クリスマス2015~イルミネーションを屋形船で

    「今年のクリスマスに僕がご案内するのは、グループでも、お二人様でも、もちろんお一人様でも寂しくない、とっておきの企画です」
     慇懃な笑顔で灼滅者たちを見回す春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)に、
    「典ちゃんたら、相変わらずひとこと多いわよッ」
     黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が怖い顔でツッコむと、典はぺろっと舌を出して、
    「いやでも、ホントに粋でオシャレな企画なんですよ。なんたって、屋形船で宴会しながら、クリスマスマスイルミネーションを眺めようってんですから」
    「屋形船!? アタシ一度乗ってみたいと思ってたのよ!」
     屋形船が出るのはイブの夜。
     イルミネーションスポットてんこ盛りのお台場から出航し、川沿いの夜景を楽しみながら隅田川を遡り、スカイツリーの近くまで行くコースだ。
     屋形船は掘りごたつになっているので、ぬくぬくあったかで夜景を楽しむことができる。
    「コースの主な見所は、お台場のイルミネーションと、レインボーブリッジ、東京タワー、スカイツリーのクリスマス限定ライティングです」
     それらの名所だけでなく、川沿いのビルや公園でも飾り付けをしているだろうから、道中はずっと夜景が楽しめるだろう。
    「お食事は、屋形船らしく江戸前の握り鮨と天ぷら、葱鮪鍋を用意してもらうことになってます。その他、クリスマスっぽい料理やケーキの持ち込みを、特別に可にしてもらいました」
     江戸前の味を楽しみつつ、持ち込みの料理やケーキで、クリスマス気分も味わっちゃおう。
     湖太郎はうっとりと。
    「いいわねえ~、アタシ、頑張っておしゃれして行くわ!」
    「ええ、掘りごたつでぬくぬくなので、防寒にそれほど気を遣わなくてもいいですしね、おしゃれしがいも在るってもんです……あ」
     典はポンと手を叩き。
    「せっかく屋形船ですし、クリスマスですけど和装もオツかもしれませんね」
    「それも粋だわね! ウフフ、何着てこうかしら……それと持ち込みのお料理やお菓子も考えなきゃ。楽しみだわー!」
    「学園のオゴリですからね、クリスマス屋形船、パーッといっちゃいましょう、パーッと!」


    ■リプレイ

    「メリークリスマース!」
    「乾杯!」
     賑やかな乾杯の声と共に、学園貸し切り屋形船は出航した。光の島と化したお台場を横目に、船は滑るように川を上っていく。
     長い掘り炬燵が2列に並ぶ広い船室で、元気よく乾杯をした【宵空】の嵐は、
    「天ぷらも鍋も気になるけど、まずはケーキがないと」
     どんと苺のケーキを取り出した。
    「嵐ちゃんと俺の共同製作なんだぜ」
     朔之助も箸を片手にどや顔。しかし葵は2人の共同製作と聞いて固まっている。
    「大丈夫だよ、アレンジは回避したカラ……」
     嵐がぼそり言うと、やっと葵は胸をなで下ろした。何やらトラウマがあるらしい。
     嵐はケーキをカットしながら、
    「丸いケーキには幸せの意味が込められているんだって」
    「ああなるほど、クリスマスや誕生日にケーキを食べるのはそういう事か」
     口に入れれば、甘さと共に温かな気持ちが広がり、
    「来年もパーティーしようね」
     3人は幸せな笑顔で頷きあった。

    「屋形船って初めて!」
    「興奮しちゃうワネ♪」
     【ばらにく】の仲間のはしゃいだ様子に、千尋は葱鮪鍋をとりわけながらくすくすと。
    「昔のお殿様が愛した船遊び、楽しみです」
     お殿様気分、よいではないか~、とオリガは器を受け取ってはふはふ。
    「普段はお肉派だけど、鮪もよいワア」
     霞もうれしそうに、
    「がっつりいただきますっ……って、私猫舌だったあ、あちちっ」
     用心深くふーふーしていた千尋も、葱の中から熱い汁がとろりと。
    「熱っ……」
     ふたりとも猫舌なのねえ、とオリガは笑い。
    「ケーキもあるのよ、食べ過ぎないようにしなきゃ」
    「大丈夫、甘いものは別腹です!」
     霞は自信ありげに胸を張る。
    「(後程プレゼント交換も……)」
     千尋は用意してきた贈り物を、緊張気味に思い出す。
     盛沢山な、楽しい女子会になりそうだ。

