瑠架戦争

●バーバ・ヤーガの小屋
「あの小屋周辺にバーバ・ヤーガがいることは間違いないでしょう」
　奇襲時にも確認された、ひときわ巨大な『鶏の足の小屋』。
　そこが魔女バーバ・ヤーガの移動拠点にして本陣であることを、牧原・みんと（象牙の塔の戒律眼鏡・d31313）は知的に眼鏡を光らせながら確信していた。
　破壊された家屋を踏破し、時には建材に身を隠しながら、彼女達は街路を走り抜け、敵の守りの薄いところを抜けていく。

　そして、ついにみんとをはじめとする灼滅者達は、巨大な小屋の前まで辿り着いていた。だが、
「いない……？　既に別の場所に移動していましたか！」
　バーバ・ヤーガの不在を確認し、思わずみんとの眼鏡がズレる。
　だが、この小屋の積載運搬能力が他より大きなものであることも明らかだ。
「バーバ・ヤーガに脱出されるわけにもいかないでしょう」
　巨大なバーバ・ヤーガの小屋、そしてそこから現れるヴァンパイア達を前に、みんとは不敵に言う。

　巨大な体が帯びる歯車もまた巨大だ。
　放たれた歯車が周辺の家々を破壊していくのを回避しながら、みんとは冷静にその弱点を見抜いていた。

「巨大といっても、支える足は二本きりのようですね」
　ダイダロスベルトが伸び、小屋の足を締め付け、切り裂く。
　そのまま力を篭めると、鶏の足を喪った小屋は轟音と共に転倒した。
　あとは倒壊した小屋が完全に消滅するまで、そう時間はかからない。

「バーバ・ヤーガもそう離れてはいないはず。連絡を送りましょう」

●魔女バーバ・ヤーガ
「さっきは届かなかったけどバーバ・ヤーガを灼滅に行くよ！」
　赤星・緋色（朱に交わる赤・d05996）は、ご当地ビームを乱射しつつ、灼滅者達の先陣を切って駆け抜ける。
　続けて現れたのは、鶏の足の小屋を主力とするバーバ・ヤーガの親衛部隊。
　その後ろには、魔女・バーバ・ヤーガの姿も垣間見える。
　彼我の戦力は互角。
　取り巻きの軍勢だけならば、勝利を掴めるであろうが、爵位級の戦力が加わったならば、勝敗は予断を許さないだろう。

「みんなは、鶏の足の小屋をお願い！　絶対に撤退させたくないんだから！」
　緋色は元気よく仲間に声をかけると、赤い髪をなびかせて敵陣に飛び込みと、腕部に装着されたバベルブレイカーを地面に突き刺した。
「これは挨拶がわりだよ！　衝撃のグランドシェイカーっ」
　緋色のグランドシェイカーにより敵陣は切り裂かれ、そして、敵味方入り乱れる乱戦が始まった。
　この乱戦の幕を引いたのは、柳谷・凪。
「唯この閃きにて全てを断つ！」
　その言葉通り、戦場に残る最後の鶏の足の小屋を撃破して、バーバ・ヤーガの退路を断ち切ったのだ。

「あとは、あなただけだよ！　さぁ、包囲殲滅戦だよ！」
　灼滅者達も戦力は半減していたが、敵は残り一人のみ。
　緋色は、勢いよくバーバ・ヤーガを指さすと、大見得を切って見せる。
　だが、その最後の一人が難敵であった。
「力を拒み、勝負を捨てた灼滅者が……」
　魔女バーバ・ヤーガは、白面に苛立ちを隠さずに、灼滅者を睥睨する。
「違うよ！　私達は、犠牲を出したくないだけ！」
「戯言を。お前達は、呪われて死になさい」
　緋色の言葉に更に苛立ちを募らせたバーバ・ヤーガの呪いの言葉に次々と倒れる仲間達……。
　圧倒的な爵位級の力を見せつける、バーバ・ヤーガ。
　だが、それでも、灼滅者達は、少しづつダメージを積み重ねていく。
　そして遂に……。
「今度こそ、ここで絶対に倒すんだよ！　蹂躙のバベルインパクト！」
　緋色のバベルブレイカーが、魔女バーバ・ヤーガの死の中心を打ち抜いたのだ。
　それは、逃れえぬ死の一撃であった。
「ここまで、ですか。」
　貫かれたバーバ・ヤーガは、ふらふらと一歩二歩と歩き、そして地面に倒れ伏したのだった。

