もう一度、横浜港で

    ●港にて
    「冷たい、冷たい、冷たい、冷たい……」
    「大丈夫、私にはあなたが見えます。可哀想に、灼滅されて尚、この海に残留思念として漂い続けているのですね」
    「冷たい、痛い、悔しい、苦しい、チガミタイ……」
    「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません」
    「冷たい、悔しい、苦しい、痛い、憎い、コロシタイ……」
    「……プレスター・ジョン、プレスター・ジョン、聞こえますか?  あなたに私の慈愛を分け与えましょう。眠りから目覚め、再び理想王として顕現なさい。その代わり、この哀れな男を、あなたの国に匿ってあげて……」
     
    ●武蔵坂学園
    「全く、慈愛のコルネリウスってヤツは何を考えてるか解らねえ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は忌々しそうに溜息を吐くと、集った灼滅者たちに向けて。
    「皆の耳にも入っていると思うが、慈愛のコルネリウスが、灼滅者に倒されたダークネスの残留思念に力を与えて、どこかに送ろうとしている。俺の全能計算域(エクスマトリックス)がハジキだしたのは、六六六人衆、かつて六五六番を張っていた『S』の思念の復活だ」
     Sは『美しく血に彩られた殺人』に拘る六六六人衆で、灼滅者と数度戦った後、横浜港のクルーズ船での闇堕ちゲームを仕掛けてきた。ゲームは船上での戦いとなり、灼滅者にも甚大な被害を出しながらも、何とか灼滅することができた。
    「Sは海の藻屑となった。しかし、その思念は横浜港の海中にずっと残っていたんだな……戦いに敗れた悔しさ、灼滅者への怨みがよっぽど強かったんだろう」
     コルネリウスに力を与えられたSの残留思念は、すぐに行動を始めることはないだろうが、いずれ何らかの事件を起こすだろう。
    「なにより、灼滅者への怨みを抱えているってのがヤバい。横浜港でコルネリウスが力を与えているところに介入して、Sの思念を倒し、悪趣味な慈善行為を阻止してくれ」
     ヤマトは頷く灼滅者たちを見回してから、横浜港の見取り図を広げた。
    「時刻は解っている。真夜中だ。この埠頭は夜になると人気がなくなる。ここの突端でその時を待ってくれ。コルネリウスがSの思念を拾い上げるのはもう少し沖合だが、なにせSは灼滅者への深い怨みを持っている。力を与えられるやいなや、お前たちの元へとやってくるだろう」
     灼滅者たちはゴクリと唾を飲んだ。自分たちを餌にしてターゲットをおびき寄せるということか。
     灼滅者のひとりが手を挙げて。
    「コルネリウスの方を説得して、力を与えるのを止めてもらうことはできないかな?」
     ヤマトは首を振る。
    「コルネリウスは灼滅者に対して強い不信感を抱いてるようだからな、交渉は無理だろう。それに彼女の本体は例によってソウルボード中だ。現実に現れているのは投影のようなモンだし、攻撃もできない。ま、おかげで攻撃されることもないわけだが」
     あくまでSの思念と戦うしかないようだ。
    「注意して欲しいのは……」
     ヤマトは険しい表情になって。
    「Sの残留思念の戦闘力は、コルネリウスのパワーによって生前より強くなってしまっている可能性がある」
     武器やサイキックも生前と同じように使ってくる。
    「元が六六六人衆だからな、戦闘力も高いし、動きも速いし、戦略的なことも考えやがる。たかが残留思念と侮らず、しっかり準備をして臨んでくれ」


    参加者
    万事・錠(モーニンググローリー・d01615)
    皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)
    望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)
    諫早・伊織(糸遊纏う孤影・d13509)
    空木・亜梨(虹工房・d17613)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426)
    シェス・ゴールド(マジックヴェロシティ・d26096)

