ドラム淫魔とロードローラー(痛)

    ●とある路上ライブ
     都下、某商店街の外れに、リズミカルなドラムの音と歌声が響いている。ドラムの前に座っているのは、ピンク色のパンクヘアにヘッドセット、デニムのジャケットとショートパンツ姿の女の子。ジャケットとパンツには激しいダメージ加工が施してあり、お尻もバストも半分方見えてしまっている。しかし彼女はお構いなしに、汗を飛び散らせドラムを叩きまくり、歌う。
     ドラム以外のパートは録音だし、歌も微妙に残念であるが、ドラムの腕は中々のもの。可愛い女の子のドラムの弾き語り(叩き語り?)という珍しさもあってか、結構な人数の聴衆が集まっている。
     しかし、人々が集まっているのには物珍しさだけではない理由がある……実はドラム少女は『手平金・ドラミィ』という淫魔なのだ。
     彼女のことを覚えている人も、もしかしたらもしかしたらいるかもしれない。彼女は、不死王戦争の後、ソロモンの悪魔の一派に八つ当たり気味に狙われて、灼滅者と共闘したことがある。
     ドラミィはラブリンスター配下であり、ラブリンのバックバンドのメインドラマーになるのが夢だ。最近はバックコーラスもできるようになりたいと、こうして弾き語りの路上ライブを開き、度胸と実力をつけようと頑張っている。
     曲が終わり、聴衆が拍手をする。ドラミィはチャーミングに笑い、
    「みんな、ありがとう! 次はラブリンスター様のナンバーを歌うよ! ラブリン様のCDいっぱい持ってきてるから、気に入ったら買ってよね!」
     見れば、ドラムの脇にはCDが山積み。
    「いくよー『ドキドキ☆ハートLOVE』!」
     ドラミィが張り切って、ドラム抜きカラオケCDが入っているプレイヤーのボタンを押そうとした時……。
     ゴゴゴゴゴゴ……。
     唐突に、人垣の後ろに地響きと共にピンクのロードローラーが現れた。聴衆が驚いて避けると、ロードローラーは何の遠慮もなく最前列にやってきて。
    「なんとドラムアイドル! レアでござるな! 拙者、ドルオタ的にしっかり押さえておくでござるよ!!」
     車体の上に不自然に乗っかってる頭の鼻息が大変荒い。
    「あ、アンタ、その図体で前に来ないでよ!」
     ドラミィは慌ててロードローラーに、
    「ほら、せっかく集まってくれたお客さんたちが、ビビって帰っちゃってるじゃん! どうしてくれんのよ!!」
     ロードローラーの勢いと痛さに一般人たちはすっかり怯え、蟻の子のように散ってしまった。
    「よいではないか、よいではないか、拙者のためだけに歌って下され」
    「ヤだよ、そんなの!」
     ドラミィは憤然と立ち上がった。
    「あたしは、大勢に聴いて欲しいんだよ! 止め止め! 今日は帰ろっと」
    「なんですと……?」
     ゴゴゴゴ……。
     ロードローラーは、一旦切っていたエンジンを再びかけて。
    「えっ、何だよ、ちょ……えええっ!?」
     ドラムセットを片付けようとしていたドラミィに、ロードローラーが迫る。
    「……歌わぬなら、殺してしまえ、アイドル淫魔」
     
    ●武蔵坂学園
    「『???』だって、ウツロギからこんな妙な分裂体が現れるとは、思ってなかったんじゃないのかしら」
     集った灼滅者たちは目を点にしている。
    「そのへんは僕らには知る由もないですが」
      春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は肩をすくめた。

     謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』が『外法院ウツロギ』を闇堕ちさせ、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生み出し……というあたりはもう耳タコで説明不要だろう。
     とにかく序列二八八位『ロードローラー』は分裂しまくって、全国各地で珍妙な事件を起こし続けているのだ。
     
    「今回のロードローラーは、ピンク色の車体にラブリンスターっぽいイラストが描かれています」
    「いわゆる痛車ってヤツだな」

     痛いロードローラは、ラブリン配下のアイドル淫魔のライブに突入し、集まった聴衆を追い払った上で、淫魔にライブを続けさせようとする。
     怒ったアイドル淫魔が帰ろうとすると、自分が満足するまで歌えと強要し、それが断られると轢き殺す。

