PSYCHIC HEARTS
アンブレイカブル『葛折・つつじ』
とある山中。胴着姿のひとりの女性が、ただひたすらに、空に拳を撃ち続けていた。
何日、何ヶ月、何年、そうしているのか。
その拳はとうに人の限界を超越し、衝撃波は一撃毎に深く山肌を抉り取っていた。
その拳鬼、葛折・つつじは、頭の中に不意に響いた声を聞いた。
「つつじ、聞け……」
「その声はお師様! 動けるようになられたのですか!?」
「いや。腱を潰し目を潰し、己の五体を泰山の下敷きとしても、未だ弱体化は叶わぬ」
強大であるが故に動けぬ状態となり、鍛錬を積めず死合う事もできぬ師匠の苦悩を思い、つつじは涙する。
「コルベインが死んだ。己が今話せるのは、その一時的な影響に過ぎぬ」
「まさか……! 如何に弱体化しているといえ、『蒼の王』を殺すことなど出来ぬはず!」
「事実のみを捉えよ。そして、備えよ」
「お師様の仰る通りです、申し訳ありません。
蒼の王を殺した組織を『現在の全力』で潰すのは、相手がどのような奥の手を持つのか不明な以上危険ですね。バベルの鎖が反応するのを待つ『受けの構え』が必然です。
それよりも、現在動ける者達の『鍛錬』を、早急に行わなければなりません」
「その通りだ。弱者を潰し喜ぶ程度の者、縄張り争いに満足する程度の者、人の為に拳を固める程度の者……。そのような下らぬ雑魚共を全て叩き伏せ、お前が『道』を示すのだ」
「かしこまりました。早速、行動を開始します!」