第２話「オグン・ソードの影」

■オープニング

『ろう　ろう　ねるがるす！　ねるがるす　りむがんと　なうぐりふ！』
『ねるがるす　りむがんと　おぐん　そーど　なうぐりふ！』

「……オグン・ソードが来ます！　呪言戦に備えてください」
　女神ラクシュミが、灼滅者とケルベロスに呼びかける。
　たちまちの内に、大量の緑の触手が君達を覆い、世界が変異してゆく……！

　気づくと君達は昼なお暗きジャングルの奥地に足を踏み入れていた。

　穢泥に塗れた道なき道を灼滅者とケルベロスは膝下まで腐臭に浸し、足を取られつつも前へ前へと歩み続ける。
　しかし、この方向感覚さえ喪失した深樹海の何処が前だというのか？
　その答えは単純である。
　より、狂気の源泉に近しい場所こそが前。
　自らの脚が、所有者の意志に逆らって遠ざかり逃げ出そうとする方向こそが前。
　その証拠に、世界に満ちた狂気は質量を伴うかのように灼滅者とケルベロスの肩に圧し掛かる。
　一歩の距離を歩む毎に精神を鋸引きで削られる苦行。
　その苦行を乗り越えた先にあったのは……、天地開闢の魔物たるオグン・ソードの影であった。
　オグン・ソードが孕むは深遠の狂気。
　覗き込んだものの正気を奪う、触手の森。
　襲い来るは、おぞましき触手と化した植物たちの魔の手。
　ある物うねうねと、ある物はぷるぷると、脈動し震え、そして全てを飲み込もうと蠢き勃起する。

「もうだめだぁ！」
　一人が狂気に屈して声をあげた。
　その声に勇気付けられるように、オグン・ソードの姿を見た者達が正気を手放してゆく･･･…。
　狂気に陥った者達は、ゆらゆらと手招く触手の森の中へと足を踏み入れ恍惚の表情のまま、触手達に刺し貫かれていく。
　一人が触手に貫かれる毎に、女達の嬌声と哄笑が響く。
　それは、森にすむ淫魔達の声。

　狂気に抗い蠢く触手に屈しない者達だけ……、自らの尊厳を触手に串刺しにされる事を恐れぬ者達だけが、この先を進むことができる。
　そして、淫魔達の誘惑に耐え得た者達のみが、オグン・ソードの元に導かれるだろう。

「キャハハハハ」
「キャハハハハハハハ」
「キャハハハハキャハハハハ」

　オグン・ソードの影を踏み、それを狂気を乗り越える為、おぞましき行軍は果てることは無い。

　行動選択肢をひとつ選んだうえで、プレイングを書きましょう。
　呪言戦なので、死んだり発狂しても大丈夫です。
　邪神を倒し損なうと、最終話の敵戦力として登場します。

●行動選択

（1）オグン・ソードの深遠を覗き発狂する

　オグン・ソードを目の当たりにしたあなたは、その悍ましき存在により発狂してしまいました。
　発狂し、錯乱した状況を詳しくプレイングで説明してください。
　あなたの狂気は、この物語に破滅的な色彩を加えてくれるでしょう。
（判定により発狂した場合のみ、有効なプレイングとなります）

（2）触手の森の淫魔達によって穢され触手に貫かれる

　触手の森へと足を踏み入れ、犠牲者なります。
　現れる淫魔達『スキュラと八犬士』『ドキドキトレーサー』『被虐のルサルカ』『リャナンシー』『夢姫レム』となります。
　彼女達に嬲られ殺害される犠牲者となるあなたは、彼女達が淫蕩に我を忘れるほどに、魅力的に殺害されるなければなりません。
　もし、それに成功したならば、あなたの死は淫魔に致命的な隙を作り出す事でしょう。
　どのように穢され貫かれれば、淫魔達が強く心を揺さぶられ我を忘れて絶頂に達するのか……それは、あなたの想像力次第となります。

