サイキックハーツ大戦 総攻撃開始!

    不動峰・明 VS ロード・テルル

    ●帰国、そして

     成田空港に着いた瞬間、盛大なカメラのシャッター音が、海外での連戦を終えて帰国した灼滅者達を出迎えた。
     鈍・脇差 (ある雨の日の暗殺者・d17382)にアトシュ・スカーレット (黒兎の死神・d20193)、
    「こういうのにも慣れて来たな」
    「テレビ出演とか増えてるし、もう有名人?」
    「何を今更」
     民間活動を担当する1A梅のうち、マスメディア対応者はこのまま空港で記者会見、他の灼滅者達は戦いの準備を進めるため、武蔵坂学園へと向かう手筈だ。

     3体のサイキックハーツが同時に攻めて来るという事態、そしてそれがいかに脅威であるかを、灼滅者達はエチオピアにいるうちから、丁寧に世界の人々に発信していた。
     戦いの原因と敵の戦力、武蔵坂学園の陥落が危険な事態をもたらす事実を伝え、応援を求めていく。
    「世界中の人々の祈りと応援が私たちの力となり、未来を切り開くのです」
     九十九坂・枢 (銹びた約束・d12597)は、テレビに出演してそう訴える。
     並行して日本政府には、帰国前から避難活動の必要性を伝えており、瑠架戦争の時を上回る規模で、大規模な避難が進められていた。

     エチオピアでの戦いの様子は録画され、編集を終えて世界に流されている。
     灼滅者達ですら、追い込んだとはいえ灼滅できなかったグラシャ・ラボラスをはじめ、合計3体もの難敵……上位の爵位級ヴァンパイアを加えれば、さらに多くの強敵が攻め寄せて来る事態の危険性は、マスメディアを通じ、広くアピールされている。

     もっとも『攻めて来られる前に先制攻撃で各個撃破しろ』という意見も、ネットにはちらほら見受けられていたが。
    「まあ予知のことを説明すると面倒になりそうなのは確かだけど……」
     アリス・バークリー (ホワイトウィッシュ・d00814)が、そうした反応を見ながら言う。
     もっとも、民間人はさておき、政府や自衛隊、米軍などは、灼滅者達が何らかの手段で予知を行っていることには気付いているようだった。
     とはいえサイキックアブソーバーには及ばぬまでも、『バベルの鎖』には未来の自分に降りかかるであろう災難や厄介事を、微かな前兆と共に察知する力がある。灼滅者達の方から言い出さなければ、幾らでも誤魔化せる範囲ではある。
     サイキックアブソーバーという存在の扱いの難しさに今更ながら頭を悩ませつつ、灼滅者達は応援を求めていく。

    ●七夕に祈りを

    『これを最後の戦争としましょう!』
     フローレンツィア・アステローペ (紅月の魔・d07153)をはじめ、3C桜は、戦争前日に行う壮行会を通じ、その決意を灼滅者達に広げようとしていた。
     折しも7月7日七夕の夜、勝利すれば翌週行われるであろう学園祭を先取りしたかのように、壮行会会場には夏祭りのムードが漂っている。

     今まで数々の死線を潜り抜けて来た灼滅者達。
     ここでヴァンパイア、デモノイド、ソロモンの悪魔といったダークネス達がサイキックハーツと共に消滅すれば、その戦いも決着を迎えることとなる。
     灼滅者達が勝利すれば、従来の決着とは異なるため、サイキックハーツに魂を同一にしていない僅かなダークネスは残る他、今後エスパーからの闇堕ちによってダークネスが現れるようなこともあるだろう。
     だが、ダークネスが人類を支配するような時代は、ついに終わりを迎えるのだ。
     既に全人類がサイキックハーツとして潜在的なエスパーになり、バベルの鎖の拡散阻止効果が無意味化されたことで、それも半ば達成されようとしている。あとは、勝つだけなのだ。ダークネスによる支配の打倒を前に、灼滅者達の士気が低かろうはずもない。

