■第3ターン結果
(12)サッポロファクトリー
●新沢・冬舞
もはやサッポロファクトリーを巡る戦いは、武蔵坂学園の完全な優勢となっていた。
「オルフェウス、儀式場を守れなかった事を詫びよう……だが、代わりに貴女に勝利を!」
札幌テレビ塔への侵出を許した冬舞は、その贖罪と言わんばかりに、果敢に灼滅者達への攻撃を仕掛けて来ている。
配下のシャドウ達も、もはや後が無いと悟ったのか、彼の指揮の元、最後の抵抗を見せていた。
「オルフェウスの力まで借りて、奴は魂の奥へ封じたのだ。説得など、させるものか!」
耳を貸さじと戦場を駆ける冬舞へ追いすがり、リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)は、ナイフを振り抜いた冬舞の腕を掴んだ。
振り払おうとする力の強さに顔をしかめつつ、振り回すようにして冬舞を地面に叩き付ける。
「このままじゃ今度こそ本当に罪を犯しちゃうんですよ……。あなたが戻らないと、うちの意地っ張りの部長が泣いちゃうでしょう!」
「──!」
リュシールの言葉に、何かを思い出したかのような表情が、一瞬だけ冬舞の顔に過ぎる。
しかし、次の瞬間に冬舞の顔に浮かんだのは、嘲笑だった
「無駄なことを。奴に声など届けさせるものか!」
「だったら……こっちにも考えがあります!」
その言葉が聞こえた瞬間、冬舞の体が宙に舞った。
投げ飛ばされたのだ、と気付いた冬舞が態勢を立て直すよりも早く、灼滅者達の攻撃が彼を地に縫い止める。
彼を取り戻すには、ダークネスの抵抗が邪魔と言わんばかりに、攻撃は激しかった。
「殴って、取り戻します!」いち
「考えじゃなかったのか──!?」
全力の殴打が、冬舞を打ち据える。
迸る衝撃に身を横たえた冬舞の口から、苦痛の吐息と共に言葉が漏れた。
「これで、三度だ。四度目は、果たして戻れるかな?」
不吉な言葉を残し、新沢・冬舞のシャドウは消え失せる。
そして、灼滅者に戻った冬舞は、ゆっくりと身を起こした。
●武者アンデッド『風の灰靭・百入丸』
「あくまでも、北征入道様を斬るつもりじゃな」
武者アンデッドの言葉に、何を今更と天音・洸耶(月櫻獣・d02036)は肩をすくめる。
「これ以上、札幌でおかしなことを起こさせる訳にはいかないからな」
「ならば、ぬしの相手はこの我じゃ。風の灰靭・百入丸、今一度推して参る!」
風の灰靭を名乗るだけあって、百入丸の太刀筋は鋭く、速い。脇からの斬り抜けが灼滅者たちを捉え、宙に血を散らした。
けれど、それで怯んでいる時でもない。灼滅者たちの攻撃が一斉に放たれ、敵陣に無数の牙を剥いた。
すかさず、百入丸が動いた。戦場のシャドウたちに向かった攻撃を、彼はその身をもって何度でも庇う。しかし灼滅者たちの猛攻は百入丸の動きを上回って、シャドウたちを確実に葬っていく。
「大儀であった!」
地に伏す自軍の兵たちにそう叫んで、百入丸は日本刀を正眼に構えた。
「じゃが、この百入丸を甘く見るでないぞ」
そう言う百入丸の姿に、撤退の意思は最早感じられない。彼の姿をまっすぐに見据えて、洸耶もまた足元の床を踏みしめる。ここで退く訳にいかないのは、灼滅者たちも同じだ。
「黙って死んでろ」
瞬間、洸耶の足元から黒い影が伸びた。無数の縄と化して迫る影業を、百入丸は手にした刀で斬り払おうとする。しかし、灼滅者たちによって床に縫い止められていた足は、その意の通りの動きをさせなかった。
「グッ……我も、ここまでか……」
それが、百入丸の最後の言葉となった。既に叩き割られていた鎧の隙間から入り込んだ影が、百入丸の全身を隙間なく絡め取り、打ち砕く。
かくして、死してなおつわものであった武者はここに灼滅された。
(17)北海道大学
●「斬新人事部長」黒杉・民男(六六六人衆)
「まーた、お会いしましたね、灼滅者諸君。だがしかし、チミ達のしている事は、威力業務妨害である事、わかっているのですかーね」
着古した黒いスーツを着た、冴えない上に怪しいおっさん『黒杉・民男』が、灼滅者達の行動に異議を申し立てた。
「裁判をしたら、チミ達に勝ち目は全く無いですねぇ。でも大丈夫。いーまなら、格安の示談ですませてあげまショー」
そんな戯言を聞いても狩家・利戈(無領無民の王・d15666)達、灼滅者の攻撃は止まる事は無い。
意外に長かった斬新コーポレーションとの戦いに、ここで決着をつける、それが、灼滅者達の意志であったのだ。
