アンリ戦争 総攻撃開始!

    ニコ・ベルクシュタイン VS ソロモンの悪魔サレオス

    ●『民間活動』

     フィレンツェでのグローバルジャスティスとの戦いに勝利を収めた灼滅者達。
     決戦に勝利し、グローバルジャスティスのサイキックハーツとしての力を継承したことで、武蔵坂学園の力はさらに強化された。

     が、次の戦いは2体のサイキックハーツを同時に相手にするもので、しかも戦える時間に限りがある。
     民間活動を担当する1A梅の灼滅者達は、人々の支持を取り付けるべく奔走していた。
     サイキックハーツとなったエスパーの祈りは、力を持っている。
     彼らの祈りを受けることで、灼滅者達が受ける被害は大幅に軽減される。

     もっとも、グローバルジャスティスとの戦闘前に協力してくれた日米伊の3か国にしてみても、すぐに新たな戦いが発生するというのは想定外だったようだ。
    「え、またすぐですか?」
     というのが、日本からくっついて来た外務省の担当者の最初の言葉だ。
     政府筋の方で、すぐにエチオピア大使館との連絡を付けてくれたので、日本に戻った灼滅者達は、そちらで早速、現地での受け入れに関する相談を始めている。
     ハイパーリンガルがあるので、意志疎通には不自由しないのは幸いだ。

     先のグローバルジャスティスは全世界の映像機器ジャックから、フィレンツェを唐突に光に包むという、分かり易い形で脅威を示してくれたので、『脅威に立ち向かう灼滅者達』というアピールもしやすかった。
     だが、今度のアンリやグラシャ・ラボラスはその存在すら知られておらず、またその行動の方針も『決着を数百年後に先延ばしにする』というもので、新たなサイキックハーツとの戦いを行うことを明らかにされた世界の人々の反応も揺れていた。
    『敵は数百年後まで待って、戦いを挑もうとしている』。
     正直にそう伝えたのは、祈りを集める上で誠実ではあっても有効とは言えなかった。

    「切実さが、薄いからか……?」
     前回に比べて人々の反応が鈍いのを、公開したWEBサイトを見ながら鈍・脇差 (d17382)は感じていた。
     グラシャ・ラボラスや不死王アンリは勿論、その配下のソロモンの悪魔やノーライフキングという存在が、どのように脅威であるか、世界の人々に伝わり切っていない。
     不死王アンリが武蔵坂学園の灼滅者だった事実を明らかにした影響で、『それは内輪揉めなのでは?』という疑問も呈されていた。
    「まあ、闇堕ちの恐ろしさも伝わってるんだろうけどね……」
     六合・薫 (d00602)は苦い表情を造った。

     もっとも、灼滅者達の発信する情報を多く仕入れている人達の意見としては、『今対策出来るのならば、灼滅者達が戦うのを止める理由はない』という考えが優勢のようだった。
     灼滅者が武蔵坂学園ほどの規模で現れたのが歴史上かつてないことだ。
     数百年後に同様に戦える者がいるのかは分からない。
     年若い(中には小学生すらいる)灼滅者だけを戦わせていることに道徳的な面で顔をしかめる大人達もいたが、今のところあまり多くはない。

     グローバルジャスティス戦の勝利もあって、灼滅者達はある種のヒーローとして捉えられようとしているが、『バベルの鎖』の影響で灼滅者達の存在すら知っていなかった世界は、そうした『特別な力を持つ者』をどう扱うか決めかねている。
     灼滅者達の方は、ダークネスも含め、『法の下で公平に扱う』ことを求めていたが、これが現実的に不可能な一種の努力目標でしかないことは、灼滅者側も認識していた。
    「実際、犯罪を犯しても捕え続けられませんからね」
     仮に死刑制度の無い国で、灼滅者が凶暴なダークネスを捕らえるのに成功したとして、それを拘束し続けるのは現実的ではない。
     今後、世界中で法律の見直しや追加は余儀なくされるだろうが、その際に灼滅者達が不利益を被らないようにするための働きかけは、必要となって来るのかもしれない。
    『灼滅者による治安維持組織の設立』等も呼び掛けてはいたが、それが合理的なものとして受け入れられるかは分からない。