    「アイドルを独り占めしたいっていうドルオタのアレかしら。イヤねえ」
    「ウツロギの目的は不明ですが、車体からすると、何らかの趣味的要素が絡んでいることは想像できますね……ま、とにかくそういうわけで、ドラミィの路上ライブに現れるロードローラーの灼滅をお願いします」
     ドラミィとロードローラーへの接触は、一般観客が逃げていくのと入れ替わりがいいだろう。商店街に潜んでタイミングを待とう。
    「作戦は2つ考えられます。どちらを選ぶかは、皆さんにお任せです」
     典は黒板に向き直った。

    (1)淫魔と共闘。
      ロードローラーは最優先で淫魔を狙うので、かなり有利に戦う事ができる。ただし、淫魔は高確率で殺されてしまう。

    (2)戦闘中、淫魔にラブリンの曲を歌い続けてもらう。
      するとロードローラー(痛)は、アイドル淫魔に声援を送るために、攻撃がおろそかになりがちなので、有利に戦える。

     ただし淫魔は、基本的に灼滅者に後を任せて逃げ出そうとするので、共闘するにせよ歌ってもらうにせよ、要交渉である。
     ドラミィは1度灼滅者と共闘しているので、多少交渉はしやすいかもしれない。
     
    「ドラミィはラブリン配下の下っ端ですから、放置しても問題ありませんが、ロードローラーのついでに灼滅しちゃっても結構です」
     典はうっすらと黒い笑みを浮かべ。
    「その場合は、ロードローラーの仕業に見せかけておいた方がいいでしょう……とは言っておきますけどね?」


    参加者
    両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    一橋・聖(みんなのお姉さん・d02156)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    四季・彩華(幻影を見せる姫雪・d17634)
    レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)

    ■リプレイ

    ●(痛)出現
     分厚いガラス越しなのに、ドラムの音が腹にズンズン響く。
     四季・彩華(幻影を見せる姫雪・d17634)は、憤懣やるかたない様子でテーブル越しに顔を寄せ、
    「追っかけの癖に歌を強要した挙句、気に入らないなら殺してしまうなんて無慈悲極まりない! 必ず成敗しよう!」
    「うんっ、アイドルの敵はアタシの敵でもあるからねっ♪」
     自身もアイドル活動をしている一橋・聖(みんなのお姉さん・d02156)が、力を籠めて同意する。
     彼らは件のライブが見える位置にあるハンバーガー店にいる。窓際の席を占領してダベっている様子は、年齢幅や性別不詳はあれど普通の学生に見えるが、小声で交わされる会話の内容は物騒だし、窓の外を観察する目は真剣だ。
    「こんな事にならなきゃ、普通に応援したい所なんだがなぁ」
     フェミニストの両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)が呟く。淫魔だって女の子は女の子、というのが彼の基本スタンス。
    「ソロモンの悪魔の次は六六六人衆とは、よくよくついていない人……いえ、淫魔ですよね」
     篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)が、人垣の中見え隠れする淫魔・手平金・ドラミィを赤い瞳で見やり、月村・アヅマ(風刃・d13869)も、
    「うん、まぁ相当な巻き込まれ体質だね」
     ……と、突然、視界が大きなピンク色の物体で遮られ、ドラムとは違う重低音がドッドッドッ……と店を揺らし始めた。
    「(出た!)」
     灼滅者たちは一斉に立ち上がる。
     忽然とロードローラー(痛)が出現していた。
     行こう、彼らは無言で視線を交わし、店外へと飛び出して行く……が。
    「おい、みんなゴミの始末は!?」
     苦労性のアヅマは8人分のゴミをゴミ箱に押し込み、慌てて仲間たちを追いかけた。

