■第8ターン結果
新宿駅周辺を閉ざしていたタロットが消えたことで、29日の朝に不幸にも新宿駅にいた人々は、不安げに空を見上げていた。
新宿上空に浮かぶ、悪夢のような怪物の姿は、都内各地から見えている。
それが不自然なまでに報道されず、SNSなどで広めても全く反応が無いことは、人々にこの上無い不自然さを感じさせていた。
「あれは……一体、何なんですか?」
タロットによる新宿駅周辺の封鎖が解け、4D椿が呼び寄せた自衛隊に引き渡された人々も自衛官達に問うが、自衛官達も言葉を濁し、空を仰いだ。
『あはははははははは……』
空から響く無感情な笑い声……デスギガスの声が、暗い空に響き渡っている。
あれが何なのか。ダークネス事件に巻き込まれ、灼滅者達の存在を知る者ですら、あの怪物を人間から変じた他のダークネス達と同一のものと考えるのは困難であった。
●『核皇』(牧野・春)
第三次新宿防衛戦も最終段階に入り、種戦力はデスギガスとの決戦に向かっていた。
ただ、デスギガスの戦場の制圧は半ば以上が終了しており、灼滅者側に余力が残っている。
その余力を使い、経津主・屍姫(無常ノ刹鬼・d10025)達は、デスギガスの右腕へと攻め込んでいた。
その目的は、闇に墜ちた同胞を救う為に他ならない。
「この戦いは救出の為だからね、催眠は使用は控えようね」
そう確認しつつ、戦場を進む灼滅者達。
確率的には、催眠による自死など、ほとんど発生しえない低確率なのだが、万が一がありえるのならば、用心するにしくはない。
敵戦力が強大であり、勝利する事こそが優先される場合は、催眠も含めて全力を尽くすべきだが、今は、充分な余裕があるのだ。
「よーし、バシバシ撃つよー!」
シャドウの残存部隊を蹴散らして、指揮官である牧野・春の元までたどりついた屍姫は、早速、春に手を差し伸べる。
「アガメムノンはもういない! 戦う理由は無いよ! だったら戻らなきゃ、みんな待ってるんだから!」
そう声をかける屍姫に、春……いや、淫魔『核皇』は動揺したように瞳を揺らすが、強い口調で言い返した。
「うるさいな。俺の目的は、エト・ケテラを私の物にすること。お前の言葉は、春にはとどかない!」
だが、その強い口調が、動揺の現れであるのは明白であったろう。
「嘘ですね。もし、それが目的と言うのなら、あなたは何のために戦っているの? ここで灼滅者と戦っても、その目的は果たせないのだから」
屍姫のその言葉に、核皇は反論する事はできず言葉に詰まる。
「エト・ケテラは、灼滅者に戻ってからだって、なんとかできるかもしれないんだよ。でも、このままここで戦って灼滅されたら、絶対に目的は果たせなんだからね」
だから、この攻撃で、正気に戻って! その願いと共に放たれた屍姫のマジックミサイルに、核皇は、抵抗する術を失っていた。
「……好きにするがいい」
核皇は敢えてマジックミサイルの攻撃を受け、戦場に倒れる。
この瞬間、淫魔たる核皇は滅び、灼滅者、牧野・春が再び誕生する……かに思われた。
だが……。
別の戦場で勝利したダークネスの軍勢が、指揮官『核皇』の元へとかけつけてきた事で、寸での所で、春の救出は阻止されてしまう。
更に、デスギガスの灼滅による戦場の消滅が重なった為、駆けつけたシャドウ達に抱えられて撤退していく、春を、灼滅者は、ただ見送るだけしかできなかった。
「そんな所に居たって、楽しい事は何もないよっ。だから、次は必ず、助けて見せる!」
その誓いと共に、灼滅者達は崩れ去る戦場から撤退したのだった。
●歓喜のデスギガス
人々の視線の先、空で荒れ狂う巨大な怪物……デスギガスの体の上では、灼滅者達の決死の戦いが続いていた。
主要なシャドウ達はほぼ倒し、残るはデスギガスを倒せば戦いに決着を付けられる。
