ボルシチ芋煮なんていやだ!

    ●芋煮コンサバ地帯にて
     山形県山形市は芋煮の聖地である。山形市を含む県内陸部の村山地区では、牛肉+醤油味が絶対正義。豚肉+味噌味なんかの芋煮を見せると、
    「それは豚汁だべ!?」
     と激しい拒否反応をおこしてしまう芋煮コンサバ地帯なのである。
     そんな山形市民であるから、秋の芋煮シーズンでなくとも機会があれば、ついつい芋煮会をしてしまう。
     5月の青空が広がる休日、とある親戚一同が馬見ヶ崎川の河川敷で、今正に芋煮作成中である。15人ほどの老若男女が楽しそうに大鍋を囲んでいる。
    「この季節は里芋がちょっと残念だけどねぇ……」
     おばあちゃんが鍋でぐつぐついっている里芋とこんにゃくの煮え具合を見てから、美味しそうな牛細を出した。
    「でもお肉は奮発したからね。地元の和牛だよ」
    「おばあちゃん、お肉早く!」
     孫達が嬉しそうにせがみ、おばあちゃんはパックを開けた……と、その時。
    「ちょっと待つダー!」
     突然ダミ声と共に、鍋に人影が落ちた。驚いて振り向くと、頭部が芋煮の大鍋で、マントを川風になびかせた、ヒーローの出来損ないのような大男が偉そうに立っている。そして、
    「今年から、山形の芋煮はこれを入れるダー!」
     一同が唖然としている隙に、作成中の大鍋に謎の野菜を大量に投下した。
    「えっ、何を入れた……うわあっ!?」
     汁が鮮やかな赤に変貌していた。
    「何コレ!?」
    「ハハハハッハ、ビーツを入れてボルシチ風にしてやったダー!」
     おばあちゃんが怒って立ち上がった。
    「何すんだか、芋煮に変なもの入れて!」
    「今年からは芋煮はボルシチ風と、私が決めたのダー! この芋煮・保琉七がダー!」
     いもに・ぼるしち? 誰? ってか、何? 一同目が点。
    「で、でもっ、芋煮にはビーツ合わないよっ」
     孫の1人が勇気をふるって声を上げた。すると。
    「ふっ、私がボルシチ芋煮を旨いと感じるようにしてやるダー」
     ビカッ、と男の顔(鍋)が光った。すると一同の目が裏返り……。
    「あ……いい匂い」
    「美味しそう……」
     ふらふらと大鍋に手を伸ばしはじめた。
     保琉七の高笑いが河川敷に響く。よく見ると、頭の鍋の中身は真っ赤だし、マントは赤白青。
    「これぞロシア風芋煮! こうして山形市民をどんどんボルシチ芋煮に洗脳してやるダー。そして秋の大芋煮祭では、全国から集まった観光客にボルシチ芋煮を振る舞ってやるのダー!」
     
    ●武蔵坂学園
      予測された光景を語り終えた春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)が、集った灼滅者たちを見回して。
    「皆さんもうご存じだと思うのですが、ロシアンタイガーが日露姉妹都市を転々と移動していることを、黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)さんが突き止めました。そして事実、あちこちで事件が起こり始めています」
     ロシアンタイガーの現在地は不明だが、彼が立ち寄った姉妹都市では、ロシア化怪人による名物のロシア化が始まっている。
    「山形市は、ウラン・ウデ市という、東シベリア、モンゴルとの国境にあるロシア連邦ブリヤート共和国の首都と提携してます」
     山形もか~、と、灼滅者たちは溜息をつく。
    「ボルシチも美味しいですけどね、でも芋煮とは違いますよねえ」
     うん、違う。
    「伝統料理を守るためにも、今のうちに、ロシア化ご当地怪人・芋煮保琉七を倒してください。このまま放置すると、ロシアンタイガーにご当地パワーが供給されてしまう恐れがありますし、秋の大芋煮祭がボルシチ芋煮で開催されてしまいますからね」
     何千人前ものボルシチ芋煮とか、考えるだけで恐ろしい。それに芋煮会シーズンになったら、あちこちでビーツ入れ放題、洗脳し放題になってしまい、正に怪人の思うツボだ。
    「作戦としては、皆さんも馬見ヶ崎川河川敷でピクニックとかバーベキューをしつつ待機していてください。予知に出てきた親戚一同のところにすぐ駆けつけられるような位置で」
     怪人が出現したら、すぐに駆けつけ、一般人を避難させ、戦闘に入る。
    「芋煮保琉七は、力が抜けてしまうようなビジュアルはしてますが、一応ダークネスです。きっちり準備をして油断のないように臨んでくださいね」
     灼滅者たちが頷くのを見回してから、典はニッコリと。
    「依頼を無事に終えたら、河川敷でのピクニック、続きを楽しんでこられたらどうですか? 東北は今、とてもいい季節ですよ」


    参加者
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    四方屋・非(ヒロイックシンドローム・d02574)
    川西・楽多(ダンデレ・d03773)
    安土・香艶(メルカバ・d06302)
    夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)
    立川・春夜(花に清香月に陰・d14564)
    夕鏡・光(万雷・d23576)
    ルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158)

    ■リプレイ

    ●芋煮作ろう!