     また、民間活動や過去の戦争などを通じ、灼滅者達に助けられた者達の中には、わざわざ学園まで駆け付け、熱のこもった応援の言葉をかけてくれる者もいた。
    「もう何年も前ですけど、捕らえられていたのを助けてもらったんです」
    「新宿でビルごと上空に飛ばされた時に、灼滅者の方に助けてもらいまして……」
     彼らの存在は、灼滅者達がこれまでやって来たことがどれだけ多くの人を助けて来たかの証拠だろう。

     武蔵坂学園が攻撃対象となったことで避難を余儀なくされた人々が集まる避難所での反応は、あまり芳しいものではなかったが、それでも灼滅者達は理解を求め、彼らとの交流に挑んでいく。

     やがて時間が過ぎ、訪れていた人々も去り、避難を終えた武蔵野市の夜に武蔵坂学園だけが照らされる。
     壮行会の会場に用意された七夕の笹には、平和な時代に向けた灼滅者達の願いを書いた短冊が連なっていた。

    ●決戦の朝

     7月8日の朝は、闇と共に始まった。

    「では、決着をつけよう」

     空から舞い降りて来た朱雀門・継人が宣言する。
     そのマントの下から、膨大な闇が彼の体から溢れ出した。武蔵坂学園を覆い尽くすように広がっていく闇の中に、無数のヴァンパイア達が現れ出る。
     継人が瑠架戦争の際に持ち出して来た戦力が、ごく一部でしかなかったことを、灼滅者達は理解していた。
     ヴァンパイア最大の特徴は『血族を伴って闇堕ちする』が故の闇堕ち効率の良さ。
     その魂の総量は、他の種族を圧倒している。

     そして闇の中から天をも衝くような巨樹を思わせる、巨大な塊が学園の北側に屹立する。
    「あれが、剣樹卿アラベスク……!!」
    「本当にヴァンパイアなのか!?」
     鎖に包まれた巨大な存在を目にした灼滅者達が、驚きと疑問の声を上げる。
     さらに武蔵坂学園の周囲には、ソロモンの悪魔やデモノイドが十重二十重に群れを為していた。
    「悪魔達、学園の東側のどこかに転送の出口用意してるな」
     瑠架戦争の時のことを思い出し、灼滅者達は顔をしかめる。
     殲術再生弾を発動し続けている灼滅者達が集う武蔵坂学園を攻め落とすのは、三勢力の戦力をもってしても困難を極めるだろう。
     だが、ダークネスは武蔵坂学園を陥落させる必要は無い。
     エクスブレインをもってしても一切の対抗手段が見いだせないアラベスクの『アラベスク・ソード・カタストロフ』が発動すれば、決着はつく。
     敵がそれまでの時間を稼ぎ切れるか、灼滅者達が勝利を収められるか。
     戦いは、そこにかかっていた。

    ●アスモダイ

     武蔵坂学園から出撃した6F菊連合は武蔵坂学園に迫るソロモンの悪魔アスモダイの軍勢と激突した。高所から戦場を見渡しながら、神無日・隅也 (鉄仮面の技巧派・d37654)が冷静に敵の戦力を分析する。
    「……眷属の割合が、多いな……」
    「既に分離させるに足るだけのソロモンの悪魔が居ないんだろうね」
     エミリオ・カリベ (星空と本の魔法使い・d04722)がマテリアルロッドを振るい、こちらに近付こうとした悪魔を叩き落とす。

     ソロモンの鍵での戦いで、ソロモンの悪魔側に残った戦力はごく僅か。
     とても戦争を参加できる数ではなかった。
     その状況を補うため、サイキックハーツ『グラシャ・ラボラス』は、自分の力を削って眷属を造り出し、戦力としている。
    「……瑠架戦争の際の、瑠架と同じか……」
    「だとすると、相当弱体化していそうですね」
     おそらくは、他の大悪魔の戦場も同様なのだろう。

     だが、いまさら眷属たちで灼滅者に対抗できようはずもない。
     敵陣を一瞬にして食い破った灼滅者達は、大悪魔アスモダイへと肉薄していく。
     賭けに敗れ、それでもなお生きながらえたアスモダイは、その翼を開き灼滅者達へと獰猛な笑みを向ける。

