■第7ターン結果
玄室の分厚い扉が音もなく開いた。
灼滅者達の前に現れたのは、一人のノーライフキングだった。
髑髏の顔を持つノーライフキングは、灼滅者達に傲然と言い放つ。
「余は蒼の王コルベインなり。余こそは蒼の王コルベインなり!!」
骨ばった手は生命を持たない、まさしくノーライフキング本来の「非肉化」の特徴を出していた。身につけたローブを通し、強い力を持っていることが灼滅者達にも感じられる。
「脆弱なる者どもよ、格別の計らいにより、余の前にひれ伏す事を許してつかわす」
(「……? なんだ? この違和感は」)
迅・正流(黒影の剣士・d02428)の感じた違和感は、他の灼滅者達にも共通するところだった。
確かに目の前のノーライフキングは強いだろう。
灼滅者達より遥かに強いのは間違いがない。
だが──。
「考えていても埒が明かん。今は攻撃あるのみだ!!」
余計な思考を振り払い、正流は戦うための存在と化した。
影の如き黒い甲冑に全身を覆われた正流は、ノーライフキングへ向け突撃する。
「愚かな! 往け、者共! 奴らを根絶やしにするのだ!!」
コルベインの号令一下、アンデッド達は一斉に前進した。
コルベインに近付けまいとするアンデッド達、しかしここまで来た以上、灼滅者達も退くわけにはいかない。
不退転。
その三文字を胸に、正流は前進した。
「征くぞ、蒼の王コルベインよ!!」
「来るがいい、」
正流の振るう炎の剣を、コルベインはやすやすと受け止める。
だが、二合、三合と撃ちあうたび、正流の感じる違和感は大きくなっていった。
「……弱過ぎる」
破断の刃でコルベインの攻撃を受け止める。
威力は高い。だが、その実力はアモンをはじめとする、この戦争で遭遇した強力なダークネス達に比べても劣っていた。
「だとすれば──」
コルベインの放つ魔力の直撃を受けながらも、正流は前進した。
大剣が真っ向からコルベインを両断し、灼滅させる──。
「──影武者か」
その一言を告げると共に、アンデッド達に動揺が走るのを正流は見た。
コルベインの異常なまでの『弱さ』。それを説明づけるのは、今戦った相手が偽者であるという以外にありえない。
敵勢に走る動揺を逃さず、灼滅者達は玄室の奥へと到り、そこにあった扉を勢いよく開けた。
●
そして灼滅者達は、アンデッド達が必死になって秘匿しようとしていた事実を目の当たりにした。
「あれが……本物の蒼の王コルベイン?」
「でもあれ、顔が……っていうか」
「頭が、無い!?」
先程戦ったコルベインと同じ服装をした、『蒼の王』。
だが、その頭部があるべき場所には、ぽっかりと空洞が開いていた。
その部位から溢れ出すのは、膨大なサイキックエナジーだ。
ひたすらに垂れ流され続けるサイキックエナジーが、玄室内のアンデッド達を活性化させているのを灼滅者達は直観的に理解する。
──最初から違和感はあったのだと、一部の灼滅者達は言う。
「そこまで強力なダークネスならば、サイキックアブソーバーに封印されないはずがない」
のだ。
だとすれば、なぜ封印されずに済んでいるのか。
その答えは、灼滅者達が目にするコルベインの現状が示していた。
蒼の王コルベインは何らかの原因で今のような状態になり、著しく弱体化しているのだ。
どこからともなく声が聞こえる。
静かで、力強い声。
それは、コルベインの体から響いているようにも、周辺に漂う大気から聞こえているようにも聞こえる。
或いは、水晶城の外から、或いは、はるか上空から……?
何も……何も見えぬ……。
心あるものよ教えてくれ……。
世界は悪に満ちているか。
闇は生命を育んでいるか。
余の他に誰か『サイキックハーツ』に到達したか。
簒奪者達は裁かれたのか……。
それは決して、攻撃的な語りかけでは無かった。
しかしその言葉には、凄まじいサイキックが篭められていた。
攻撃的な色を帯びたサイキックエナジーは、生者の生命を奪い去らんとする。
頭脳を持たず、その体のみの存在となってなお、これだけの力を有しているのだ。
奪われる力に抗うように、燃え上がる烈火の如き勢いで、不知火・隼人(烈火の隼・d02291)が吼えた。
「ここで退くわけにもいかねぇんだよ!!
『悪に満ちているか』だと?
人の命を弄ぶテメェ等は許せねぇ。俺達はテメェ等を倒して明日を掴む!