　緋色は数旬だけ劇的な勝利の余韻に身をゆだねた後、すぐに踵を返す。
「残り時間に余裕はできたけど、急いで、次の戦場に向かわなくちゃ。黒の王を倒せるか、それとも、瑠架さんを倒さなきゃいけないのか……」

●アタワルパ
　ヴァンパイア勢力の傭兵となっているアンブレイカブル『アタワルパ』は、黒の王が武蔵坂学園方面に出撃すると聞いて、自ら志願していた。
「最強たるサイキックハーツによって今の生命が滅びるならば、それも一つの結果だ。
　その前に武蔵坂学園と戦う機会を貰いたい」
　アンブレイカブルらしい言い様を黒の王は受け入れ、彼をこの場に連れて来ていた。

　かつてのアンブレイカブル最強の大老の一人、ジークフリート大老。
　その弟子であり、黄金闘技場を利用して師を越えようとしたアタワルパの目標は、師を武蔵坂学園に先に討たれることで失われた。
　幾度かの戦いを経た今のアタワルパは灼滅者達の実力を誰よりも認めているダークネスの一人だろう。

「いまさら惜しむ命でもあるまい。往くぞ」
「「「応！！」」」
　アタワルパに従う生き残りのアンブレイカブル達が気勢を上げる。
　既に瑠架と武蔵坂学園の攻撃を受け、残り少なった生き残りにとって武蔵坂学園は最後の戦いとするのに値する相手だ。

　大剣をひっさげて瞬く間に距離を詰めて来るアタワルパを、幸・桃琴（桃色退魔拳士・d09437）が迎え撃つ。
「最強のアンブレイカブル！　勝負だ！」
　桃琴が正面から繰り出した拳と、アタワルパの大剣がぶつかり合う。
　桃琴の拳が割れ砕け、体がトラックに跳ねられたように吹き飛んだ。
　後方にいた-Feather-の仲間が、咄嗟にその身を受け止める。

　来いというようにアタワルパは大剣を構え、アンブレイカブル達も彼に続く。
　灼滅者達とアンブレイカブルは、再び激突した。

　灼滅者達とアンブレイカブル達、双方が倒れていく中、アタワルパはその最強を示すかのように戦場で剣を振るい続けていた。
　ジークフリート大老のような数々の異常に強力な特殊能力こそ無いものの、単純な戦闘技術でいえば、確かにアタワルパはジークフリートに迫る実力者ではあったのだろう。

「負けない、-Feather-の仲間がいるんだもん！！」
　無数の攻撃を剣で払い、切り捨て、傷つきながらも怖じる様子すらなく前進するアタワルパ。その猛進に、桃琴は地面を蹴り、再び挑みかかっていく。
「同じことだ」
　だが、剣を振るおうとしたアタワルパへと、-Feather-の団員達が一斉に攻撃を集中させた。体を翻し、それを振り払うアタワルパの一瞬の隙をついて、桃琴の拳がアタワルパの鳩尾へと叩き込まれた。
　強烈な衝撃波が弾け、アタワルパの腹部から血がとめどなく溢れ出していく。

「これが桃達の拳だよ！　……お相手、ありがとうございました」

　拳を引き抜き、一礼する桃琴の足元に、大剣が転がる。
　アタワルパの姿は、既に消えてなくなっていた。

・朱雀門・瑠架の攻撃により、【黒の王軍】の各戦場の戦力が減少しています。
・『黒の王』の攻撃により、（8）朱雀門・瑠架の戦力が減少しています。
・瑠架が拉致されるターンが『第５ターン終了時』に延びました。