軍艦島攻略戦

　軍艦島地下拠点の制圧により、武蔵坂学園の選択肢は一気に広がった。
　当初からの目的地である七不思議使いの収容所に通じる「怪談階段」。
　『うずめ様』、ミスター宍戸、アフリカンパンサーといった、各勢力の有力者へ通じるルート。
　そして、定礎怪人達によって謎の儀式が行われる『巨大定礎石』。
　さらに地上では美醜のベレーザがデモノイド調整プールに身をひそめており、アフリカンご当地怪人達もまだ残っている。
　どの場所を目指すべきか、その判断が個々の灼滅者達に委ねられる中、最多の人数が赴いたのはタタリガミのひしめく怪談階段であった。

●怨み骨髄
　タタリガミは、生み出した都市伝説のうちで最も戦闘力の高い都市伝説の姿を能力を帯びる。
　月見里・无凱（深淵揺蕩う紅銀翼・d03837）の前に現れたタタリガミは、いわゆる『丑の刻参り』の女性の姿をしていた。
「だが、あの藁人形は何だ？」
　異様な大きさの藁人形を背中に背負っている。
　あるいは都市伝説がそうであるように、その姿は人の噂の影響を受けているのかもしれなかった。
　天凱はタタリガミへと顔を向ける。
　体を侵す呪詛をそのままに、天凱は言葉を放っていく。
「貴様等はそれでいいのか？　このままで終わるつもりなのか？」
　天凱の言葉は、タタリガミと化している七不思議使いへと向けられたものだ。
　途端に強烈な呪詛が襲って来るが、決して耐え切れないものではないと判断。
　彼はそのまま言葉を続けた。
「いいように手駒として扱われ、勝手に死ねと言われているのだぞ！」
　タタリガミが藁人形の顔を釘で貫く。
　途端、天凱の目に強烈な痛みが走った。
　視界が一瞬闇に閉ざされた。
　なおも構わず、天凱は影業を刃として形成していく。
「この声が聞こえるのなら足掻け！　人としての意志が残っているなら底から這い上がってこい！　貴様等はまだ人なのだから！」
　呪詛を断ち切るように、天凱の影業が刃として完成する。
　その刃が振り切られると共に、タタリガミが盾としてかざした藁人形が断ち切られる。
　呪詛が霧散していき、その後には七不思議使いが倒れていた。

　他のタタリガミも、次々と七不思議使いへと戻されていく。
　助け出した者達を救護拠点へ運んでいくのだった。


●トンカラトン大王
『トンカラトンと申すが良いトンカラトン』
　頭の上から、偉そうな声が響いてくるのを江良手・八重華（コープスラダーメイカー・d00337）は見上げた。
「……これもタタリガミが生み出したのか？」
『我が名はトンカラトン大王。世界中のトンカラトンのエナジーが凝縮された、トンカラトン・オブ・トンカラトンであるトンカラトン』
　やたらと偉ぶった様子でトンカラトン大王が告げる。
　その足元の包帯が解けたかと思うと包帯が人型を取り、おびただしい数のトンカラトンを生み出していく。
『我が健在である限り、世界はトンカラトンに覆い尽くされるのであるトンカラトン』
「こんな噂を流した奴は誰だ！？」
　タタリガミ達が気まずそうに顔を逸らしたように見えた。
　というか、七不思議使いが闇堕ちしたタタリガミ達よりもトンカラトン大王の方が強い。
『我もまた、最初からこのような巨体であったわけではないトンカラトン。最初は、『トンカラトンはトンカラトン同士で殺しあう』という噂であったのだトンカラトン』
「なんか語り出しているな……」
　八重華は、まずは周囲のトンカラトンやタタリガミを倒していくことにする。
「それからなんやかんやあって、他のトンカラトンの力を吸収する力を得た我は大量のトンカラトンの力を吸収してトンカラトン大王になったのであるトンカラトン」
　しみじみと語っていた大王だが、説明は思ったより早く終わった。
「乱を求める我等トンカラトンの意志がトンカラ結集し、正にトンカラまろび出し我こそトンカラトン大王！」
　刀を振り上げ、トンカラトン大王は力強く宣誓する。
「トンカラトンの力を示し、トンカラトンによるトンカラトンの為の……」
「いい加減、五月蠅い」
　八重華のダイダロスベルトがトンカラトン大王を貫いた時、戦いに決着はついた。
　闇堕ちしたのに、あんな都市伝説より弱いという事実にショックを受けたタタリガミ達も、説得を受けて七不思議使いに戻されつつある。
「これで、七不思議使いの収容所へ辿り着ける。後は何を片付けるか……」
　八重華は怪談階段の下を覗き込む。
　多数のタタリガミの集まった収容所からは、淀んだ風が吹き出して来ていた。