(14)ベヘリタスの首
●マッスルマグマ
「わはははは! 何でこんなところに居るのかは覚えとらんが、お前達が敵ならば、戦うのみだ!!」
レスラースーツに身を包んだアンブレイカブル「マッスルマグマ」。その全身から、まるでイフリートの炎のように、燃え盛る闘気が吹き上がる。
「つよいね、あの人。プロレスラー……ケツァールマスクのなかま?」
幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)には一目で見てとれた。
無差別籠絡術の影響が消え、戦場を離れたアンブレイカブルも数多くいる。
一方で、残った者達は、タカトに完全に掌握されているかもあるいはこのマッスルマグマのように、単純に戦いを望む者のようだ。
炎を纏うラリアットが、灼滅者達を薙ぎ払う。肥満体に見えるが、その動きは敏捷だ。一見鈍重そうな体の内部は筋肉の塊なのだろう。
だが、それでひるむような灼滅者達ではない。
「あいてにとって、ふそくなし! 桃、がんばるよ!」
身に着けた拳法を活かし、アンブレイカブルを蹴り飛ばすと、桃はその背を蹴ってマッスルマグマを目掛けて跳んだ。
肩から体当たりして来る桃の小さな体を、マッスルマグマは腕を交差させて受け止める。
「ガハハ! 良い動きだな小娘! どうだ、ジークフリード直伝一日28時間の熱烈プロレストレーニングで、さらに強いアンブレイカブルに生まれ変わるというのは!」
「おしうりは、まにあってます! 八極拳あるし!」
闇堕ちへの誘いをきっぱりと断ると、桃は素早く蹴りを入れていく。
掴みかかって来るマッスルマグマの腕を蹴りつけると、
「才能を開花させるのを断るとは、悲しいことだ……!」
マッスルマグマの全身が一瞬膨れ上がったかと思うと、闘気が文字通りの熱を帯びて灼滅者達を覆った。
「がまん、がまん……!!」
だが、桃はそれに耐えると、炎を纏った蹴りを、マッスルマグマへと叩き込む。
たたらを踏んだマッスルマグマは、それでも耐えようとするが、
「まだ倒せないなら、もう1発ー!」
桃の再度の蹴りを受け、その巨体は力を失い、くずおれた。
「俺もまだまだ修行が足りなかったな……! ケツァールの奴め、このような面白い連中のことを独り占めにしておったのか?」
灼滅されたマッスルマグマの体が消滅していく。
桃は一礼して、その姿を見送った。
●チャリオットレディ
古代ローマの戦車競技で使うような、オーラで出来た戦車。
それを操り、戦場を駆けるのは、古代ローマの剣闘士のような姿をした女性だ。
「イキの良い子供達! このチャリオットレディが、お相手しましょう!」
一度は攻撃を止められた風雷・十夜(或いはアヤカシの血脈・d04471)は、彼女の率いるアンブレイカブル達の姿に戦意を燃やす。
「止めてみろっつったら止められたか。さすがに仁の犬士が率いる軍勢だな」
「シン・ライリー何するものぞ! ……あれ、何で私、あいつに従っていたのかしら。……まあ、とにかく、私も修行すれば追い越してやるわよ!」
チャリオットレディが、乗馬鞭のように軽々と振り回すモーニングスターを受け止めた十夜は、続けて振るわれようとした鉄球を掴み、そらす。
僅かに体がそれた瞬間、十夜の蹴りが、チャリオットレディの頬を撃つ。
「やるわね、坊や!」
「坊やじゃねぇ、十夜だ! 先のシン・ライリーよりも、今は俺達との勝負の方を気にしちゃどうだ? それで手が鈍るようなポカは御免だぜ」
自分自身にも言い聞かせるように言う十夜。
チャリオットレディの顔に、笑みが浮かんだ。
「長いこと生きているけれど、若者から説教されることは中々無いわね」
「そうか? まあ今度こそブチ抜いてやるから、もういっちょお相手願うぜ!」
