●ラブリンスターの最新のファン
ソウルボード内に築かれた、新宿の有名スタジオ。
灼滅者達と、ラブリンスターを逃すまいとするシャドウ達の主戦場は、そこだった。
「ラブリンスターさん……目を覚ましてください!」
八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)はラブリンスターに届けと声を張り上げる。
「武蔵坂学園のイベントを楽しんでくれたじゃないですか……わたしたちの絆は、まだ消えていません……!」
戦場の喧騒の中、桜と同じ思いを抱く灼滅者は少なからずいる。しかし、口々にラブリンスターへ思いを届けようとする彼女達の前を、シャドウ達が遮り、その思いを絶たんとして来る。
「ラブリンスター様を私達から奪おうというのねェェェ!? 許さないわァァァ!!」
「ラブリンスターさんのことを、覚えている……いや、違いますね」
シャドウの狂ったような様子に、桜はそう判断する。
無差別籠絡術によって、ラブリンスターへの盲目的な好意を抱かされているだけだ。
「『絆』が失われても、新たな記憶を重ねていくことは出来るということでしょうか」
タカトに『絆』を奪われ、ラブリンスターの記憶は灼滅者を除く者達から失われた。
だが、その後に新たな記憶を得る分には、問題がないようだ。
「先ほど聞かせてもらった曲も良かったわー!! でも、だからと言って!! 私達からラブリンスター様を奪っていくのは許さないんだからァァァァッ!! そのMP3プレイヤーとかだけおいて、ソウルボードから出ていきなさいィィィ!!」
蟻人間とでもいうような、奇妙な姿のクラブのスートを持つシャドウ。
だが、タカトによるラブリンスターの利用をよしとするシャドウ達を認めることは、桜にとって許せることではなかった。
「ラブリンスターさんには、思うように歌ってもらうのが一番良いんです」
「ラブリンスター様は、私達の物ォォォ! 絶対に離さないわァァァァ!!」
一閃させたウロボロスブレイドが、シャドウの振り下ろしてくる鎌腕をそらす。
だが、シャドウの力まかせ振り上げた腕は、桜の体を軽々と持ち上げ、ソウルボードの地面に叩きつけようとしてくる。
だが、それよりも早く、桜の足から伸びた影が大きく膨れ上がり、シャドウの体を飲み込んだ。
影業の中で砕ける音が響き、そしてシャドウの存在は無へと帰す。
「正気を失ったラブリンスターさんよりも、本来のラブリンスターさんの歌を聞かせてもらった方が良いに決まっています……!
●淫魔アイドル「ラブリンスター」
守りについたシャドウ達を突破して、灼滅者達はラブリンスターの元へと辿り着いていた。虚ろな目をしたラブリンスターの喉から声が響き、歌でもないその『言葉』は、しかし直接脳へと浸透して来る。
「……私があなたを好きなのは、あなたが私を好きだから……」
「これが、無差別籠絡術……!」
ラブリンスターへの敵意を向けようとすると、途端にその戦意が萎えるのを感じる。
ラブリンスターの無差別籠絡術は、種族性別年齢国籍、あらゆるものを無視して籠絡しているのが確認されている。
名前の通り無差別に、あらゆる存在を籠絡する能力。
それを持つのが、ラブリンスターという淫魔だ。
「この能力を使えば、バベルの鎖があってもアイドルだろうが何だろうが簡単になれただろうにな」
ラブリンスターを守らんと、狂ったように襲い掛かって来るシャドウ達を退けながら、、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)はそう呟く。
灼滅者達は、ラブリンスターが無差別籠絡術をどれだけ抑えていたのかを思い知る。
『アイドルになる』という夢のため、その能力を抑え込んでいた。
その理性という枷が失われた今、彼女の能力は解き放たれ、そして利用されている。
「お前をココで失うわけにはいかねーな、ラブリンスター!」
シャドウを切り捨てた治胡は、ダイダロスベルトを真紅の翼の如く翻しながらラブリンスターの胸倉をつかんだ。
ラブリンスターの虚ろな瞳には、治胡のことが認識されているのか否か。
