●審査結果発表は、迷宵ちゃんにお任せ♪
2日目を迎えた学園祭の雑踏の中を、野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)はきょろきょろとあたりを見回しながら歩いていた。
通いなれた武蔵坂学園の校舎も、学園祭の2日間ばかりは別の学校に来てしまったかのように雰囲気を異にしている。
だが、それで怖気づいてはいられない。今の迷宵ちゃんは魔法少女(コスプレ)で、ついでに役割が与えられているのだ……と、迷宵は手にした投票結果を握りしめる。
「……ってああ、紙に皺が!?」
慌てて紙を伸ばす魔法少女。どうも緊張しているらしい、と自己分析して一息つくと、迷宵は気を取り直して立ち上がった。
「では、行ってみましょう。審査結果の発表は、迷宵ちゃんにお任せです♪」
魔法少女らしいステッキを一振り、扮装をした迷宵は、学生たちの熱気に包まれた校舎の中を歩きだすのだった。
●3位 ~文月探偵倶楽部~
【着ぐるミステリー◆キミと事件ともふもふの夏】
「いやぁ、見つかっちゃったか。なかなか勘が鋭いなぁ」
「見つかるようにすごい殺気放ってましたよね……」
クロネコの着ぐるみが強い視線に内心でビビりながら、迷宵は文月探偵倶楽部の部長、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)の元を訪れていた。
「いえ、あの……」
「さあ、君も着ぐるみ探偵として、難事件に挑戦してみてくれ!!」
有無を言わさず、迷宵は直哉によって3つの扉の前に案内される。
3つの扉の前には、それぞれに着ぐるみが置かれていた。
最初の扉(と着ぐるみ)の選択により、大きく3つのルートに分かれているようだ。
「それじゃあ、これにしてみます……」
迷宵が選んだのは、タケノコの着ぐるみだった。
「よし、それじゃあ今から君はタケノコ探偵だ!!」
「は、はぁ……」
そのコラボレーションはどういう意図があるのか、などと疑問に思いつつ、謎のタケノコ探偵美少女となった迷宵は、直哉の指示に従って歩み出した。
茸探偵や切り株刑事との出会い。
旧華族邸での殺人事件を解決したタケノコ探偵迷宵は、元の場所に戻って来た。
出口では、沢山の学生たちが、部員たちと歓談している。
自分の行っていないコースに再度向かっていく者もいる。
「ふむ、これは確かに挑み甲斐がありますね……」
さも考え深げに呟く迷宵。
長時間タケノコ探偵になっていたせいで、性格がすっかり探偵寄りになっているようだ。彼女はそういう難儀な性格の持ち主であった。
「お疲れ様! 着ぐるみの返却はあちらで……」
案内にやってきた直哉に、迷宵はタケノコの着ぐるみから伸びた手を突きつける。
「部長さんに言わなければいけないことがあります……」
「?」
「文月探偵倶楽部は、今年の展示&体験学習部門、3位入賞です!!」
「おっ、マジで!?」
そう告げられ、直哉は嬉しげに握手を求めて来る。
その握手に応じると、迷宵は颯爽ときびすを返した。
「お、もう行くのか?」
「ええ、まだまだ次なる事件が私を待っています。では、私はこれで……」
「あ、ちょっと着ぐるみ着ぐるみ!!」
直哉に言われ、タケノコは赤面しながら戻って来た。
●2位 ~屋上菜園【万華境】~
万華境アロマテラピー体験教室
【万華境】のアロマテラピー体験が開催されている教室には、大勢の学生たちが集まっていた。教室に入った迷宵も、人が集まっている一角へと歩いていく。
「こちらでは、アロマテラピーの体験学習を行っています。一口にアロマテラピーと言っても、多種多様な香りがありますので色々とアロマオイルを用意しています」
部長である竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)が、訪れた学生たちを前に企画を説明している。
用意されているアロマオイルは、その数、実に100種類。
