小夜啼鳥は暗闇に啼く

    作者:西東西


     歌声が聴こえる。
     今にも消え入りそうな。だが、柔らかく、繊細な少女のアカペラだ。
     歌はある豪邸の一室から響いていた。
     暗闇に包まれたその部屋には窓がなく、まるでどこかのコンサートホールを思わせる。
     見上げるほど高い天井からは、大きな鳥籠がいくつもの吊りさげられていた。
     そのうちのひとつが、中央の床に据え置かれている。
     見ると、制服を着た少女が囚われている。
     歌声はこの少女のものだった。
     ふいに少女が咳き込み、歌が途切れる。
    「……誰が歌うのをやめて良いと言った」
     部屋の中央には小さなランタンが置かれ、そばにある無機質なソファーをぼんやりと照らしていた。
     座していた男が、冷たく言いはなつ。
    「さあ、もう一度はじめから」
     男の声に従い、再び少女が歌いはじめる。
     歌声が途切れるたびに、何度も、何度も、男は歌い続けることを強要した。
     やがて少女の声はかれ果て、ついに、歌うことができなくなった。
    「ぐっ……ううっ……」
     鳥籠に伏し、許しを請うための言葉を発することもままならない。
     男は鳥籠の中の少女を見下ろすと、
    「ひどいな。ヒキガエルが鳴いているみたいだ。……おい、誰か!」
     声に応えて配下を思わしき女が現れ、男の前に膝を折る。
    「こいつを処分しておいてくれ」
    「……! そん……な!」
     鳥籠の少女が男へ手を伸ばすも、男は目もくれようとしない。
    「やれやれ。鳥籠に入れる新しい『小鳥』を、また狩りに行かなくては」
     男はソファーにあったスーツの上着を羽織り、カバンを手にする。
    「行ってくるよ」
     その声に応えるように少女の悲鳴が響き、やがてふつりと、途切れた。


    「淫魔の狩りを、阻止してください」
     集まった灼滅者たちを前に、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)がいつものように説明をはじめる。
    「今回、ある淫魔が新しい獲物を探し、狩りを行います」
     姫子は一枚の写真を、灼滅者たちに提示する。
     映っているのは、眼鏡をかけた黒髪の男性だ。
     名を『早美・光臣(ハヤミ・ミツオミ)』というらしい。
     物腰のやわらかな印象で、多くの者は写真を見て好意的な印象を持つだろう。
    「この淫魔は臨時の音楽教師として、ある高校に身を隠しています。そこで個人的に声楽を教えるとうそぶき、気に入った生徒を篭絡。根城へ連れ去っているようです」
     淫魔は『声楽の個人レッスン募集』という名目で簡単なテストを実施し、素養があると思われる生徒――気に入った獲物がいれば、性別に関わらず声をかけるらしい。
    「近々もう一度テストが行われます。みなさんにはその学校の生徒のフリをして、テストに参加していただきたいのです」
     時刻は放課後。
     希望する生徒を音楽室に集め、行われる。
     テストに受かった生徒は教室に残され、個別に相談をすると言い、そのまま篭絡するつもりらしい。
    「当日は一般の生徒も、参加を希望して集まってくると思います。ですが戦闘へ持ち込むことを考えた場合、テストの前か後に、一般人を避難させる手を打つのが得策です」
     戦闘時に一般人がいた場合、淫魔が彼らを囮にするとも限らない。
    「また、淫魔は学校内に複数の配下を潜伏させているようです。戦闘が長引いた場合、配下を呼び寄せて逃亡を図ります。行動を抑制する術も扱うようですので、十分に注意してください」
     配下は強化した一般人の教師や生徒たちだ。
     一般人であるため傷つけるわけにもいかず、合流されれば厄介なことになるだろう。
     なお、テスト時間以外に声をかけても、淫魔は取り合おうとしない。
     逆に配下による監視を付けられる等、予測不可能な事態が起こりうるため、テスト時間前の接触は避けるように、と姫子は念を押した。
    「目的は淫魔の狩りの阻止であって、殲滅ではありません。どうか無理な深追いは、しないようにしてください」
     「どうぞ、よろしくお願いします」そう言って、姫子は頭をさげた。


