●秋田のとある公園で
とある週末。
「これこれ。この水旨いんだよなー」
竹筒からあふれ出す湧水を、ひとりが掌に受けた。
「つめてー! 水が豊富なキャンプ場っていいよな!」
秋田市郊外の某公園。この公園にはキャンプサイトがあり、しかも名水が湧き出ているので、キャンプやBBQに大人気である。
その湧水に水くみに来ている若い男たちは、地元大学のアウトドアサークルのメンバー5名。夏合宿の予行練習という名目だが、ハイシーズン前の空いたキャンプ場で仲間と思う存分騒ぎたいというのが本音。
「今日も蒸し暑いから、冷たい水はありがたいな。まずは一口」
男性は掌に受けた水をごくりと……。
「ぶはっ!?」
飲んだと思ったら、思いっきり噴き出し、そして激しく噎せた。
「ど、どうしたよ!?」
「こ、これ水じゃねえよ……酒?」
「何!?」
仲間たちはおそるおそる湧水を舐めた。
「あっ、ホントだっ」
「きっつっ」
「日本酒じゃねえな、なんかスピリッツ系?」
「うん、何だこりゃ?」
首を傾げつつ、大学生たちはコップやペットボトルを取り出して……。
……数十分後。
「はーっはっはっはっ、上手くいったべ!」
作務衣姿で赤ら顔の大男が、高笑いと共にどこからともなく現れ、草の上にだらしなく寝転がる大学生たちを見下ろした。
結局湧き出る酒を散々飲んでしまった大学生たちは、すっかりべろんべろんで人事不省状態である。
「どんだ、本場のウォッカは! 旨いだべ!!」
よく見れば、男は頭にウォッカらしき酒瓶を被っている。
「さあ、次の湧水をウォッカ化しに行ぐぞ。んでもって夏までに秋田の湧水のずぇんぶとこ、ウォッカにするべー!」
●武蔵坂学園
春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、神経質そうに手鏡を机の上でパタパタしながら語り出した。
「秋田は昔から名水の多く湧き出る土地でして」
豊かな水資源に支えられたからこそ、米作はもとより、酒や味噌、醤油の醸造が盛んになったのであろう。
「香艶先輩が聞きつけたウォッカ化怪人が、まさか僕の地元、秋田に……」
地元というだけではなく、典の実家も醸造業なのだ。
「故郷の危機、心配だろう」
安土・香艶(メルカバ・d06302)は腕組みして頷いた。
「俺たちが必ず解決してやるから、しっかり予測してくれよな」
黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)にも心配そうに肩に手を置かれ、典は気を取り直して目を上げた。
ご当地怪人幹部・ロシアンタイガーが日露姉妹都市を転々と移動し、地元ご当地怪人と名物のロシア化を図っているのは既知の通りだ。どうやらロシアンタイガーは、名物のロシア化により、ご当地パワーを搾取しようとしているらしい。
ちなみに秋田市は、極東のウラジオストク市と提携している。
「秋田市内中の湧水をウォッカ化しようとしているのは、名水・一郎というご当地怪人です」
元々は衰退しつつある秋田の湧水を守るべく誕生した怪人だったのだが、ロシアンパワーで方針転換してしまった。
「彼はまず、予知にあった公園の湧水をウォッカ化します」
大学生たちは、実験台のようなものだろうか。
「香艶先輩たちは、大学生たちがやってくるあたりから湧水の近くに隠れ、一郎の出現を待ってください」
香艶が眉を顰め。
「大学生にウォッカ飲ませておいていいのかよ?」
「一郎に接触するためには、やむを得ないでしょう。一郎と接触後に、何とか避難させてください」
湖太郎が頷いて。
「わかったわ、アタシ避難のお手伝いをするわね」
「酔っ払いの世話は大変でしょうが、お願いします」
典が頭を下げてから、香艶に視線を戻し。
「湧水は公園の外れにあり、ハイシーズン前ですから、それほど人はやってこないでしょうが、戦闘に入る前に一応人払いはした方がいいでしょう」
「わかった」
「衰退しつつあるとは言っても、秋田にはまだ10カ所以上も名水と言われる湧水があり、生活用水として、醸造用水として使われています。もし、それが全てウォッカ化されてしまうようなことになったら」
典は身震いして。
「ロシアンタイガーが力を蓄えるのも恐ろしいですが……お願いします。どうか秋田の水を救って下さい!」
参加者 | |
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十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576) |
小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156) |
霧凪・玖韻(刻異・d05318) |
安土・香艶(メルカバ・d06302) |
三園・小次郎(かきつばた・d08390) |
本田・優太朗(歩く人・d11395) |
ミカ・ルポネン(水平線を目指して・d14951) |
天城・翡桜(碧色奇術・d15645) |
●ウォッカの湧く泉
