青春ドンドコドコドコ

    作者:西東西


     ある日のこと。
     中学校近くの児童公園の前を、4人の男子中学生が頭を抱えながら歩いていた。
    「ああ~、今回のテストももうダメだ! 赤点だ!」
    「安心しろ。おれも全部、鉛筆転がしてきた」
    「オレも、全教科一夜漬けしかしてねーんだ。……一緒に追試受けようぜ」
    「このごろ、塾の先生がうるさくてさ。俺もう、学校も塾も行きたくねぇよお」
     それぞれが憂鬱な吐息をこぼし、ふと、周囲の気温が異様に暑いことに気づく。
    「おい……。いくら異常気象だからって、この気温はねえ――んあ?」
    「なんだよ、マヌケな声あげて」
     少年の指さす方向へ視線を向け、ほかの中学生たちもぽかんと、口をあける。
     そこには、竜を思わせる姿をした異形の生き物が、どっしりと佇んでいて――。

     数分後。
     4人の男子中学生たちは己の手で服をびりびりと破り、ターザンルックを身にまとっていた。
     顔にはペインティング代わりの、泥を塗りたくり。
     ある者は、学生カバンに詰めこんでいた教科書を火にくべ、焚き火をし。
     ある者は、野良猫を追いかけ、焼いて食わんとし。
     ある者は、携帯電話やゲーム機を叩き壊し、雄たけびをあげ。
     ある者は、折れた傘を武器の代わりに、勇ましげにイフリートの傍に立ち。
     まるで原始人のような行動を、繰りかえしていた。
     

    「たいへん、たいへん! これまでのイフリートとは、別種族のイフリートが現れたよ!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が慌てて教室に駆けこみ、集まった灼滅者たちに事件の説明を開始する。
    「イフリートは猛獣のような姿をしているはずなのだけど、このイフリートは、恐竜というかドラゴンみたいな姿をしていて、行動なんかもいろいろ違うみたい……。言葉も通じないくらい知性は低いようだけれど、とっても厄介な能力を持ってるの」
     それは自分の周囲の気温を上昇させ、能力の効果範囲にいる一般人を『原始人化する』能力だという。
     最初は狭い範囲に影響をあたえるのみだが、やがて徐々に範囲が広がっていき、最終的には都市一つが原始時代のようになってしまう可能性もあるという。
    「イフリートは効果範囲の中心地点にいるから、見つけるのは難しくないはず! ……ただ原始人化した一般人のなかには『強化一般人化』して、イフリートを守る戦士になっちゃう人もいるから、油断は禁物だよ」
     
     事件が発生するのは、日中。
     ある中学校近くの児童公園だという。
    「公園の中心にはイフリートがいて、強化一般人になっちゃった4人の中学生たちが周囲を守ってるの」
     公園内はイフリートの能力の効果範囲となっており、灼滅者たちを敵とみなせば、強化一般人たちも一斉に攻撃をしかけてくる。
    「この強化一般人たちも『原始人』的な行動をするから、うまく交渉すれば、戦闘をせずにその場を切り抜けられるかも! ……でも、原始人との交渉って、どうしたら良いのかなあ?」
     まりんはそう告げ、首をかしげる。
     うまく強化一般人との戦闘を回避できれば、イフリートとの戦闘はやりやすくなる。
     なにかしらの手段を考える必要はあるが、試してみる価値はあるだろう。
    「ちなみに、現れる配下イフリートはファイアブラッドに似たサイキックと、咆哮による『魔導書』に似た攻撃をしてくるよ。強化一般人たちもファイアブラッドに似たサイキックを使って、傘とか木の枝とか、棒状のものを手に『妖の槍』に似た攻撃をしかけてくるから、注意してね」
     まりんは資料を手にそれだけ告げると、説明をしめくくった。
     
    「配下イフリートが灼滅されれば、原始人化していた一般人たちも知性を取り戻して、ちゃんと元に戻るよ。……まあ、ちょっとくらいは混乱が残るかもしれないから、戦闘後にでも、なにかフォローをしてあげられると良いかも」
     意識がもどって原始人の格好をしていたら、びっくりするもんねえと零し。
    「あと、そうそう! 強化一般人との交渉はともかく、配下イフリートに交渉の余地はなさそうだから、今回は戦闘に集中して、確実にイフリートを灼滅してきてね」
     エクスブレインはそう告げ、灼滅者たちに事件を託した。