「ラブリンスター! 俺達のことが分かるか!?」
「……私があなたを好きなのは、あなたが私を好きだから……」
至近距離からの無差別籠絡術の発動が、治胡を含めた灼滅者達の脳髄を揺さぶる。
抵抗の意志を剥ぎ取らんとする力に、しかし抗いながら立ち上がる。
「思い出せないってのか……? まだ足りないってんなら、力づくで思い出させてやるよ!!」
ほとんど額同士をぶつけるようにして、治胡はラブリンスターへと呼びかける。
ラブリンスターの翼が開き、籠絡の力が放たれる寸前、レイザースラストが一斉に断ち切る。
「目を覚ませ、ラブリンスター!」
額同士がぶつかり合う固い音が、新宿ソウルボードに響いた。
●ラブリンスターの異変
ラブリンスターの全身から力が抜け、その体が崩れ落ち、角と翼、尻尾が消える。
「……ん?」
ラブリンスターを抱き留めた治胡は、奇妙なことに気がついた。
彼女の破れた服から覗く胸の下あたりに、奇妙な痣が浮かんでいる。
「ラグナロクの……? ラグナロクダークネスだったの自体は、あの滅茶苦茶な無差別籠絡術を見りゃ納得できるが、なんで『人間になっている』?」
ダークネスであった者が闇堕ちを解かれると、灼滅者となる。
灼滅者の素質を持たないものは、闇堕ちから元に戻ることは出来ない。
それが、灼滅者達の知る原則だ。
「あれれっ、武蔵坂の皆さん!? わたし、今まで一体何を? そして、皆さんは何故ここに……?」
混乱した様子のラブリンスター本人を見て、灼滅者達も原因が彼女本人が原因ではないらしいと理解する。
少なくとも今のラブリンスターは、『ラグナロク』として持ち合わせるだけの、一般人並みの能力しか持っていないようだった。
「……タカトが何かしたせいか?」
疑問を抱きながらも、ラブリンスターを伴って、灼滅者達は新宿ソウルボードを後にする。
『無差別籠絡術』が解除された影響を受け、デスギガスの体の各所にいたダークネス達に混乱が生じた。
だが、籠絡術の影響が抜け切っていない者も、まだ存在している。
ラブリンスターに生じた異変の原因、そして生じた現象は、何を意味するのか……?
●もっともいけない治療
「じゃあ、引き続き業大老おじいちゃんのところを重点的に。怖いと思うけど、武蔵坂学園の灼滅者も治療してあげて。なんか混乱してる人達は、治療を求めて来たら恩を売るってことで」
ゴッドセブン「もっともいけないナース」は、いけないアプリをインストールしたいけないスマホを片手に、配下の淫魔いけないナース達への連絡を行っていた。
見た目はゴッドセブン中でも最も幼いが、指示を下す様子には、一組織を率いる長として十分な貫禄がある。
収容所を守る老刀剣怪人が、しみじみとつぶやいた。
「業大老はともかく、本当に、灼滅者達への治療も行っとるんじゃなぁ」
「まあ……灼滅者には散々やられてるけど、シャドウ達の方がもっと怖いし。光の少年とかいう洗脳マニアも、放っておいたらいけない気がするし?」
それで自分達が戦わずに灼滅者達が矢面に立たずに済むのであれば、普段は敵対している相手であっても治療すると、もっともいけないナースは薄い胸を張る。
「そうかそうか。まあ、灼滅者達が攻めて来たら、ワシらが守ってやるからのう」
「わーい、青江おじいちゃん、ありがとう!」
安土城怪人とも付き合いが長いという老刀剣怪人の言葉に、もっともいけないナースは明るく感謝を示した。
●戦場特殊効果発動!
戦力への影響は、次ターンの開始時に反映されます。
・ターン終了時の「(5)業大老」の戦力は「1900」!
業大老の超巨大気弾攻撃により、「(15)光の玉座」の戦力が380低下!
・「(6)もっともいけない収容所」が未制圧!
「(5)業大老」の戦力が500増加!
次のターン、灼滅者の重傷/死亡率が半減! 重傷からの回復率が2倍!
・「(4)新宿ソウルボード」を制圧!
ラブリンスターを救出し、『無差別籠絡術』が解除!
戦場名に「デスギガスの」とつく全戦場の敵戦力が1000低下!
一部の有力敵の精神状態にも、影響があるようです。