    「来たか! 敗れた身だが、手元にチップが残っている限り、勝負を挑み続けよう!」
    「周囲の敵は、僕達が!」
    「決戦小隊、前進してください!!」
     寺見・嘉月(星渡る清風・d01013)が護衛を引きはがす間に、華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)をはじめとした最精鋭部隊が、護衛を剥がされたアスモダイへと攻撃を開始する。
     強力極まりないアスモダイを確実に灼滅するため、6F菊は決戦を挑む灼滅者達を結集させ、専用の部隊を結成していた。
     大悪魔達の中で特に強い力を持つアスモダイも、単身孤立した状態で敵うはずもなく、サイキックの集中砲火を浴び続けた翼が炎と共に焼け落ちる。
     だが、それまでになお苦戦を強いられたことは、アスモダイの力を示していたと言えるだろう。
    「アスモダイ、灼滅完了……!」
     とどめの一撃を加えた隅也が皆に伝達すると共に、歓声が広がっていく。
    「やるものだ。今のお前達ならば、グラシャ・ラボラスも容易く灼滅出来ような」
    「……その真偽の判断も……また、賭けという事か?」
     意図を察して言う隅也に、アスモダイはニヤリと笑い消滅していく。
     最初の戦場を制圧した灼滅者達。
     だが、学園を取り囲む敵は多く、これはまだ戦いの第一歩でしかない。

    ●ロード・テルル

     レアメタルナンバー。
     彼らは、ロード・ナインライヴスがスサノオを利用して目覚めを導いた『大地の力』を持つデモノイドロードたちだ。

     その特徴は、大地の力(元素)に由来する能力を操ると共に、『クリスタライズ』によって結晶化した力を『プラス』することで、他のデモノイドロードの力を導入できることにある。
     大地の力が龍脈とも呼ばれるガイオウガ(イフリート)の力であり、スサノオの力とも共通することを、灼滅者達は既に知っている。
     ガイオウガやスサノオが群体生物としての側面を持つことは、レアメタルナンバーがその能力を結合させ、パワーアップできる性質と無関係ではないのだろう。

     龍脈封印儀式の影響で、新たな『大地の力』を操る存在が生まれる可能性は皆無に等しい状況となった。後は、個々のレアメタルナンバーがその力を高めていくしかない状況にある。
     ではレアメタルナンバー同士の結束は固いのかといえば、全くそんなことはなかった。

    「ロード・プラチナは、確かに史上最強のデモノイドだよ。でも、なんであの子の言うことを聞かなきゃいけないの?」
     レアメタルナンバー達の胸中に、そうした考えは常にあり、そうした考えを持つ者の最右翼がロード・テルルである。
    「プラチナちゃんも、あの朱雀門・継人って子も『お友達』になってもらって、私が一番になればいいんじゃないの?」
     ロード・ビスマスに騙されてブレイズゲートの虜囚となり、ロード・プラチナによって解放された彼女の性格は、すっかり歪み切っていた。
     自分が『テルルガス』で操る者以外は彼女にとって『お友達』ではない。

     故に、彼女が灼滅者達の攻撃を知った時の反応も単純だった。
     おそらく自衛隊から供与されたのだろう、対ガス用のマスクをつけた灼滅者達の姿を認め、ロード・テルルは嘲笑を浮かべる。
    「そんなものでサイキックを防げると思ったの? あなた達も、わたしの『お友達』にしてあげる!! テルル・プラス・プラチナ!!」
     テルルガスが濃度を上げ、拡散されていく。
     その力は、ロード・テルルより弱いダークネスならば、容易く操れるほどの域にまで達していた。
     だが彼女にとっての不幸は、武蔵坂学園との戦争での交戦経験があるロード・クロムが、昨年のうちにいち早く灼滅されていたことだろう。