    ■リプレイ

     横浜港内とはいえど、みなとみらいの夜景は遠く。黒々とした夜の海と対峙するには、持ち込んだ照明の灯りはいかにもか細く。倉庫街は背後に静まりかえり、埠頭の主のような恐竜めいた巨大なクレーンが、てっぺんの赤いライトを無表情に点滅させている。
     灼滅者たちは、重油のように黒く重たい海と夜空を見つめる。彼らが居る埠頭の沖合上空に、先ほどからオーロラのようにゆらゆらと揺れる光が見えるのだ。その光はおぼろげながら少女の形を取っている。
    「(慈愛のコルネリウス……)」
     光の少女は、サラサラと金の砂のようなものを海へと注ぎ込みはじめた。そして灼滅者らには2つの声が聞こえてくる。

    『冷たい、冷たい、冷たい、冷たい……』
    『大丈夫、私にはあなたが見えます。可哀想に、灼滅されて尚、この海に残留思念として漂い続けているのですね』
    『冷たい、痛い、悔しい、苦しい、チガミタイ……』
    『私は慈愛のコルネリウス。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません』

     望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)が誰にともなく小さな声で問いかける。
    「慈愛のコルネリウス……最近良く耳にしますが一体何が目的でしょうか」
     幻である現実世界のコルネリウスとは接触もままならないことが、じれったい。
    「目の前の戦いに集中するしかありませんけれど……」
     ええ、そうですね、と、空木・亜梨(虹工房・d17613)が頷き。
    「これから戦うのは残留思念……死んでなお闘士を燃やせるのは凄いですが、永久に眠らせてあげましょう。しかしコルネリウスも厄介な事を……」
    「うむ、全く厄介だな」
     白石・作楽(櫻帰葬・d21566)は長い髪を背中に払い。
    「慈愛のコルネリウス……盲愛の間違いではないのか?」
     上手いこと言いはる、と諫早・伊織(糸遊纏う孤影・d13509)は笑みを漏らし、
    「オレには、六六六人衆でいつか灼滅したいと思っとうヤツがおるし……このSとかいうヤツも、生前のやり口が気に入らへん。今夜は思う存分やらせてもらいますわ」
     と、突然、
    「まあ、アレを見て!」
     シェス・ゴールド(マジックヴェロシティ・d26096)が海面を指さした。コルネリウスの真下、金の砂が注ぎ込まれているあたりに、黒いボールのようなモノが浮かび上がっていた……丁度人間の頭くらいの大きさの。
     そのボールはくるり、とこちらを向いた。離れているので回転したことくらいしか埠頭からでは見極められないのだが、確かにこちらを向いたと灼滅者たちは感じた。冷たく凍り付いた悪意の刃が突きつけられたような感触がしたのだ。

    『……いた……見つ……けた。灼滅者……憎い……憎い……コロシタイ』
    『あの者たちを殺すための力が欲しいのですね?』
    『力……欲しい……灼滅者……チガミタイ!』
    『わかりました。望みを叶えます。私が今持っている全ての力を、あなたに差し上げましょう』
     