（3）淫魔を攻撃し止めを刺す

　犠牲者達の尊厳と引き換えに得る事ができた僅かな隙をつき、淫魔達を攻撃して止めを刺します。
　しかし通常の一撃では、彼女達の狂気を貫くことは出来ません。
　自らをあらゆる常識や枷から解き放ち、呪言の力（プレイング欄）を全て使い切った、自由なる魂の煌きによる必殺の一撃を叩き込みましょう。

（4）忌まわしき触手と死闘を繰り広げる

　忌まわしき触手には遠距離攻撃も武器も効果はありません。
　自らの拳で肌で直接打ち払うしかないのです。
　あなたは、うねり屹立し這い回る忌まわしき触手と格闘戦闘を繰り広げることになるでしょう。
　触手は、あなたの体を這ずり舐めまわし、その魂の尊厳すらも穢しつくそうとします。
　忌まわしき触手の攻撃に耐え、そして、反撃の一撃を放ちましょう。

（5）狂気の世界に僅かに差し込む光たらん

　あなたは、オグン・ソードと接触した事で発狂して、オグン・ソードの一部となるべき取り込まれてしまいます。
　しかし、その狂気の中で、あなたは、たった一つの魂の拠り所を見つけ、手を伸ばす事が出来ました。
　それこそが、奇跡の光。
　オグン・ソードの深遠の影に穿たれたたった一つの光の点……。
　プレイングでは、あなたを襲う狂気と、そして、その狂気から救われる拠り所を、プレイングで指定してください。
　それこそが、オグン・ソードを滅ぼす唯一の機会なのです。
（判定により発狂した場合のみ、有効なプレイングとなります）

（6）オグン・ソードと決戦！

　狂気に呑まれオグン・ソードに取り込まれた仲間がくれた一瞬の隙。
　その肉体と魂が狂気と闇に呑まれつつも、たった一つの残った光の残滓。
　その一転に攻撃を集中して、オグン・ソードを滅ぼすのです。
　オグン・ソードを撃破するには、呪言戦の真髄を極めた、強大な光の一撃が必要となります。

■リプレイ

●触手の森の狂気の宴
　鬱蒼としたジャングルを越えて、目の前の光景を見たダスティ・ルゥ（名乗れる二つ名が無い・e33661）は恐怖した。
　それは、なんという光景であったろう。
　蠢く触手。
　ただ、それだけならば、なんの恐れる事は無い。
　だが、その背徳的に揺れる触手の群れの動きは、自分の心の根源を揺り動かすようにさわさわとねちゃりねちゃりとうねうねと動き続ける。
　もはや、ダスティは、その動きから目を離すことができなくなっていた。
「せっかく期間限定味のカップ麺を買ったのに！せっかくお湯を入れて3分間待ったのに！いざ食さんとした瞬間に妙な世界に飛ばされて、ろくな食べ物もとれないままこんな……あんまりだ……あんまりだァア……」
　意味不明な言葉を叫びながら、あははうふふフヘヘヘヘヘと涎を垂らして狂気の笑いを浮かべるダスティ。
　彼は、手当たり次第に触手をレロレロし、そして貫かれて死んだ。
　そのダスティの狂気の死が呼び水となったように、次々と発狂していく灼滅者とケルベロスタチ……。
　発狂した者たちは、意味不明の叫びをあげながら森に消えそして帰らぬ人となる。
　だが、彼らは幸運だったかもしれない。
　オグン・ソードの真の恐怖を知る前に命を失う事ができたのだから……。

　彼らの狂気を目の当たりにしてなお、志場・空（シュリケンオオカミ・e13991）達の足は止まらない。
　それは、あの狂気の様は、未来の自分の姿である事を理解していたから。
　オグン・ソードを撃破できなければ、いずれ、全ての人類は狂気に犯されるのだろう。
　だから、空は前に進む。
　それが、自らの死を意味しているとしても。
「ぐぎゅぅぅぅー！」
　触手の森に足を踏み入れて暫し、空の足が触手に取られて吊り上げられる。
　そのまま、搾乳するかのようにその双球が絞り上げられた。
　触手達は、まるで母の胸を求める赤子のように空を絞り上げ続ける。
「うぐ、うぐ、あぐ！」
　しかし、空は、その痛みと快感に耐え抜こうとする。
　更に、別の触手が体の中心点に入り込み抉り掻きまわし始めたが、そのいぼいぼの肌触りにも、蠱惑的な振動にも、淫靡な滴りにも耐え抜いた。
「あへ、あへ、あへへへへ」
　絶頂に達して涎を垂れ流しながらも、耐え抜いた。
　その彼の忍耐に興味を抱いたのか、触手の森の淫魔の一体が近寄ってくる。
　それは、八犬士を率いる大淫魔スキュラであった。
　スキュラは空が垂れ流した体液を指で掬い、そして、その味を確かめるように舐めとった。
「まぁまぁの味ね、今から、あなたは八犬士の一人になりなさい？　まさか、断わらないわよね」