    「なあ水瀬、こんにゃく切っていいか?」
    「あ、春夜さん、こんにゃくは包丁じゃなくて手でちぎってください」
     水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は板こんにゃくを指で一口大にちぎり、立川・春夜(花に清香月に陰・d14564)に見本を示す。
    「この方が味が染みやすいし、食感もいいんですよ」
    「ほう、なるほどね」
    「それならゆみかも出来そうなのです。やらせてくださいなのですぅ」
     夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)が小さな手を出す。
    「はいよ、じゃ、俺はネギ切っとくかな」
    「水瀬、火ついたぞ」
     河原の石を積んで竈を作り、火を起こしているのは安土・香艶(メルカバ・d06302)。
    「ありがとうございます、お鍋かけますね」
     火に大鍋をかけ、まず一口大に切った牛肉をサッと炒める。当然本日は正統派山形風。肉の色が変わり始めたら、料理酒を投入。続いて砂糖と醤油を隠し味程度に入れ、まんべんなく味が行き渡ったら鍋を一旦火から下ろし、肉を別皿に取り出す。
     肉を取り出した鍋は洗わず(旨味が残っているから)いよいよ主役の里芋と水を入れ、火にかける。蓋をして一煮立ちしたらこんにゃくを投入。
     アクをとりながら芋が煮えるのを待っていると、
    「ただいま帰りました」
     ホクホク顔の川西・楽多(ダンデレ・d03773)が大きな包みを手に帰ってきた。瑞樹オススメの団子屋に買い出しに行ってきたのだ。
    「おかえり、そろそろお芋煮えてきましたよ」
     瑞樹は鍋に先ほど取り置きしておいた肉を戻し、
    「さて味付けだよ!」
     醤油をドバドバと入れ、砂糖と酒で調整。慣れた感じの目分量である。
    「あとはネギとしめじを入れて……あ、しめじはお好みで」
     茸はマイタケでも美味しい。ささがきゴボウを入れるのもオツ。
     青い空、広い河原、ゆったりと流れる川に爽やかな川風。うっかりすると依頼を忘れてくつろぎまくってしまいそうだが……そうはいかないのが灼滅者のつらさ。
     感心して瑞樹の手元を覗いているだけの四方屋・非(ヒロイックシンドローム・d02574)が、ちらりと背後に視線を投げた。そちらでは芋煮怪人に狙われる親戚一同も楽しげに調理を始めている。
    「できあがるまで、来ないといいんだけどな……」

    ●怪人登場!
    「いただきまーす!」
     灼滅者たちはできたての芋煮に一斉に箸をつけた。
    「ヤッター芋煮だー!」
     夕鏡・光(万雷・d23576)が大喜びで里芋をほくほくと頬張る。ルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158)も美味しそうに太いしっぽを河原にしたんしたんと打ちつけている。
    「お、おいしいですぅ!」
     ゆみかは眼鏡を曇らせながらニコニコし、
    「僕は味噌・豚肉の味で育ったんですけど、やっぱり山形式は一味違いますね」
     楽多がしみじみ言うと、瑞樹がどや顔で、
    「ね、やっぱりオーソドックスが一番でしょう? おかわりいっぱいあるからね……んっ!?」
     瑞樹だけでなく、他のメンバーも同時に例の親戚一同の方を振り向いた。視界の隅を赤白青がひらひらと過ぎり、同時にバベルの鎖がぞわりとざわめいたのだ。
     案の定、
    「ちょっと待つダー!」
     河原にだみ声が響いた。声の主は、赤白青のマントをひらひらさせた、鍋頭の大男。ロシア化ご当地怪人・芋煮保琉七に間違いない。
     灼滅者たちは芋煮の椀と箸を置き、SCに手をかける。
    「今年から、山形の芋煮はこれを入れるダー!」
     保留七の手には真っ赤なビーツ。芋煮、危うし!