     躊躇うことなくガスに突入した神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)は、勢いを止めることなくデモノイドを破り、そして彼女へと交通標識を叩き付ける。
    「……え? なんで、なんで!?」
    「知らなかったのか? 殲術再生弾は、この手の能力の天敵だぞ」
     驚愕するテルルにガスマスクの下から告げて、摩耶はWOKシールドで回転するテルルのディスクを受け止める。
     距離を取ろうとするロード・テルルへ続けざまに飛び込んだ柳・真夜 (自覚なき逸般刃・d00798)が、テルルの身を覆うディスクを蹴りつけ、叩き割った。
    「このガスマスクは匂いへの対策ってだけですからね!」
    「あなたも、私のことを臭いっていうのね……!! 許さない!!」
     超濃縮されたテルルガスが、肉薄する灼滅者達へとぶちまけられる。
     だが、それを凌いだ灼滅者達は、ロード・テルルへと攻撃を叩き込んでいった。
    「ブレイズゲートから出て来たばかりで悪いが、ここで退場願おう」
     不動峰・明 (大一大万大吉・d11607)の剣がテルルを貫く。
     泣き出しそうな表情のまま、力を失ったロード・テルルの体は消滅していく。
    「デモノイド、数が意外に多いな」
    「ヴァンパイア勢力の庇護下にいた時期に増やしてたんだろうね。単体ではヴァンパイアより弱いみたいだけど」
     どうやら三勢力ごとに、懐具合は異なっているようだった。

    ●朱雀門・継人

    「前に現れた時と、編成は大きく変わっていないな。後ろも心配する必要は無い。全力で攻めろ!!」
     白石・明日香 (教団広報室長補佐・d31470)は、朱雀門・継人の周辺にいるヴァンパイアの編成を確認するとただちに攻撃の指示を下した。
     4D椿は、それに合わせて敵の弱みを突き、爵位級の親衛隊を着実に突破していく。
     既に6F菊、2B桃がここまでのルートを確保している。
     退路確保部隊も用意し、闘う灼滅者達は十全に力を振るい、闇の中から現れるヴァンパイア達を、次々と灼滅していく。
    「継人は出て来ないようでありますね」
     先週の戦いで、サイキックハーツ自らがいきなり突っ込んで来た時のことを思い出しながら、ヴィント・ヴィルヴェル (旋風の申し子・d02252)は黙示録砲を撃ち放つ。
    「アラベスクを制御する都合がある以上、奴のようにはいかないのだろう」
     ルフィア・エリアル (廻り廻る・d23671)は応じて敵陣の奥を見た。そこには、濃くわだかまる闇がある。
     その奥には、『黒の王』朱雀門・継人がいるはずだった。

    「3体のサイキックハーツを倒して得た力、それほどのものか」
     朱雀門・継人は、灼滅者の勢いに瞠目する。
     だが、彼自身は身動きを取れずにいた。
     彼が制御している剣樹卿アラベスクの存在が、この戦いの焦点なのだ。
     大幅に戦力を削り取った4D椿の灼滅者達が、撤退していくのを見ているしかない。
    「これだけの戦力を費やしても、確実に勝てるとは言い難い。難敵だな」

    ●マンチェスター・ハンマー

     軽微な被害を受けながらもロード・ジルコニアの陣を突破した灼滅者達は、マンチェスター・ハンマーの率いる軍勢へと挑んでいく。
     ロード・プラチナ軍とヴァンパイアの軍勢との間では、連携は取れていないのだろう。
     そして六六六人衆もまた、個人行動を得意とする者達だ。
     対する灼滅者達はチームを組み、敵を切り崩しにかかる。
    「元第2位マンチェスター・ハンマー。パラベラム・バレット亡き今、事実上最強の六六六人衆か」

     ランキングマンの死によって、六六六人衆を支配していたランキングは崩壊し、ハンドレッドナンバーを殺したところで、力の移動は起きなくなった。
     だが、上位にいた者達が力を失ったわけでもない。
     マンチェスター・ハンマーの陣へ攻め入った5E蓮の灼滅者達を迎え撃ったのは、そのハンドレッドナンバーの一人だった。