　一方そのころ、平・和（魔法少女はエイプリルフール・e00547）も触手によって雁字搦めにされていた。
　まるで触手が蜘蛛の巣のように絡まりあい、蠢きつつ、和を中心に花開いているようだった。
　更に、触手達は、和の花を無理矢理に押し広げ、次々と侵入し続ける。
「ふええ、やめてよぅ……！」
　和が力なく訴えるがその声すら触手を活性化させるだけ。
　穴という穴を触手に貫かれた和は、息も絶え絶えに喘ぎ声を上げ続けるしかない。
　と、そこに、ピンク色の砲撃が迫る。
「ちゅっどーん」
　触手の森の淫魔の一体、ドキドキトレーサーの砲撃であった。
　和は触手に貫かれ触手に絡みつかれながらも、なんとか、その砲撃を回避し続ける。
「や……だめぇ、みないでぇ！」
　もはや着衣は何も残っておらず回避するたびに触手との結合部が外気に晒され続けるしかない。
　そして、幾度かの攻撃を避けきった和の前に、ドキドキトレーサーが現れた。
「すっごーい。君は、砲撃を避けるのが得意な魔法少女（成人男性）なんだね！」
　嬉しそうに近づいてきたドキドキトレーサーは、触手の一つをねじ切って和から引き離すと、感情の篭らない笑みを浮かべて、その長大な砲身を和の空いた穴にねじ込んで、引き金に手をかけた。

　２人が触手に囚われたのと同時刻、玖々乱・儚（罪花喰らい・e00265）は衣服を破られ触手に貫かれながらも、自らの不屈の意志を傲然と屹立さえ、周囲を圧していた。
　それは、うねる触手達にさえも対抗しうる意志の力であったろうか。
「さぁさぁ私の時間は短いから、その短い時間を淫蕩なる死にささげよう。さてどんな死がお好みですか？　拷問、心中、斬首、腹上、毒殺。所詮は狂った世界の狂ったひと時ならば、死すら色欲のままに！」
　それは、迸る熱情であった。その熱情は体の隅々をかけぬけ、そして、屹立する不屈の意志より濁流となって迸る。
「美味し……そう」
　その屹立する不屈の意志を目にした、淫魔・被虐のルサルカは、舌なめずりをして儚へと近づいてくる。
　そして、その意志を口に含み味わうと、一気に奥まで導くと喉奥でその形をも堪能した。
「ふふふ、合格」
　被虐のルサルカは、ほぼ唯一といってよい着衣を脱ぎ捨て、儚の不屈の意志を彼女の淫蕩な意志で包み込んだ。
「あなたは、私のもの。だから、全て吐き出して。枯れて何もでなくなるまで出させてあげる」
　被虐のルサルカの嬌声と溢れる汗が放出される体液と重なり合おうとしていた。