    「屋形船、一度乗ってみたかったんだよね」
    「今尚、この文化が根付いている理由がわかるな」
     特別な相手と、特別な空間を共有することができるのだから。
     天ぷらと鮨に舌鼓を打ちつつ、久遠と言葉は楽しげに語らう。
     言葉は恋人に鍋を取り分けてやりながら、
    「そういえば前にも鍋したね」
    「あの頃は言葉とこうなるとは思わなかったものだ」
     恋人たちは笑みを交わし。
    「改めて、これからもよろしく頼む」
    「こちらこそ……二十歳にもなることだし、来年はもっと良い年になればいいね?」

    「クリスマスに屋形船! これぞ正に和洋折衷!」
     【刹那】のゆまの感慨に、
    「わくわくするよね。外は寒いけどこたつがあるから快適」
    「想像してたよりおしゃれだよ!」
     叶流と蛍姫は片っ端から料理を食べながら頷いた。
     窓辺で隣の船に手を振っていた乃麻も戻ってきて、寒そうにこたつに潜り込んだ。早速サーモン握りに手を出す。
     蛍姫はバランスよく料理を取りながら、
    「お姉ちゃんの料理よりすごく美味しいよ!」
     しかし叶流は首を傾げて。
    「だけどクリスマスには、やっぱりケーキも……」
     じゃーん!
     ゆまが手作りのブッシュドノエルを取り出し、部員たちから拍手が沸く。乃麻は尻尾をぱたぱたさせて。
    「わあー、ケーキ食べるお腹も残しとかな」
    「そうですね……って、お鍋がお葱だけになってる! それに鮪とイクラさんはー!?」

     【メリクリ】の3人も、こたつでご馳走に上機嫌だ。
    「屋形船、思った以上にいいものだな」
    「葱鮪鍋も初めてだし、むっちゃソワる!」
    「これも並べれば、更にクリスマス気分あっぷですよ!」
     りねが、乗船前に3人で買ってきたシュトーレンを出して、ぐっと親指を突き上げた。
    「和風と洋風のミックスクリスマスですね! つきあって下さって、おにいさんたちに感謝です」
    「こっちこそありがとう! みんなで食べるゴハン、すっげえおいしいしネ……あ」
     ポンパドールはビルの隙間にちらりと東京タワーをみつけ、りねに、
    「東京タワーの夜景、りねとは前にビルの上から見たネ」
     こそっと囁いた。
    「む……ヒソヒソと何を?」
     ニコが首を傾げる。
    「学園持ちだから金の心配は無用だぞ……まあいい、真咲の言う通り、正に和洋折衷のクリスマスだな」
    「ワヨウ、セ……? 何?」
    「後で辞書を引け!」

     冷たい冬風の吹くデッキで、銀河の肩にふわりと黒虎のコートがかけられた。
    「……ふふ。涼しいけど、温かい」
     見て見て、と銀河が西の空を指す。そこにはクリスマスカラーに輝く東京タワー。
    「3年前の事、思い出すね」
    「そういや、もう3年になるんだなあ」
     3年前のこの日、東京タワーの下での告白が、ふたりを結びつけたのだ。
    「これからも、末永くよろしくね」
    「おう、いつまででも可愛がってやるから、覚悟しとけよー!」
     逞しい腕が大胆に絡みつき、柔らかな唇がキスを求める。

    「こんなちゃんとした鮨食えるとか……」
    「アワビにトロに、んー、アナゴも超ウマ!」
     粋な船旅と料理、特に鮨にテンション上がりまくりの、允と成海。
    「苦手なネタは回してくれていいわよ」
    「あるわけねーだろ!」
     允は鉄壁のガードで徹底抗戦の構え……と。
    「あ、東京タワー」
     成海が窓の外を指して声をあげた。
    「え……お、おー!」
     允も振り返り、夜空に輝く鉄塔にみとれる。
    「マジスゲー綺麗!」
     当然その間に。
    「隙有りっ、カンパチいただき!」

    「あー……別に大した話じゃねーけど」
     緑色の着物姿で印象の違うセーメに、昴は少々戸惑い気味に口を開く。
    「こないだ出かけた時、色々言ってもらったのに、何も返事してなかったなと思って……ありがとな?」
     そんだけ、と昴は目を逸らす。セーメは、珍しく曇りなく柔らかく目を細めて笑み、
    「特に、お礼を言われるような……事でも……けど、少しでも……響くものが、あったのなら……良かった」
    「そ、か……な、ならさっさと食おうぜ、鍋が煮詰まる」
    「うん……魚介が多くて、嬉しいね」
     胸の奥がほんわりと温かいのは、鍋と掘りごたつのおかげだけではあるまい。