    参加者
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    近衛・朱海(朱天蒼翼・d04234)
    千凪・志命(灰に帰す紅焔・d09306)
    遠野森・信彦(蒼狼・d18583)
    アイリ・フリード(紫紺の薔薇・d19204)
    荏戸・セトラ(路地裏エトランゼ・d20000)
    陽野・鴇羽(焔盾・d22588)

    ■リプレイ


     事件当日。
     灼滅者たちは事前準備を行ったうえで、現場へと向かっていた。
    「……新種のイフリート、か」
     救出する少年たちのため、着替えのジャージを抱えた千凪・志命(灰に帰す紅焔・d09306)がつぶやく。
    「ファンタジーな幻想種好きとしては、ちょぉぉっと気になるよね!!」
     購入したこま切れ肉を『漫画肉』に造形し、イフリートとの対面を待ちきれないのは水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)。
    「従順にさせるための『原始人化能力』なのかな」
    「龍砕斧の竜因子にも、関係があるのか?」
     アイリ・フリード(紫紺の薔薇・d19204)とラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458)も推測を巡らせるものの、その答えは誰も知りようがない。
     一方、荏戸・セトラ(路地裏エトランゼ・d20000)は先日視た『予兆』に現れた男の姿に、昨年関わった事件を思いだす。
    (「もし背後にHKT六六六の影があるのなら、捨て置けません」)
     ともに歩く近衛・朱海(朱天蒼翼・d04234)もまた、
    (「イフリートという存在は、一匹残らず、この世に存在を許さない……!」)
     対峙することになるであろうダークネスへ向け、胸中で憎悪の言葉を紡ぐ。
     そんな中、大はりきりで任務に臨むのは陽野・鴇羽(焔盾・d22588)だ。
     自ら用意したターザンルックに身を包み、顔には泥を塗りこんでいる。
     念のためにと、さらしを巻いた胸を張り、
    「これで! 私も原始人の仲間だって思わせてみる!!」
     公園入りを前にぐっと拳を固め、気合い十分。
     先頭を歩いていた遠野森・信彦(蒼狼・d18583)が入口前で足を止め、振りかえった。
    「『竜種』ってのは、能力も凄いもんだな」
     じっとしているだけで汗ばんでくるのは、イフリートが居ることで気温が上昇しているためだ。
     同時に、公園内に姿の見えはじめた中学生原始人たちを救うべく、仲間たちへ呼びかける。
    「さあ、始めようぜ!」