    参加者
    アル・マリク(炎漠王・d02005)
    古樽・茉莉(中学生エクソシスト・d02219)
    スィン・オルタンシア(ピュアハートブレイク・d03290)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    夜刃・眠子(殴りWiz・d03697)
    三条・美潮(高校生サウンドソルジャー・d03943)
    古土・平人(糖尿病三十三歩手前・d05770)
    花藤・紫亜(花唄ハレ滴・d06352)

    ■リプレイ

    ●開幕
     作戦当日。
     灼滅者たちは用意された制服を着用し、淫魔が現れると予測された高校に潜入していた。
     淫魔の行う歌のテストは放課後開始のため、三条・美潮(高校生サウンドソルジャー・d03943)と古樽・茉莉(中学生エクソシスト・d02219)が音楽室前に待機。
     淫魔――音楽教師、早美・光臣のテストを目当てに訪れた生徒に、今日のテストは中止だと説明を行っていた。
     ひとりひとり丁寧に説明をしているおかげか、今のところ、どの生徒も納得して帰っていく。
     開始時間まではまだ間がある。
     美潮はなにか気の聞いた話でも……と思い、
    「自分、これが初依頼で全然素人なんで。後輩だと思ってビシバシ頼んますわ」
    「と、とんでもないですよ! 一緒にがんばりましょう」
     茉莉がひょこんと頭をさげる。
    「手厳しくして欲しいなら、淫魔と一緒にサンドバッグにでもなる?」
     同じく一般人の対応にあたる夜刃・眠子(殴りWiz・d03697)が、音楽準備室の戸を開けて出てきた。
     音楽室と音楽準備室には、だれの姿もないようだ。
    「遠慮しとくっすわ……」
    「ほら。ややこしそうなのが来たわよ」
     眠子の言葉に振りかえると、肩を怒らせた男子生徒が小走りで駆けてくる。
    「今日のテスト、中止になったって聞いたんだけど」
    「早美先生に急用ができて、テストを延期するみたいです」
     茉莉が答えるも、
    「困るよ。こっちはわざわざ塾を休んで、受ける気満々だったのに!」
     眠子が冷めた目つきで生徒を見やり、美潮に視線を送る。
     生徒の不満は熱意の表れと理解できるが、このやり取りを淫魔や配下に聞かれることがあってはまずい。
    「なにがあったかは聞いてねーすけど、教師も人間すからね。根掘り葉掘り聞いて、身内の不幸とかだったら、気まずいっしょ?」
     美潮はプラチナチケットを使い、直々に伝言を頼まれた関係者を装う。
    「次にテストをする時は、また連絡するっす」
    「仕方ない……。今日は帰るよ」
     男子生徒の後ろ姿を見送り、三人で顔を見合わせる。
     一般人の姿が見えなくなったタイミングで、テストを受ける灼滅者を教室へ招き入れた。
     遅れてやってくる生徒や、何かの理由で音楽室を訪れる者の対応をするため、三人は引き続き警戒にあたった。