    「マンチェスター・ハンマー様の命令で、皆さまの案内を務めさせていただきます」
    「38位ローズマリー・クメールですか!」
    「ええ。御存知いただき光栄ですわ」
     戒道・蔵乃祐 (d06549)の声に微笑んだローズマリー・クメールが合図をすると、六六六人衆達が何かを引きずって来る。
    「檻……?」
     警戒する灼滅者達の前で音を立てて檻が開くと、全身に継ぎ接ぎをつけた獣や人が、檻の中から濁流のように溢れ出した。
    「『超生物』か!」
     マンチェスター・ハンマーの特殊能力によって生み出される生命体。
     それらは灼滅者達を目掛け、一直線に駆けてくる。
    「マンチェスター・ハンマー様から、お手紙を預かっていますわ。
    『前略 灼滅者の皆様
     勢力渡り歩くたびに使おう使おうと思ってたんだけど、使うタイミングを逸しちゃったから最終決戦で出します。日本語でいうモッタイナイ精神です。
     一般人成分とかミネラルとか豊富なので、頑張って助けようとして下さい。かしこ』
     ……あらやだ、悪趣味な人ですね」
     ローズマリーが読み上げた手紙の内容に、東当・悟 (の身長はプラス三センチ・d00662)と加持・陽司 (陽射しを抱いて・d36254)は顔を見合わせた。
    「ホンマに助けられる思うか?」
    「ああされたのは随分前のようだし、無理だろう」
    「せやな……可能なら、全人類がサイキックハーツになった時に、何か変化が起きたはずやし」
     超生物達は、サイキックを駆使して灼滅者達を殺しに来ている。
     ダークネスの眷属に、身も心も完全に変わり切ってしまっているのだ。
     そうなった者を助ける手段は、今の灼滅者達にも無い。
    「……でも、大して強いわけじゃないけど」
    「まあダークネスより強いものは、そうそう作れませんわよね」
     蒼月・碧 (碧星の残光・d01734)や赤松・鶉 (蒼き猛禽・d11006)が六六六人衆や、汚液を滴らせて襲い掛かる超生物達を退ける。
    「いずれにしても、ここであいつは倒しておこう」
    「頼みます」
     蔵乃祐の支援を受けながら、紫乃崎・謡 (紫鬼・d02208)が疾走。それに追随する灼滅者達がたちまちのうちに超生物を薙ぎ倒し、ローズマリー・クメールへの道を築く。
     ローズマリーは身を守るべく、殺人植物が無数に展開するも、それが全て切り拓かれるまで3分と掛からない。
    「うふふ、やりますねぇ!!」
     血に濡れたローズマリー・クメールが上品ぶった笑いを上げた瞬間、飛び出した蔵乃祐の聖杖ルサンチマンが、その胸を撃ち抜き、灼滅する。
    「マンチェスター・ハンマーも継人も灼滅しきれなければ、またこういう下らない『嫌がらせ』が続くか」
     朱雀門・継人と魂を同じくしている以上、継人を灼滅出来れば共に消滅に追い込めるはず。残り少ない敵戦力と、アラベスクの戦場の戦力の減少。
     灼滅者達はどう戦いを進めるかも、考えねばならない状況にあった。

    ●ジョン・スミス

     同じ六六六人衆でも、ジョン・スミスの戦場は、マンチェスター・ハンマーのそれとは大きく赴きを異にしていた。
     こちらは、単純に六六六人衆、そしてヴァンパイアも混じっているようだ。

    「「ドゥイットユアセルフ!」」

     その掛け声も高く襲い掛かって来る。 
     ドゥイットユアセルフ、まずは自分で殺(や)ってみることだ。

     六六六人衆の『武器職人』であったジョン・スミスの配下たる彼らは、大工道具のような品々を掲げて灼滅者達を殺さんと襲い掛かる。
     それは、人間が周囲にあるものならば何であれ殺人の道具としうることの象徴のようだ。他者を殺したい。その衝動のまま迫りくる六六六人衆達に、桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)は無敵斬艦刀を構え一呼吸。
    「やるよ!!」
     一瞬の後に繰り出された一閃が、六六六人衆をまとめて切り伏せる。