     公園は学校のグラウンドほどの広さがあり、周囲に遊具をならべ、中央を広場として使えるようになっている。
     その敷地の真ん中に、燃える小山のようなものが見えた。
    「……あれが、イフリートでしょうか」
     セトラがつぶやくものの、身体を丸めているのか、公園の入り口からでは頭や手脚などを判別することはできない。
     鴇羽は『サウンドシャッター』を展開し、公園の外へ音が漏れることのないよう配慮。
     これ以上イフリートの能力に感化される者がないよう、アイリも『殺界形成』を展開し、作戦に取りかかる。
     公園内を徘徊する原始化少年たちは4人。
     1人は燃える小山のそばに立ち、周囲を警戒。
     すこし離れたところで、教科書を燃やす者と、ゲーム機を破壊する者。
     そして。
    「アーイーー! ヤ!」
     雄たけびをあげながら野良猫を追いかける少年が、猛ダッシュで公園中を駆けまわっている。
    「ここはまかせて!」
     告げるなり、鴇羽は公園内へ駆けこみ、少年の前へ。
    「ウッホー! ウホウホーッ!」
     鴇羽の霊犬『つっきー』が呆れたように見ているが、そんな視線もなんのその。
     ノリと勢いと好奇心のままに呼びかけた声は、走る少年の足を止めることに成功。
     その鴇羽の足元を、野良猫が走っていく。
     少年は公園の外へ逃げた猫を見やり、鴇羽へ向け声を荒げた。
    「ジャーヤ! ウー!」
     自前のターザンルックとペイントが功を奏したのか、仲間とは認識してもらえたらしい。
     だが、猫が逃げたことを非難されているようだと察した鴇羽は、仲間たちを手招き、再度呼びかけた。
    「ウホホッ。ウホ、ウッホ!!」
     意を察し進みでた瑞樹は、用意していた漫画肉を高く掲げ見せる。
    「オオーッ!?」
     感嘆の声ばかりは原始時代も同じだったのだろうか。
     猫追い少年の視線を釘付けにしたまま、焚き火をしていた少年の元へ近づき、
    「ちょっとかりるね!」
     瑞樹は少年たちに見せつけるように漫画肉をあぶりはじめる。
    「いい匂いだね……。ほら、食べないなら僕が食べちゃうよ?」
     肉を木の枝に刺し、アイリも一緒になって呼びかけた。
     信彦は原始人化した少年たちと交流を図るというシュールな光景に、内心笑いをこらえつつも、
    「ほら、やってみろよ」
     と、ゲーム機を粉々にしていた少年へ、焼肉を持って行った。
     食欲を刺激する匂いに誘われるまま、3人の少年たちは火を囲み、焼肉をむさぼりはじめる。
     残るは、イフリートのそばに立つ少年なのだが――。
    「ウホホッ、ウホウホホー?」
     鴇羽が懸命に呼びかけるも、
    「……どうやら、動きそうにないな」
     灼滅者たちを睨みつける少年を見やり、「本物の原始人もこういう感じだったんだろうか」と思いながら、志命が眉根を寄せる。
     となれば、次の作戦を進めるまで。
    (「美味しいお肉はこっちだ!」)
     兎へと変身したラシェリールが、少年を挑発するように、その足元を跳ねまわる。
     強化一般人である少年は、すぐにその兎がただの兎ではないことを察し、
    「ジャ! イーア!」
     手にした傘で攻撃しようと、追いかけはじめた。
    (「今なら、追われる獲物の気持ちがわかる……!」)
     弱肉強食の世界を身をもって体験しつつも、ラシェリールは少年をイフリートの傍から引き離すことに成功。
     攻撃をかわし、公園の外へ誘導すべく駆けぬける。
     一羽と一人の後を追っていた朱海はエアシューズで地を蹴り、少年の背に迫った。
    「その格好で暴れて良いのは、ここまでよ」
     声とともに、重力を宿した飛び蹴りを見舞い。
     兎に気をとられていた少年は、背後からの強襲を避けられるはずもなく。
     一撃で、地に伏した。