「あなた、良い体をしているわ。私の乗騎になりなさい」
　そう声をかけられたのは、望未・空明（雪空を歌う聖狼・e00146）。
　触手に貫かれ、
「パンツ取っちゃダメぇっ！！オグン・ソードの触手が一本増えちゃうぅっ！！ひぎぃッ！？そ、そんなとこ、入らな、あ、ガ、広がっちゃ、あぁあああああッ！？がぁっ、やらぁっ、逝っちゃうぅっ！ケルベロスチェイン出ちゃいまひゅうぅううううっ！！あ、あ、らめえぇええええええっ！！！！」
　と悲鳴をあげていた空明は、息も絶え絶えに眼前の女性を見た。
　それは、一糸纏わぬ褐色の肌の美女。
　だが、乗騎としていた男は灼滅者とケルベロスによる戦闘によって深い傷を負い瀕死の状態であった。
　褐色の肌の美女……リャナンシーは、乗騎との結合部分から萎えつつあるものを引き抜くと、空明へと近づいてきた。
　接合部だったところからは、新たな潤滑液が溢れ出し、新たな接合の準備が整ったことを示す。
「邪魔な手足はきりとってあげる。あなたは、今から私の乗騎よ」
　淫魔・リャナンシーは、空明の手足を丁度良い長さで切り揃えると、接合部となる一点を口に含んで準備を整えると、新たな乗騎と接合を開始し……。
「ふふふ、今回の私の愛馬も凶暴みたいね」
　リャナンシーは、大きな胸を満足そうに揺らし微笑みながら合体してのけた。

「あっ…が…！？」
　斑目・黒羽（時代遅れの風来坊・e14481）は震える顔で自らの体を確認した。
　だが、体中を刺し貫いた触手からは、溢れんばかりの粘液がはきだされ、その粘液に犯された体は、もはや、自分の意思では指一本動かすことすら出来ない。
　まるで、体が異質な物に作り変えられたような。
　作り変えられてしまった体と、自分の精神が食い違うため、体を動かそうという意志が、体に伝わらない。
　そんなもどかしい思いが仁恵を苛んでいく。
「…え、嘘…やだ…」
　体が異質な物になってのならば、精神も異質に変えればきっと体は動き出す。
　それは、わかっていた。
　そう、狂気に身を浸せば、きっと……。
　だが、仁恵はその渇望から目を逸らすため、現実を逃避しはじめた。
　その偽りの現実の中で、黒羽はひまわり畑を走っていた。
「まってー！おとうさーん！」
　そしてそこには、笑顔のみんなが……。

　その夢に興味を持ったのか、その少女が黒羽の前にやってきて、そして面白そうに、ハイライトを失った黒羽の瞳を覗き込むのだった。
「あなたの夢、とっても美味しいわよ」
　夢姫レムは、そう言っていつまでも仁恵の瞳を覗き込み続けるのだった。

●今、反撃の時！
「おっと、そこまでだ！」
　大淫魔・スキュラが空を従えようとした時、ハインツ・エクハルト（金剛級五番艦・e12606）が立ち塞がった。
「あなたには関係ないでしょう」
　そう言う、スキュラに、ハインツは力強く首を振り、その呪言の力を集中させた。
「いいかあんたら、まず体幹の筋肉の鍛え方が足りてねえ！インナーマッスルには体幹を保持するだけじゃなくて新陳代謝を上げ、血行を促進する力もあるんだ！」
　ハインツはそう言うと、筋肉を躍動させてスキュラへと迫っていく。
　そして、折衝する直前、ものすごい筋肉への愛を相手の体に叩き込み、スキュラの全身の筋肉が破裂して爆発させたのだった。
「筋肉は、いや、正義は勝つっ！」
　ハインツは勝利の笑顔を輝かせた。

「今こそ、長年封印してきた武蔵坂に来るまでの日々（黒歴史）の断片を解放する時か･･･！」
　ドキドキトレーサーの前に立ちふさがったのは、狂舞・刑（その背に背負うは六六零・d18053）。
「さあ、覚悟はよろしいですか？」
　そういった刑は、【完全女性模倣（パーフェクトオカン）】により、いろいろあって、ドキドキトレーサーを撃破するのだった。

「ひゃっほいぺろぺろ生足ぺろぺろ！」
　被虐のルサルカのタ楽しみに乱入したのは、アニマリア・スノーフレーク（疑惑の十一歳児・e16108）。
　お楽しみ中の被虐のルサルカをペロペロするとビシっと指を向ける。
「ケツをぺろぺろべろべろしてるからケツベロスだとなんて許せません、仕置きです」
「えっ、そんな事言ってな……」
「問答無用、アバラのくぼみに指をフィットさせてペロペロレロレロしてあげましょう。ひひひひひ、これが私のブレイズクラッシュだっ！」
　こうして、アニマリアのブレイズクラッシュによりルサルカは撃破される。