だが、そのデスギガスの強さは、過去に灼滅者達が遭遇したあらゆるダークネスを上回っていた。
『あはははははははは……』
虚ろな笑い声が響くたび、精神を侵された灼滅者が昏倒する。
そして、デスギガスの体表面が渦巻いたかと思うと、黒い影の大波が、灼滅者達をデスギガスの体内に呑み込まんとして来るのだ。
「耐えろッ……!!」
津波と同じように、盛り上がりながら突き進んで来る影の波。
それは灼滅者達とて、到底避けられる速度ではない。
槍をデスギガスの体に突き刺して、波を耐え凌いだ東雲・悠(龍魂天志・d10024)が周囲を見れば、先ほどまで共に戦っていた何人かがいなくなっている。
「波に呑み込まれたのか……!」
彼らの無事を祈りながら、悠はデスギガスを振り仰ぐと再び走り出す。
「これで赤の王タロットを失って弱体化してるっていうんだからな……!!」
いまだ残っているシャドウ達の攻撃を凌ぎつつ、悠達は果敢にデスギガスを攻めたてていった。
デスギガスの巨大な体は、易々と灼滅者達のサイキックを寄せ付けはしない。
だが、有効な部位が幾つかあることを、戦いの中で灼滅者達は見い出しつつあった。
中でもデスギガスの腹部、黒々と開いた『歓喜の門』は、灼滅者達の攻撃の格好の的だった。タロットを封じ、そして解放した『歓喜の門』が、いまやデスギガスにとっての弱点と化している。
だが、シャドウ達も、そしてデスギガス本体も、そこに灼滅者達を寄せ付けまいとしていた。
『あはははははははは……』
まるで楽しくなさそうな笑い声が降り注いでくる。
ただそれだけで、狂的なまでの『歓喜』の念が、自分の中から湧き上がる。
唯一の友たるアガメムノンを失い、デスギガスは本来そうであったような、力だけの存在へ帰そうとしていた。
「おおお……!!」
声も枯れよとばかりに叫び声をあげ、悠は歓喜の呪縛を振り払う。
「ようやく王手まで来たんだ。行くぜ!」
灼滅者達は殲術道具を振るい、黒の大波を掻き分けていった。飛ぶ竜を思わせるように槍を大きく振るう。
その手にした槍は、彼の求めによく応え、デスギガスの体を次々と傷つけていく。
殲術道具は、赤の王タロットの骸の情報を元に作られたという。
だが、それはいまや灼滅者達の手に渡り、ダークネスと戦う力となっていた。
「デスギガス、その命、貰った!!」
一際高い波に乗って流れて来た瓦礫を蹴り、悠は高く高く跳んだ。
手にした槍の穂先を、『歓喜の門』の中央部へと力強く叩きつける。
「爆ぜろ!!」
螺旋の力を伴って、その一撃は『歓喜の門』を貫いた。
『あはははは……は…………』
デスギガスの体が、痛みに耐えかねたように捻じれた。
腕や足が砕け、筒のような胴体が、ぐるぐると回転しながら細く、細くなっていく。
「こいつはまずいな……みんな、落下に備えろ!!」
言いながら、悠はデスギガスの体に取りついている努力を放棄する。
落下しながら見上げるデスギガスの体は、上空にあったプレスター・ジョンの国と共に完全に砕け散り、まるで夢であったかのように消え去って行く。
そして、灼滅者達は地上へと帰還する。
空は夜の闇に染まり、しかし不気味に鎮座していた巨影はもはや消えていた。
→有力敵一覧
→(3)ハートシャドウ軍(1勝3敗/戦力250→200)
→(7)デスギガス頭部(1勝0敗/戦力1200→1150)
→(8)デスギガス(21勝19敗/戦力650→0/制圧完了!)
→(9)デスギガスの右腕(2勝1敗/戦力150→50)
→(11)デスギガスの左腕(0勝1敗/戦力1250→1250)
→(13)デスギガスの左足(1勝1敗/戦力700→650)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。