臭くたって酸っぱくたって

    ●大津市内、某老舗
    「わっ、な、何なんですか、あなた方は!?」
    「どけどけどけぇ、刃向かう者は容赦しないぞ!」
     突如大津市内の某老舗に、2人の暴漢が押し入ってきた。
    「人間共は、奥に引っ込んでろ!」
     嘴のある面をかぶった暴漢たちは、店員や客たちを店の奥の作業場に追いやる。
     悲鳴を上げる一般人たちが店内からいなくなるのを待って、暴漢たちは。
    「……よし、始めるか。一般人共を傷つけるのは本意ではないからな」
    「うむ、とりあえずしばらく開店できない程度に破壊すればよいのだ」
     カシャン。
     暴漢……慈眼衆が店内の陳列棚のガラスを槍で割った。並んでいるのは、キレイな木箱や紙箱、経木に包まれた商品の数々。中身は琵琶湖産淡水魚の佃煮や甘露煮、それから……。
     慈眼衆たちはそれらの商品を棚から引っ張りだし、投げ捨てた。
     ……と、ひとりが。
    「おい、あの樽はどうする?」
     棚の内側に置かれている、作業場から出してきたばかりという感じの大きな樽に気づいた。
    「アレの樽だから、中身をぶちまければ効果絶大だな」
    「うむ、アレの匂いは強烈だから……しかし、わしらにも匂いがつくことになるぞ?」
    「そ、そうか、アレは旨いが、匂いが染みつくのはちょっとな……うーん」」
     慈眼衆たちが樽を挟んで悩んでいるところに。
    「待て待て待て待て待つっぺな!」
     なんかペラペラした2人が、店に飛び込んできた。
    「慈眼衆め! 琵琶湖の至宝、鮒寿司店を襲撃するとは、ふとどき千万っぺな!」
    「我ら、琵琶湖ペナント怪人が成敗してくれるっぺな!」
     現れたのは琵琶湖ペナント怪人2名。
     その姿に、慈眼衆もいきり立つ。
    「出たな、安土城怪人の手先め!」
    「ここで会ったが百年目、目に物見せてくれるわ!」
     慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人は、鮒寿司店内でぎりぎりと睨み合う。
     
    ●好き嫌いはあるけれど
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、嬉しそうに鮒寿司に箸を伸ばしながら語り始めた。
    「皆さんご存じでしょうが、 西教寺の調査により、近江坂本に本拠を持つ刺青羅刹・天海大僧正と、近江八幡に本拠を持つ安土城怪人が戦いの準備を進めているらしい事がわかりました」
     調査結果を裏付けるように、琵琶湖周辺で天海配下・慈眼衆と、安土城怪人配下・琵琶湖ペナント怪人が争う事件が多発している。
    「琵琶湖の観光地や名物に対して破壊工作を行おうとする慈眼衆を、ペナント怪人が阻止しようとする……って言っちゃうと、一見ペナント怪人側が正義のように見えるんですけど、事態はそう単純ではなくて」
     安土城怪人は、もっか琵琶湖ペナント怪人増産中で、その力で天海大僧正との合戦に勝利し、ゆくゆくは世界征服を企んでいるようなのだ。
    「つまり、慈眼衆による琵琶湖周辺の破壊工作は、ご当地パワーを弱らせて、安土城怪人の野望を止めるためなのでしょう」
    「でも」
     鮒寿司の匂いを不審そうに嗅ぎながら、ひとりの灼滅者が。
    「慈眼衆が一般人に迷惑をかけてるのは間違いないでしょう?」
    「ええ……でも、なるべく人的被害は出さないよう気をつけてる風にも見えるんですよねー」
     確かに鮒寿司店の一件でも、破壊活動に入ったのは一般人を店から追い出した後だ。
    「もしかしたら、武蔵坂と共闘したい天海大僧正から、一般人を傷つけるなと命じられてるのかも……」
     天海大僧正からのメッセージということだろうか。
    「というわけで」
     典は困った顔で。しかし鮒寿司をまた一切れつまみ上げながら。
    「これらの事件、琵琶湖を巡る攻防を左右することになりそうなのですが、どっちに付くべきか、まだ何とも申し上げられなくて……なので、介入方法は皆さんの判断にお任せします」
     鮒寿司を美味しそうにもぐもぐごっくんした典は、
    「慈眼衆もペナント怪人も2体ずつで、戦力は互角です。灼滅者がどちらに肩入れするかで戦いの結果が決まるでしょう」
     集った灼滅者たちは頷いた。じっくり相談して、介入の方針と方法を決めなければ。
    「注意点としては、どう戦うにしろ、店内よりは、外に引きずり出した方が戦い易いということと」