     もっとも灼滅者達の方も人類を全面的に信用はしていない。灼滅者が『癒し』を得なければ闇堕ちすること、『人造灼滅者』の存在については公表していなかった。
    「『癒し』の問題……実際どうなんだろう?」
     自身も人造灼滅者である有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)は自問する。
     グローバルジャスティスの遺したスーパーコンピューターで、灼滅者が自然に闇堕ちしてしまう問題の解決方法を調べた者もいたが、灼滅者達もサイキックハーツとなった今、『癒し』が新たに必要かどうかすら分からない。
     長期的に経過を見なければならないだろう。

     バベルの鎖によって隠されていた世界の真実は広く知らしめられた。
     灼滅者達は、能力の平和的な利用をアピールしたりもしているが、灼滅者と、フィレンツェでの勝利で力を見せつけられた世界の人々との間の感覚の差は、徐々に埋めていくしかないのかもしれない。

    ●ロード・プラチナ

     一方で、7G蘭の灼滅者達によるロード・プラチナの調査は難航していた。
    「人物像すら掴めないんじゃね……」
     ライ・リュシエル (貫く想い・d35596)は天を仰いだ。物質的な手掛かりはほとんどない。
     長らくデモノイドの最強存在として、サイキック・リベレイターの稼働時から名前を知られていたが、ヴァンパイア勢力にいたという事以外、情報がほとんどない。
     一応、不確定な情報として、『予兆』を見たという灼滅者達の情報では、羅刹うずめ様(巫女)と共に和風の施設にいる少女の姿が目撃されていた。
    「日本国内にいる可能性が高いのかな……?」
     ミカエラ・アプリコット (弾ける柘榴・d03125)はそう考えるが、日本も広い。
     日本で闇堕ちした不死王アンリがエチオピアにいた以上、国外にいないと断言もできない。
     また、瑠架戦争の後に姿を消した朱雀門・継人が国外に出たとの情報も無く、灼滅者達は懸命の捜索活動を続けていた地球各地で、引き続き調査を行っていく。

     そうした中で、有力な情報を掴むことが出来たのはアンリ戦争が迫ってからの事だった。
    『放棄されたはずの研究施設に、何者かが出入りしていた』
     との情報が寄せられたのだ。
     桜井・夕月 (もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)が乗り込むと、そこには幾つもの筒状の装置があった。
    「デモノイドの製造装置……」
    「既に放棄されているようですが、足取りを掴むための手掛かりはあるかもしれませんね」
     朱雀門高校が文字通りに崩壊した後で造られた研究施設か。
     そこを管理していたのは、デモノイドロードであろう。
     爵位級ヴァンパイアの傘下に置かれ、その脅威を知るはずのロード・プラチナは独自の勢力としての勝利を諦めていないのだろうか。
     さらなる追跡調査を開始する灼滅者達は、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。

    ●エチオピアの地へ

     エチオピア政府は『国内に潜伏するダークネス組織殲滅への協力を受け容れる』として、受け入れを表明してくれていた。
     そこに計算はあるのだろうが、それは他国の政府にしたところで同じことだ。
     空港の規模の小ささを考慮して、周辺国から陸路で移動してくる灼滅者もおり、そうした移動のため、5E蓮では周辺各国に協力を求めていた。
     エチオピアの政情不安や隣国との紛争もあり、微妙な顔をされたりもしたが、拒否する国はなかった。
     アンリ戦争の結果がどうなっても『灼滅者』との付き合いはしばらく続くだろうという計算もあるのかもしれない。

     そうして様々なルートでエチオピアについた灼滅者達がまずやったこと。それは、『観光』だった。
    「なんだか修学旅行みたいになっていますね」
     蒼月・碧 (碧星の残光・d01734)は、他の灼滅者達を先導しながらそう感じる。
     エチオピアの関係者は『観光すると力が上がる』との説明には困惑していたようだが、実際ご当地ヒーロー達は観光を通じてエチオピアのご当地パワーを吸収していた。
    「グローバルジャスティスから得たガイアパワーを、延長することに繋がる……のかなあ?」
     そう思いつつ、木元・明莉 (楽天日和・d14267)は、灼滅者達にエチオピアの歴史を伝えるテキストを配布していく。