柑橘系など、迷宵も聞いたことがあるようなものをはじめ、名前も知らないような種類の植物のアロマまで揃えられている。
「良い香りがしますね……」
花々や植物の香りで心と体のバランスを保つアロマテラピー。
アロマデュフューザーのような専門器具を使う方法もあるが、アロマオイルをティッシュペーパーやタオルなどにとって、香りを楽しむだけでも、充分に満喫することはできる。香りを楽しむ方法を案内されつつ、訪れた学生達はそれぞれにアロマテラピー体験を楽しんでいた。
「森林の中のような香りでりらっくすですね……!」
「おー、これは気分が晴れそうないい香りだなー。雪緒のも雪緒らしくてぴったりな感じ!」
【サイプレス】の香りを楽しんでいる伊勢・雪緒(待雪想・d06823)と、【ローズマリー・ベルベノン】を手にとった橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)の2人は、お互いのアロマの香りを楽しんでいる。
「秋と言えば、な香りですね」
いまだ暑い中ながら、【金木犀】の香りに昇・冷都(主を探す放浪者・d26481)は秋を思い出している様子だ。
さっそく迷宵も、ジャスミンのアロマオイルを試させて貰う。
一滴出して、香りを吸い込むと、軽く陶酔感を伴って、甘美でエキゾチックな花の香りが広がった。
「ジャスミンティとかの香りに近いですね」
どこか神秘的で、どこかほっとするような香り。
迷宵はしばし香りを楽しむと、ラッピングしてもらった万華境特製アロマオイルを手に、手の空いた藍蘭の元へと向かう。
「あ、迷宵さん。もしかして……?」
審査員を務める迷宵の姿に、藍蘭が驚いたような表情を浮かべる。
迷宵は、そっとほほ笑むと、魔法少女のステッキをくるくると振ってポーズを決める。
「はい! 屋上菜園【万華鏡】さんの体験学習が、2位に選ばれました!」
そう伝えると、
藍蘭は嬉しそうにアロマオイルを包むと、迷宵に手渡すのだった。
●審査員特別賞 ~Fly High~
鳥人間コンテスト「Sky Trick」
迷宵は、クラブ『Fly High』の企画、鳥人間コンテスト「Sky Trick」の中継が行われている部屋へとやって来ていた。
部屋に設けられたモニターには、数々のハプニングを越えながら、果敢に鳥人間コンテストに挑戦する挑戦者達の姿が映し出されている。
鳥人間コンテストと名がついているが、人力飛行機械を使っていない。
会場では、カタパルトで撃ち出すことによって、強制的に灼滅者達を鳥人間にしていた。
「行きすぎましたな……む、宇宙船? 誇りある戦士、狩猟種族? あ、お待ちください、こんななりではありますが自分はエイリアンとかじゃあ」
宇宙へ届けと言わんばかりに、遥か上空へと向けて撃ち出される先手馬・勇駆(自己の憲兵・d23734)。
「うわっ! ちょ、ちょっとー、胃液飛ばすのやーめーてーくーだーさーいー!!」
カメラ目線でバッチリ決めたはいいものの、後を巨大カエルが追いかけて飛んで来るのに気付いて表情を引きつらせるトワ・トキアナライズ(アイアムレジェンド・d37796)。
「えっと……豆腐? ……角にぶつかる? ……いや、ちょっと意味解んな」
地鉛・要(カラカラと笑う条理・d31058)は冷却されないままのカタパルトに突っ込まれた後、飛行中に前方に現れた豆腐の角に頭をぶつけ、豆腐を焼き豆腐に変えながらずるずると落下していく。
「うわぁ……面白いですけど、素人にはお勧めできませんね……」
果敢に挑戦しては散っていく(たまに無事に帰って来る)挑戦者達の姿をモニター越しに眺めていた迷宵はぽつりとつぶやく。
自分じゃなくて良かった。というか、あんなものに乗って飛んだら迷宵は肉体的にはラグナロクであっても一般人なので二目と見られない有様になるだろう。サイキックでないので、灼滅者達は平然と帰って来るだろうが。たぶん。
「それにしても、この湖っていったいどこにあるんでしょう……?」