     するすると波も立てず、殺気と悪意の固まりのようなボールが埠頭に近づいてくる。それに伴って、コルネリウスも力を与え続けながら接近してくる。近づいてくるにつれ、黒いボールは、やはり半分浮かび上がった頭であることが見て取れるようになる。冷たく凝った憎しみの気配もひたひたと近づく。
     とうとうコルネリウスは灼滅者たちが仰向いて見上げる位置までやってきた。しかし埠頭に高さがあるため、海面の黒い頭の方は死角に入ってしまって見えない。埠頭の縁から覗き込めば見えるのだろうが、戦闘前にわざわざ危険を犯す者はいない。
     アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426)が、海風にマントをなびかせながら大シャドウを見上げ、
    「態々死者を蘇らせて何のつもりだ。人を害する者を蘇らせるのが慈善事業だとは言ってくれるなよ!」
     作楽も緊張の面持ちで、
    「闇雲に残留思念を拾い上げるとは、悪趣味な事だ。ダークネスは己の欲に正直だというのは知っているが、悪趣味な自慰行為の後処理の苦労も考えて欲しいものだな」
    「あなたとしては分け隔てない慈愛のつもりなのでしょうが、これではただの自己満足なのではないでしょうか?」
     皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)も、いつになく厳しい口調だ。
     しかし、挑発的な灼滅者たちの問いかけにもコルネリウスは振り向くことなく、ただひたすら海面に金の砂を滴らせ続ける。その姿は、次第に光を失い薄らいでいるように見える。
     作楽が剣呑に声を低めて。
    「……それとも何か、残留思念に『依頼』したい事でもあるのか?」
     その問いにも結局強大なシャドウは答えず、ついに金の砂の残像だけ残し消え失せた。残留思念に力を与え終え、ソウルボードに帰ったのだろう――つまり、Sへのパワーの移譲が済んだということで。
    「(――来る)」
     灼滅者たちはSCに手をかける。
    「我が名に懸けて!」
    「一期は夢よ、ただ狂え――また永き夜に沈むがいい」
     アルディマと作楽が素早く解除コードを唱え、万事・錠(モーニンググローリー・d01615)は殺界形成を発動する。シェスは指輪を掲げて予言者の鐘を自らに、伊織は断罪輪を回し前衛に天魔光臨陣を張る。
     ……と、戦闘態勢を整えた灼滅者の目前に、突如。
     ズバシャッ! 
     鋭い水音がして、何かが水面から飛び上がり――。
    「チヲ……ミセロ……コロス……灼滅者!」
    「うわっ!」
     冷え冷えとした殺気が前衛に襲いかかった。その禍々しさは灼滅者たちの体力を確実に奪い、視界を曇らせる。
    「くっ……錠さん、撃ってくれ!」
     アルディマは殺気に巻かれつつも咄嗟にクラッシャーの錠の盾になり、シールドを展開する。
    「すまねえなッ」
     錠はアルディマの陰でガンナイフを構え、
    「よォ! アンコールならつきあうぜ!!」
     狙いにくい体勢ではあったが、錠の弾丸は埠頭に降り立ったモノに吸い込まれた。
     しかし、海から出でて埠頭に降り立ったモノ……Sの残留思念は、その弾丸をものともせず、嗤った。ぐしょ濡れの黒服はボロボロで、顔は青黒く、濁った目は底なしの暗闇……灼滅された時のままの死体であるにも関わらず、右手のソムリエナイフは灼滅者たちのライトにギラリと光り、口が耳まで裂けるほど嬉しそうに嗤っている。
     もちろん灼滅者たちは先制攻撃に怯んだりはしない。
    「再び凶行が繰り返されぬよう、また眠りについて頂きましょう!」
     詩乃が異形化させた腕を伸ばして殴りつけ、わずかにたたらを踏んだところを、
    「墨染桜の吹雪に惑うがいい!」
     作楽の足下から舞い上がった墨染め桜が包み込み、
    「この距離でなら負けませんわ!」
     シェスが魔導書を広げ、魔術を無効化する光線を放つ。
     スナイパーたちが素早く反撃を行っている間に、亜梨は聖剣を抜き放つ。
    「(残留思念を操るなんていう事が可能だとすると……)」
     懸命に前衛に癒やしの風を送りながら。
    「(ダークネスにとって肉体の意味って何なんでしょう……?)」
     蘇ったSの残留思念を実際目の当たりにして、そんな感慨を抱かずにおれない。
     回復を受け、仕切り直しとばかりに小鳥は、
    「さぁ、お仕事のお時間です。望月小鳥、推して参らせて頂きます!」
     勇ましく叫んで斬艦刀を振り上げ、敵に纏わり付く墨染め桜に斬り込んでゆき、続けて伊織が、
    「黄泉路をわたってご帰還ってとこやろか。すまんけど、その道行、ここまでですぇ」