    「しかし、数が多いね」
    「相当に頑張って人数を集めたんだろうね」
     ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)の言葉に、ミカエラ・アプリコット (弾ける柘榴・d03125)がその狼の腕で敵を切り裂きながら言う。
     グラン・ギニョールにいたような者達も含め、多様な六六六人衆がジョン・スミスの元には集っているようだった。
    「単純な物量が多い。これだけの戦力を捻出できるのは、ヴァンパイア傘下だけのことはあるな」
    「ですが、充分に打撃は与えました。もう一押し、というところですね」
     ジョン・スミスの戦場も、あと一押しというところまで戦力を減少させることが出来ている。灼滅者達はその成果を確認すると、武蔵坂学園へと退く準備を始めた。

    ●十字卿シュラウド

    「喰らうがいい、我が秘剣、緋燕十字斬を!!」
     ヴァンパイア勢力のナンバー2たる『十字卿シュラウド』は、自ら前線に現れ、その剣を振るっていた。
    「前線に、来ましたか……足止め部隊、お願いします」
     紅羽・流希 (挑戦者・d10975)は、そう指示を下す。
     元より、この攻撃だけでシュラウドを灼滅できるとは思っていない。
     敵戦力も多く、総攻撃だけで全滅させられる数でもない。
     まずは周囲の敵を片付ける。それが、9I薔薇の作戦だった。

     だが、前線で戦うシュラウドと交戦するうち、流希達は言い知れぬ違和感を覚えていた。確かにシュラウドの姿形は、精神防衛戦の時にソウルボードで交戦した灼滅者が目にしたものと同じだ。
     繰り出して来るサイキックも、報告されているものと変わらず、二振りの剣と、そこから放たれる十字の光は、灼滅者達を次々に倒している。
     だが──。

    「フハハハハハ! 弱者はこのシュラウドの前に全てひれ伏す運命だ!」

    「なんか聞いてた印象と違うっすね?」
    「もう少しこう……威厳のある男だと聞いていたが」
     ギィ・ラフィット (カラブラン・d01039)と天方・矜人 (疾走する魂・d01499)も戸惑いを隠せない。
     精神防衛戦で遭遇した灼滅者達が感じたという、存在だけで押しつぶされそうになるような絶望的な威圧感は、眼前のシュラウドからは感じられなかった。
     それは灼滅者達がサイキックハーツとして幾度もの戦いに勝利したからか。
     あるいは殲術再生弾が発動し力がみなぎっているからか。それとも……?

    「あなた、本当にシュラウド?」
    「いかにも。私こそが十字卿シュラウド! 世界で唯一の侯爵級ヴァンパイアだ!」
     荒谷・耀 (一耀・d31795)の問いに応じるように、二振りの剣が繰り出される。
     その一撃の重さに、たまらず耀は後退を余儀なくされる。
    「なんて威力……! 実力は本物のようね」
     疑問を解き明かす暇もなく、9I薔薇の灼滅者達はシュラウド率いる軍勢との戦いに忙殺されていった。

    ●????

    「確かにいますね。ヴァンパイアの集団のようですが……?」
     椎那・紗里亜 (言の葉の森・d02051)は、十字卿シュラウドの陣の後方に展開する、大規模なヴァンパイアの軍勢の存在を捉えていた。
     だが、その動きは奇妙なものだった。彼らはアラベスクやシュラウドの元に援軍を送るでもなく、ただその場で戦局を見守っている。
     予備戦力という可能性もあったが、サイキックハーツ朱雀門・継人が灼滅されてしまえば全ヴァンパイアが消滅する現状において、その可能性は無視して良いもののはずだ。

    「キミ達、何でこんなところにいるのさ!!」
    「何のため、だと? お前達を滅ぼすために決まっている!!」
     挑みかかる無堂・理央 (鉄砕拳姫・d01858)の問いにそう応じつつ、ヴァンパイアは灼滅者達を迎撃にかかって来るが、その動きはどこかちぐはぐだ。
    「こいつら、戸惑っているのか……?」
     石宮・勇司 (果てなき空の下・d38358)は、敵に宿る感情を、そう見て取る。
     ヴァンパイア達の士気は高くない。自分達が誰の命令で、どうしてここにいるのか、そうした事すら理解していないように見える。
    (「ヴァンパイアなら、継人の命令に決まっているのに、か?」)
     まるで継人との関係を断ち切られたかのように、その名を出すヴァンパイアは一人もいなかった。
    「こういう現象、どこかで……」