    「入れさせるか-ッ!」
     灼滅者たちは一斉に飛び出した。香艶はシールドで、
    「よう! 本場のボルシチってモンを教えてくれよ!」
     でっかい背中に思いっきり体当たりし、挑発する。
    「な……!?」
     驚いて振り向いた芋煮保琉七を取り囲んだのは、香艶と、
    「ストーップ! 我ら芋煮を愛する会のヒーローである!」
     巨大鬼金棒デザインのロッドを構え、ギザ歯をニイッと剥きだした光、断固鍋を守る位置に立ちふさがった瑞樹、真っ赤なライドキャリバーに騎乗したゆみかだ。
     その間に、楽多と春夜が、怪人と一般人たちの間に入って王者の風とラブフェロモンを発動した。
    「ほら、変なヤツ出てきて危ねえから、一緒にあっち行こうぜ」
     春夜は戦場から遠ざかるように土手を駆け上りつつ手招きする。王者の風で弱気になっている一般人たちは、ESPに引きずられるようにしておずおずと移動を開始した。
     非は、
    「おい、ばーちゃん大丈夫か、背負ってやろうか?」
     鍋の傍でへたりこんでいるおばあちゃんに声をかける。
    「な……鍋が……」
    「鍋? ンなもん、後で取りにこようぜ……って、そうか、戦闘の最中にビーツ入れられたらやっかいだよな」
     非は怪力無双を発動すると、片手でおばあちゃんを背負い、もう片手で鍋をひょいと持ち上げて、
    「あちあちちち……」
     土手を駆け上る。
     子供たちはルーが引きつける。というか、黙っていてもついてくる。
    「カンガルー、カンガルー!」
    「ホンモノ? すげー良くできたきぐるみ? どっち!?」
     ぴょーんぴょーんと戦場から子供達をたやすく引き剥がす。
     避難が順当に進みつつあるのを確認すると、楽多は怪人包囲の輪に飛び込み、
    「山形の人達は本当に芋煮を愛しています。その思いを捻じ曲げようとするのは許せません……!」
     シールドで怪人の腹部を殴りつけた。つづいて、
    「そーだよな、芋煮ってのはこだわりの強いモンだって話だし、ボルシチはねーよなーボルシチは!」
     光が金棒を振り上げて叩きつけようとした……が。
     ガッキーン!
     金色に光る巨大おたまが金棒を受け止め、激しい火花が散った。
    「愛とこだわりの強いご当地名物だからこそ、ロシア化した時に強大なエネルギーが得られるのだ!」
     怪人がえいやとばかりにおたまで光を押しのけた。
    「わあ」
    「芋煮を愛する会だか何だか知らないが、私の深淵なる計画を邪魔する者は、何人たりとも断じて許さん! どぅりゃあ!」
     おたまが高く振り上げられ、すごい勢いで地面に叩きつけられた。
     ずおぉぉぉぉぉん!
    「うあっ!?」
     地面が激しく揺らぎ、前衛は河原に激しく叩きつけられてしまった。
    「いててて……」
    「よくもやりましたね! 突撃なのですぅ!!」
     ゆみかがブルンとエンジンを噴かすと、キャリバーに突撃させながら、自らは高速回転する杭を撃ち込んだ。
     ガキン!