    『深宵』の刃を絡みつかせようとした……が。
     ズアッ!
     Sはナイフで影を振り払い、その勢いのまま、影に紛れて飛び込んできていた錠の足下に滑り込み、深々と刃を立てた。
    「クソッ!」
    「私がっ……!」
     アルディマが倒れた錠を跳び越えると、シールドでSを殴りつけて遠ざけ、うずくまる錠の前には、サーヴァントたちがカバーに入る。作楽の琥界と、シェスのヴィンチェレ、亜梨の雪花、小鳥のロビン。
    「今回復を!」
     そこに亜梨が癒やしの矢を射込み、詩乃は、アルディマとにらみ合うS目がけて槍から氷弾を撃ち込んだ。作楽は、
    「この激情、受けてみよ!」
    『橋姫』を抜いて斬り込み、シェスは魔法の矢を撃ち込む。小鳥は非実体化させた聖剣を敵の体内に突き刺し、伊織は槍を捻り込む。更にビハインドたちが一斉に顔を晒した。
     集中攻撃を受け、Sは一瞬よろけて顔をしかめ、ぶるりと何かを振り払うような仕草をしたが、
    「そう……そうだった」
     また汚れた貝殻のような歯をむき出して嗤い。
    「灼滅者……お前たちは……数で押して……くるのだったな……チームワーク、とかほざいていた」
     ぎこちない嗤い。ぎこちない口調。トラウマが、自らの最期を思い起こさせたのか。
    「俺は……海の底で考えていた……あの船の上、どうすれば負けなかったのかと……灼滅者……コローーーースッ!」
     迸る殺気。
    「あっ!?」
     睨み合っていたアルディマを躱すと、Sは後衛に向けてナイフを翳した。そこから発されるのは、黒い竜巻。Sの視線の先には、メディックの亜梨……!
    「ヴ……ヴィンチェレ、亜梨を!」
     シェスが毒の竜巻に巻かれつつ咄嗟に叫ぶ。キャリバーはギュルンと急旋回すると、メディックの盾となった。亜梨はその陰に屈み込んで竜巻をやり過ごす。
     黒い竜巻が通り過ぎると、やはり亜梨のビハインド雪花に庇われた詩乃が、
    「こちらは、堂々と正面から戦ってますのに……!」
     唇を噛みしめて槍を突き出し、
    「なんや、せっかく力かしてもろて復活したんに、後ろからなん? かーっこわるぅ」
     伊織は旋風輪で、敵を前衛へ引きつけなおそうと飄々とした調子で煽る。前後から攻撃を受け、Sが前衛に向き直った隙に、亜梨は後衛に浄化の風を吹かせた。小鳥のエアシューズが炎を噴き、それを目くらましにアルディマが接近し、聖剣で斬りつける。
    「なぁ、Sさんよ……もしかしてSって、SEAのS? 海辺に良く出没したろ?」
     錠が足を幾分ひきずりながら『SHAULA』を構えてじりじりと迫る。口元には皮肉な、けれど楽しげな笑み。
    「そん、なことは……忘れた」
     Sもナイフを構え、錠に近づいていく。
    「お前、血も好きなんだよな。誰の血でもいいってワケ? 俺はお前の血だから見てェんだけどなァ」
    「俺、は……」
     Sがガッと足を踏み出す。
    「血……灼滅者の血が……ミターーーーイ!」
    「琥界!」
     回復なった作楽が自らのビハインドを呼んだ。琥界は錠に向けられたナイフをすんでのところで受け止め、錠はSに肉薄したポジションで杭を撃ち込むことができた。
     ビハインドにカバーを命じた作楽自らも、Sの至近に回り込み、
    「悪夢を今度こそ終わらせてやろう!」
     お返しとばかりに『海ノ魔女ノ密戯』で毒を注射する。続けて、
    「避けられるものなら、避けてごらんなさい!」
     敵の足下が大分怪しくなってきているのを見てとり、シェスが氷魔法を叩き込む。
    「お前たち……は、弱い」
     Sはパリパリと氷の薄片を落としながら、じりと下がり灼滅者たちを睨めつける。
    「弱いが……数が、侮れない……回復もする……思い出した」
     もう嗤ってはいない。ひたすら憎しみの籠もった眼差しがギラギラと。
    「だから……弱ってるヤツからダーーーッ!」
     Sのナイフは執拗に錠を目指す……が、そこに。
    「私たちは、仲間を守ることもする!」
     自らの体を投げ入れて庇ったのは、アルディマ。肩にざっくりとソムリエナイフが刺さっている。
    「そうやで、仲間が守ってくれはるから、戦えるんや」
     背後からぶわりと襲いかかった伊織の影の刃が、黒服の背を切り裂いた。その隙にアルディマは歯を食いしばり、ナイフから強引に肩を外した。派手に血しぶきが飛んだが、亜梨の癒やしの矢がすかさず射込まれる。
     伊織は影を操りながら仲間達へ、愛しげに。
    「皆、無事で戻りましょうな」
    「はいっ、必ず……ロビンさん、お手伝いお願いしますっ、たあーっ!」
     小鳥がビハインドを伴い、影にもがくSめがけて気合い一発、斬艦刀を振り下ろす。