     デッキの手すりに乗せた千影の手に、遼平の手がそっと重なる。千影は驚き照れつつ遼平を見つめて。
    「去年は遼平くんとこんな風になるとは思ってなかったな」
     遼平はくすりと笑いを漏らし、
    「……そうだね、けれど。僕は君とこんな風に過ごせて、今はとても嬉しいよ」
     昔の関係を思いだすと不思議な気もするが、色んなことがあったからこそ、こうして予想外の奇跡が起きる。
     冬風がふたりの和服の裾をはためかせるが、重ねた手は。
    「……温かいね」

    「ふふっ、えらい豪華やねえ」
    「ええ、イルミネーションを船から見るのも趣がありますね」
     伊織は窓越しの夜景にうっとり見入る氷霧を、微笑ましく、愛おしく思う。
     ふと伊織は悪戯心を起こし、和装の氷霧の膝に、ころん、と頭を乗せた。
    「ちょ、周り、人目がありますから……!」
     すぐ傍らでは学友たちが大宴会中である。
    「気にせんでえぇよ? ちと疲れただけやし……重い?」
     そんなことは、と氷霧は動揺した様子だったが、覚悟を決めたように。
    「……いお」
     耳元で囁いた。
    「一緒にいられて、嬉しいです……だいすきですよ」

     料理と、戦争帰還祝いケーキを食べ、満足したクレハと炎次郎は、デッキに出た。
    「秋夜さん、寒くない?」
     炎次郎はそう囁き、ちょっと強引にクレハの肩を抱き寄せた。
    「……!」
    「ごめんな。寒いんや。こうしてるのが何より温まるから」
     熱烈な言葉に、クレハは冗談交じりで冷ややかに笑う。
    「確かに寒いし、勇気に免じて許しましょう。けれど調子に乗ると簀巻きにして流すわよ」
     相変わらず手厳しい、と炎次郎は笑って。
    「でも、気が変わったらいつでも言ってな。待っとるから」

    「この着物派手かなぁ、デートだからいいよねぇ?」
    「よ、よく似合うよ」
     括の着物姿があんまり愛らしくて、遊太郎は直視できない。けれどここは年上らしい所を見せる機会だから、鍋を取り分け飲み物を注ぎと、色々世話をやく。
     幸せそうに鮨を食べる括に、さも親切そうに鮨を差し出して。
    「花ちゃん、よかったら僕のもどうぞ」
    「ありがとう………っ!?」
     実は山葵特盛り。
    「もう、ゆうちゃんてば!」
    「あはは、苛めてごめんね」
     べしべし叩かれても、愛しさと笑顔は止まらない。

    「何だか浮かない顔ですわね」
     シルキーは天龍の横顔に不意に声をかけた。
     デッキの上、雰囲気のある和装を纏い、豪華な夜景に包まれていても、彼の横顔が自分と同じものを見ていないような気がして。
     そんなことは無いさと、天龍は微笑んで答えたが、悪戯っぽく。
    「……慰めてくれるかね?」
    「それが貴方のお望みでしたら」
    「ふふ、冗談だ」
    「もう、心配しましたのよ……今日だけはよそ見しないで」
    「ああ、慰めだけでは足りないほど、君は綺麗だ」
     ――囁き交わす、メリークリスマス。

    「食いたいもんあるなら、分けてやるから言えよ」
     日頃苦労している啓太郎を労う気持ちで、善之が言うと。
    「じゃあ天ぷら、全部ちょうだい」
    「全部? ……仕方ねえな」
     楽しみにしていた葱鮪鍋もつつき、腹が膨れてきた2人は窓の外に視線を向けた。
    「船からの夜景もいいもんだな……」
     善之は少し改まった様子で。
    「この学園にきて1年も経ってねえが、良い年を過ごせたのはあんたのおかげだ。礼を言う」
    「俺も楽しかったよ。これからもよろしくな……って、何か年末の挨拶みたいだ」
     啓太郎は照れて、
    「はい、天ぷらのお礼な」
     自分の鮨を善之の口に突っ込んだ。