    「ぎゃっ!」
     杭は怪人の鍋頭に当たり、鍋にわずかではあるがヒビが入る。そのヒビから漏れ出てきたのは、不気味な赤い汁……。
    「やはりビーツは許せん……」
     瑞樹が呪詛めいた呟きを漏らす。芋煮を守りたい気持ちだけでなく、個人的なビーツへの恨みもあるようだ。
    「ちくしょー、キワモノのくせに!」
     光が転がるように後衛に下がりながら、前衛に清めの風を吹かせる。彼自身は押しのけられただけなのでダメージは少ない。
    「キワモノの割に、やるな」
     回復を受け、立ち上がった香艶はニヤリと笑みを漏らすと、静かな身のこなしで接近し、なめらかな動きでビシリとおたまの柄を弾き、
    「くらえ!」
     雷を宿した拳で鍋頭にアッパーカットを食らわせた。ビシリ、と鍋のヒビが広がってますます赤い汁が流れ出し。
    「どわっ! なんてことっ」
     慌ててヒビの部分を手で抑えた保留七の隙を逃さず、瑞樹が懐に飛び込んで。
    「芋煮の味付けは地域万別、人それぞれ。しかしビーツは認めない。なぜなら、ビーツは東北の味覚ではないからだ!」
     ナイフに宿した炎で焚きあげ……じゃなくて、斬りつけた。
    「こいつうっ!」
     怪人は刃を受けながらも手を伸ばし、瑞樹の襟首を捕まえにいく……と、そこに。
    「やらせねえぜ! 芋煮は芋煮、ボルシチはボルシチにしとけよ。どっちもうめえんだしさ!」 
     体をねじ込むようにして遮ったのは春夜。
    「なんだお前……まあいい、どっちでもっ、どっせーい!」
     代わりに彼が抱え上げられて投げられてしまった。
    「春夜さん! 大丈夫!?」
    「へへへ……」
     春夜は痛そうではあるが、河原からすぐに起き上がり、
    「水瀬には、シメのカレーうどんまで頑張ってもらわなきゃじゃん?」
    「そうよね、カレーうどん、めっちゃ楽しみ……」
     駆け寄ってきた光が、深く同意しながら縛霊手を掲げて癒やしの光を送った。 
     ところで春夜が戦闘に加わったということは。
    「避難は済んだのか?」
     香艶が尋ねると、遅れて戻った非が、
    「ああ、済んだ……さあ、私も行くぞ!」
     答えるやいなや助走をつけて突っ込んでいく。エアシューズのローラーが激しい摩擦で火を吹いて。
    「ロシア料理を真に広めたいと思うなら、混ぜものじゃなくイチから真っ当なモン作れ!」
     燃えるキックを敵の背中に見舞った。
    「うわ、熱いっ!」
     めらめらっとマントが燃え上がり、怪人がわたわたする。そこに、
    「カンガルーキーック!」
     ルーの一跳び10メートルの足が追い打ちをかける。
     香艶は、一般人たちが土手の上から心配そうに覗き込んでいるのを確認し、
    「もう少し離れてもらうか」
     念のため殺界形成を発動した。
     マントの火を何とか叩き消した怪人は、灼滅者たちの人数が増え、しかも包囲を縮めてきているのを見回し、
    「ちいっ! 人数ばかり多くてうざったいヤツらめ!!」
     どおおぉぉーん!
     再びお玉で地面をぶったたいた。
    「……くっ!」
     地面がゆさゆさと震え、前衛はまた河原に這いつくばる羽目になったが、楽多はあちこちの擦り傷からめらめらと血を燃え上がらせつつ身を起こし、
    「山形県民の芋煮を愛する思いがある限り、僕らは何度でも立ち上がります……ッ」
     シールドに炎を宿らせ、怪人を睨み付ける。
    「援護するですぅ!」
     おたまの地震いから逃れたゆみかが、キャリバーで駆け抜けながら、敵の足下に杭を撃ち込んで足止めを図る。
    「それにしても、お前ら本当に芋煮に熱いよな」
     杭に遮られ立ちすくむ敵に突っ込んでいこうとしている楽多を、非が面白そうに見やり、聖剣を構えて追いかけ、
    「混ぜモン怪人に負けんなよ!」
     更に光の清めの風が追いかけてくる。
    「さあ、どっちの意地が強いか、ガチンコ勝負と行きましょうか……!」
    「生意気なっ……うっ!?」
     楽多は燃え上がらせた盾で殴ると見せかけておきながら、空いた片手で敵のマントの留め金を掴み、
    「芋煮もボルシチも単体で素晴らしい料理です。それを無理矢理合わせようとする貴方は、本当に料理を愛してると言えるんですか! でりゃーっ!!」
     片手にはなってしまったが、怪人の巨体がひっくり返された。
    「いいぞ楽多!」
     すかさず非が聖剣を振り上げた……が。
    「があっ!」
     怪人が吠え、ひっくり返ったままがむしゃらに振り回したおたまが、非をクリーンヒット!
    「うわああっ!?」
     非は吹っ飛んで、しかもごろごろと河原を転がって。
     ざぶん。
     川へ。
    「わあ、めっちゃヤバくなーい?」
     光が慌てて救助に向かう。
    「四方屋に何しやがる!」
     友人への仕打ちに憤った春夜が、指輪から魔法弾を撃ち込んで動きを鈍らせ、香艶が寸鉄型のロッドを手に踏み込んでいく。裏拳の構えに怪人が腕で防御しようとしたところを、くるりと持ち替え平一文字持ちで刺突!