     エチオピアの首都アディスアベバは観光地としても注目されつつあるが、それでもホテル等は不足していた。
     現地での協議の結果、戦いまでの数日間、灼滅者達はエチオピア軍も協力して設営された野営地で宿泊することとなった。
    「野営を軍人さんが手伝ってくれたのは、楽で良いね」
     紫乃崎・謡 (紫鬼・d02208)は風を感じながら、炊事の煙が上がる野営地を見渡した。
     目的地であるラリベラの岩窟教会群周辺は高地で、そこに行くのに不便の無い場所に造られた野営地もまた涼しさを感じる。

     宿泊場所が野営になってしまった分、食事は満足いくものにしようと、坂崎・ミサ (食事大好きエクソシスト・d37217)をはじめとした灼滅者達は奮闘していた。ミサ主導の元、現地の人々の協力も得て、様々なエチオピア料理を用意していく。
    「日本料理もありますから、どちらでもどうぞ」
     エチオピア国内での物資調達だけでは難しいだろうという見込みは当たっており、灼滅者達は他国から持ち込んだ物資を主に使用することとなっている。灼滅者の人数が人数だけに、日本から持ち込んだ食料品なども、あっという間に減っていく。

    「人類発祥の地、人類全ての故郷とも言われる場所だからな! 気合入れていこうぜ!」
     加持・陽司 (陽射しを抱いて・d36254)が気勢を上げる。
     アンリが再び数百年後に現れれば、この地から人類の滅びは始まる。
     それを阻止するべく、灼滅者達は戦いへの決意を固めていった。

    ●超魔術空間『ソロモンの鍵』

     ラリベラ岩窟教会群の周辺で行方不明事件が発生していた。
     戻って来ない人々が、ダークネスの犠牲となったことは疑う余地もない。
     先週、ノーライフキングの腕が発見された地点では、サイキック戦が行われた痕跡があった。7G蘭が調査した結果、周囲ではアンデッドらしき存在の痕跡も発見されており、使者として送られたノーライフキングが、ソロモンの悪魔側と交戦したのだと推測された。
     サイキックハーツ同士でも、戦いは免れないものだ。
     同盟を組んだのが異常事態なのだろう。

     そして現地に赴いた灼滅者は、守備についていたアンデッドを一蹴し、超魔術空間『ソロモンの鍵』へ通じる入り口を既に発見していた。
    「魔法陣か」
     かつて、ソロモンの大悪魔達が出て来た時のものにも似た魔法陣だ。
     おそらく出口は幾つもあるのだろうが、ここが主要な入り口の一つであることは疑うべくもなかった。

    「突入開始だ!」
     魂の中のソロモンの悪魔に反応しているのだろう。魔法使いの灼滅者が魔法陣に魔力を注ぎ込むと『ソロモンの鍵』は灼滅者達を内部へ招き入れた。
     魔法陣から転送された先は、ラリベラ教会遺跡群にも似た雰囲気の遺跡だ。
     だが、その遺跡は先程まで自分達がいたものとは掛け離れた巨大なものとなり、奇妙な色に輝いている。
     異質さを感じながら、灼滅者達はサレオス、グラシャ・ラボラスを狙う者達と、アンリの方角の戦場を狙う者達で三手に分かれ、超魔術空間での戦闘を開始する。

     その後ろでは、1A梅が用意した報道班が撮影を開始する。
     他国と戦争中のエチオピアでは、撮影できない場所も多い。
     今回は、灼滅者達が撮影したものを、報道陣に提供することになっていた。
     そのためにエチオピアのテレビ局の者が、遺跡群外部で待機している。
     戦いの様子を人々に伝えることには、意味があると信じたいところだ。

    ●大悪魔サレオス

     無堂・理央 (鉄砕拳姫・d01858)が辺りを見回す。
    「あれ見て! あそこが怪しいんじゃない?」
     理央が指さす先には、湖にそびえ立つ巨大な城があった。

     ヴァレフォールの守る岩窟遺跡を突破した8H百合の前に現れたのは、広大な湖だ。
     城に通じる巨大な橋の上、城から出撃してくるソロモンの悪魔の軍勢は、灼滅者達を押し返さんとする。
     かつてのサレオスは、湖に灼滅者達を引き込み、ペースを握って来た。
     下半身が大鰐となっている彼にとって、水地は得意な戦場なのだろう。
     水上からも浮遊するソロモンの悪魔達が、その機動力を生かし襲い掛かって来る。