     ニコ・ベルクシュタイン (花冠の幻・d03078)が敵を杖で打ち据え、仲間達の方を振り向いた。
    「何かおかしいが、一度で攻め落とすには手が足りないか」
    「ええ……ここは一旦退きましょう」
     撤退の指示を下す紗里亜は、不意に背筋に冷たいものが走るのを感じた。
     振り向いた紗里亜は、そこに赤い十字の光を目にする。
     その光の源から、何者かが戦場で戦う灼滅者達を見つめている……。
     だが、それも一瞬のこと。赤い光は、現れた時と同様、突然に消えていた。
    「どうした?」
    「今、赤い光が……いえ、後にしましょう」

     撤退の間際、紗里亜と同じ光を見た者は他にもいた。
     十字卿シュラウドは、何か重大な秘密を隠しているとされていた。
     それが、あの赤い光に関係があるのか……。

     敵陣に打撃を与えた灼滅者達は再び武蔵坂学園に集結し、怪我人を収容した。
     そして彼らは、サイキックハーツ大戦へと挑む!

    組連合 総攻撃 総攻撃結果
    1A梅 民間活動 重傷になる確率が54%緩和!
    重傷からの復活率が40%上昇!

    3体のサイキックハーツが迫る危機と、エスパーの祈りが持つ力、サイキックアブソーバーの存在等について伝え、人々の応援を募りました。
    2B桃 (6)総攻撃 (6)ロード・テルルを制圧!(減少戦力:5000)
     ロード・テルルを灼滅し、(6)を制圧しました。(6)の制圧により、(19)の戦力が大きく減少!
    3C桜 超テンションアップ 戦力800以下の戦場をスルー可能に!
    また、勝利1回ごとの減少敵戦力が「260」に!

     七夕の壮行会を通じてこの戦争に勝利すれば、戦いを最後に出来るであろうことを強調し、士気を高めました。
    4D椿 (15)総攻撃 (15)朱雀門・継人の敵戦力が10200減少!
     瑠架戦争での敵の編成を予測しておいたことで、適切な戦術を取ることができました。継人はアラベスク制御に専念しており、前線に姿を見せていません。
    5E蓮 (14)総攻撃 (14)マンチェスター・ハンマーの敵戦力が10000減少!
     マンチェスター・ハンマーの戦場には六六六人衆の他、『超生物』が混じっています(戦闘力は並)。超生物を運んで来た前線指揮官ローズマリー・クメールを灼滅しましたが、マンチェスター・ハンマーは健在です。
    6F菊 (3)総攻撃 (3)アスモダイを制圧!(減少戦力:2000)
     (3)を制圧し、ソロモンの大悪魔アスモダイを灼滅しました。(3)の制圧により、(18)の戦力が大きく減少!
     ソロモンの悪魔の軍勢には眷属が多く混じっており、グラシャ・ラボラスが自らの力を削って戦力を補充したものと推測されます。
    7G蘭 (13)総攻撃 (13)ジョン・スミスの敵戦力が9800減少!
     ジョン・スミス配下の敵編成は、六六六人衆とヴァンパイアです。グラン・ギニョール壊滅後に離散した六六六人衆を集めたらしく、実力は高めです。
    8H百合 (17)総攻撃 (17)????の敵戦力が11000減少!
     ヴァンパイアの大軍が集結していますが、目立った指揮官の姿はありません。
     敵の士気は高くなく、大きな被害を与えることが出来ています。
    9I薔薇 (16)総攻撃 (16)十字卿シュラウドの敵戦力が9600減少!
     対シュラウド部隊によって、突出した力を持つシュラウドの被害を抑えつつ敵戦力を削りました。なお空挺作戦は行われていません(動物に変身していても灼滅者は人です)

    ●今回の超テンションアップ

    戦力「800」以下の戦場をスルー可能です。
    また、勝利1回ごとの減少敵戦力が「260」に上昇しています。