    ●斉唱
    「よく集まってくれたね。熱心な生徒が多くて嬉しいよ」
     定刻通りに現れた早美・光臣は、正体を知らなければひとの良い音楽教師にしか見えなかっただろう。
     しかし、その場に集まった生徒は、みな彼の正体を知る灼滅者たちだ。
     美潮、茉莉、眠子の対応の甲斐あって、一般人の生徒はひとりとしてこの場には居ない。
     簡単に説明がなされた後、テストが開始された。
     課題曲はなく、それぞれが得意な歌を歌う手はずだ。
     窓際の席を陣取っていたスィン・オルタンシア(ピュアハートブレイク・d03290)が挙手し、一番乗りを申しでる。
    「私は、ゴスペルを歌いますっ!」
     「いえーい☆」とポーズをとり、高らかに手拍子をはじめる。
     グループなどで歌われることの多いゴスペルだが、スィンの歌声はよく通り、聴いているだけで場が明るくなるようだ。
     全身を使ってリズムに乗りながら、見事にひとりで一曲を歌いあげた。
     早美は大きく拍手し、絶賛する。
    「聴いているこちらも楽しくなるようだね。細かい部分を修正していったら、もっと良くなるよ」
     「じゃあ、窓際の列から順番にしよう」と言われ、指名されたアル・マリク(炎漠王・d02005)が勇んで立ちあがる。
    「次は余の番か! よかろう!」
     尊大な態度とは裏腹に、アルは異国情緒あふれるメロディを丁寧に歌いはじめる。
     繊細なボーイソプラノとあいまって、その場に居た皆が聴きいっていた。
    「はじめて聴いたけど、素敵な曲だね」
     歌い終え、問いかける早美に、アルはぽつりと答えた。
    「アラビアの童謡だ。……今は亡き母上が、幼き余に良く歌ってくれていたらしい」
     依頼のために歌ったとはいえ、懐かしさが胸に迫る。
     次に指名されたのは、花藤・紫亜(花唄ハレ滴・d06352)だ。
     やや緊張した面持ちで小さく十字をきると、すっと息を吸い、歌いはじめる。
     信仰心のあつい紫亜は、毎週のように聖歌を歌いに行っていた。
     今回選んだのも、そのなかの一曲だ。
     やがて静かに歌い終わると、ぺこりとお辞儀をする。
    「優しい歌だね。選曲も、きみの印象にとても良く合っているよ」
    「あ、ありがとうございますっ」
     真っ赤になった紫亜が着席する姿を見て、早美が微笑む。
     四番手は古土・平人(糖尿病三十三歩手前・d05770)だ。
     前置きなく、「ジャカジャカジャーン」と導入の音楽を自分で再現し、歌いはじめる。
     昭和歌謡を思わせる渋いメロディで、スペードがどうとか、ハートがどうといった歌詞が混ざる。
     最後は、曲名にもなっているキーワードが勇ましく何度も繰りかえされた。
    「以上です」
     歌い終わった平人が真顔で席についたところで、早美が我にかえる。
    「……すごく……気持ちのこもった歌い方だったね」
     音楽教師という立場上、慎重に言葉を選んだコメントのようだった。
    「しかし、今のはいったいなんの歌なんだい?」
    「古い戦隊もののオープニングで……。まあ、なんでも良いじゃないですか」
     教室内の反応を見るに、説明して理解できる者は居なさそうだ。
     一般人が不在だったため、『ゴージャスモード』を活用できなかったことが悔やまれる。
    「きみも、テストを受けるんだよね?」
     声をかけられ、教室の一番後ろの席――扉に近い位置を陣取っていた音鳴・昴(ダウンビート・d03592)が、のっそりと立ちあがる。
     歌唱とピアノは得意だが、音楽の授業等は巧みにサボってきたため、もう何年も人前では歌っていない。
    (「めんどくせぇ……」)
     なにを歌おうかと考え、テストが始まる直前まで聴いていたゲームのエンディング曲を選ぶ。
     もともと歌詞が付いていないので、ファルセットやビブラートを駆使し、『ア』や『ラ』の音だけで歌いあげた。
     聴き終えた早美は絶賛した。
    「……良いじゃないか! 今度は歌詞のある曲も聴いてみたいね」
     全員の発表が終わり、早美が皆の顔を見渡す。
    「できれば全員に細かく指導をしたいんだけど、時間の都合もあって、なかなかそうもいかなくてね」
     そう前置きし、合格者とする者の名を挙げる。
    「花藤さん、音鳴くん。今回はこの2人に決めようと思う」
     「もちろん、他のみんなも、またいつでも質問においで」と続け、合格となった者に残るよう告げた。
    (「……こんな奴に認められてもな……」)
     立ちあがりながら、昴は渋面を作った。
     二人に近づこうとした早美を、携帯音楽プレーヤーを手にしたスィンが呼び止める。
    「今日来れなかった友達に、歌だけでも聴いてもらって欲しいって頼まれてるんです。ちょっとだけ、良いですかっ」
     アルと平人が教室を出るように見せかけ、早美の視界から扉を隠すように移動。
     淫魔の目を盗み、昴が扉を開ける。
     すぐに、茉莉が顔を覗かせた。
    「あっ。茉莉ちゃん! 紫亜、テストに受かったよ!」
     廊下で待機していた友達に喜びを伝えるように、紫亜が手を振る。
    「おめでとうございます。じゃあ、もうちょっとかかりそうですか?」
     友達を待つ生徒を演じながら、茉莉がさりげなく教室に入った。
     美潮は茉莉に続いて別の扉から教室に入り、すぐに鍵をかける。
     最後に、眠子が廊下を一瞥し、一般人の気配がないことを確認したうえで音楽室に入り、後ろ手に鍵をかけた。
    「録音では違ってきこえることもあるから。その子の都合が良いときに、個人的に声をかけてくれれば、アドバイスするよ」
    「本当ですか!? 絶対ですよー!」
     食い下がるスィンのおかげで、淫魔の注意は完全に逸らされていた。
     「さて。二人とも待たせてすまない――」と早美が顔をあげた時には、灼滅者たちの準備は完全に整っていた。
     窓や扉といった退路へ至る位置をふさぎ、8名の生徒が早美を取り囲んでいる。
    「……なんの、つもりだい」
     さすがに違和感を感じ取った淫魔が、表情を曇らせる。
    「先生、ありがとうございましたっ☆」
     そばに立っていたスィンが、あくまでも明るい生徒を演じながら中衛位置にさがる。
     代わりに前に出た眠子は、もはや演技の必要なし、と判じた。
     敵意をあらわにバトルオーラをまとい、淫魔を見据える。
    「貼り付いた優男の仮面……引き剥がしてあげるわ」
     茉莉はスレイヤーカードを取り出し、つぶやいた。
    「……南無三……」