相模湖か奥多摩湖あたりが近い方だが、カタパルトで飛んでいる距離はどう考えてもそれを越えている。
加えて、あのカタパルトは何なのか。
イメージ映像なのか、クラブの独自技術なのか、ロケットチャレンジ学部あたりの学生が張り切ってしまったのか。謎だ。
「……深く考えないようにしましょう」
迷宵はそう結論づけると、Fly High部長のアメリア・イアハッター(ロマン求めて空駆けよ・d34548)に審査員特別賞の受賞を伝えることにする。
「でも、どこにいるんでしょう……? 飛行観測所……?」
いざとなったら最終魔法『当選者の発表は発送をもって換えさせて頂きます』を発動せねばなるまい。そんな覚悟を固めつつ、迷宵は歩き出すのだった。
●1位 ~Le jardin secret~
花園迷宮2017『シン・魔王の迷宮』
もはや毎年の定番となった、クラブLe jardin secretの花園迷宮。
その勢いは止まることなく、今年の企画である『シン・魔王の迷宮』もかなりの大規模迷宮となっているようだ。
相当数の学生が挑戦しては、あえなくリタイヤを強いられていた。
そうしてリタイヤして戻って来た学生達も、笑顔で再び並んでは迷宮内に吸い込まれていく。今年も魅力的なものを作り上げたのは間違いない。
「皆さんにしていただく事は至極単純。中で出会った部員の出す設問に答え、迷宮を進んでいくだけです」
すっかり【花園の魔王】が板についたらしい黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が、参加者を迷宮の中へと導いていく。
りんごの説明通り、奥へと進み魔王ことりんごのいるゴールを目指すのが、この花園迷宮なのだ。
「1回目が5人。2回目が3人。3回目が5人。 ……どれも半分に満たないだと……」
「わんこ、鞠、メルトのひと、メモ帳くれたひと、わんこ……鞠のひと入れて3人かねぇ。むーん……」
成果に首を傾げる穂照・海(狂人飛翔・d03981)に二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)。
グレゴリー・ライネス(シェイクスピア・d26911)や白河・冰眞(ゆきわんこ・d35037)は、それぞれ8人、7人と会ったと指で示している。
一度に遭うことが出来る迷宮の番人は限られているので、挑戦者の中には、全員に遭えるまでと何度も挑んでいる者もいるようだ。
「では、さっそく挑んでみましょう……大丈夫、迷宮に関しては魔法少女迷宵ちゃんの得意分野……のはず!!」
決意を固め、迷宵はシン・魔王の迷宮へと足を踏み入れる──。
そして数分後、迷宵はあえなくゲームオーバーになって迷宮の外に出て来ていた。
「あれぇ……?」
首を傾げる迷宵に、魔王りんごが親切に声をかけてくれる。
「あら、迷宵さん、ゲームオーバーになってしまったんですね。その気があるなら、何度でも挑戦してかまわないですよ。選択がひとつでも違えば、迷宮は大きく姿を変えて、また新しい出会いが待っていますからね」
「はい、それはまた後で……っと、その前にですね」
くるくるっと魔法のステッキを回してポーズを決めると、迷宵は声を張り上げる。
「おめでとうございます!! 皆さんからの投票の結果、展示&体験学習で、花園迷宮2017『シン・魔王の迷宮』が1位に選ばれました!」
「まぁ! 本当にありがとうございます! これも来ていただいた皆様のおかげです」
そういって、りんごは魔王の演技も忘れ、嬉しそうに微笑むのであった。
結果発表は終わったが、学園祭はまだまだ続いている。
企画を運営する者達と、企画に参加する者達。
皆等しく、残り少ない学園祭の時間を最後まで楽しもうと、迫る時を惜しむように企画へ飛び込んでいく。
「それじゃあ、私も最後まで楽しんで来ましょうか!」
審査員の役目を負えた迷宵もその輪に加わるべく、学園祭の雑踏の中へと足を踏み出していった。