    ●歌ってよドラミィ
     ずんずん前列に出ていくロードローラー(痛)の勢い……とキモチワルサに、一般人達はそそくさと逃げ出していく。灼滅者たちはその流れに逆らって(痛)とドラミィに接近する。
    「慌てず逃げてくれよ」
     人波に巻かれつつ、レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)が殺界形成を発動した。
     人混みをかき分けている間に(痛)はドラミィに理不尽に迫り始める。灼滅者たちは、カードを解除しながら急ぐ。
     最初に敵とドラミィの間に割り込めたのは、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)と彩華だった。
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
    「マジピュア・スラッシュアップ!」
     2人は揃って魔法少女コスチュームに変身し、
    「希望の戦士、ピュア・ホワイト!」
    「刃華の戦士、ピュア・シルバー!」
     クルセイドソードを掲げてポーズを決め、立ちふさがる。
    「「マジピュア☆スターズ参上ですっ!」」
     そこへタイミング良く『ドキドキ☆ハートLOVE』のイントロが流れ出す。
    「ライブはまだまだこれからなんだよ!」
     聖がプレイヤーに飛びついて再生ボタンを押したのだ。
     可愛らしい魔法少女の出現と(但し2人とも男子)ラブリンスターの曲が始まったことで、(痛)はめんくらったようにストップした。
     その間に今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が、すばしっこくドラミィのところまで到達し、
    「ドラミィちゃん、また会ったね」
    「え、誰だっけ……あっ!」
    (痛)にビビっていたドラミィは紅葉の顔を見下ろして、パッと笑顔になり。
    「前に魚野郎を一緒にやっつけた、武蔵坂の子だ!」
    「そうよ」
    「わあ、久しぶりだね! って、再会を喜んでる場合じゃないんだよ、逃げないと」
     ドラミィはがしゃがしゃとドラムを片付けようとする。
    「待って」
     紅葉はその手を押しとどめ。
    「アレは、実は武蔵坂の元生徒でね……」
     ラブリン配下のアイドルたちを狙う変態ストーカー痛車である、と紅葉は端的に説明する。
    「ええっ。あんたらの学校のヤツなの? じゃあ責任もって始末してよ」
     ドラミィはつれなく片付けを続けようとするが、アヅマが説得に加わる。
    「そうなんだけど、正直俺たちだけではキツいんだ。確実に倒すために、力を貸してくれないかな?」
    「えー、だって狙われてるのはあたしだろ?」
    「大丈夫、君のことは守るよ、何としても」
     レオンはやたらと真剣な顔。『本気で頑張っている女の子』を傷つけられるのは、トラウマ直撃なので、内心かなりテンパっているのだ。
    「紅葉たちが守るから、ドラミィちゃんにはライブを続けて欲しいの」
    「え、ナニソレ?」
     一緒に戦おうではなく、ライブを続けろという申し出に、ドラミィは面食らう。
    「アレ、ラブリンスター様の歌が大好きみたいで」
     紅葉はちらりと(痛)に目をやり、
    「歌ってくれるとそっちに気をとられて、動きが鈍くなるの。そこを私たちが倒すから、素敵な歌とドラムをお願いします」
    「アイドルたるものライブを放り出しちゃいけないよ♪」
     聖はビハインドのソウルペテルと共に『ドキドキ☆ハートLOVE』に合わせ踊り出している。彼女の本日の衣装は、激しいドラムに合わせた高速ダンススタイル。
    「俺たちも続きを聞きたいし。戦闘するにも、気分が乗るからな」
     式夜は笑みを浮かべて囁き、
    「今日の主役は君さ、ドラミィ。君の歌が僕らの力になる」
     レオンもキザな台詞を口にしつつも、目がマジ。
    「え……えっと」
     おだてられその気になりつつあるドラミィではあるが、魔法少女ズを『可愛いでござるね♪』とか言いながら舐めるように見ている(痛)に、ぶるっと身震いし。
    「う……やっぱりヤダ……」
     そこにボソリと。
    「なあ、下手するとアレ、ラブリンスターのとこにまで湧いて出そうじゃないか?」
     アヅマが背後から囁いた。
    「えっ!?」
    「それにっ」
    (痛)を気持ち悪がりつつも、ジュンが振り向いて叫ぶ。
    「ここでコレを倒せば、ラブリンスターさんもあなたのことを、もっと認めてくれるんじゃ?」
    「そ、そうかな……?」
    「ほら、みなさんあなたのドラムを待ち望んでいますよ」
     誘魚がダメ押しとばかりに置かれていたスティックを、ドラミィに手渡す。
    「さあ、ドラムカモーン!」
     聖が歌い出す。
    『ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート
     ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート』
    「……わ……わかった! あたしやるよ!!」
     ドラミィはシンバルのボルトを締め直し、スティックを手の中でくるっと回した。リズミカルなドラムがスタートし、
    『あなたは覚えてないのかな?
     わたしは絶対忘れない
     だって 忘れるわけがない』
     歌はコーラスになる。
    「ありがとうなの、ドラミィちゃん! ドラム上達したよね。何か元気が出るの」
     紅葉はそう言って契約の指輪を出現させ、ドラミィの傍らに陣取る。

