いつもながら学園のクラブ企画はバリエーションと規模が規格外だ。
暑さもひとしおのこの時期、埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)はクラブ企画の喫茶店巡りをすることになり、興味津々であちこち覗いて回っていた。
「ふむ。流石の活気と言うばかりだな、安心する」
折しも昼時、ここは是非どこかで食べたいところ。
●第三位~-Feather-~
ファイターズ・カフェ【2017】
場所は地上よりひんやりとした空気が流れる地下空間。普段ならリングが設置されているそこには、落ちついた雰囲気の喫茶店が出現していた。中では赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)が水玉柄の大胆なビキニでスイカを配るというパフォーマンス中だった。
「あら、玄乃さん。ようこそいらっしゃいましたわ!」
ボリュームのある料理プラススイカという、夏バテ対策にはぴったりの取り合わせだ。健康的な鶉の肢体を見るに、やはり食は重要というもので。玄乃は用件を思い出して一礼した。
「報告に参上した。-Feather-の『ファイターズ・カフェ』が喫茶店巡り企画の三位に選ばれた。このカフェに人気があったということ、おめでとう!」
人気の秘密はパワー系の食事とスイーツ、それにほぼ鉄板でついてくるスイカかもしれない。熱中症対策も視野に入った……入っているのだろうか。
「あらまあ。それはありがとうございます」
驚きながらも嬉しそうな鶉のそばに、蒼月・碧(碧星の残光・d01734)が歓声をあげて駆け寄った。
「本当ですか?! 鶉部長、おめでとうございます!」
「おお、やったね! だけどどうしてボク辛いのに当たるのかな?!」
すぐ近くのテーブルでコロナ・トライバル(トイリズム・d15128)が真っ赤なカレーでのたうち回っている。運がよければ部長の鶉が食べているという激辛カレーも賞味できるが、耐えられるかには個人差があるのでご注意願いたい。
ともあれカップルでわけあうのもよし、一人で力の限り食べるのもよし。もちろんお残し厳禁のガッツリカフェ、まだ体験していない学園生にもお勧めなのである。
●第二位~ドキドキ☆実験ラボ~
『ちみどろ☆カフェ三昧』
校舎から少し離れた人気のない場所で、可愛らしい少女が手招きをする。
彼女の後についていくと、ひんやりとした研究所へ連れて行かれることだろう。怪しげな気配漂うテーブルでは入ったフラスコで赤い液体が泡立ち、肉が燃え上がる炎に晒されている。
怪しげな雰囲気漂うそこに足を踏み入れた玄乃は、ぐるりと見回して感嘆のため息をもらした。まめまめしく客を呼び込みをしていた有栖川・ドロシー(マッドネスアリス・d37334)へ向き直り、一礼する。
「いや素晴らしい。実は報告がある。ドキドキ☆実験ラボの『血みどろ☆カフェ三昧』がクラブ企画の喫茶店巡り部門で二位となった。おめでとう!」
暑い中頑張っていたドロシー(マッドネスアリス・d37334)がぱっと表情を輝かせた。「なんと?! 普段ラボに篭っている妾のセンスが炸裂した成果かの!」
「これは驚きだね。おめでとう」
加々見・亜梨子(グランギニョルの詠み手・d28107)がドロシーに祝辞を述べる。出てきたなんかすごく血に見えるスムージーを、玄乃はしみじみとすがめ見た。
「コンセプトカフェというのか。このなんとも言えない妖しさが人を惹きつけるのだろうな」
色鮮やかなメニューは食べてみれば美味しくて、そのギャップも人気の秘密なのかもしれない。
「二位か、おめでとう!」
居合わせた客たちの賞賛を浴びるドロシーも誇らしげなのだった。
●審査員特別賞~魔法使いの隠れ家~
『超・魔法のジュース屋さん』
静かなジュース屋があると聞いて訪れた玄乃は、バリエーションに富んだジュースのメニューに目を瞠った。炭酸、スムージーやミネラルウオーター、果汁100%のジュースなどの定番ばかりでなく、タピオカ入りなどもあって楽しみが多い。
それにフルーツが入るとあっては、目にも楽しいジュースとなる。だからか客もたくさん来店しているようで忙しそうだ。
そっと入っていくと西園寺・めりる(フラワーマジシャン・d24319)がメニューを手にやってきた。
「どうぞ、いろいろありますよー!」
「忙しいところに失礼。実はこちら、魔法使いの隠れ家の『超・魔法のジュース屋さん』が審査員特別賞ということで……そのお知らせに参上した」
「えっ?!」
めりるが目をぱちぱちさせる。来客たちもざわめいて拍手があがった。
「おめでとうございます!」
「おやおや、おめでとうですよぅ」
やってきていたワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・d24609)が目を細める。
歓声が上がるなか、玄乃が目礼した。
「こちらは色々な味が楽しめる上に、見ていてとても涼やかだ。暑い時には是非一杯頂きたくなる。理由はそうしたものだ。おめでとう」
あとはやはり、ギャンブリックな楽しみもあるだろう。種類が豊富だと何度も来たくなるもので。
暑い日に隠れ家のようなカフェで喉を潤すひと時を、楽しみたいものは多いのだ。
●第一位~股旅館~
『挑戦! 試練のまたたび館』
試練である。○○しないと出られない部屋なのである。
従ってスクワットをしたり、クイズに答えなければならなかったり、一人しりとりを続けたりと試練を乗り越える必要があるのである。しかしスクワットが当たろうものなら一度たりとも立ち上がれない自信が玄乃にはあった。
もっとも試練の中にはもっと――かなりのつわものも存在する。
曰く、好きな子の名前を叫ぶ。
曰く、誰にも言えない秘密を語る。
中には二人手をつないで見つめあわねばならぬものもある。
うむ、これかなりの試練。
そこここで阿鼻叫喚の試練が繰り広げられる中、幸い自己紹介を400字ぴったりで終わらせるぐらいで済んだ玄乃はなんとか出てくることができた。
出られない部屋から出られた客も、ふらりと立ち寄った客も入れるカフェ『ほっと一息またたび麺類カフェ』には獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)が笑顔で待ち受けていた。
「よくぞ来られた!」
健康にいいらしいマタタビ茶まで揃えたドリンク類、暑い中でもするする入る麺類に限定したメニュー。もちろん学園生がたくさんだから、量もマシマシで行けるカフェ。ちなみに猫飯もある。
暑い中でも屈託のないくるりの笑顔にほっと息をついて、玄乃はさっそく用件を伝えることにした。
「こちら、股旅館の『挑戦! 試練のまたたび館』は、本年度学園祭の喫茶店巡り企画第一位を獲得された。おめでとう!」
「連続優勝とは驚いたな!」
両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)が思わず声をあげ、間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)もにゅっと顔を出した。
「おっ、帰ってみればニュースだったぜ、おめでとう!」
後を絶たない訪問客、和気藹々と話しこんでしまう和やかな雰囲気も連続入賞の理由のひとつなのだろう。
「任務はやりとげたな」
ひととおり喫茶店巡りのレポートをまとめた玄乃は、暑気がいくらか和らいでいることに気が付いた。日暮れが近いようだ。
学園の活気はいつ見ても気持ちがいい。皆が笑顔で、親切で、楽しそうで。
これからもこんな風景が見たいと思う。
さて、学園祭はまだ終わらない。歩き回ってなんだか小腹も減ったところだ。
「次はどのあたりにお邪魔したものか……」
目移りしながら、玄乃はふらふらとまた喫茶店巡りへ身を投じるのであった。