学園祭クラブ企画 結果発表!

    刃鋼・カズマ
    ●いざ、展示&体験学習
     学園祭広場の熱気の中、刃鋼・カズマ(大学生デモノイドヒューマン・dn0124)はいつも通りの……いや、いつもより数段増しに真面目くさった表情で自分の手元を見つめていた。
     そこにあるのは、『極秘』と太字で記された封筒。中身は、今年の学園祭企画の投票結果だ。人目を忍ぶように素早くその中身に目を通し、ふむ、とカズマは思案する。

    「成程……この3企画の表彰と、インタビューに行くのか」
     あまりこうした場には慣れていないが、それが今日の使命なら。そう表情を引き締めて歩き出しかけ、ふと彼はもう一度封筒の中身を引っ張り出した。
    「……審査員特別賞」
     灼滅者達による投票の総数とは別に、各部門の審査員が贈る特別賞。そう言えば毎年そんなものもあった。カズマの首筋を一筋の汗が伝ったのはこの暑さのせいか、それとも。
     気を取り直すように封筒をしまい込み、賑やかな学園内を見回して、カズマはとりあえず歩き出す。

    ●第3位 ~文月探偵倶楽部~【着ぐるミステリー◆着ぐるみ探偵ここにアリ!】 「そこ行くあなた! 着ぐるみに興味はあるかい? それから、ミステリーにも興味はあるかい?」
     道行く人々に笑顔で呼びかける文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)の姿を目にして、しばしカズマは真顔で立ち止まった。
     何せこの気候の中だというのに、直哉は全身をすっぽり覆うクロネコ着ぐるみを着込んでいるのだ。暑くないのだろうか。いや暑いだろう。しかしあの笑顔……。そんな風に遠巻きに見つめるカズマの視線に気付いたのか、こちらを向いた直哉が太陽のような笑みを浮かべた。
    「おっ、もしやこの着ぐるみが気になるのかい? さあさあ、それならこっちへだぜ!」
    「確かに、気になると言えば気になるが……!」
     気になるの意味がちょっと違う気もしたが、カズマはクロネコ探偵に連れられるままに企画ブースへと足を踏み入れる。そこで待っていたのは、ヒツジ、デモノイド、ウナギ……3着の着ぐるみだった。
    「……」
     しばし無言でそれらと見つめ合った後、デモノイドぐるみを手に取ると、直哉の目が輝いた……気もした。
     まさか、着ぐるみでデモノイド寄生体を纏う日が来るとは……などとこっそり思いつつ、ネクタイと帽子を身に付ければ、そこに居るのはデモノイドヒューマンならぬデモノイド探偵・刃鋼・カズマだ。ひとつ深呼吸して、彼はゆっくりと難事件の待つ扉の向こうへ歩を進めた。

     妙に気の利くシロネコ怪人の頼みを受け、謎の白衣青年や探し人の実の兄、マグロ漁船の主、ツンデレっぽい女子にミステリアスな殺人鬼と妙に個性豊かな登場人物たちに聞き込みを行い、失踪事件の真相に迫る……作り込まれた舞台が、より一層物語の世界へと参加者を引き込んでくる様は、見事の一言だ。
    「そうか……分かったぞ。この事件、犯人は……お前だ!」
     生来の生真面目さからすっかり事件解決に没入していたカズマの指先が、そうして真実を指し示す。最後のひと波乱を乗り越えて入口へと戻ったカズマを、探偵倶楽部の部員たちが拍手で出迎えた。
    「おかえりなさ~いっ! どうデシタ? どうデシタ? こっちのカフェでは、みんなで感想戦とかやってるデス。ぜひぜひどうぞ♪」
     ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)に案内されるまま席に着き、何も頼まないのも悪かろうとパンケーキを注文しつつ、カズマは他の参加者達の話に耳を傾ける。
     全ルートを制覇した挑戦者の話などもあり、なかなかに興味深い。時間さえあれば、別のルートにも向かってみたいところだが……その前に、まずはこれを伝えねば。
    「文月。その、ひとついいだろうか」
    「おお、何だい?」
     にゃふふ、と笑う彼を、カズマの瞳がまっすぐに見つめる。
    「文月探偵倶楽部の企画が、展示&体験学習部門、第3位を獲得した」
    「お? おお??」
    「……おめでとう」
     すっと差し出した手を、直哉ががっしと両手で握る。客引きをしていた時と同じ楽しげな笑顔で、直哉はその手に力を込めた。

