アンリ戦争

●魔将軍オセ
　アンリの『絶対空間』形成を速めている楔の一つ、魔将軍オセが守る戦場。
　押し寄せる灼滅者の軍勢を、魔将軍オセは、剛腕を組んて睥睨する。
「アスモダイは灼滅を逃れたようだな。だが、アスモダイ・ギャンビットは既に失われた。もはや、我らに望みは無い」
　重々しい魔将軍オセの言葉に、対峙していた千歳・ヨギリ（朝を待つ宵待草・d14223）も納得したように頷いた。
　序盤からの攻勢により、灼滅者は余裕をもって敵に対処できている。
　そして、このオセを倒せば、その余裕は盤石な物になるだろう。
「そう言う事ですから、狩らせてもらいますよ？」
　疑問形で口にしたヨギリの言葉に、オセは獰猛に牙を見せる。
「狩りか、楽しみだ。だが、獲物はお前達になるかもしれんぞ？　希望が潰えたとて、この俺が、戦いを楽しむ事は止められはせぬ！」
　魂の奥底から響くような雄叫びをあげたオセは、烈火の如く灼滅者の陣容に切り込んできた。そのオセの後に、彼に仕えるソロモンの悪魔達が続く。
「さすがは、魔将軍……というところですね」
　その怒涛の攻勢にヨギリ達は息を呑む。だが、これまでの激戦を勝ち抜いて来た灼滅者達の力も、ソロモンの悪魔達に後れを取る事は無い。
「その強さも、猛々しさも、蝋燭の最期の灯……！！」
　魔将軍の決死の猛攻も、もはや戦場の趨勢を大きく変える事はできなかった。
「ぐぬぅぅ」
　そのヨギリの言葉の通り、魔将軍オセは、侵攻の限界点に達すると、多数の灼滅者に包囲され、敵中に孤立していったのだ。
「孤軍奮闘ながら、一騎当千の働きでした。その魔将軍の武には、この槍で応えましょう」
　そういって、ヨギリは、妖の槍をひとふりするとオセの懐に飛び込む。
「この程度の力で、身の程を弁えろ！」
　だが、魔将軍オセは、隆々たる上腕筋に物を言わせて、そのヨギリの槍を弾き飛ばした。
　衝撃を自ら跳んで軽減したヨギリは、そのまま華麗なステップを踏むように、左から回り込み、ダイダロスベルトをひらめかせる。
「猪口才なっ！」
　左胸を穿つように動いたヨギリのダイダロスベルトを、オセは体をひねってかわすと、左腕と胸の間に挟み込んだ。
「ぬぉぉぉぉぉ！！」
　力を振り絞るオセに、ヨギリの体が一気に引き寄せられていく。
「さすがの力ですね、これは動かせません」
　自らの武器を絡めとられたヨギリは、その魔将軍の膂力を、素直に感嘆する。
「純粋な力で我に勝てると思うなよっ！」
　だから、そのオセの言葉にも、素直にうなずくと、
「やはり、正攻法では届かないという事ですね」
　と、ダイダロスベルトから力を抜いた。そして、武器が手放された事で一瞬たたらを踏んだオセに軽く手を添えて更に態勢を崩させると、その耳元に口を寄せ、彼女の七不思議をその耳に囁く。
「『プードルちゃん』という都市伝説を御存知ですか？」
　と。それは、オセの想定していなかった攻撃であったに違いない。
「なんだ……それ、は……？」
　悪寒を感じたオセの頭上に、何かの影が現れる。
　それは、真っ白く可愛らしい、プードルだった。
　ただし、その大きさは半端ではない。
　鳥獣猟犬としての側面を剥き出しにして迫るプードルにオセは獣顔をひきつらせて刃を振るい続けるが、巨大プードルは切り裂かれるたび、切られた部分をプードルとして分離させるばかりで、オセの剣が一向に中心部まで辿り着くことはなかった。
「こ、このようなサイキックで、この魔将軍オセが……！？」
　屈辱にまみれた怒声を発しながら、魔将軍オセはもこもこの中に呑み込まれるように力尽きた。
「魔将軍オセ、討ち取りましたよ！」
　七不思議『プードルちゃん』を語り終え、ヨギリは快哉をあげる。
　こうして、『絶対空間』構築までの時間はまた引き伸ばされた。
　灼滅者達は勝利へと続く道を、また一歩踏み出したのだ。

・（8）オセの制圧により、（16）不死王アンリの敵戦力が大きく減少！
・（8）（9）両方の制圧により、絶対空間完成が『第8ターン終了時』に遅延！