    ●ライブつき戦闘
     ドラミィが歌い出した途端、(痛)の、魔法少女ズをねっとり眺め回していた視線が外れて。
    「おお、ライブ再開でござるか!」
     歓喜の声。
     この隙を逃す魔法少女たちではない。2人はドラムに合わせてステップを踏み、
    「さあ、ジョイントライブの始まりですよ!」
     彩華は雷を宿した拳をフロントに叩き込み、ジュンは光の剣を突き刺した。
     しかし(痛)は痛そうな顔もせず、ヘッドバンキングなどはじめたりして。微妙に脂っぽそーなツインテールがびしばし跳ねる。
     ドラムを背に仲間達も攻撃を開始する。誘魚は『皆朱鑓』を捻り込み、アヅマは、
    「外法院先輩、ダークネスライフ満喫しすぎだろ……」
     半眼になりつつも、異形化した腕で殴りつける。
    「今回ばかりは主役は譲るよ!」
     聖はドラミィをガードする位置で、バックダンサーとして情熱的なステップを踏み、ビハインドには霊撃を命じる。紅葉は動作を阻害する魔法弾を撃ち込み、レオンは、歌に夢中な敵に忍び寄るとローラー基部に刃を立てた。バチッとどこかがショートした音がして、
    「むっ?」
    (痛)のむち打ちになりそうなヘドバンが止まり、辺りを見回した。ドラミィとの間にしっかり入り込んでいる灼滅者たちの存在に、今更気づいたらしい。
    「何でござるか君たちは。ライブの邪魔をしないでくれでござる!」
     車体の側面からニョキッとアームが出てきた。そのアームの先端は、巨大な土木用ハンマー。
     ずうぅぅううん。
    「うわあっ!?」
     ハンマーが地面に叩きつけられた衝撃で、前衛がひっくり返った。
    「大丈夫かい!?」
     ドラミィは思わずドラムの手を止めた。
    「演奏を止めるとまとめて轢くでござるよ!」
    (痛)は脅しつけるようにドドドド……と、一度止めていたエンジンをかけなおし、ドラミィは慌てて叩き出す。
    「むう、さすがイタくても六六六人衆……お藤」
     式夜は前衛に癒やしの矢を撃ち込み、視線だけで命令を理解した霊犬・お藤も瞳を光らせる。
    「よくも!」
     ハンマー攻撃を逃れたスナイパーのジュンは、ロッドを構えて突っ込んでいく。ビシリ、と魔力が火花を散らし、続けて、
    「『ファン』を名乗るなら……無理強いなんてガチで痛い真似してんじゃねぇぇぇぇ!」
     レオンが怒りの戦艦斬りでローラーにざっくりと傷をつける。紅葉は呪文を呟きながら指輪を掲げて石化の呪いをかけた。
     が、(痛)はご機嫌で。
    『ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート
     ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート』
     と、サビに合いの手を入れている。
    「ダメだこの人……(ああ、本体早く見つからないかなあ)」
     回復を受けて立ち上がりながら、アヅマが遠い目で呟き、
    「ダメですね……」
     彩華も刀を支えに脱力気味に立ち上がりながら頷いたが、この隙を逃す手はない。『Alice』に炎を載せて斬り込んでいき、誘魚がロッドを叩きつけて力を流し込む。バキン、とどこかの部品が弾ける音がした。アヅマはオーラを宿した拳で『さつりく☆だいいち』の辺りをボコボコに凹ませ、聖が美声を響かせようとした時。
    「あっ、終わっちゃった」
     カラオケが終わってしまった。
    「続けるでござる!」
     また(痛)が脅しつけ、聖は慌ててプレイヤーのスイッチを入れる。流れ出したのは。
    「待ってました『初夢Snowキッス☆』!!」
    (痛)は嬉しそうに再びヘドバン。
    『ねぇねぇいいでしょ? 夢ならいいでしょ?
     あなたに夢中! 大好きすぎて
     ベッドの中でもぜんぜんシャキーン!
     これじゃ初夢 見れないよ~(涙)』
     聖はドラミィと声を合わせて歌うが、その歌声には催眠効果があり、(痛)は一層ウットリと歌に没入した模様。
    「ちょっと回復頼むわ」
     その様子を見て式夜は、中後衛に回復役を頼み、そっと敵に近づいていく。脇に回り込んで、運転席のステップに足をかける……と。
     バキィッ!
    「うがっ」
     突然ハンマーが振り回され、式夜はアーケードの天井に叩きつけられ、路上に落ちた。キャウン、とお藤が心配そうに駆け寄る。
    「式夜さん、大丈夫!?」
     仲間たちも血相を変える。
    「ああ……大したことはない……けど」