     灼滅者たちは、ひたすら助け合いながら戦い、守り、回復し続けた。残留思念とはいえ、コルネリウスのパワーを授かったSは生前よりも強力で、灼滅者たちのダメージも小さくはない。特に、ディフェンスに専念していたサーヴァントたちのダメージは大きい。
     しかし一方、Sも確実に弱ってきている。それは見た目でも、攻撃の強さやスピードからも確かだ。
    「……透けてきてませんか?」
     詩乃が後方からじっとSを見つめる。
     言われてみれば、灼滅者たちが装備しているライトが、Sを通り越して埠頭や海面にうっすらと映っている。
     伊織は傷だらけの顔に、相変わらずつかみ所のない笑みを浮かべながら、
    「うん、もうちびっとや。一気にいってしまおか!」
     断罪輪を回し、錠は火を噴くエアシューズで跳び蹴りを喰らわせ、小鳥は聖剣を振るう。
    「コルネリウスの企みも、Sによって生まれる悲劇も、全てここで止めて見せましょう……!」
     エアシューズを履いた詩乃が流星のように激しい、けれど確実な跳び蹴りを決め、
    「貴船の一撃、たんと味わえ!」
     作楽の鬼の一撃がSを殴り飛ばし、転がす。そこに、
    「これは如何かしら?」
     シェスの魔法弾が追い打ちをかけ……。
    「アルディマさん、下がった方が?」
     亜梨が心配そうに声をかける。ディフェンダーのアルディマは、サーヴァントたちほどではないが、かなりダメージを追っている。
    「いや、ここで頑張らなければ……!」
     肩を血で染めたアルディマは、最後のあがきとばかりに繰り出されたSのナイフを、シールドで躱し殴りつけ、亜梨もここが決め時と思い定め前に駆け出ると、
    「ヤーッ!」
     聖剣に宿した炎を叩きつける。
    「シャ……コロ……ス……」
     Sはもう起き上がれない。その輪郭が揺らぎ始める。まるで影のように。
    「とどめをッ!」
     小鳥が斬艦刀を振り上げたのに合わせ、錠はバベルブレイカーに、伊織は槍に、渾身の力を込めた! 
     ウァアァァァ………。
     声にならない声が港に響き。
     サラサラと……サラサラと。
     Sは金の砂となって崩れ。
     海風に吹き散らされて、消えた。
     散っていく金色の砂を見つめて、亜梨が。
    「思念が蘇らされている間、元々の人間だった時の思いが、一瞬でも戻ることはなかったのでしょうかね……」
    「どうなんだろうな……」
     錠が埠頭に座り込んで。
    「ダークネスとしての思念も、変質してたみたいだったしな」
     残留思念のSは、灼滅者への憎しみと殺意に凝り固まった怨念のような存在だった。
    「Sよ……先に地獄で待ってろよ、またバラしあって遊ぼうぜ……だからもう、迷うなよ?」
     錠は少しだけ寂しげな口調で、海に向かって呟いた。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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