    「寒くない?」
    「うん、寒いね」
     食事を終え、デッキに出た櫟と鈴親はそっと寄り添って掌と指先を絡み合わせた。
    「櫟くんは温かいね」
    「ファイアブラッドだからね」
     お決まりの返しに笑みが漏れる。
     流れていく夜景と、愛しい囁き。
    「今年も俺といてくれてありがと。鈴と出会えて良かった」
    「あたしも……」
    「……こっち向いて。キスするから」
    「あはっ、堂々とキス宣言?」
    「俺がここまで言ったんだから、ご褒美」
    「キスがご褒美……?」
     微笑みながら、そっと目を閉じる。

     物珍しさに船内をうろうろしていた【落椿】のルティカと千聖が宴席に戻ると、ちょうど葱鮪鍋が良い具合に煮えていた。
    「私がよそおう」
     鍋奉行ならぬ部長の雪音がお玉を握りしめている。
    「よっ、なべぶぎょー! ありがとうございます!」
    「部長殿はよう鍋の面倒を見ているのう」
     それぞれ柚子胡椒と七味をかけていっただっきまーす!
     ルティカが薬味をかけ過ぎて、鍋奉行に背中をばんばんされたりもしたが、鍋はあっという間に空っぽになり、
    「じゃーん、これも食べてください!」
     千聖がおもむろにケーキを取り出した。
    「すてきだ!」
    「救世主じゃの!」
    「先輩たちと仲良くなるチャンスと思いまして!」
     カットする前に、まずはケーキを囲んで記念写真をパチリ☆

     お腹がくちくなったアルベルトと蓮杖は、宴席を離れて窓辺へと移動した。
     鮮やかに彩られた都会の夜景に目を細め、
    「アタリだったね、屋形船」
    「あぁ……誘ってくれてありがとう」
     アルベルトは人混みが苦手だが、船内ののんびりした喧噪は心地よい。
     外を指さす蓮杖が着ている和服は、アルベルトが見繕ったもの。床に落ちた指先が絡み合い、恋人たちは肩を寄せ合う。
     ゆったりと水面の揺れに合わせて揺れる屋形船と、煌めく夜の灯りに酔いしれて。
     この温もりが、永遠に続くといい……。

     樹斉とハリマの仲良しSDコンビも、今日は和装である。
    「いやー今年も色々あったねー」
    「ホント、年始から年末まで目白押しで」
     しみじみ今年を振り返りながらも、そこは成長期、箸は止まらない。
    「ハリマセンパイ、またおっきくなった? 僕も1年で7cm伸びたんだけど、全然追いつかないや」
    「うーん、好き嫌いないのがいいのかな?」
     ハリマの手は鮨桶にエンドレス往復中。
    「でも黒鳥先輩にはまだまだ届いてないしー」
     中学のうちには追いつくわよ、と仕事が一段落し、お相伴にあずかっていた湖太郎が笑う……と、そこに、
    「めりくりー!」
     やってきたのは、振袖さん(浅草の舞妓さん)姿のさくらえと、
    「ど、どうもお久しぶりで……」
     粋な若旦那風(しかし動揺しまくり)の勇弥。
     わあステキだ、と、進行役の合間に食事をしていた典が手を叩いて喜ぶと、
    「浅草で屋形船ときたら、お座敷遊びだよ。ねえ、とりさん」
    「……よく分からないです……」
     勇弥は小さくなっているが、さくらえは悪戯っぽく笑って手招きした。なんと本職の芸妓さんの登場だ。学園のオゴリと聞いてちゃっかり手配したらしい。
    「さあ、みんなで遊ぼうよ!」
     にわかに三味線の音が船室に鳴り響いた。

     サーシャは悠花の手を引いて、デッキに出た。ケーキを食べたり、お鮨をあーんしてもらったりも楽しかったのだが、
    「(嬉しいけど、いつまでもそれじゃ伝わらないし)……綺麗だよね、お姉ちゃん」
    「ふふ、とっても綺麗ですね♪」
     可愛らしい笑顔が、じっと悠花を見上げた。
    「僕は本気でお姉ちゃんが好きだよ」
    「い、いきなり何を……!?」
     サーシャは背伸びして、少し強引に唇に唇を触れた。
    「んむうっ!?」
    「お姉ちゃん、好きだよ」
    「あ、あのっ、1時間下さいっ。しっかりサーシャ君のこと見つめ直すから……っ」