配下達を倒した、他の灼滅者も集まって来る。
チャリオットレディは、それらを堂々と迎え撃つ。
やがて、十夜の蹴りが、チャリオットレディの放ったオーラの戦車を貫いて、彼女を灼滅させる。
「流石ね……。あなた達なら、ジークフリード師匠もさぞお気に召すことでしょう」
「なんとも英雄っぽい名前だな。俺達の前に現れたなら、いくらでも相手してやるぜ」
消滅していくチャリオットレディに、十夜はそう言葉を向ける。
●仁の犬士シン・ライリー
武神大戦獄魔覇獄での敗戦の後、シン・ライリーの『絆』が奪われているという事実は、武蔵坂学園の灼滅者達にも伝わっていた。
そして今、シン・ライリーはアンブレイカブルをはじめとした軍勢を率い、灼滅者達の前に立ちはだかっている。
『無差別籠絡術』の解除によって、幾何かの反応を示している他のアンブレイカブル達とは異なり、シン・ライリーの表情はいまだに虚ろだ。
彼がタカトによって徹底的に『絆』を奪い尽くされたということなのだろう。
「タカトの敵は……潰す」
「『仁の犬士』という称号とははかけ離れた姿だね」
最上川・耕平(若き昇竜・d00987)は、その姿に眉をしかめた。
仲間達をタカトに戦力として、あるいはベヘリタスの卵の苗床として売り渡す。
そうした行いも今のシン・ライリーならばやりかねない。
シン・ライリーから感じられる気の高まりは、彼の戦闘能力が失われていないことを雄弁に示していた。
「だったら、ここで決着をつけよう」
「戦闘を開始しろ」
灼滅者達へと、シン・ライリー率いるアンブレイカブル達が一斉に襲い掛かる。
そのアンブレイカブル達へと、灼滅者達のサイキックが解き放たれる。
格闘家達の力は、ダークネスだけあって大したものだ。
だが、灼滅者達には殲術再生弾の力があり、何より一度シン・ライリー配下達と交戦した昨年よりも、さらに力を増している。
タカトに心を奪われていた間、ろくに修行も出来ていないのだろうシン・ライリー達が、灼滅者達に勝てる道理もない。
耕平が着たジャージの、龍の刺繍を斬り裂くように放たれる掌底。
それを受けた耕平は、しかしすぐさま腕を抑え込むと声をあげる。
「ピオニー!」
シン・ライリーがはっとしたような表情を浮かべたのも束の間、ウイングキャット『ピオニー』の放った魔法が、彼を灼滅していた。
「……無様な話だ。もう、誰かは思い出せないが……あいつらが知ったら、聞いて飽きれるだろう」
灼滅の衝撃で、何かを思い出したとでも言うのか、シン・ライリーは虚ろな顔で首を振った。
「……全く、戦って死ぬなら、己の意志で、存分に戦いたかったが。もう、それを望む資格もない。だが、お前達が奴に一発入れてくれるのなら……」
タカトに操られ、仲間達を次々と死に追いやったことを恥じるようにつぶやくと、シン・ライリーの姿は消滅していく。
その消滅を見送って、耕平は仲間達を見た。
「……行こう、玉座まで突っ走ろう!」
光の少年タカトの待ち受ける、『光の玉座』への道は開かれた。
第2次新宿防衛戦は、最終局面へと突入する……。
●戦場特殊効果発動!
戦力への影響は、次ターンの開始時に反映されます。
・ターン終了時の「(5)業大老」の戦力は「500」!
業大老の超巨大気弾攻撃により、「(15)光の玉座」の戦力が100低下!
・「(6)もっともいけない収容所」が未制圧!
「(5)業大老」の戦力が500増加!
次のターン、灼滅者の重傷/死亡率が半減! 重傷からの回復率が2倍!
・【注意!】「(15)光の玉座」が攻略可能になりました!
次ターン終了時、「(15)光の玉座」が制圧されておらず、「(5)業大老」の戦力が「(15)光の玉座」を上回っていた場合、戦争は業大老の勝利で終了します!