    「ですが、それに付き合う必要はありませんね」
     マジックミサイルを乱射しながら、椎那・紗里亜 (言の葉の森・d02051)は前を見る。灼滅者達は水上での戦闘には応じない構えを見せていた。
     ひたすら遠距離サイキックを駆使し、水に引き込もうとして来るソロモンの悪魔達を寄せ付けない。
     総攻撃の勢いは敵を圧倒しており、瞬く間に城は灼滅者達によって制圧されていく。

    「我らがこうも追い込まれるとはな……! その力、まさしく脅威!!」
    「サレオス!」
     ニコ・ベルクシュタイン (花冠の幻・d03078)達がかつて交戦したソロモンの大悪魔は、その時よりも大きく力を増して、灼滅者達の前に現れていた。
     大悪魔の下半身の鰐が巨大化し、その顎を大きく開く。
     喉奥に見えるのは、漆黒の闇だ。
     橋ごと喰らいながら前進してくる鰐を押しとどめるべく、ここまで温存されていた精鋭部隊が、サイキックを連射していく。
    「止まらない……!?」
     橋を崩壊させながら突撃してくるサレオスの勢いに、瞠目する灼滅者達。だが、範囲を巻き込むようなサイキックが通用していることに気付いた灼滅者達が声を上げる。
    「本体だ! 騎士の体の方を狙え!!」
     ダブルジャンプ等を駆使して側面に回り込んだ灼滅者達は、ワニの体をよじ登り、サレオスの体を目指し突っ走る。
     巨大なワニの体の上から生えたサレオスの上半身は、それに呼応して剣と盾を構え、迫る灼滅者達へと滑るように移動した。
     上半身は正統派の剣士、下半身は狂暴極まりないワニ。
     二面性を持つ大悪魔をめがけ、ニコは構えたガトリングガンの弾丸の放射を浴びせた。
     放たれる無数の銃弾を、しかしサレオスはその盾をかざして受け止める。
     だが、その瞬間、ニコの銃弾はサレオスの動きを封じていた。
    「――二年半だ。待っていたぞ、此の時を!」
    「これが狙いか!」
     ニコの声を合図に、8H百合の灼滅者達のサイキックが一斉に突き刺さる。
    「見事……!」
     賞賛の言葉を発したサレオスの体が一気にしぼみ、空中に溶けるように消える。
     サレオスの上半身は湖に向けて落下し、そして水に落ちる前に消滅する。
     
     サレオスのいた湖上の城の奥には、魔力を宿した巨大な水晶球が安置されていた。
    「これが、『ソロモンの鍵』の絶対空間化を助けているんですね」
    「おそらくな。オセの方にも同じものがあるんだろう」
     頷いて、ニコは水晶球へとサイキックを放つ。
     水晶球が粉々に砕け散ると共に、灼滅者達は空の紫色の雲の動きが緩やかになったのを感じ取る。
     絶対空間の完成が遠のいたのだ。

    ●アスモダイ

    「……アンドレアルフス、沢山いた気がするんだけど」
     荒谷・耀 (一耀・d31795)が頭痛をこらえたような表情で言う。
     アンドレアルフス『だけ』が守っている強烈なブロックを突破した灼滅者達は、アスモダイの守る空間へと突入していた。
     先ほどまで岩窟の遺跡の光景は次第に変化し、灼滅者達はカジノを思わせる豪奢な空間へと入り込んでいく。
    「これが、アスモダイの守る空間なのですか?」
     寺内・美月(小学生人狼・d38710)が戸惑ったのも無理からぬことだろう。

     賭博闘技を通じてサイキックエナジーを蒐集再分配する『アスモダイ・ギャンビット』。その儀式の考案者であるアスモダイは、『遊技場総監にして欲望を司る者』。
     世界的な賭博の広がりも、彼女の存在と無関係ではない。
    「アスモダイ・ギャンビットを仕掛ける余地は与える必要はないっす。出て来たら、その瞬間に倒す!」
     ギィ・ラフィット (カラブラン・d01039)は、その恐るべき能力はこの乱戦の中で使えるものではないと認識していた。
     狙い通りの心理状況に持って行くためには、会話が必要だが、この期に及んで、敵と会話を交わす必要は無い。