「人を獣扱いして乗り回すなど！」
　接合して新たなリャナンシーとして完成した褐色の美女に、シヴィル・カジャス（太陽の騎士・e00374）は容赦ない攻撃を加える。
　乗騎とされてしまった空明の無念を果たすためにも、騎士団の誇りの為にも負けられない戦いがそこにある。
　そして、シヴィルの雄々しく猛る炎の煌めを宿したドラゴニックミラージュがリャナンシーを焼き払った。

　夢姫レムは、黒羽の夢を鑑賞して微笑んでいる。
　その夢をいつどうやって汚せば面白いだろう、そう考えて微笑んでいる。
　だが、その瞬間は来る事は無かった。
「いーち、にーぃ、さん･･････あぁもうめんどくっさ」
　アルケミア・シェロウ（罠仕掛け・e02488）が、微笑む夢姫レムに詠唱を叩き込みレムを消滅させるのだった。
「我が身我が精神は永続狂気の最果てに至れりその全てこそ我が為に我が力の為すべきままに敵を討たんとすその心は灰に染まりその体は血に塗れん代償は彼方を染めし朱にありて、しかして我らは群を斬る至れ至れ最果てへ、至れ至れ狂気の縁へ終焉を飾らんと穢れた手を伸ばせ舌を伸ばせ欲望を伸ばせ全ては欲望のまま、全てを我らに染めよ血はやがて黒へ、凝固し固結し古へと消える消えた魂の叫びは残響として残る嗚呼なんと悲しきことかその声を聞くものが誰も居ないだなんてならば我はその声を届けん音よ魂へ響けハウル！」

　こうして、５人の犠牲と献身によって生み出された僅かな隙をつき、触手の森の５体の淫魔は滅び去る。
　勝利したハインツ達は、犠牲となった者達に僅かな憐憫とそして称賛の思いを抱きつつ、触手の森を進みつづける。

「おーいしー！アタシ、ウデを振るって、料理するよ！いっぱい食材、ウデ、なっちゃうね？」
「あわわわわ！　さてはこの触手もえっち触手なんでしょう！　ばっとーわかってます！　ぬるぬる！　ぬるぬるしてます！」
「私の膜は特別せいでね、運命の殿方しか貫けない！　だから絶対、大丈夫！」
「や、止めろ！我を汚そうとするなど言語道断だ！ふざけるな！漆黒の堕天使たる我を怒らせてしまったからには生きて帰れると思うなよ！絶対に殺す！絶対に殺してやる！ひぃっ！！キモイ！！やめろ！！触るな！！このクソ野郎！！」
　灼滅者とケルベロス達は、考えつく、あらゆる方法で触手の群れを攻略する。
　運悪く命を失うもの、正気を失うもの、捨てるなんてとんでも無い掛け替えの無いものを失うものも多かったが、その犠牲を踏み越えて、遂に、彼らは、オグン・ソードの影を踏む場所まで到達したのだった。

●決戦！　オグンソード！
　触手の森を越えた灼滅者の目の前に、狂気の元凶、オグン・ソードの影が姿を現した。
　それは、なんという姿であったろう。
　その形を言葉にしようとした灼滅者やケルベロスの一人が、狂気に囚われ、口から粟を出して絶命してしまう。
　この化け物は、人外の理にあり、それを理解し定義する事など、不可能なことなのだろう。
　発狂し絶命した１人に続き、更に２３７名もの勇者たちが次々と正気を失ない、オグン・ソードの御許へと導かれていく……。
　導かれた者達は、オグン・ソードと融合し、ゆくゆくは新たな触手として、人々を淫蕩な狂気へと誘うのだろうか？

　残された灼滅者とケルベロスの目の前で、狂気に導かれた仲間達はオグン・ソードに導かれ融けて融合し、そしてその一部へとなっていく。
　老若男女かかわりなく、その全ては背徳的に融かされ混ぜ合わされ、脈動する肉のスープへと変わっていく。
　それは、まるで、禍々しき命の海のようであった。