    ●独唱
     先制を仕掛けたアルのシールドバッシュを受け、早美・光臣――淫魔がその小さな体躯を殴り飛ばした。
     すぐさま、アルの元に『ルゥルゥ』と『ナノ』が寄り添い、ふわふわハートで癒しを重ねる。
     茉莉は周囲に符を放ち、すばやく攻性防壁を築いた。
    「王様、立てますね」
     アルは両の手の震えを抑えるよう、日本刀を握りしめ、頷く。
     眼前にいる男――ダークネスの力は圧倒的だった。
     受けた痛みが、今なお彼に衝撃を与え続けている。
     本当は恐ろしい。
     だが、彼は生まれながらの王だ。王は民を守るもの。
     淫魔は民を傷つけた。ゆえに、王は彼の者を制裁せねばならない。
     アルは乱暴に目元をぬぐうと、恐怖を打ち払うべく高らかに宣言する。
    「余の民を傷つけた淫魔よ。……万死に値する。その身、すべて燃やし尽くしてくれよう!」
     少年の決意を受けるように、傷口から炎がこぼれる。
     美潮からの急所への一撃を受けながら、淫魔はそれまでとはうって変わって残忍な笑みを浮かべた。
    「貴様たち、灼滅者か……!」
     バトルオーラをまとった美潮が構える。
    「灼滅者とか、灼滅者じゃないとか。そんなのどうでもいいっす」
     テストがはじまる前に追い返した男子生徒を思いだす。
     あの時、同時にテレパスを使っていて、わかった。
     彼は真剣にテストを受けにきていた。
     今の美潮が持ち得ないもの、まっすぐな熱意――『夢』を抱いて。
    「……夢もって頑張ろうって子を踏みにじんのは、許せねえすわ」
     響く昴のディーヴァズメロディを聴き、その歌声に聴き惚れることなく淫魔は嗤う。
     霊犬『ましろ』の刃を交わし、舞うように繰り出されたスィンの日本刀をはね返す。
    「そう、その歌だ! お前たちが何者であろうと、私は『鳥』さえ手に入れば構わない!」
     紫亜が胸元で十字をきる。
     聖なる裁きの光条が淫魔を貫き、その身を焼きつくす。
     だが淫魔は少女を見つめ、淫靡な笑みを浮かべるばかりだ。
    「きみは大人しくしていなさい。……後でたっぷり可愛がってあげよう」
    「ッ!?」
     淫魔の手にはめられた指輪が輝き、紫亜の身体が硬直する。
     すぐにナノナノが集まり、かけられた呪いを解いた。
     しかし、衝撃ダメージを回復しきれない。
    「――チッ」
     昴は舌打ちし、攻勢を解いて紫亜にエンジェリックボイスをかける。
    「ありがとっ……!」
     紫亜はすぐさま己に癒しを重ねた。
     8人もの灼滅者を前に、淫魔はまだ狩りを諦めていないようだった。
     アルはWOKシールドに炎をまとわせ、再び淫魔に殴りかかる。
     炎をまとった淫魔を、踏み込んだ美潮と茉莉の攻撃が切り刻む。
     平人は咎人の大鎌に『影』を宿し、バトンを扱うかのように高速で回転させる。
     その胸元には、彼を象徴するトランプのマークが浮かぶ。
    「フン! ヒーロー気取りか!」
    「絶望を、唄え……!」
     美潮と茉莉が退くと同時に、全力で鎌を振りおろす。
     援護するようにましろが一閃し、避けようとした淫魔の動きを、間合いに入り込んだ眠子の予言者の瞳が捕える。
    「……私、貴方みたいな男が一番嫌いなのよ」
     全身のオーラを手元に集束させ、閃光百裂拳で執拗に顔面を狙う。
    「ぐおッ!」
     猛烈な拳を受けてなお、淫魔は踏みとどまった。