     店の前は駐車場と、広めの道路であるし、店の被害は最小限にしたい。
    「どういう作戦をとるにしろ、慈眼衆やペナント怪人への接触は、一般人が店から追い出されてからの方がいいでしょうね」
     その方が一般人を巻き添えにする危険が減るだろう。
    「ところでさ……」
     灼滅者のひとりが典に。
    「お前、鮒寿司、好きなの?」
    「好きですよ」
     典は嬉しそうに。
    「独特の味と匂いですから好き嫌いはあるでしょうが、慣れれば美味しいですし、発酵食品ですからとっても体にいいんですよ?」
     ニッコリと愛想良く微笑んで。
    「結構な高級品ですし、皆さんもどうぞ遠慮なく」
     鮒寿司を灼滅者たちにぐいぐい勧めるのだった。


    参加者
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    成瀬・透夜(深更のオリゾン・d14113)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    鈴木・咲良(モモンガじゃないフェレットだ・d25318)
    闇薙・ナナ(夜叉を受け継ぐモノ・d25640)
    レイヴン・リー(寸打・d26564)
    クロード・ナシカ(薄幸な演奏の魔術師・d27809)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)

    ■リプレイ

    ●慈眼衆とペナント怪人と
    『どけどけどけぇ、刃向かう者は容赦しないぞ!』
     一般人たちが店の奥へと追い立てられる様を、灼滅者たちは店の外、通りを挟んだ向かい側のコンビニの駐車場から、心を痛めて見守っていた。
    「うーん……やっぱりあんな乱暴なダークネスと一緒に戦うってなんか微妙な気持ち」
     尾っぽの毛を逆立てながら、鈴木・咲良(モモンガじゃないフェレットだ・d25318)が唸った。が、慌てて仲間たちの顔を見上げて。
    「あ、今更反対ってわけじゃないからね? もうみんなで決めたことだし。決めた約束、破ったりはしないよ」
    「まあ確かに、天海の腹はどうも読めねーからスッキリはしねーけど」
     レイヴン・リー(寸打・d26564)が腕組みして。
    「やっぱ堂々と世界征服を目標にしてる連中とは上手くやれる気がしねえしさ」
     僕、鮒寿司は好きだからー、と饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)は愛嬌のある丸顔を緩め。
    「その銘店を壊させるわけにはいかないって思うんだよ!」
     味覚が大人だ。
     クロード・ナシカ(薄幸な演奏の魔術師・d27809)が頷いて、
    「巻き込まれるお店は災難だよね。天海の腹の底が読めない以上危険ではあるけど、僕としては、ここはあえて乗ってみるのも面白いかなって……あっ」
     カシャン。
     灼滅者たちはびくりと肩を震わせた。陳列棚のガラスが槍で突き割られたのだ。
     気の毒そうに店を覗き込みながら、成瀬・透夜(深更のオリゾン・d14113)が。
    「これ以上お店を破壊されないためにも、突入したらまず、慈眼衆へ加勢する旨を告げましょうね」
    「そうですね。彼らにも、色々とツッコミたい部分はありますが……まぁ、厄介事はさっさと片付けてしまいますか……それと、私見ですけど」
     闇薙・ナナ(夜叉を受け継ぐモノ・d25640)が肩をすくめ。
    「先日接触した際の印象では、慈眼衆は、少なくとも琵琶湖を巡る戦いにケリがつくまでは信用が出来そうな感触はありましたよ」
    「うむ、三つ巴の戦いだからな……各方面悩ましいな。私だって、色々考え……」
     ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が、真顔で。
    「……なかったけどな。楽そうな方に味方すればいいのだ」
     どこまでが本気でどこからが冗談か不明で、仲間たちはカックンとなる……と、一瞬店から目を離したその隙に。
    『待て待て待て待て待つっぺな!』
     どこからともなく、なんかペラペラした2人組が出現して、鮒寿司店に押し入った。
    「(出たな、琵琶湖ペナント怪人!)」
     灼滅者たちは視線を交わし合うと、ぺなぺなの後を追って店へと突入した。

    ●表に出ろ!