「あぁ、人が融けて……。あんな事が許される筈は……、うげぇ」
　その命の海を直視したものは、あるものは発狂し、あるものは吐瀉し、そしてあるものは、戦う決意を決める。
「見て、誘拐したモノが、オグン・ソードに吸い込まれて……オグン・ソードが巨大化していく！」
「灼滅者とケルベロスの力を取り入れて更に強大化したというの！？」
「でも、見て、あそこ！　あの部分からは、狂気を感じないよっ！」
　灼滅者とケルベロス達は、オグン・ソードの一点を直視した。
　狂気では無く、光の意志を感じる点を直視した。狂気に彩られた世界で、そこだけは正常な世界であるような光の一点。
　その点こそは…･･･。

　融ける。
　と・ける。
　自分という存在が消え去り混ざり、そして……ト……ける。
　もう、何も残っていない。
　一つになる、全ては原始にかえるしかない……。
　ぼくはわたしはおぐんそーどとひとつになるしかない。
　すべてはさだめられたこと。
　定められた……。
　違う、僕達私達には譲れない事が……。

　ガロンド・エクシャメル（愚者の黄金・e09925）であった肉片の思いが迸る。
「全ては無意味…混沌こそ真なる安寧。そこでは全ての思想も感情も否定されぬ。自我も他者もなく、故に略奪や殺戮もない。あらゆる相手において我と彼の違いなど無意味… 我こそ全て…全てこそ我… ああ、体が溶けていく…まぁ黄金って融点低いしな… いや外気温何度だよ…だれだよこんな熱いの… 熱源俺じゃないぞ…どうすればいいんだよこれ熱い… いややめろお前。何だそのお面。お前まさかうわさの犬溶接マンか。何を僕に溶接するつもりだ。火あぶりのために十字架に貼り付けになってる人だって十字架に溶接するために熱せられてるわけじゃないんだぞ。その辺わかってんのかおまえ。というかお前誰…まさか。まさか…まさか！」
　東・啓太郎（夕焼けの帰り道・d25104）であった肉片の思いが迸る。
「あの時失った日常、平穏、人としての尊厳失い、もう一度手に入れたそれらをまた貴方は失おうとしている友人と笑いあった思い出は蛆虫に貪られ両親との再会は汚泥に濡れ恋人との語らいは淫靡な女達に汚される拠り所 ――あの時貴方が戻って来れたのはなぜだっただろうか全ての感情が消え失せる中、最後に残った心は何だっただろうか喜びが消え怒りが消え悲しみが消え誰かを慈しむ心だけが残ったさぁ目を開けろ、あの時貴方を救い出した小さな背中は今一度目の前の闇を切り裂いたその先に彼が、彼女が、皆が待っているその異形すら受け入れた父、母、恋人、仲間がいるその体こそ、今の貴方の矜持だ貴方のその異形の腕は、人を傷つける怪物を打ち払い人の命を救った貴方のその異形の牙は、人の心を貪る怪異を噛み砕き人の心を救った貴方のその人の心は、闇に落ちる仲間の存在を光の元へ引き戻した自身と、己を取り巻く全ての存在を肯定しろたかが怪物たかが異形阿婆擦れ女どもの金切り声など踏み潰せたとえ命運つきようともたとえ心挫かれようともたとえ幸運に見放されようともたとえ剣折れようともたとえ鎧朽ちようともたとえ骨肉滅びようともたとえ心魔に侵されようともたとえ万策尽きようとも愛する者のために闇を切り裂け」
　アトリ・セトリ（常盤の片影・e21602）であった肉片の思いが迸る。
「暗い寒い苦しい痛い。誰もいない、側にいるのにどこにもいない、暖かさを感じるのに冷たさしか感じない。独りは嫌だ、沢山も嫌だ、どこにだって行けるのにどこにだって行けやしない。どこまでも深く深く沈んでいく、孤独な孤独の真似事に浸っている少女はどこまでだって沈んでいく。闇が泥のようにへばりついて、拭い取ろうとする真似だけはしつつもその闇に染まることを受け入れて。心はどこまでも捻れて染まり拒絶する想いを拒絶する。このまま消えれば楽しいはずだ、このまま残れば苦しいはずだ。苦しいのは嫌だ、でも楽しいのだって嫌だ。何かを感じるのが、何かを思うのは辛いこと。だからもう少し、あと少し、このまま闇の中に埋もれていたいんだ。【光】誰かが笑っていた。あれだけ自分を苦しめていた『幸せ』を、あの誰かはとても楽しそうに噛み締めている。ああそうだ、自分が辛くとも、苦しくとも、染まりきっていたとしても。誰かの『幸せ』なら喜べる。誰かの『幸せ』ならば楽しめる。誰かの『幸せ』ならば―――私も『幸せ』になれる。」