     だが、もはやその顔に温厚な音楽教師の面影はなく、醜悪に変形している。
    「この、クソ女が……!」
     淫魔が指輪をした手を掲げる。
    「いかん!」
     飛び出したアルが呪いを受けるも、すぐに紫亜とナノナノの癒しが重ねられる。
     美潮の拳が弾け、平人の刃が閃く。
     昴の歌声、ましろの六文銭射撃と続く連携にも、淫魔は一向に余裕の笑みを浮かべていた。
    「死ねやぁ!」
     予言者の瞳を輝かせたスィンの雲耀剣が踊る。
     淫魔はその一撃を受けて、わずかに眉をひそめた。
     指輪をはめた手を押さえる。
    「……戯れが過ぎたか」
     その時だ。
    『早美様! 早美様!』
     教室の扉を叩く音が響いた。
     やがて鍵がかかっていると見て、乱暴に体当たりを繰りかえしはじめる。
    「は、配下がやってきたのか……!」
     アルは炎の奔流を放ちながら、扉をかえりみる。
    「うろたえんな」
     昴は言い捨て、天星弓を構えた。
    「俺たちの相手は、コイツだ」
     彗星を思わせる矢が幾重にも降り注ぎ、淫魔の身に傷を重ねていく。
    「ここまできて、みすみす逃しはしません」
     茉莉はすばやく淫魔に迫り、ティアーズリッパーで死角から攻撃を繰りだす。
     淫魔は攻撃を受けながら、時間稼ぎをしているようだった。
     もちろん、灼滅者たちも淫魔の逃走を警戒し、包囲の輪を狭め、逃走経路をふさごうと立ちまわる。
     だが、決定的な一打が決まらないまま、教室の扉が破られた。
    「早美様、ご無事ですか!」
     5名ほどの生徒や教師が、淫魔を守るべく一斉に灼滅者の元へ向かう。
     機を見た淫魔が走る。
    「行かせるか……!」
     平人が敵の腱を断つべく大鎌を振るった。
     眠子が追いすがり、渾身のボディーブローを放つ。
     だが淫魔は攻撃を受けながら、眠子に顔を寄せ、『歌った』。
    「おやすみ」
     至近距離からの攻撃に、眠子の身体が弾け飛ぶ。
    「眠子ちゃん……!」
     紫亜が悲鳴をあげながら駆け寄った。
     迫る配下は、支配された一般人だ。
    「民よ、目を覚ますのだ!」
    「これじゃ埒があかねーすわ!」
     傷つけるわけにもいかず、アルと美潮が慈悲を込めた攻撃で配下と対峙する。
     茉莉は改心の光を使い配下を洗脳。説得を試みる。
     しかし――、
    「ましろ、やめろ!」
     昴の声が響き、淫魔に迫っていた霊犬が急停止する。
     スィンの攻撃が、淫魔の眼前でぴたりと止まった。
     淫魔はその腕に配下を抱き、笑っていた。
    「……人質!」
     慌ててスィンが刀を引き、退く。
     淫魔は人質にしていた配下を教室内へ突き飛ばすと、そのまま身をひるがえす。
     先ほど打ち破られた扉を駆け抜け、夕暮れの校舎に姿を消した。

     一般人への被害を防ぐことはできた。
     エクスブレインからの依頼は、淫魔の狩りの阻止。
     目的は達成された。
     しかし、事件を起こした淫魔は逃亡した。
     灼滅者たちは配下を全て気絶させた後、歯がゆい想いを胸に、その場を後にした。

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 11
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