    「さらに先へ向かう人達もいますからね。ここの敵は引き付けないと……」
     美月の振るったガンナイフが、切りかかって来たブレムミュアエを切り捨てる。
     アスモダイの元にいるソロモンの悪魔達は精強だが、9I薔薇は一歩も引くことなく、その力を叩きつけていく。

    ●アンリへの道

     白薔薇の君、そして倭華裏狂姫という2体のノーライフキングは、それぞれに性質は違えど、サイキックハーツ化したアンリによってブレイズゲートの分割存在から救出された者達だ。
     アンリへの道を閉ざしている彼女達に対し、2B桃、3C桜の灼滅者達は、全力の総攻撃を加えていた。
     奥に至るにつれて戦場は迷宮化し、その行く手を阻まんとするが、灼滅者達は反撃を受けながらもそれを踏破し、ノーライフキング達を追い詰めていく。

    「敵の数がだいぶ少ないな」
     白薔薇に彩られた迷宮を踏破した2B桃の不動峰・明 (大一大万大吉・d11607)は、白薔薇の君と交戦しながら、そう感じていた。
     敵の戦力には、事前に予測されたように、緋鳴館から連れ出して来たと思しきダークネス達も多数混じっている。
    「でも、そっちの存在も予測済み……対策は出来てるよ!」
     柳・真夜 (自覚なき逸般刃・d00798)の拳が、前を遮った淫魔を殴り飛ばす。
     2B桃の灼滅者達は、迷宮内で遭遇して来たダークネス達をことごとく灼滅して前進し、それでもなお戦力的な余裕すらあった。
    「この地点を制圧し、橋頭保とする。行くぞ!」
     明の号令と共に、白薔薇の君を含めた残敵へ向け、さらなるサイキックの一斉攻撃が開始される。

     優勢の状況は、倭華裏狂姫と交戦している3C桜の灼滅者達にとっても同様だった。
    「イタリア軍の人からレクチャーして貰った集団戦のやり方……サイキック戦だと勝手が違うことも多かったなあ」
     やはりサイキックを用いた戦闘においては、何年にも渡って実戦を繰り返して来た灼滅者達の方が一日の長があるのかもしれないと、仲村渠・弥勒 (マイトレイヤー・d00917)は思う。
     今回は場所が迷宮ということで、退路を確保する部隊も用意していたが、この戦場ではそこまでの必要は無いようだ。
     殲術再生弾の力で、たとえ死ぬような傷を受けても重傷で止まるのだ。
     今の灼滅者達は、負けさえしなければ被害は軽視できる。

     そして交戦の末、2体のノーライフキングは灼滅される。
    「ソロモンの悪魔とノーライフキング、どちらも単体ではご当地怪人勢力程の強大さは無いのか」
     二つの組連合の灼滅者達は、そう理解する。
     ソロモンの悪魔は一時はご当地怪人勢力の傘下に収められるほどに弱体化し、ノーライフキングは灼滅者達によって首魁達を討ちとられ、甚大な被害を受けた。
     ダークネスを可能にするという巨大な願望のために一丸となっていたグローバルジャスティス傘下のご当地怪人勢力とは、サイキックハーツとなった時点で差があるのだろう。
    「数百年後に望みをかけるという事は、現代では勝ち目がないと判断したってことでしょうね」
     フローレンツィア・アステローペ (紅月の魔・d07153)は言って、制圧した各地点の拠点化を開始した。

    ●不死王アンリ

     不死王アンリのいる最深部へと辿り着いた6F菊連合を出迎えたのは、超魔術空間に浮かぶ巨大な『迷宮』だった。
     一斉砲火で『迷宮』の破壊困難と、外部の敵の排除を確認すると、灼滅者達は内部への侵攻を開始する。