次第に押され、防戦一方となる民男と人事部所属の配下達。
「まったーく、計算違いはなはだしですねぇ。オルフェウスさんが、チミ達を大量闇堕ちさせてくれるというから、闇堕ちしたチミ達のヘッドハンティングを計画していたというのに……」
民男は、忌々しげに利戈をみやった。
だが、本当に、忌々しく思っているのは、作戦に失敗したオルフェウスなのかもしれない。
「ンンー、背に腹はかえられませんね。特別に、灼滅者のままで、ウチの正社員に登用してあげましょう。チミ達のような底辺人材が就職難の今、正社員になれる唯一のチャンスでショー」
民男から、破格の条件を提示された灼滅者達。
が、その呼びかけに答えるものなど、当然いない。
「ブラック企業の正社員など、御免こうむる」
「いままさに倒産仕掛けているような会社だしね」
「斬新コーポレーションは、この札幌の地で終わりを迎えるんだ」
「ひゃっはー!」
逆に、灼滅者側から、民男に対して辛辣な言葉が投げかけられた。
「ンンー。これが、ゆとりという事ですか。24時間戦ってこそサラリーマン。それをブラック企業などと称するとは、片腹いたいですわ」
ずれた眼鏡の位置をくいっと直すと、民男は数珠を握りしめて、利戈を一括する。
が、利戈は、それを無視してずずいと前に進む。その歩みはまさに、王者の貫禄である。
「潰し! 穿ち! ぶち壊す! 我が拳に砕けぬものは何もない! 俺の…勝ちだ!」
利戈は、思わず気圧された民男の股ぐらをぐわっと掴むと、危険過ぎる角度と勢いで投げ飛ばす。
「フィニッシュっ!」
その言葉と同時に投げ飛ばされた民男が地面に落下し、事切れた。
そして利戈は、ばっちぃものを触ったというように手をパンパンと払ったのだった。
斬新コーポレーション人事部長、黒杉・民男享年42才くらい。
札幌迷宮で殉職。
死後、社内規定により、人事担当役員に昇進を果たし、斬新コーポレーション最期の人事担当役員となったのだった。
●「スーパー契約社員」銭洗・弁天子
広大な敷地を誇る北海道大学。
その大学施設内を、一体のオバチャンがノッシノッシと闊歩する。
斬新コーポレーションのスーパー契約社員、銭洗・弁天子が闊歩する。
かつては、スーパー主婦パートの立場であったが、今はスーパー契約社員という立場だ。おそらくは、主婦を名乗れない事情ができたからに相違ない。
「おばちゃんもぉ、苦労してるんだねぇ」
愛に生き愛を求める灼滅者、雨宮・音(硝子の鏡・d25283)は、おそらく愛を失ったのであろう、おばちゃんに、軽薄な笑みで労いの言葉をかけた。
かつて一世を風靡した斬新コーポレーションも転落に次ぐ転落。
提携に失敗し、本社ビルを失い、ついには北の地方都市に都落ちという惨状。給与もそれ相応に下がったに相違ない。
金の切れ目が縁の切れ目。
嫌な言葉だが、社会の真実を表していると、音を知っていた。
「なにか、失礼な事を考えてるようね」
その不穏な思考に気づいたのか、弁天子は、音に視線をロックオンした。
「少しハダがピチピチしてるからって調子に乗るんじゃないよ。若さだけが取り柄の学生が、オバチャンに逆らおうなんて、10年早いのよ!」
そう言うや否や、その自慢の脚力でドドドと突進を開始する。
「契約社員にクラスアップして、全体的に能力が上がった、このオバチャンの進撃、止めれるものなら止めてみせなさい!!」
その突進は、TSOBP(特売スーパーのオバチャンのパワー)に換算して、およそ、72人分に匹敵するパワーを秘めていた。
だが、音は、その72TSOBPのパワーを前にしても怯むこと無く前を向き続けた。
「そういう年功序列の既成概念に反抗するの~が、ロックな生き様なんだだぜっと」
今は若い自分たちも、いずれは、オジチャン、オバチャンとなる。その現実を受け入れる為にも、今、目の前のオバチャンから目を逸らすことはできない。
いや、してはならないのだ。
そして、音は、ゆっくりと、calamity boltをかきならした。
「それじゃ、オバチャンの最期に愛の歌を送るぜぇ!」
音の愛の音色が、おばちゃんの豊満で柔らかな腹の底へと吸い込まれていく。
そして、その音楽を腹いっぱい貯めこんだ弁天子は、芸術のように爆発四散し、そのまま帰らぬオバチャンとなった。
斬新コーポレーションスーパー契約社員、銭洗・弁天子享年45才くらい。札幌迷宮で殉職。
なお、斬新コーポレーションの規定には、契約社員の死亡時の保証などは全く存在していない……。