    「待ちなさい!」
     店内にヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)の高い声が響く。
    「ここで戦うのは一般の方々の迷惑になるわ」
     大人びた物腰と口調とはいえ、可愛らしい少女の唐突な介入に、ダークネスたちは一瞬虚を突かれた形になった。
     レイヴンがつかつかと、断罪輪を構える慈眼衆たちに近づいて、
    「おう、助太刀するぜ。俺たちは武蔵坂のモンだ……って言えば分かるよな?」
     ニヤリと笑うと、
    「灼滅者……!」
     慈眼衆たちはピンときたのか、顔を見合わせた。その様子に、透夜は、
    「あなた方に加勢したいので、これ以上店を壊さないでもらいたいのです。外に出ましょう」
     すかさず下手に頼み、樹斉は奥の樽を指さして、
    「流れ弾があの樽に当たって中身ぶちまけたら大変だと思わないー?」
     なにげに脅す。
    「う、うむ、確かに大変だな」
     ナナが首を傾げて。
    「そもそも臭いを気にするなら、このお店を選ばなければいいのでは?」
     ツッコまれて慈眼衆たちは困った顔で(お面だけど)。
    「我々が自ら選んだわけではない。単に鮒寿司担当を命じられただけで」
     リーマンか。
    「あなた方の、一般人を傷つけない姿勢には礼を言うわ」
     ヴィントミューレが軽く頭を下げ、
    「でも、お店を壊すこともして欲しくないの。外で戦うなら味方するわ」
    「……ちょ、ちょっと待て」
     慈眼衆たちは灼滅者たちに背を向けると、ぼそぼそと話し合いはじめた。
     もちろん一方の琵琶湖ペナント怪人たちも黙ってその様子を見ていたわけではない。
    「何だっぺな、お前たちはいきなり!」
    「近江坂本の味方をするなら、お前たちもやっちまうっぺな!」
     弓と投網を構えて灼滅者たちに迫ろうとする……と、そこに咲良が小さな身体で精一杯四つ足を伸ばして立ちはだかって。
    「店の中でケンカしないの! お店の人にもお客さんにも迷惑でしょ?」
     クロードも、
    「そうだよ、鮒寿司店を守る為にきたのにここで戦っていいの? 戦いで壊れたら、本末転倒だと思うけどな?」
     咲良が肉球で店外をビシっと指し、
    「ケンカときたら『表に出ろ!』でしょ?」
     言われてペナント怪人も顔を見合わせて。
    「うむ、敵ながら一理あるっぺな……ようし、表に出るっぺな!」
     話がまとまったらしい慈眼衆も。
    「おう、受けてたとうではないか!」
     と威勢良く答えた後で。
    「……外でやるんなら、助太刀してくれるんだな?」
     小声で灼滅者に確認し、一行はわいわいと外に出た……出ながら、咲良は店内にまき散らされた商品を指をくわえて振り返り、透夜は、鮒寿司臭にやられ店の入り口で鼻を押さえ尻尾を巻いてうずくまっていた霊犬のステラを、
    「頑張れ……ステラ、行こう」
     気の毒そうに促した。
     
    ●鮒寿司店前の戦い
     ダークネスたちは、駐車場で向き合うやいなや啖呵を切りはじめる。
    「琵琶湖の至宝を破壊しようとする悪人共、それに助太刀しようという奴らも許さんっぺな! まとめて葬ってくれるっぺな!!」
    「なにおう、ご当地パワーを独占して琵琶湖を支配しようとしている近江八幡こそ、天下の大悪人であろう!」
     少なくともどっちも正義の味方ではない。
     灼滅者たちは素早く人払いのESPをかけ、SCを解除し、すっかり前のめりになっている慈眼衆の脇を固める形で配置についた……と思ったら。
    「まとめて水揚げしてやるっぺな!」
     いきなり、ぶわっとペナント怪人の投網が前衛の頭上に広がった。
    「うわっ」
     2枚の投網が生き物のように前衛に絡みつく。灼滅者も慈眼衆も一緒くたに絡まってじたばた。しかし横っ飛びに転がってかろうじて網から逃れたナナが、体勢を立て直すやいなや、
    「最低限の配慮に対しては、最低限のお返しをしないといけませんよね?」
     剣呑な表情で呟くと、異形化した赤い腕で手近にいた方の怪人を殴り飛ばす。すかさず同じ敵にクロードが指輪を向け、咲良が炎を噴くエアシューズで突っ込んで行く。
     その間に狐人型になった樹斉がステラに手伝わせて、せっせと網に絡まれた仲間と慈眼衆を救出し、癒やしの歌で回復を施す。
    「むむ、かたじけない。不意打ちをくらってしまった……いくぞ、ツイン九眼天呪法!」