     そして迷宮は、無数の入り口と無数の隘路、無数の行き止まりと待ち伏せを備えて、灼滅者達を待ち受けていた。
    「って、なんて数……!!」
     突破して来た迷宮とは桁違いの数の敵に、エミリオ・カリベ (星空と本の魔法使い・d04722)の頬を汗が伝う。
     総攻撃を仕掛けてなお、アンリの元には万を超える数の戦力がひしめいていた。
     そのほとんどは、アンデッドを中心とした眷属だ。
     ノーライフキングもいるとはいえ、決して平均的な力は強くはない。
     だが、問題はその数だ。
     ソロモンの悪魔達からの援軍を加え、迷宮の奥に潜むアンリは、膨大な数を盾として、灼滅者達を寄せ付けない。

    「完全に時間稼ぎに入ってますね……』
     アリアドネの糸をはじめESPを駆使し、迷宮内の道を確認していくが、アンリの元へ辿り着くことはいまだ出来ていない。
    「これは他のソロモンの悪魔からの援軍を絶つ方が先決かも知れないな」
     サレオスの灼滅と共に送り込まれていた援軍に乱れが生じたことは判明している。
     総攻撃により、アンリの元へはいきなり攻め込める。
     だが、それが短時間での制圧には直接繋がらないことを、灼滅者達は感じていた。

    ●グラシャ・ラボラス
     超魔術空間『ソロモンの鍵』。
     その深部で、4D椿は無数の悪魔の軍勢との戦いを迎えていた。
     もはや足場すらない、宇宙空間を思わせる無重力の空間。
     意志の力によってのみ移動を可能とされる、その空間の中で、戦いは開幕から激戦の様相を呈していた。
    「来るぞ! グラシャ・ラボラスが来る!!」
    「何だと!?」
     先行偵察班がもたらした報告に、白石・明日香 (教団広報室長補佐・d31470)達が態勢を整えるのと、
    『死、ねぇぇぇぇぇ!!!』
     ソロモンの悪魔達が放った強烈な魔力の奔流が、灼滅者達を薙ぎ払うのは同時だった。なんとか耐えた灼滅者達は、前線に現れる、巨大な悪魔の姿を見る。
    「いくら相手のホームグラウンドだからって、やり過ぎだろ……」
     明日香は思わず唖然としながら、その存在を見上げる。

     サイキックハーツ『グラシャ・ラボラス』。
    『殺戮猟犬』の異名を取り、ハルファスの相棒として数々の戦争を勝ち抜いたソロモンの大悪魔。
     贖罪のオルフェウスの元に攻め込もうとしていた殲術病院の攻め滅ぼした戦いでブレイズゲートに呑み込まれたグラシャ・ラボラスは、分割存在から再起を果たし、巨大なサイキックハーツとして、灼滅者達の前に姿を現していた。
     上半身は、殲術病院へと攻め入った時と同様の形状。
     だが、その下半身は、肉塊のように変異し、無数の悪魔達の顔が浮かんでは消える。

    「冥土の土産に覚えておけ!
    『殺戮』のサイキックハーツ、グラシャ・ラボラスの名を!」
     グラシャ・ラボラスの殺戮本能に衝き動かされるかの如く、ソロモンの悪魔達は一斉に損害などお構いなしの猛攻を仕掛けて来る。
     応戦する灼滅者達は凄まじい勢いで敵を撃破していくが、ソロモンの悪魔達からの反撃に、倒れる灼滅者もたちまち増えていた。
     ルフィア・エリアル (廻り廻る・d23671)はグラシャ・ラボラスの下半身に張り付いた大悪魔達の顔による詠唱を聞きながら、その力に目をみはる。
    「グラシャ・ラボラス……あの力の前に小細工は通用しないか!」
     過去、灼滅者達が交戦した中で単体最強のダークネスは六六六人衆第一位パラベラム・バレットだが、グラシャ・ラボラスの力は、それをさらに上回っている。