    「ぐっ」
     敵の胸元で魔力の火花が散る。そこにルーが星をキラキラさせながらエアシューズで滑り込んでいき、自慢の脚力でジャンプキック!
    「がっ」
     怪人はのけぞって尻餅をついた。そこに容赦なく、
    「クラークビーム!」
     ゆみかが片手を腰に、片手で怪人を指してビームを撃ち込み、瑞樹の異形化した拳が襲いかかり、そこに春夜がジャンプ一発、流星のように飛び降りて思いっきり踏んづける。
    「よ……よくも」
     よろよろと身を起こした怪人は、マントは焦げてるし、鍋は割れてでろでろに漏れているしボロボロだ。鍋の中身なんて、半分も残ってないんじゃなかろうか。
    「くそう、このままでは……」
     怪人は跪いたまま、川に向かって何事か叫び始めた……と思ったら、だみ声と音痴で判りにくいがロシア国家らしい。
    「せめて山形県歌とかにしなさいよ!」
     瑞樹が拳を振り上げたが、
    「ツッコむのはそこじゃなかろう! みすみす回復させる気か!?」
     びしょびしょで突っ込んできたのは非。無事光に救助&回復されたようだ。非は利き腕の刃で斬りつけて回復の叫びを遮ると、苦笑しながら怪人を見下ろし。
    「ロシア育ちのよしみで言ってやるが、誤ったボルシチを認めるわけにはいかんのだ。大体んなゲテモノ作っても好かれんだろ?」
    「げ……ゲテモノだと!?」
    「おおっと!」
     非は、今度は際どいところでおたまを躱した。というか敵の動きが大分鈍っているのだ。
    「ケリつけちまおうぜ!」
     香艶が再び盾で体当たりをかましたのを皮切りに、灼滅者たちは一斉攻撃に出る。ゆみかはキャリバーの上でジャンプすると、
    「えーい、札幌時計台キックですうーっ!」
     楽多は炎で鍋頭を更に炙る。春夜は巨大な斬艦刀を軽々と振り回して斬りかかり、勝負処とみて光も、
    「今度こそかますぜ!」
     ビチバチと稲妻を散らす金棒で殴りかかった。
    「こ、こんなはずでは……」
     集中攻撃を受けて、保留七はおたまを支えにやっと立っているといった様子。
    「今だ!」
     ルーの縛霊手が怪人を抑えつけたところに、瑞樹の聖剣と、非のジャンプキックが炸裂!
    「……う……申し訳ありません、ロシアンタイガー様ぁぁ……」
     呻くようなだみ声が消えていき、ヒビが入っていた鍋頭が、ぱっこしと真っ二つに割れた。そこから。
    「わあ!?」
     どばばーっ、と紅色の、しかしお醤油の香りのする液体が滝のように大量に流れ出して。
     ――ロシア化怪人・芋煮保留七は山形の地へと還ったのだった。

    ●さあシメっ!
    「やっぱり普通の芋煮が旨いよな……この団子も旨いが」
     香艶が団子を食べながらしみじみと呟き、
    「ええ、食感も味も申し分ないですね」
     楽多はご満悦で頷いた。
     戦い終えた灼滅者たちは、食べかけだった芋煮の鍋を囲んでいる……というか、散々食べた後で、もうちょっとしか残ってない……というか、意図的に残したのだ。シメのために。
    「へえー、残りはカレーうどんにするのですかー」
     ゆみかは興味津々で鍋を覗き込んでいる。戦闘後にガイアチャージしたので、元気いっぱいだ。
    「流行のシメなんですって! 芋煮からカレーうどんってどんな変化するのかしら。わっくわく~」
     光は楽しみなあまりなのか、すっかりオネエ口調。製作責任者の瑞樹は神妙な表情で、
    「残った汁にお水を少々、そしてカレー粉、それからうどん」
     鍋に材料を足すと蓋をし。
    「もうちょっとだけ待ってね!」
    「シメも遠慮無くもらうぞ」
     非はすでに箸とお椀を持ってスタンバイOK。春夜はひくひくと鼻をうごめかし、嬉しそうに。
    「芋煮も楽しみだったけど、シメもすげー気になってたんだよなー!」
     平和が守られた馬見ヶ崎川に、カレーの香りが漂いだした。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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