サイレーン灼滅戦

●赤眼のニジェール
　北西方面、不義の港 イニウスティア。
　先刻行われた、灼滅者による奇襲で損害を受けた淫魔ブラックヴォイド達は、再び態勢を立て直しているのが確認されていた。
　灼滅者達は、完全に立ち直る間など与えず、そこへ再度の攻撃を仕掛けていく。
　ニライカナイは広いが、確認された敵戦力はそこまで多くは無い。それは、守らねばならない場所の多いサイレーン勢力にとっては、不幸なことであっただろう。

「港を死守しなさい、サイレーン様のために！！」
　指揮を執る赤眼のニジェールが、淫魔達を叱咤する。
　その声に応ずるように、黒髪の淫魔、ブラックヴォイド達の髪は触手と化して灼滅者達を包み込まんとしていた。
　長い髪の間から覗く赤眼は、催眠の力を宿して灼滅者達の心を惑わさんとする。
「でも、ここを仕損じるわけにはいかない！」
　無垢島・いるか（速吸瀬戸の巫女・d15794）は妖の槍を手に、前へと飛び出した。
　幼さの残る顔に凛々しい表情を宿して、狙うは敵の部隊長だ。

　港の光景をも覆い尽くすかというような勢いで広がった髪が、灼滅者達の腕に絡みつき、腕に軋みを上げさせた。
　強靭な髪を掻い潜った灼滅者達は、ブラックヴォイド達へと切り込み、灼滅者達の手にした殲術道具と淫魔達の兇器と化した黒髪がぶつかり合う。
　戦いは灼滅者達の側が優勢だが、ブラックヴォイド達の抵抗も激しく、戦力が拮抗した場所では、重傷者の報告があちこちで上がっている。
　早く決着をつける必要がある。
「生き残り、再びサイレーン様の寵愛を得るために！」
　ニジェールの赤い眼光が、誘惑の魔力を帯びて灼滅者達を睨みつける。
　いるかは、意識を持っていかれそうになるのを堪えると、その視線から逃れるように、手近にあった小屋の上へと昇る。そして、手にした槍から妖冷弾を射出した。
「いっけー！！」
　淫魔ニジェールは二重三重に束ねた髪の盾で受け止めんとするが、氷の弾丸はそれまでの灼滅者達の攻撃で脆くなった髪を容易く切り裂き、ニジェールの胸を貫いた。
「サイレーン……様……」
　一気に残る生命力を喪ったニジェールの髪が散り、赤く輝いていた瞳が光を失う。
「ギリギリ……ここは抑えられましたね」
　安堵したような表情で、ほっと息をつくいるか。
　灼滅者達は、重要地点の一つ被虐要塞への道を切り開いた。
　だが、ブラックヴォイド達の反撃に重傷を負った者も少なからずいる。
　戦況はいまだ予断を許さないようだった。