     網がほどけると、慈眼衆たちは悔しそうに起き上がり、シャキーンと断罪輪をお揃いのポーズで掲げ。
    「「臨兵闘者皆陣列在前!」」
    「ぐあっ!?」
     ペナント怪人の胸あたりが揃って爆発し、尻餅をつく。
    「今だ!」
     体勢の崩れた敵、しかも先の攻撃でダメージを多く受けている方に、灼滅者たちは一斉にとびかかる。透夜は聖剣を振るって肩口に切りつけ、
    「ラオシー、霊撃!」
     レイヴンはビハインドに攻撃を命じながら、自らも鋼鉄のような拳を腹に叩き込む。
     ルフィアは、
    「ふ、今回の私は鮒寿司を食べると『ふなずっしー』というご当地ヒーローになる……という設定にした!」
     と、宣言すると、いつの間に調達したのか鮒寿司を口に放り込み、
    「くらえ、ご当地手術!」
     と、ペナントを切り裂いた。殲術執刀法らしい。
    「ぎゃあ、顔が、顔がぁ~!」
    「むむっ、相方が危ないっぺな!」
     集中攻撃を受ける相方を、もう一方の怪人が庇おうとした時。
    「琵琶湖って……大きいってこと以外、他になんかあるんですかね……せいっ」
     そっと接近していたナナが、ボソリと琵琶湖をディスってついでにぶんなぐる。
    「いてっ、何を言うっぺな! 琵琶湖はなぁ!」
     怪人は殴られた上にディスられて逆上し、仲間を庇うのを忘れてナナに掴みかかろうとする……が、そこに。
    「わっ!?」
    「その行動、予測できたわ」
     慎重に狙いを定めていたヴィントミューレのバスタービームが的確に撃ち込まれた。
     もちろん、その間にもう1体の怪人はよってたかってぼこぼこにされている。
    「凍える寒さのつらら攻撃……!」
     クロードが槍の穂先から妖気のつららを撃ち込み、咲良は、
    「えいえいえいえい!」
     小さな拳に雷を宿してぽこぽこ。
    「お前たち、噂のとおり中々やるな!」
    「我らも負けてはおれぬ! 見よ、時間差神薙刃!」
     慈眼衆たちも張り切って風の刃を時間差で飛ばした。
    「うぎゃあああ!」
     大量の刃に切り裂かれた怪人は反撃する暇も与えられず倒れ。
    「相方よ、すまんっぺな……」
     どっかああん。
     派手に爆散した。
    「くっ、くそうっぺな! よくも!!」
     残った1体は怒りつつぎりりと弓を引き絞り、
    「このまま引き下がってたまるかっぺな!」
     ギュイン!
     放たれた矢はメディックの樹斉目がけて飛んでいく……と、
    「ラオシー、樹斉を!」
     レイヴンが再びビハインドを呼び、ラオシーは樹斉の前に素早く入り、代わって矢を受けた。
    「(ありがとう!)」
     狐人姿の樹斉は言葉を発しないが、ぺこりと頭を下げて感謝の意を表し、ステラが素早くラオシーに回復を施す。
     回復役を狙うもくろみが外れた怪人だが、舌打ちする間もなく、慈眼衆たちが氷弾を撃ち込み、
    「一番小さな子を狙うとは……!」
     透夜とレイヴンの影が掴みかかり、ルフィアが、
    「弱い者いじめするヤツには、ご当地パンチだ!」
     と鬼神変をくらわせ、
    「悪い子にはお仕置きをしないといけませんよね?」
     ナナが黒影をビシリと打ちつけて魔力を流し込んだ。
    「だ、誰が悪い子だっぺな、そっちこそよってたかって……ぐあっ」
     ペナント怪人に文句を言わせる間も与えず、
    「隙有り!」
     フェンスを利用して高く跳び上がったクロードが、エアシューズで流星のような跳び蹴りを決め、咲良が、
    「ガンガン行くよー!」
     斬艦刀を全身で抱え込んで突っ込んでいき、樹斉もお返しとばかりに鋭い鋼の糸を伸ばす。更に、
    「貴方たちのご当地愛がどれほどのものか、私が裁いてあげる。受けなさい、これが貴方たちへの洗礼の光よっ」
     ヴィントミューレの放った裁きの光が頭部を直撃!
    「ぎゃあ、穴が空いたっぺな!」
     ペナントに穴が空いてわたわたする怪人を見ながらヴィントミューレはボソリと。
    「……もっとも、裁く以前の問題だわね」
     しかしボロボロになりながらも怪人は、
    「こ、このままでは大僧正様に申し訳がたたんっぺな……」
     キッ、と穴の空いた顔を上げ。
    「くらえ、竹生島キーック!」
     畳みかけるべく踏み込んできていた慈眼衆に向けてジャーンプ!
