■第6ターン結果
●何でも屋ジョン・スミス
「やぁ、待っていたよ。私の戦場へようこそ」
戦場に足を踏み入れた、榎本・彗樹(野菜生活・d32627)を始めとした灼滅者達を、ジョン・スミスは、鷹揚に両手を広げて歓迎してくれた。
「これだけ多くのお客さんに来てもらえるとは、嬉しい限りだよ」
人の良いおっさんのような笑顔を見せるジョン・スミス。
その様子は、まるでアメリカの片田舎に居そうなタイプの好人物のようだ。
「ふん、そっちが工具ならば、こちらは農具だ! 工具と農具どちらか強いか決着をつけようではないか」
彗樹は、ジョン・スミスに向けて愛用のクワを掲げて勝負を挑む。
「お前はノーミンか! ならば相手にとって不足は無い。さぁ、戦おう。ドゥイットユアセルフ!」
そういうと、ジョン・スミスは手にしたガスコンロを手早く弄ると灼滅者に向けて投げつける。
それが地面にぶつかると同時、甲高い爆発音が戦場に響き、何人もの灼滅者が吹き飛んだ。
「なんの変哲もない台所用品も、わたしの手に掛かれば、ほら、ごらんのとおりさ」
そんな、深夜のショップチャンネルか、スーパーの実演販売のような事を言うジョン・スミスに、
「さすがはDIYだ。だが、俺のクワも並大抵では無いぜ」
彗樹も、負けじとクワを振り回す。
このクワの攻撃を、ジョン・スミスは、いつの間にか手に持っていた糸鋸で無造作に振り払ってみせる。
こうして、灼滅者とジョン・スミスの戦いの長い戦いが始まったのだった。
戦闘開始後12分が経過した。
ジョン・スミス以外の敵は既に全滅しているが、それでもなお、ジョン・スミスはたった一人で戦場にあり続けた。
「何故、お前はたった一人で、立っていられるのだ!」
「お前達は強い。だが、わたしはもっと強い。そういうことだ」
たった一人のジョン・スミスと灼滅者の軍勢の戦いは、5分……10分……15分と続いていく……。
ジョン・スミスの糸鋸と、彗樹のクワも、この戦いの中で何度も何度も打ち合うが決着をつけるに至らない。
しかし、どんな事柄にも、最後の時は訪れるのだ。
「いやはや、中年の体にはきつい運動だね」
単独で戦い続けてから20分が経過すると、ジョン・スミスもさすがに、疲れた様子を隠せなくなる。
「年は取りたくないものだな。息が上がってるぞ!」
そう指摘する彗樹だが、こちらも肩で息をついている。
だが、それでもクワを担ぐ手に、力を籠め続けているのは農民の矜持であろうか。
「やせ我慢も結構。それが、若者の特権だからね。だが、そろそろ終わりにしようか」
そう告げると、ジョン・スミスは今までで一番の高級ガスコンロを取り出す。
「これで全てを吹き飛ばして、この戦いを綺麗に終わりにさせてもらうよ。最後の掃除まで含めて、DIYさ!」
だが、その高級ガスコンロは放たれる事は無かった。
「全ての農民達よ、農業の神よ、俺のクワに力を貸してくれ! 工具に負けない力をっ!!!」
彗樹が、農業のカミをクワに宿すと、そのクワの周囲に渦巻く風がクワと共に、ジョン・スミスを襲いかかった……。
臙脂色のシャツが斬り裂かれ、露になった胸板が、クワの一撃でまるで耕されたかのように、破壊されていく!
それは、まさに、芸術的に農業的な一撃で会った。
「全国の農民たち、ありがとう。この勝利は、俺だけの力では無いっ!」
彗樹は力を貸してくれた農民とカミにそう宣言すると、クワを持ち換えてグイグイと力を入れ、確実にジョン・スミスの命を刈り取っていった。
「まさか、農具がこれほどの武器だとはな。願わくば、お前には、農具を武器にしてアグリカルチャーな殺人術を編み出して欲しい。それが、わたしの最期の望みだ……。アグリカルチャー!」
ジョン・スミスはそう言い残して、血の海に沈んだ。
「ジョン・スミス……恐ろしい敵だった。だが、農具に殺人術は相応しくない」
彗樹は、強敵との長い戦いに終止符を打つと、クワを背負って戦場を立ち去った。
「クワは、畑を耕すものなのだから……」
最後に、こう言い残して。
●サイキックハーツ『朱雀門・継人』
戦場の最奥、『朱雀門・継人』の周囲には、巨大な鎖が展開していた。
軋み合う巨大な鎖は、彼の周囲の闇から伸び、そして剣樹卿アラベスクの周囲へと展開していた。
「剣樹卿アラベスクの力は、サイキックハーツと化した私の手にすら余る。
だが、アラベスクを使わなければ、君達に勝つことは出来ないだろう」
朱雀門・継人は灼滅者達を前にして、そう淡々と、事実を確認するように言った。
「朱雀門・瑠架が力を託した者達。その力、やはり恐るべきものだな」
「よく言うぜ……」
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)はエスパー達の力を確かに感じながら、その視線を受け止めた。
じわりと、汗が滲むのは、夏の暑さのせいばかりではないだろう。
転生を幾度も繰り返す『黒の王』。
