はスサノオであるナミダ姫だ。
直接連絡を取る手段も無いため、日本各地にバベルの鎖が関与しない手段で連絡を乞う広告等を出したものの、今に至るまで連絡も来ていない。
本当に来るのかと灼滅者達が不安を覚えつつも奇襲を行っていた時、何処からか甲高い咆哮が響く。
「あれは……!」
新宿駅上空、デスギガスの右足でシャドウ達と交戦していた5E蓮の蒼月・碧 (碧星の残光・d01734)は、地上に忽然と漆黒の巨狼が現れるのを見た。
スサノオとしての本性を現したナミダ姫だ。
「来たんだ、ナミダ姫!」
『妾の力を求めたか、灼滅者よ。ならば昭和新山の借りをここで返そう』
黒狼が天を仰ぎ、咆哮をあげる。
それと共に、新宿の街のあちこちで『畏れ』が具現化された。
様々な怪物の姿をとった力ある『畏れ』は、タロットやシャドウ達へと恐怖も知らずに襲い掛かっていく。
『これで、借りは返した』
黒い巨狼はビルを蹴り、重さを感じさせない動きで大きく跳んだ。
去り際に噴き付けていった炎が、直撃を浴びたシャドウ達を吹き散らす。
「あんがとな、ナミダ姫! ……って、ありゃ一体……?」
加持・陽司 (炎の中学生・d36254)は、去りゆく黒狼の体の表面に、無数のスサノオの気配を感じ取り、顔をしかめた。ナミダ姫は数多くのスサノオを従え、喰らい、その強さを増しているのか。
「あんま良いもんとは思えんなぁ……」
「ナミダ姫、以前よりもずっと強くなってますね……!」
「ガイオウガの灼滅によって、大地の力はスサノオに渡ったというが、その影響もあるのだろうな」
野良・わんこ (握った拳は対話ツール・d09625)と不動峰・明 (大一大万大吉・d11607)ら2B桃連合の灼滅者達は、ナミダ姫とオルフェウス軍の攻撃によって生じた隙を縫うようにデスギガスの腹部付近に駆け上った。
そこを守るのは、デスギガス軍を事実上指揮してきた、大将軍アガメムノンの軍勢だ。
だが、その軍勢の様子に、灼滅者達は戸惑いを覚えていた。
「何だ? こいつらの士気の低さは……」
アガメムノンの直属軍であるにも関わらず、敵はまともに統率も取れていない。
その上、自ら先陣を切ることを良しとするアガメムノンは、いまだ出て来ない。
「赤の王タロットが現れている影響なのか、あるいは……」
アガメムノンは赤の王になることを目指していると、オルフェウスは推測していた。
だが、この状況は、アガメムノンに不都合な事態が起きたに違いないと、灼滅者達は直感していた。
もっとも、それは攻め入る好機ということでもある。
オルフェウス配下のシャドウ達と共に統率の取れていないアガメムノンの軍勢に痛打を与えると、2B桃の灼滅者達は地上へと撤退した。
●概念侵略
理想王プレスター・ジョンが支配するブレイズゲート『プレスター・ジョンの国』。
このブレイズゲートには、数年に渡り、慈愛のコルネリウスによって数々のダークネス達の残留思念が送り込まれていた。
だが、シャドウ大戦の戦況の悪化に伴って残留思念の収集も止まり、コルネリウスが敗北した後は大将軍アガメムノンの指示で、デスギガス軍の傘下に入った。
そして今、9I薔薇の灼滅者達が見る光景は、かつてのブレイズゲートとは様相を異にしていた。
ブレイズゲートのあちこちが変質し、『タロット』の似姿のようになっているのだ。
そのタロットを体から生やしたブレイズゲートの住人達は、侵入した灼滅者達へと攻撃を仕掛けて来る。
それに応戦しながら、ブレイズゲートに入った時に転がって来たJohn-Phoneに、文月・直哉 (着ぐるみ探偵・d06712)は声を叩きつけた。
「プレスター・ジョン、俺達にあんた達と戦う気は無い!」
何度目かの呼びかけに、John-Phoneの向こうから雑音混じりの声が届く。
『かつて赤の王タロットは、サイキックエナジーの枯渇に危機に瀕したシャドウをソウルボードへ導いた。それが無ければ、シャドウは滅びていたであろう』
電源すら入らないJohn-Phoneの向こうから、プレスター・ジョンの声が聞こえて来る。
『だが、タロットは概念侵略を行い、全てのシャドウを己と同一にせんと欲した。故に四大シャドウと呼ばれる者達は、タロットを歓喜の門の奥底に封じ込めた』
「回りくどい! それと今の状況に、何の関係があるんだ!」
『タロットは、歓喜の大将軍アガメムノンの影響を受けている。余が持つ『塔』『世界』『節制』も同じく……』
それっきり、John-Phoneは沈黙した。
プレスター・ジョンの言葉。そして、現れている敵の姿。
もしもタロットを取り逃がせば、その影響はシャドウ達に留まるものなのか。
赤の王タロットの解放が良くない事態に繋がることを、灼滅者達は誰に言われるまでもなく感じていた。
組連合 |
ファースト アタック |
ファーストアタック結果 |
1A梅 | (6)奇襲 | (6)暴走定礎の敵戦力が250減少! シャドウの他、定礎怪人も現れつつあるようです。 |
2B桃 | (10)奇襲 | (10)大将軍アガメムノンの敵戦力が150減少! 大将軍アガメムノンは、現在、自軍の指揮を執ることが出来ていないようです。
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3C桜 | テンションアップ | 敵戦力600までスルー可能に! 二つの組連合で協働し、武蔵坂学園での壮行会を開催しました。
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4D椿 | 救護準備 | 全ての戦場で、KO時の重傷/死亡率が5%減少! ハートエンド、スペードエンドそれぞれに救護拠点を設けました。
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5E蓮 | (12)奇襲 | (12)デスギガスの右足の敵戦力が200減少! シャドウの個体は強力ですが、数はそこまで多くないようです。タロットは逆に、弱いですが数は多いようです。 |
6F菊 | 一般人救出 | 重傷からの復活率が24%上昇!(慈愛のコルネリウスの影響で効果が上がっています。復活率合計74%) 行政への働きかけを行い、新宿駅周辺を封鎖しました。
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7G蘭 | テンションアップ | 敵戦力600までスルー可能に!(3C桜と合計) 二つの組連合で協働し、武蔵坂学園での壮行会を行いました。
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8H百合 | (5)奇襲 | (5)スペードシャドウ軍の敵戦力が200減少!
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9I薔薇 | (2)奇襲 | (2)プレスター・ジョンの国の敵戦力が450減少! 元々ブレイズゲートのため、敵はタロット群の次に弱いです。プレスター・ジョンもタロットによる侵食を受けている……?
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●今回のテンションアップ
残りの敵戦力が「600」以下の戦場をスルーできます。
●オルフェウス軍の攻撃対象
1回選択されるごとに、その戦場の敵戦力が300減少しています。
1A梅:(10)大将軍アガメムノン
2B桃:(6)暴走定礎
3C桜:(12)デスギガスの右足
4D椿:(10)大将軍アガメムノン
5E蓮:(10)大将軍アガメムノン
6F菊:(3)ハートシャドウ軍
7G蘭:(5)スペードシャドウ軍
8H百合:(10) 大将軍アガメムノン
9I薔薇:(10) 大将軍アガメムノン
●ナミダ姫の援軍
援軍要請を行いました。
全戦場の敵戦力が減少しました。
次回以降の戦争では、ナミダ姫の援軍は使用できません。