    「そんなへろへろキック何ほどのものでもないわ!」
     慈眼衆は弱った怪人のキックを、輝く断罪輪で受け止めると、その背後から相方が飛び出し、思い切り槍を捻り込んだ。
    「所詮、多勢に無勢よ!」
    「うがああああ!」
     その槍は怪人を串刺しにし、地面に縫い止めて。
    「トドメをさせ」
     慈眼衆は灼滅者を促す。
     断末魔の苦しみにもがく怪人へと、意を決したように透夜が近づき、光と化した聖剣を一気に突き刺す!
    「も、申し訳ありません、安土城怪人様あぁぁぁ……!」
     どっかあああん!

    ●交渉と質問
    「お前たちのおかげで楽勝だったわ。礼を言う」
     慈眼衆たちはカラカラと笑うと、
    「じゃ、わしらは任務の続きを」
    「わあ、待ってくださいよ」
     店へと戻ろうとし、透夜が慌てて引き留める。
    「協力したんですから、お店はこれ以上壊さないでください」
    「そーだよ、俺らにとっては店の破壊も、立派に一般人の被害なんだ」
     レイヴンももう1人の衣をしっかと握りしめる。
    「敵の戦力を削ぐこともできたし、俺らに免じて今回は思いとどまっちゃくれねえか?」
     慈眼衆は顔を見合わせると、また2人でぼそぼそと相談し。
    「相分かった。今日のところは破壊活動は中止しよう」
    「今日とか言わないで、今後この近辺では行わないことにして欲しいもんだな」
     ルフィアが言うと、慈眼衆たちは困った顔で。
    「それはわしらの一存では決められぬな……」
     クロードが仕方なさそうに頷いて。
    「こちらだって今だに判断がつきかねている者が多いわけだからな。共闘が学園の総意ではないのだし」
     慈眼衆の1人がポンと手を叩き。
    「ああ、それとも何か、破壊活動を止めたら、おぬしら、これからも共闘してくれるのか? それなら」
     レイヴンが慌てて首を振り。
    「いやそれは俺らも一存では決められねーよ。ただ、あんたらがみだりに一般人を傷つけるヤツらじゃないってことは、みんなに伝えるぜ」
    「そうか……」
     咲良がするするとステラの背中に上って、
    「どこかでお話する機会を作った方がいいと思うのよ」
     言うと、ナナが頷いて。
    「そうですね、今後についての会談を行いたいと、天海大僧正に伝えてもらえますか? その方がお互い動きやすくなりますしね」
     ヴィントミューレも簡単に自己紹介してから、
    「日を改めて、ということね。宜しく伝えてちょうだい」
     わかった伝えよう、と慈眼衆は了承した。
    「ねえねえ、折角の機会だから、質問してもいい?」
     人型に戻った樹斉が、
    「末端のペナント怪人をいちいち叩くよりもさ、一気に資金源断つとかした方がいいんじゃないの? 安土城って、もしかして朱雀門あたりと通じてたりするんじゃ?」
    「さあ、どうかのう」
     慈眼衆は首を捻り。
    「我々のような下っ端ではそこまではわからぬな」
     レイヴンも、あ、俺も、と顔を上げ、
    「安土城怪人って、スキュラ派としてか、それともグローバルジャスティス配下として活動してんのか、どっちだと思う?」
    「敵のことだし、それもわしらにはわからぬ」
    「まあなぁ、自分自身の野望のためってだけかもしれないしなあ」
    「そういえば」
     ルフィアが遠い目をして。
    「つかぬことを聞くが、外国人羅刹っているのか?」
    「我々は巡り会ったことはないな」
    「そうか……いるならぜひ話してみたいのだが」
     質問が尽きたところで、慈眼衆たちは。
    「では、わしらは帰る。お主らの要望は大僧正様に伝えよう」
     ヴィントミューレが嘴の面を見上げて、
    「時がきたら、また会いましょう」
    「では、さらば」
     慈眼衆は、頷くと風のように走り去った。
    「……さて、帰る前に鮒寿司代を置いてくる」
     ルフィアがメモと財布を取り出し、店内に入っていく。戦闘中に食べてたのは、やはりここの店のだったらしい……と思ったら、すぐに飛びだしてきて。
    「おいっ、慈眼衆はどこだ!?」
    「今帰ったでしょう?」
     ルフィアは表の道路に飛び出すと、拳を振り上げ。
    「壊した棚の修理代、置いていけよーッ!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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