　それは、思い出であり愛する気持ちであり明日への希望でありその他あらゆる善なるものが集まった光であった。
　それは、なんと尊いものであったろうか。
　それは、汚泥と狂気に満ちたオグン・ソードの一部であり異質であり光であったのだ

　おねがい、ぼくたちだったもの。
　おねがい、ぼくたちわたしたちのさいごのひかりを。
　そのひかりにふさわしい、やくめをはたさせて……。

　融かされ融合された肉の一部となりながらも、それに抗った灼滅者とケルベロスの光の意志。
　この光こそが、オグン・ソードのジークフリードの背中にはりついた菩提樹の葉のように、オグン・ソードの弱点を形作る。

　この瞬間こそが唯一の勝機。
　残された灼滅者とケルベロスは最後の力を振り絞って攻撃を仕掛ける。
「うむ、緊急連絡だ。折角の機会だ……試作機も含めたCARNAGE WEAPONによる一斉攻撃を実行する。さあ、拷問を始めよう……異相次元限定解除、通常空間との限定接続を実行……」
　レイリス・スカーレット（紫電の空想科学魔導師・e03163）はそう言うと、ありったけの火力をオグン・ソードに叩きつけた。
「そろそろクライマックスだぞ！　タイプＲＡＹ！　グレイ０、１、２、ギア、オペレーション！」
　その叫びと共に科学の力がオグン・ソードを貫いた。

　更に、レイシー・アーベントロート（宵闇鴉・d05861）が、その傷口を抉るように攻撃を連続させる。
　その全ての攻撃がクリティカル。
　クリティカルを連発する事で邪神さえも倒す、それが彼女の殺人鬼としての剣なのだ。
「死ね、死ね、死ね、死ね！」
　彼女の狂気の剣は留まる事を知らない。

　最後に、すべての灼滅者とケルベロスの必殺の一撃を魔力として集積し、エミリオ・カリベ（星空と本の魔法使い・d04722）がその全ての善なる意志を束ね合わせた。
「それじゃ行くよ...ojo del profeta.」
　魔力を注がれた杖は、その先端部の天球儀が仄かな光を放ちつつ回転を始める
　そして、エミリオはオグンソードへ一気に駆け寄ると。
「...rompe fuerza!」
　そして、全ての力を解き放ったエミリオの一撃がオグン・ソードに融合せし光の残滓を撃ちぬいたのだった。
　それは、邪悪なる神、オグン・ソードの最後の時であった。

　そして……。

　ありがとう。
　ひかりを、ありがとう。
　あたたかい、あたたかい。
　すべてのぜんなるものに。
　ありがとう。

　オグン・ソードとの決戦を勝利に導いた光の意志の残滓の残滓たちもまた感謝の意志と共に昇天していくのだった。

→（1）オグン・ソードの深遠を覗き発狂する
　（参加人数：76名　合計戦功点：17316）

→（2）触手の森の淫魔達によって穢され触手に貫かれる
　（参加人数：56名　合計戦功点：16437）

→（3）淫魔を攻撃し止めを刺す
　（参加人数：113名　合計戦功点：33079）

→（4）忌まわしき触手と死闘を繰り広げる
　（参加人数：154名　合計戦功点：60071）

→（5）狂気の世界に僅かに差し込む光たらん
　（参加人数：82名　合計戦功点：23898）

→（6）オグン・ソードと決戦！
　（参加人数：156名　合計戦功点：55193）