     だが、交戦を続ける中、一瞬サレオスの頭部が揺らいだ。
     別の悪魔の頭が寄り集まって、サレオスの頭部のような形を作る。
     グラシャ・ラボラスは大仰に舌打ちした。
    「サレオスがしくじったか。貴様ら、分かってんな。この時代最後の戦いだ! 一歩たりとも退くな! 大悪魔を殺した連中に、全ての魔力で教えてやれ! 誰に喧嘩を売ったかをなァ!!」
    「な、なんなの、あの大悪魔……?」
    『ハルファス軍』というソロモンの悪魔の軍勢は、どちらかといえば理知的な大悪魔が多く所属していた。が、どうやらグラシャ・ラボラスは違うようだ。
     一瞬動揺しかけた市川・朱里 (高校生ダンピール・d38657)は、自分達の侵入した方角で魔力の反応を感じ、仲間達に警告する。
    「大魔術結界が作動するよ! みんな、退いて!」
    「白百合とリュシアンか。……ならば、最後の追撃と行くか!」
     自分を守るための結界すら邪魔だと言わんばかりの勢いで猛追してくるグラシャ・ラボラスを逃れ、灼滅者達は『ソロモンの鍵』の入り口へと帰還する。
     殲術再生弾の力により、命を落とした者こそいない。だが、グラシャ・ラボラスを撃破することが困難であろう事を、灼滅者達は感じていた。
     とはいえ、灼滅するための手掛かりはある。
     サレオスの灼滅と、グラシャ・ラボラスの力が僅かに減じたのは同時だったのだ。
    「アンリは援軍、グラシャ・ラボラスは魂の力……どちらも大悪魔から力を得ているのか」
    「どちらのサイキックハーツを倒すにも、大悪魔達の戦場を攻略することが必要か」
    『絶対空間』の完成は迫っている。
     超魔術空間ソロモンの鍵での戦いに勝利を収めるべく、灼滅者達は作戦を考え始めるのだった。

    組連合 総攻撃 総攻撃結果
    1A梅 民間活動 重傷になる確率が42%緩和!
    重傷からの復活率が32%上昇!

    アンリやグラシャ・ラボラスの脅威を伝えきれず、支持を取り付けるのにやや苦戦しました。
    2B桃 (14)総攻撃 (14)白薔薇の君を制圧!(減少戦力:2000)
     ノーライフキング白薔薇の君を灼滅し、(14)を制圧しました。(14)(15)の制圧により、(16)を攻略可能になりました。
    3C桜 (15)総攻撃 (15)倭華裏狂姫を制圧!(減少戦力:2000)
     ノーライフキング倭華裏狂姫を灼滅し、(15)を制圧しました。(14)(15)の制圧により、(16)を攻略可能になりました。
    4D椿 (13)総攻撃 (13)グラシャ・ラボラスの敵戦力が9000減少!
     グラシャ・ラボラスは『単体戦力として過去最強』です。大悪魔達の灼滅により、その力を大きく削ぐことが出来ます。
    5E蓮 超テンションアップ 戦力900以下の戦場をスルー可能に!
    また、勝利1回ごとの減少敵戦力が「270」に!

     様々な局面を考慮し、移動や現地の情勢にも気を遣い、優れた受け容れ準備を整えました。また観光によりエチオピアの『ガイアパワー』を感じ取っています。

    6F菊 (16)総攻撃 (16)不死王アンリの敵戦力が10000減少!
     不死王アンリの迷宮に挑み、敵戦力を減少させることに成功しました。敵の質は高くありませんが数が『非常に多い』です。その戦力は、大悪魔達からの援軍に支えられています。
    7G蘭 対サイキックハーツ調査 サイキックハーツ「ロード・プラチナ」の調査を実行(作戦内容修正:240)
     研究施設を対象とした調査により、デモノイド製造の痕跡を発見しました。追跡調査中です……。
    8H百合 (9)総攻撃 (9)サレオスを制圧!(減少戦力:4000)
     ソロモンの大悪魔サレオスを灼滅し、(9)を制圧しました。
    ・「絶対空間」完成が『第6ターン終了時』に遅延!
    ・(16)不死王アンリの戦力が大きく減少!
    9I薔薇 (10)総攻撃 (10)アスモダイの敵戦力が9200減少!
     ソロモンの大悪魔アスモダイの『アスモダイ・ギャンビット』は使用されませんでした、本人が直接対面していない乱戦では使用できないか、困難なようです。

    ●今回の超テンションアップ

    戦力「900」以下の戦場をスルー可能です。
    また、勝利1回ごとの減少敵戦力が「270」に上昇しています。

    ●今回の撤退条件

    撤退は行われません。