    ●第2位 ~Le jardin secret~花園迷宮2018『魔王の迷宮FINAL』
    「普段は男子禁制の庭園と聞くと、訪れるにも緊張するものだな……」
     誰にともなく呟いて、カズマは華麗な花園にしつらえられた迷宮の入り口を見つめる。涼しげな水着に身を包んだ黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が、「今日だけは特別ですよ」と悪戯っぽい笑みを浮かべてさっと迷宮の奥へと消えていった。
     迷宮を踏破し、彼女に再び会うことができればゲームクリアだというが、果たして。4つある扉のうち、『山』と書かれた扉を開けて、カズマは花園迷宮へと挑みにかかる……が。
    「くっ……霊犬相手とは言え、やはりいきなりは失礼だったか」
     もっふもふのサモエドを撫でようとして思いっきり怒られ、あえなくいきなり追い返された。同じくもふもふの誘惑に負けた挑戦者たちと反省を分かち合った後、今度は別の扉からトライしてみる。
     その後もお茶会にウォーターブリッツ、クイズ等々、多彩な『試練』と戦い、奥へ奥へと進んだ……の、だが。
    「……」
     お土産配布所でさっき貰ったお茶を飲みつつ、青空を仰ぐカズマ。微妙に悔しげな表情が示す通り、結局りんごを見つけてゲームクリアとはいかなかった。
    「しかし、手の込んだ迷宮だったな……随分準備にも力を入れたのだろうな」
     迷宮内に待ち構えている女の子の総数は、なんとのべ60人ほどもいるという。それだけの試練を用意するとは、さすが『魔王の迷宮』を名乗るだけのことはあるということだろうか。
     ちなみに、1度の探索で出会える試練、もとい女の子は最大で11人とのこと。実際にそれを達成した灼滅者もいると言うから驚きだ。
    「まだまだ、俺も修行不足という事か……いや、次こそは……? しかしな」
    「何度挑戦しても構いませんよ? 納得いくまで、迷宮攻略に挑んでくださいな」
     独り言をこぼしつつ首を捻るカズマに、出迎えにきたりんごがくすりと笑う。申し出に感謝の念を述べて、けれどカズマはすっと立ち上がり、出口の方へと目を向けた。
    「いや、それはまたの機会に。この後も、審査結果の発表があるからな」
    「ああ、そういえばそうでしたね。……あら、ということは?」
     もしかして、と瞬くりんごに、カズマは深く頷いて。
    「花園迷宮2018『魔王の迷宮FINAL』が、今年の第2位に選ばれた。……本当は、迷宮の最奥で伝えたかったんだがな」
    「ふふ、そう簡単にクリアできては面白みがないでしょう? ぜひ、またのお越しを♪」
    「ああ。次こそは、踏破と行きたいものだな」
     静かにリベンジの誓いを立てて、カズマは次の企画へと歩き出す。

    ●審査員特別賞 ~百合水仙の談話室~貴方のアルストロメリア
     百合水仙のブーケが目印の、部室棟の空き教室。その中に待っていたのは、百合ヶ丘・リィザ(水面の月を抱き締めて・d27789)と彼女の用意したティーセットだった。
    「いらっしゃいませ♪ まぁまぁ、お座りになって」
     誘われるままカズマが席につき、企画のおみやげであるアルストロメリアの花束を受け取ると、リィザはにっこりと嬉しげな笑みを浮かべた。
    「好きなんです、この花。花言葉は、『未来への憧れ』。素敵でしょ?」
    「未来、か」
     なるほど、それは確かにいい言葉だ。学生であり、灼滅者でもある自分達に贈られて嬉しい花に違いない。誇らしげな色彩を確かめるようにアルストロメリアの花をじっと見つめるカズマに、リィザはひとつ頷いて。
    「ええ。ですから、ここでは皆さんにひとつ聞かせてもらっているんです」
     ――貴方の夢は、なんですか?
     それが、この企画を訪れた際に聞かれる『貴方のアルストロメリア』。鮮やかに咲き誇る、未来への憧れ。
    「夢、か……」
     そう言えば先日、魔人生徒会の発案で紫陽花の花を見に行ったとき、皆と未来の話をした。その時のことも思い返しつつ、カズマは花束から視線を上げた。
    「他の皆は、どんな夢を?」
    「ん? そうですね……」
     天まで届く超高層建築。人類がエスパーとなった後の活動を。まだ漠然としているけれど、世界を巡りたい。大好きな人といつまでも。この学園での縁を、未来まで。
     形もそれぞれ違うけれど、語られた夢はどれも確かに未来を向いていて。いい花言葉だな、ともう一度アルストロメリアの花束に目をやって、カズマもまた、笑みを浮かべる。
    「未来を思って、見つめて、それを言葉にする……か。いい話の場を訪れさせてもらった」
    「そう言ってもらえると、嬉しいです。私も、皆の色んな未来の話が聞けてよかったな、って」
    「そうか」
     頷いて、カズマは自分のブーケの中から赤いアルストロメリアを1本抜き取った。それをリィザへ迷いなく差し出し、一言告げる。
    「今年の審査員特別賞は、この『貴方のアルストロメリア』に贈りたい。……どうだろう?」
    「ほんまに!? ……あっ、ええ。光栄です!」
     零れかけた関西弁を慌てて飲み込んだリィザが、その花とよく似た色の瞳を細めた。
     きっと、灼滅者達の――世界の未来は、鮮やかな色に満ちている。