●斬新・京一郎
北海道大学のキャンパスは、斬新コーポレーションと武蔵坂学園の決戦の地となっている。
斬新コーポレーション社長、斬新・京一郎は、その中でも調度の良い一室を占拠していた。
窓の向こうには、灼滅者達と斬新コーポレーションの社員達との激しい戦いの光景がある。劣勢に陥り、次々と灼滅されていく社員達の悲鳴や爆音が斬新社長の元まで届いていた。
「栄枯盛衰か。これは僕だけで逃げたところで、ちょっと盛り返すには時間がかかりそうだね」
「斬新京一郎、覚悟!」
近衛・朱海(煉驤・d04234)をはじめとする灼滅者達が、彼を追い詰めようと部屋へ踏み入る。たちまち現れた社員達との戦いが巻き起こった。
「全力で攻める時には、やっぱり強いねぇ。ちょっと斬新過ぎるな、武蔵坂学園は。灼滅者だからなのかい?」
縦横無尽に振り回されるダイダロスベルトを駆使し、奇妙な動きを見せる斬新社長。
その実力は、かつての武神大戦獄魔覇獄での敗戦や北海道での雌伏の日々を経ても、衰えてを見せてはいないようだった。
だが、逆に言えば、彼の力量はかつて灼滅者達やシン・ライリーに敗れた時からさして変化していないということでもある。
「そのダイダロスベルトごと、焼き切ってやる!」
「そろそろ斬新な服も欲しいところだし、別に構わないんだけどね。迷宮が完成したら、ハルファス軍とたっぷり技術提携するつもりだしさ。もちろん提携の際には、我が社が優位な形でね!」
そういう間に飛来した灼滅者の攻撃から、社畜根性に染め上げられた社員達が身を挺して斬新社長を庇う。
「おおっ、いい働きだよ君! あとで自伝にサインをしてあげよう。持ってないなら買いたまえ」
ダイダロスベルトに包まれた身をコマのように回転させ、斬新社長は灼滅者達の只中へと飛び込んだ。その身に巻き付けられた帯がほどかれ、刃のように灼滅者達を襲う。
「やっぱり日本人は会社で金を稼がないとね! 我が社が発展すれば、殺人も闇堕ちゲームも、もっと斬新かつ経済的に利益を出すかたちで行っていけるさ!」
それこそが、斬新・京一郎というダークネスの欲望の根源なのだろう。
己の殺戮欲をより広く満たすために、彼は経済的な利益を求めた。その欲望の末が『企業』という形だったのは、現代日本ならではというべきか。
だが、現代社会に沿っているが故に、彼らの活動の犠牲となって未来を絶たれた者達の数はあまりにも多い。朱海の周囲で、炎が揺れた。
「ふざけた事を……」
「さあ、幕引きをさせようというなら、もっと斬新に頼むよ!」
刃と化した帯が蛇の群れのように蠢いた。
斬新社長へと向かう炎を、刃と化した帯が蛇の群れのように蠢き、空中で叩き落とす。だが、炎を突き破るように繰り出された回し蹴りのが、ダイダロスベルトの守りを突破して、斬新社長へと届く。
勢いよく壁へとぶち当たった斬新社長の胸を飛びこんだ朱海の刀が貫いた。
「ラグナロク計画(プロジェクト)にアンデッドダークネス……それに北征入道が抱えてる『御子』に蒼の王の遺産……ああ、欲しかったなぁラグナロク! 試してみたい斬新な計画は、まだまだあったのになぁ」
「斬新と言いつつ……目に見える所でこうして切り結べばなんだ存外、つまらぬ男だったわね」
「世間の男の本性なんて、女性にとってみればつまらないものさ」
「ありきたりな台詞ね」
「末期の言葉としては斬新だろう?」
それを最後に斬新・京一郎は完全に消滅する。
残ったサングラスが床に落ちるが、それも主を追うように砕け散った。
六六六人衆の殺人企業『斬新コーポレーション』は、ここに完全に消滅したのである。
→有力敵一覧
→(2)中島公園駅(1勝2敗/戦力650→600)
→(5)学園前駅(8勝1敗/戦力500→100)
→(6)豊水すすきの駅(1勝0敗/戦力1200→1150)
→(8)西18丁目駅(6勝7敗/戦力1200→900)
→(12)サッポロファクトリー(6勝2敗/戦力300→0/制圧完了!)
→(13)札幌テレビ塔(4勝2敗/戦力3000→2800)
→(17)北海道大学(45勝2敗/戦力1700→0/制圧完了!)
→(19)東区役所前駅(3勝1敗/戦力250→100)
→(20)無尽の武器庫(インバルネラブル・ウォーアームズ)(5勝2敗/戦力2500→2250)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。