     焼肉で懐柔した3人も公園から連れだすべくうながしたが、こちらは肉の前から動こうとしない。
     最終的には3人が肉を食べている隙をついてKOし、無力化に成功。
     無用な戦いに巻きこまずに済んだと、灼滅者たちが喜んだのもつかの間。
     ――ギャァァアアアアアォォォン!
     まるで金属をすり合わせたような異質な咆哮が響きわたり、前衛に立っていた者たちが、一斉に爆炎に包まれた。
     照りつける炎に、灼滅者たちの肌を汗がつたい、流れ落ちる。
    「いきなり、やってくれるね!」
     鴇羽は『ASCALON』を掲げ、祝福の言葉で即座に仲間たちの炎をうちはらう。
     霊犬『つっきー』も浄霊眼で癒しにまわり、志命は傷を負いながらも手にした剣『ソー・グロワール』を抜剣。
     仲間たちの炎を完全に打ち消すべく、癒しの言葉を重ねた。
     眼前に君臨するダークネスは、これまでに見たどのイフリートとも違っていた。
     甲冑をまとったような厳めしい顔つき。
     低く、地を這う姿勢はトカゲのよう。
     全身は鱗に包まれ、背骨から尾の先にかけて、一対の、角のような突起が並んでいる様は、恐竜や、空想上のドラゴンのようにも見える。
    「これが竜か! かっこいいな!!」
     鞭のごとく地を打つ尾を回避し、ラシェリールは真っ先にイフリートに迫った。
     炎をまとったエアシューズで強烈な蹴りを叩きこむも、その手ごたえは、硬い。
     霊犬『無銘』の斬魔刀での攻撃に続き、朱海は漆色の手甲『開闢明王』を構える。
    「――獣に遭いては獣を灼いて、龍に遭いては龍を滅する!」
     体内から噴出させた炎をねじれた爪へと宿し、一閃。
     引き裂くと同時に、燃えあがる炎で焼きつくす。
     続くアイリはイフリートの死角に飛びこみ、手にした『二連装駆動衝角【Crux】改』を硬質な肌に押しつける。
    「えぐり甲斐が、ありそうだよ!!」
     叫び、ドリルの如く高速回転した杭を叩きこんだ。
     通常であれば敵の肉体を引きちぎることもある攻撃だが、このイフリート相手では、撃ちこんだところに穴を穿つので精いっぱい。
     傷口からほとばしる炎でひとまず傷を与えたことを確認した、その時だ。
    「アイリちゃん!」
     鴇羽の声を受け振りかえるも、視界を影が覆い。
     「あ」と思った時には衝撃が身体を襲ったが、身を引き裂くような痛みではない。
     これは、突き飛ばされたかのような――。
    「志命、大丈夫か!」
     イフリートと対峙する信彦から声が飛ぶに至り、アイリはようやく、己が庇われたことを悟った。
     鞭のごとき尾の一撃を喰らった志命はアイリから遠く離れた位置まではね飛ばされ、駆けつけた霊犬『無銘』が治療を施している。
     ――ギャォォォオオオオオオオオン!
     ふたたびあがった咆哮が次に狙ったのは、後衛たちだ。
     志命は傷をおし、再び仲間をかばうべく身を投げる。
     朱海もまた、猛攻を前に躊躇なく突進していく。
     鴇羽と朱海がすぐさま爆炎に包まれた仲間たちを癒しの風で浄化するも、受けた傷は疲労となり、着実に灼滅者たちを蝕みはじめていた。
     複数名を焼く爆炎に、死角からの尾の攻撃。
     そして、易々と傷を受けつけない、硬質な皮膚。
    「そう簡単に、勝たせちゃくれないか!」
     叫び、瑞樹は大振りの解体ナイフを手に、イフリートの懐に飛びこんだ。
     炎と覚悟を宿した刃は深々と肌を裂き、その傷口から、あかあかと燃える炎がこぼれる。
     続く信彦もまた、宿敵を前にたかぶる感情を抑えきれない。
     変則的にせまる尾の攻撃をたて続けに回避し、エアシューズで加速する。
     仲間たちを狙い、攻撃をしかけた隙をつき、力強く地を蹴り。
    「俺とお前の炎、どっちが強いか、見せてやるよ!!」
     イフリートの眼前。
     顎の下から、赤い炎をまとった痛烈な蹴りを見舞った。
    (「試すなら今、でしょうか」)
     たたらを踏み、動きを止めた敵の眼前に立ち、セトラは龍砕斧に宿る『龍因子』を解放。
     己の守りを固めて見せる。
     しかし、イフリートは龍砕斧や龍因子にはなんの反応も示さず、セトラめがけ尾を振るった。
    「反応なし、ですか」
     つぶやき、地を蹴って中空で反転。迫る尾を回避する。
     敵の死角へと身を躍らせると、次の攻撃に備えた。
     戦いは長引き、仲間たちへの攻撃をかばい続けた朱海と志命の体力が、しだいに限界へと迫っていく。
    「このままでは、押しきられてしまうわ」
     憎々しげに告げる朱海へ、しかし瑞樹は、力強く答えた。
    「大丈夫! 皆の攻撃は、ちゃんと効いてるよ!」
     敵の目の前で立ち回っていた瑞樹は、イフリートの動きが当初よりも鈍くなっているのに気づいていた。
     見れば確かに、硬質な皮膚が灼滅者たちの炎に焼かれ、じわじわと焦げはじめている。
     そのくせ、眼前を飛びまわる灼滅者たちを振りはらうことに気を取られているのか、イフリートはいまだ、一度として回復を行っていない。
    「……そうか。それなら」
     志命が力を振りしぼり、立ちあがる。
    (「うまくいったとして、すぐに戦闘不能になる恐れもあるが」)
     ――この状況を打破できるのであれば、一瞬でも、気をひく価値はある。
     すぐに、信彦と朱海がエアシューズの機動力を生かし、イフリートを翻弄するように眼前を駆けた。
     案の定、イフリートは2人を狙って尾を振るい、攻撃を集中させていく。
     志命が敵の死角に至ったところで、足並みをそろえ、飛びあがる。
    「悪いが、勝たせてもらうぞ!」
    「灰にして、二度と這いでぬよう、地の底に埋めてやる……!」
     重力を宿した2人の蹴りが炸裂すると同時に、志命は別の死角から、駆けだした。
     手にしたWOKシールドを振りかぶり、イフリートの横っ面めがけ、気合いをこめて殴りかかる。
     ――ギャアアォォォン!
     怒りに吠えたイフリートの尾がひときわ激しい炎をまとい、志命の身を強打。公園の端へと、弾き飛ばす。
     駆けていく霊犬『つっきー』に回復を任せ、鴇羽は意を決し、縛霊手を掲げて殴りかかった。
    「いっけーーーぇ!」
     渾身の一撃とともに網状の霊力を放射し、ダークネスを縛りあげる。
     その機を見逃さず、灼滅者たちは一斉に総攻撃を仕掛けた。
    「このあたりの原始人化が進んでも困るしな。……灼滅させてもらう!」
     神々しい黄金のオーラを拳に集束させ、ラシェリールが怒涛の連撃を叩きつけ。
     続くアイリは己の利き腕を巨大な砲台に変え、
    「ジワジワと蝕まれるといいよ」
     死角から毒性をもつ『死の光線』を浴びせかけた。
     連携攻撃に苦しみの咆哮をあげるイフリートめがけ、霊犬『無銘』が斬魔刀を一閃。
     間をおかずに、片腕を異形巨大化させた瑞樹が迫り、叫んだ。
    「セトラさん!」
     声とともに、渾身の力で殴りつけ。
     体勢を崩しながらも尾で瑞樹をはね飛ばしたイフリートめがけ、セトラは小柄な身を躍らせた。
     ――懐古主義のダークネスには、この世界は、いったいどんな風に見えているのだろう。
     一瞬、そんな考えが脳裏をよぎるものの。
     焼け焦げ、まだらに変色したイフリートの首筋に張りつき、長い袖に隠した刃を歪に変形させる。
    「ご退場願いましょう」
     仲間たちの重ねた傷をえぐるように、その刃で深く、深く、切り刻んで。
     セトラがイフリートから離脱するのと、その皮膚が激しく燃えはじめたのは、同時だった。
     力尽き、灼滅者たちの仕掛けた炎に耐えることができなくなったのか。
     8人を翻弄した謎の竜型イフリートは、数分後には炎に呑まれ、やがて灰になって姿を消した。