    「鮨も鍋もご馳走だけど、シグマの場合はこれだろ」
     【三バカ】梛がどーんと出したのは、でっかいターキーとローストビーフ。
    「クリスマスプレゼントな」
    「ありがてえっ」
     2人は早速肉に邁進する。
     梛はそんな友人たちに、
    「肉を咥えた犬が、川に映った自分見て、あっちの肉のがでかいって……」
     川の上のせいもあり、欲張り犬の寓話を思い出す。
    「そこまでマヌケじゃねぇよ」
     ターキーにかぶりつきながらシグマは笑い、クレイは、
    「自分が持ってるものが一番いいものだってのは、忘れがちだからな……梛も食えよ? ほら、シグは野菜も」
     2人に野菜天を取り分けてやる。シグマは茄子に怯えたが、梛は美味しそうに野菜を食べている。
     そんな2人に、クレイは、
    「写真撮っていい?」
     素早くスマホを向け、返事より前にシャッターを切った。

    「いやー組織って素晴らしいですね」
    「平和なクリスマスも良いね、はい、あーん♪」
     浴衣に半纏姿でこたつむり&タダ飯にご機嫌なのは、千尋とゲイル。
    「街の明かりもこうして見ると、また違った趣がある」
     ゲイルが夜景にうっとりしている様子に、千尋は悪戯心が沸き、こたつの下でゲイルの足に自分の足を絡めてもじもじ。ついでに太股あたりをさすさす。
     しかしゲイルもさるもの、ニコニコと切り返す。
    「おや、夜景に嫉妬ですか? 千尋さんも綺麗ですよ。ちゅーしましょうか?」

     先ほどまで先の戦争のことを話していた神羅となゆたに、デッキから見える都心の夜景は一際美しい。
    「この光景を守れたこと、誇りに思う。そしてなゆた殿が隣にいてくれることも」
    「これ、クリスマスプレゼント」
     なゆたが差し出したのは手作りのアップルパイ。
    「私が料理をするようになったのも、キミがいたから……あ、見て」
     なゆたは神羅の注意を逸らすように、行く手の空を指した。
    「スカリツリー!」
    「どこ……あ……っ」
     隙をついて、頬に触れるなゆたの唇。一歩進む勇気の口づけ。

    「明莉先輩(もぐもぐ)穴子の天麩羅美味しいのじゃ(もぐ)」
    「(幸せそうに食べる顔が可愛いんだよなー)」
     明莉はにまにま。ロマンチックとは言えないが幸せだ。
    「(見とれてないで)俺も食べよう。葱鮪鍋って初めて……うん、旨い♪」
    「本当じゃ(もぐ)美味しいのう!(もぐもぐ)」
     ふと窓の外に目をやると、
    「心桜、隅田川の公園が見えるよ。春になれば一面の桜だよ」
     今夜はイルミネーションの花が川面を幻想的に照らしている。
    「その頃にまた来ような」
     こたつの中で、小さな手をきゅっと握る。
    「うん、見に来たい。いろんな景色、いっぱい見たい」
     
     船旅も終盤、
    「冬の屋形船って夢の乗り物……」
     賑やかに船旅と和風宴会を楽しんでいた【武蔵野HC】のメンバーは、概ね料理も制覇して満足そうにくつろいでいる……が。
     きら~んと織姫が目を光らせて、
    「夏奈ちゃんも鐐さんもケーキ持ってきてるんでしょ~? 知ってるんだから!」
    「目敏いな!」
    「鋭いね」
     ふたりは驚きつつも、2個のホールケーキをどーんと取り出した。
     お腹はいっぱいだが、夏奈が言う通り、
    「甘い物は別腹って言うし、多くても問題ないない~♪」
     というわけで、ケーキで更にお腹いっぱいになったところで、好弥がちょっと改まった様子で、
    「皆さん、まだちょっと残ってますが、今年もお世話になりました。来年もよろしくですよ」
     お腹を押さえながら頭を下げた。仲間たちもそれぞれ挨拶をしたところで、織姫が、
    「ねえ、そろそろスカイツリー見える頃だし、デッキに行ってみない?」
    「いいな、のぼせた頭を冬風で冷ますか」
     4人が立ち上がった時、タイミング良く、というか悪くというか。
    「皆さん、ゴールの浅草が近づいて参りました!」
     進行役の典がマイクを取った。
    「ここで一旦締めと参ります。折角の屋形船、三本締めでキメましょう……お手を拝借!」
     皆立ち上がって手を挙げた。静かに夜景を楽しんでいたシリェーナも、デッキに出ていた者たちも窓から顔を突っ込んで。
    「よーーーーーっ!」
     楽しげな拍手が、イルミネーションを映す川面に響き、そして最後はやっぱり。
    「メリークリスマース!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:60人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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