    ●第1位 ~MM出張所~MM出張所 ~日本MM昔話~
     今年のMM出張所の演劇は、日本昔話の3本立て。「かぐや姫」「ターミナル太郎」「鶴の恩返し」と、誰にもなじみ深い物語にアレンジを効かせた舞台は、前評判も上々だ。
    「……ターミナル太郎??」
     何か1本、明らかに聞き覚えのないタイトルがあった。他の観客たちもそれは同じだったようなのだが……。
    「いやいや知らないよなんだよその昔話! ってなるに決まってるタイトルを、まさかこう使って来るとは……」
    「終わってみればこの話のタイトルはターミナル太郎以外無いな、と思わされました」
     などなど、どうにもちゃんと意味のあるタイトルだったらしい。こうなってくると気になるどころではない、見るよりほかない。幸い、上演終了した劇も録画でいつでも鑑賞できるという親切なエリアがあったため、さっそくそちらに移動して件の太郎を見てみることにするカズマ。
    「……」
    「えー、本日はみなさんようこそお集まりくださいました……」
     ティナ・シルバニア(幾千の波を越えて・d25133)の語りから、演劇はスタートする。
    「かぐや姫、鶴の恩返し、どちらも大変有名な昔話です。これらに並ぶ有名な昔話っていったらもう、あれしかないですよね。そう、ターミナル太郎!!」
     どれだ。つい画面の中のティナにつられて拍手しかけたが、そんな話は知らない。灼滅者の皆の感想を聞く限り、これはカズマの昔話知識が不足しているというわけではない……筈だ。
     とりあえず大人しく座ったまま、劇の鑑賞に集中する。桃太郎だか金太郎だか浦島太郎だか分からないが、とにかく何らかの『太郎』であるという青年の行く先は、果たして。
    「……」
     なるほど。この物語は正しく『ターミナル太郎』だ。と言うか、さもドタバタギャグのような顔をしてめちゃくちゃいい話だ。何なんだ、この演劇は。
     色んな意味で衝撃を受けながらふらりとロビーへ出ると、役者や裏方といったMM出張所の部員たち、それに劇を見に訪れた多くの灼滅者たちがあちらこちらで歓談に花を咲かせていた。
    (「花咲か爺さん……」)
     急に脳裏をよぎった先ほどの劇の一幕を思い出しかけ、思わずカズマは首を振る。その視界の端に、一恋・知恵(語り部・d25080)たちの姿がちらりと映った。どうやら、無事の終演を祝して乾杯中のようだ。
    「ちかりたーーーーーーーーーーーー!!」
    「おっつかれぇーーーーーーーー!!!」
    「今年もやり切ったーーーーー!!!」
     壮大な舞台を演じ切った縁者たちのまとう熱気は、観客のそれとはまた違う熱さを持っている。盛り上がっているところに歩み寄っていいものかどうか一瞬迷った後、自分の使命を思い返し、カズマはゆっくりと彼らの傍へ行ってみる。
    「……お疲れさまだ」
    「どうもー、ご来場ありがとうね!」
     屈託なく笑う知恵に続いて、他の部員たちも口々に観劇へのお礼を口にし、手にしたドリンクを掲げてみせる。それらに律義にひとつひとつ応えた後、カズマはこのクラブを率いる知恵へと向き直った。
    「今年も大盛況だったようだな」
    「おかげさまでね。頑張った甲斐もあったよ」
    「そうか。その頑張り、見事に実を結んだようだぞ」
    「ンン? それってどういうことデスカ?」
    「……もしや?」
     イローナ・フェケテ(瓜子織姫・d22907)が首を傾げ、グレゴリー・ライネス(仙人・d26911)が何かを察したようにバナナを握り締める。他の部員たちもどこか緊迫した風な視線を向けてくる中、カズマはいよいよ用意してきた言葉を口にした。
    「おめでとう。『MM出張所 ~日本MM昔話~』が、展示&体験学習部門の第1位に輝いた。……皆のようにうまい言い回しはできないが、祝福させてほしい」
    「!」
     無骨な結果発表と祝福に、瞬間歓声が沸き起こる。役者、裏方、それに観客。この劇に関わった全ての生徒やお客たちの盛大な拍手が、興奮した声が、たちまちロビーに響き渡った。
    「本当に、凄い物語だったと思う。……おめでとう」
     そう言い残して、カズマは演劇の会場を後にする。止まない祝福の気配を背中に未だ濃く感じながらふと見上げた空は、綺麗な夏の色をしていた。