     戦闘後。
     灼滅者たちは最低限の傷を回復すると、KOした少年たちにジャージを着せに走った。
     そして、目覚めを待ち。
    「……なんだ、このジャージ?」
    「イテテ。俺、なんでこんなに身体が痛いんだ?」
    「ギャーッ! おれのスマホとゲーム機が粉々に!」
    「やったー教科書が灰になってるからもう勉強しなくて良い――なわけあるかッ!!」
     それぞれに混乱する少年を前に、灼滅者たちが声をかける。
    「怪我はない?」
     体調を気遣う朱海に、ラシェリールは原始時代の演劇練習につきあってもらっていたのだともっともらしく説明する。
    「協力ありがとう、お礼に焼肉でも食べるか?」
    「演技で! おれゲーム機壊しちゃったの!?」
    「教科書を燃やしちゃったの!?」
    「……そういう時もある。気にするな」
    「「気にするよ!!!」」
    「きっとテスト勉強の反動が出ちゃったんだよ。迫真の演技だったよ?」
    「点数がショックな気持ちは解るけど……。次、頑張ろうよ! イケる、イケる!」
     志命と瑞樹、そして良い笑顔で焼肉をさしだす鴇羽の前で。
     ――ぐぎゅるるるるるる。
     4人の少年たちのお腹が、盛大に鳴った。

     数時間後。
     ジャージを着た4人の少年たちは、多少の違和感と疑問、そして満腹のお腹を抱え、灼滅者たちに手を振りながら公園を去って行った。
     セトラはイフリートの消えた場所を調査したが、遺物のようなものは存在しなかった。
     灼滅者たちの様子をうかがう第三者の気配も、ない。
    「結局、竜種って、なんなんだろうね」
     ぽつりとつぶやくアイリの言葉を聞きながら、
    (「竜種だろうと、なにがこようと。私が、みな殺しにしてやる――」)
     朱海は暗い決意を新たに、遠く、小さくなる少年たちの背を見送った。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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