その現在の肉体の血族であった朱雀門・瑠架はサイキックハーツとして死を迎え、その力によって武蔵坂学園に力を遺した。
そこから複数のサイキックハーツを打倒し、力を得てなお、眼前のサイキックハーツは強い。
既に多数の爵位級ヴァンパイアや強力なダークネスを打倒し、彼本来の力だけに近付いているはずだが、それでもなお朱雀門・継人は強力だ。
だが、それでも、脇差は確りと『黒の王』を見据えた。
「俺達には護りたいものがある。黒の王、お前の好きにはさせないぜ」
「私は私の好きにする。それが力を持つ者の権利だ」
闇の中から、音もなく何百という数のヴァンパイア達が現れる。
脇差をはじめ、灼滅者達は彼らと一斉に戦いに突入した。
「俺達は、俺達だけで戦っているわけじゃない」
脇差は、そのことを実感している一人だった。
仮に、灼滅者達が自分達だけで戦い抜こうとしていたなら、総攻撃に参加した戦力の大半が、まだエチオピアに取り残されていただろう。
これまで1か月近くに渡り、武蔵坂学園の1A梅の中心人物の一人として、世界中で様々な人々と出会って来た脇差は、自分達の戦いに様々な人々が協力してくれていることを知っている。
政府の要人からマスコミ関係者、物資の調達に協力してくれた企業や交通機関、各国の警察、消防、軍事の関係者、果ては応援を寄せてくれたインターネットの向こうの顔も分からぬ相手まで。
気付けば武蔵坂学園の灼滅者達は、多くの人々の祈りを浴びる存在となっていた。
様々な人々が灼滅者達の存在を知り、そしてその戦いに挑む若者達を応援してくれているのだ。
それが、決して全世界の人々でないことも、一人でも多くの人に世界の真実を伝えようと悪戦苦闘して来た灼滅者達は分かっていた。
『バベルの鎖』による情報拡散の阻害が意味を失って僅か1か月。
世界に起きた変化、そして灼滅者達の戦いは、全人類の理解を得たとは言い難い。
世界の反対側で行われる戦争が、どこか他人事であるのと同じだ。
「だが、それでもな!!」
継人の生み出した闇をその白刃で切り裂きながら、脇差は吼えた。
人々の祈りは、確かに灼滅者達の背を支えている。
ソウルボードでの精神防衛戦の時のように、直接的にソウルボードの力を戦いのための力に変えることも、灼滅者達には出来ただろう。
だが、そうした道を選ばずとも、彼らが救い、助けて来た人々は、灼滅者達のために祈りを向けてくれている。
一人一人の力は弱く、ダークネスにかかれば容易く踏みつぶされる力に過ぎないが、しかし確かに灼滅者達の背を押してくれている。
ただ自分の人生を精一杯に生きている人々が、サイキックハーツの戦いなどで犠牲となって滅んで良いはずがない。
精鋭と呼ぶべきヴァンパイア達は、ことごとくが倒れて闇に消え、そして灼滅者達の向こうには朱雀門・継人の姿があった。
ヴァンパイアのサイキックハーツ。
その魂に無数のダークネスを吸収した、絶対的な存在は、しかし灼滅者達の攻撃を受け続け、既に傷つき果てていた。
「まずは、お前との戦いを、終わらせる!!」
「ここで終わらせるわけにはいかない。そのために、僕は戦う──」
『黒の王』の魔力が、灼滅者達の命を奪い尽くさんと檻のように展開される。
その檻が閉じるよりも速く、脇差は闇を駆け抜けた。
人々の祈りを代行するように、その切っ先が黒の王の胸を深々と貫く。
●アラベスク始動
『黒の王』朱雀門・継人の胸からは血と共に闇が溢れ出していた。
遠く、アラベスクを覆っていた鎖が、音を立てて千切れ飛んでいく。
「これもまた、やむをえないのだろう。
たとえ『黒の王』としての意志も転生の権も、あの剣樹に呑み込まれるとも。
もはや、敗北することは許されないのだから。
サイキックハーツの力と共に、私は、アラベスクに『転生』する──」
朱雀門・継人の肉体が、闇となって霧散する。
その瞬間、アラベスクの周囲にいたヴァンパイア達は、不意に吐血した。
胸から金属の塊が生えていることに気付くまで一瞬。
そして、彼らの意識が完全に消失するまで、数秒とかからない。
ヴァンパイア達の姿が、アラベスクの現身に変わっていくのを灼滅者達は見た。
朱雀門・継人の鎖に押さえつけられていたアラベスクの力は、いまや解き放たれ、その周囲にいたヴァンパイア達の魂を塗り替えていく。
ヴァンパイア(吸血鬼)は、吸血した相手をヴァンパイアに変える。
それが偽りであることを、灼滅者達は知っている。
『バベルの鎖』の影響により、人間達の間に歪んだ伝わった、虚偽でしかないと。
だが、それを実現する者はいる。
剣樹卿アラベスク。
最強のヴァンパイアは、己でない存在を己へと変えていく。
・(13)(15)の制圧により、(20)の戦力が大きく減少!
→有力敵一覧
→(13)ジョン・スミス(17勝5敗/戦力1940→0/制圧完了!)
→(15)朱雀門・継人(22勝3敗/戦力900→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。