……不知火隼人と強化外骨格“烈火”推して参る!」
隼人の腕に装着された壱式射出機甲に、徹甲爆裂杭が装填される。
その響きが、不死王戦争最後の戦いの始まりを告げた。
コルベインから流し出されるサイキックエナジーは、ただそれだけでこちらに被害をもたらして来る。
本来の力というのはいかほどのものなのか。
考えるだに恐ろしいものがある。
だが、敵が本来の力を発揮できない今こそが、サイキックアブソーバーによって敵が弱体化している現代こそが、人類にとって最大の逆転のチャンスだ。
「だったら、こんな緒戦で負けるわけにゃいかないよなぁ!!」
群がる敵を振り払い、隼人はコルベインの玉座へと駆け上がった。
サイキックの直撃に、“烈火”のあちこちが砕け、脚の部分では溜まった血が音を立てる。
だが構わない。
今は己の全てを燃やし尽くし、敵を灼滅することだけに脳裏が支配される。獰猛な笑みが自然と浮かんだ。
「全弾……持ってけ!」
発射された杭はコルベインの胴体で炸裂する。
隼人によって灼滅されたコルベインの肉体が、弾けながら消滅していく。
瞬間、玄室にいた者達は等しく奇妙な声を耳にしていた。
声はゆっくりと、しかし呪詛のように響き続けていた。
●(10) 春の宮
コルベインが隼人によって灼滅された頃、春の宮ではいまだ激戦が繰り広げられていた。
山科・深尋(落日の虚像・d00033)は教育がいまだ終わっていないノーライフキング達に向けて言う。
「お前ら、このまま化け物になっちまっていいのか? その先にあるのはただの暗闇だぞ。今ならまだ帰ってこれる。戻ってこいよ」
手加減をしながらノーライフキングを攻撃する深尋。
その光景は、ノーライフキング達にしてみればプライドを著しく傷つけるものであったのだろう。集中する攻撃を、彼は意気を高ぶらせて耐え凌ぐ。
「惑わさないで……あなた達がいなければ、私達は心静かに過ごしていられるの」
「それでアンデッドだけを共に、暗闇で過ごすのか?」
『後継者』桜崎・小夜子の言葉に、深尋は荒い息で返した。
既に桜崎も深手を負っているとはいえ、相手はノーライフキングで、しかも周辺にいる一団の中では最強と来ている。
「手加減できる相手じゃなさそうだな」
「最初から、そう」
『非肉化』した手が、振るわれて、灼滅者達の生命を奪い去らんとする。
その渦中にあって、深尋の影の刃が、ダンピールの力を帯びて迸った。
足元から切り裂かれ、くずれ落ちる桜崎の姿に深尋が一つ息をついた時、それは起こった。
水晶城が地響きを立て始めたのだ。
何かの罠かと顔を見合わせる灼滅者達。
だが、より劇的な反応を示したのはノーライフキング達の側だった。
地面に倒れたまま、桜崎が絶望的な呻きを上げる。
「そんな……コルベイン様……」
コルベインが撃破されたことで、水晶城が消滅しようとしているのだ。
だが、その一方で撃破されたダークネス達にも異変が生じていた。
「なんだ? 消えていく……」
ノーライフキング達の姿が、次々と消えていく。
「どこかに転移しているのか? ……って、追求している場合じゃなさそうだな」
壁が崩落し、金管楽器のような響きが起こる。
その大音響を聞きながら、灼滅者達は水晶城を脱出していった。
●(6) 都立杉並高等学校
「生き残ったわ、生き残ってみせたわ!」
ベレーザ・レイドは、天を仰いだ。
これほどまでに死を覚悟したのは、サイキックアブソーバーの稼働時の混乱に巻き込まれた時以来では無いだろうか。
いや違う。
あの時は、命以外の全てを失ったが、今回は、新たな力も手に入れる事が出来たのだ。
「暫くは身を潜めるしかなさそうね。でも、いつか、この借りは返してあげるから」
ベレーザはそう言い残すと、敗残の兵をまとめて何処かへと去っていった。
(6) 都立杉並高等学校
「見逃して、もらえたんだよね」
「カルマクィーン見習い」佐藤・優子は、傍らの、ヒヒイロカネ銀虎を見上げて、そう言った。
「そう……だな。灼滅者、決して話のわからないヤツじゃない。ラブリンスター様には、そう伝えよう」
「仲良くできるといいですね」
疲れ切った顔でにこりと微笑む優子に、銀虎は、
「まぁ、そうだな。わたしも、最高のダンスを見せる約束をした事だしな」
と答え、そして、優子のほっぺをぴにょーんと引っ張った。
「ひたひですぅ」
涙目で睨む優子に、銀虎は、先輩らしい声でこう言った。
「もし、彼らの為のライブをするのならば、それまでに、見習いから昇格しておかなければな。帰ったら特訓だ」
「はい! リーダー!! ヨロシクお願いします!!」
そして、淫魔達は、彼女達の主の元へと帰って行ったのだった。
→有力敵一覧
→(6)都立杉並高等学校(14勝0敗/戦力735→35)
→(10)春の宮(2勝9敗/戦力250→150)
→(12)コルベインの玄室(60勝3敗/戦力1600→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。