     どうやら(痛)は式夜を意識して殴ったのでなく、ケミカルライトよろしく歌に合わせてハンマーを左右に振りだしたのに当たってしまったようで。
     お藤に回復を受けながら式夜は呟く。
    「この形でなかったら、絶対オタ芸とかやってるよな……」
     ハンマーぶんぶんなので接近し難くはなったが、ライブに集中しているのは確かだ。灼滅者たちは一斉に(痛)にとびかかる。誘魚は異形化させた拳でフロントランプを叩き割り、アヅマは『風刃・級長戸辺』で果敢にアームに斬りかかる。彩華は背面に回って『Pandora Snow』を振るい、聖は敵の周りで踊りまくる。紅葉は漆黒の弾丸を撃ち込み、ジュンはエアシューズでダンスのように高く飛び上がると、流星のようなキックを決める。レオンもエアシューズで走り込んだが、彼はバチバチとショートしているローラー基部を狙う。リズムに乗ってハンマーのタイミングを計り、滑り込むように蹴り込んだ。回復なった式夜も、仕返しとばかりにローラーに斬りつける……と。
    『ねぇねぇいいでしょ? だからいいでしょ?
     初夢ラブラブ 初夢Snowキッス☆』
     曲が終わった。
    「パチパチパチ……!」
     拍手できない(痛)は口拍手をし、
    「さ、どんどんやるでござる。今日は拙者の気の済むまで……」
    「いいかげんにしなさい」
     誘魚が台詞を遮って、ずいと(痛)の前に立ちはだかり。
    「そもそもなんですか、この車体は。恥ずかしい! それにボロボロよ?」
     言われて(痛)は自らの車体を見回す。
    「な、何と、いつの間に!?」
     ライブに没頭している間にカスタムボディはべこべこのぼこぼこ、ローラー基部からは火花や煙が立っている。キッと(痛)が顔を上げたその視線の先には、歌い続けるべきか逡巡しているドラミィ。
    「こんなに愛してるのに……ヒドイでござる!」
     涙ぐんでるし。
    (痛)はぶるっ、と生き物めいた動きで車体を振るわせると、
    「歌ってくれないなら轢いてやるーっ!」
     ドラミィ目がけてみょ~んと跳んだ!
    「やらせないよ!」
     しかしディフェンダーの2人とサーヴァントが素早く割り込んで、受け止めた!
    「むぎゅ」
    「重」
     さすがに潰されたが、それほどの威力はない。ここまでのダメージとバッドステータスの積み重ねが効いている。なにせ跳び上がった拍子にバラバラと部品が落ちたくらいで。
    「……せえのっ」
     聖のかけ声でディフェンダーは(痛)を押し戻し、そこに、
    「いけ! 一気にやっちまえ!!」
     灼滅者たちは群がっていく。誘魚とアヅマは両サイドからロッドを叩きつけ、紅葉は毒弾を撃ち込み続ける。レオンは『黒獅子・風魔砲声』で攻め続けていたローラーの1つをとうとう粉砕した。
    「この野郎ども……でござる」
    (痛)はヨロヨロとハンマーを振り上げるが、ポロッ、と折れて。
    「今ですっ、彩華さんいけますか!?」
     ジュンが聖剣を輝かせながら飛びだしていく。
    「ええ、いけます!」
     式夜から防護符を受けた彩華も聖剣を構えて走り込み……。
    「「マジピュア・ツインスラーッシュ!」」
     魔法少女2人分の輝きが(痛)を覆って。
    「……ぷしゅう」
     空気の抜けた様な声が聞こえ。

     ――どっかああああん。

     派手に爆発したロードローラーは、不思議なことに何の残骸も残さなかった。まあ分裂体だから、不思議ではないのかもしれないが。
    「よいセッションでしたね」
     誘魚が、ドラムの前に座ったままぐったりしているドラミィに話しかけた。
    「ありがとう、助かったよ」
    「こちらこそ、だよ……んー、いい汗かいたな」
     レオンも近づいてきて。
    「どうよ、これから飯でも食いにいかね?」
    「いいわね、詳しい事情もお話したいですし」
     紅葉も微笑みかける。彼女はドラミィとメアドを交換したいと思っている。
    「そうだな、ちゃんとお礼も言いたいし」
     アヅマも頷いた。彼も携帯番号を渡すべく用意してきた。
     ドラミィは灼滅者の顔を見回して。
    「……おごりかい?」
    「うっ」
     レオンが胸を押さえて。
    「……オレのお財布が闇堕ちしそうです」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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