涼しげに迸る清らかな水……と見えて、そうではない。先ほどからそれをぐびぐび飲んでいる大学生たちは、顔を赤くし、だらしない姿勢で座ったり寝転んだりしつつ、下品な笑い声を立ててやたら楽しそう。
「あの湧水って全部ウォッカなんでしょ?……うぇ、匂いだけでもう酔っちゃいそう」
藪の陰で、十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)は、うっぷ。と口に手を当てた。
「ウォッカ自体は無臭らしいぞ。臭気を放つのは人が飲んでからだ」
クールに答えたのは霧凪・玖韻(刻異・d05318)。玖韻は大学生の様子を見守りながら、
「ご当地怪人はどうにも色物感が拭えないが、こいつの場合、パワーの制限は不明だが『水をアルコールに変換する』能力だとすれば、狙う場所によっては都市機能くらい簡単に破壊できる。単独で実用的なテロを仕掛けられるということか……?」
考察を巡らす。
確かに、使い方によっては恐ろしい能力だが、おそらくまだそれほど大量にウォッカ変換できる程のパワーはないので、小さな湧水から試験的にやってみている段階なのだろう。多分。きっと。
大学生のひとりが、もう限界、というように草の上に大の字になった。
『うっぷー、ギブ。寝てい~い~?』
『なんだよ、だらしねぇな』
『まだ明るいぞ?』
囃す友人たちもヨロヨロである。
その光景を見て、
「うーん……酒って飲み過ぎるとあんな風になるんだな。俺はあんな大学生にはなるまい……」
三園・小次郎(かきつばた・d08390)がしみじみ呟き、全くです、と頷いた本田・優太朗(歩く人・d11395)は幾分青ざめた硬い表情で、
「よりにもよって、アルコールのご当地怪人に出くわすなんて……ええ、でもこれってきっとトラウマを払拭するチャンスですよね」
一生懸命自分に言い聞かせているカンジ。彼は師匠からアルコール絡みのトラウマを植え付けられ、以来、鳥肌が立つくらいの酒恐怖症なのだ。
ミカ・ルポネン(水平線を目指して・d14951)は優太朗を気の毒そうに見て。
「うちの父さん母さんなら大喜びしそうな湧水だけどね。ボクも二十歳になったらお酒飲みたいとは思ってるけど、あれほどまでは飲まないように気を付けようって思うね」
足下に大人しく伏せている霊犬のルミを撫で。
「酒臭いのには慣れてるけど、臭いがついたら未成年が飲酒したと思われないか心配だな。ルミも舐めちゃ駄目だよ?」
ルミが、わかったわよ、というように尻尾を振った。
「私も、20歳になったらお酒飲んでみたいとは思ってますが」
大学生になった天城・翡桜(碧色奇術・d15645)。もうすぐ大人であるから、お酒への憧れはある。
「でも、ウォッカは強いっ、ていうイメージですし、ご当地怪人のこんなやり方は許せません」
「ですよね……酔っ払いはホンットに迷惑なんですよ」
優太朗は私怨を含んだジト目で乱れる大学生たちを睨む。
一方、酔っ払いの観察にも飽きて、小次郎の霊犬・きしめんと戯れているのは、安土・香艶(メルカバ・d06302)と小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)。
「きしめん、ジャーキー食うか?」
おやつをもらったり、わしゃわしゃされたり、きしめんは嬉しそうに尻尾を振りハフハフしているが、そこは灼滅者の愛犬、もちろんはしゃいで吠えたりはしない。人間の方も、声を潜め極力音を立てないようにもふもふらぶらぶ。
そうしている間にも、大学生たちはひとり、またひとりと寝息を立て始めて……いよいよ全滅してしまった。
「水の代わりに酒が湧いていたら、飲む以前に警戒するのが当然だろうに……コイツらの危機意識が心配だ」
玖韻の呟きに仲間たちは同意しつつも、草の上にだらしなく寝入っている大学生たちの観察を続ける。昏倒とまではいっていないようだが、爆睡の域には達しているだろう。いびきがウルサイ。本来なら、速やかに涼しい木陰などに移動し、水を飲ませるなどの処置を取った方がいいのだろうが……。
……と、そこに、忽然と。
「はーっはっはっはっ、上手くいったべ!」
高笑いと共に作務衣姿で赤ら顔、ウオッカの瓶を被った大男が、出現した。
●名水一郎出現
「(出たな!)」
灼滅者たちは頷き合うと、一斉に潜んでいた藪から飛びだした。反対側の東屋の陰からも、サポート隊が現れる。
戦場に飛び出しながら、香艶が殺界形成を、優雨は大学生を背に庇いながらサウンドシャッターをかけて人払いをし、狭霧はシールドを展開して防御を高める。
「ウォッカ怪人……いや、名水一郎。生態系の保全的観点からも湧水ウォッカ化なんてさせないよ!」
ミカが大きな注射器を敵に向けながら啖呵を切り、
「お前は馬鹿かーっ!? もし未成年が飲んだらあほの子ばっかになって世の中大変なことになるじゃねぇか!!」
香艶がげんこつ&説教を喰らわせ、続けて玖韻が聖剣で斬りつけようと……。
ガシッ!
「むっ」
しかしその剣は、これまたどこからともなく湧いた、ライフル型の大きな水鉄砲に阻まれた。予想外の敵出現に、一瞬、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしていた怪人だが、素早く我に返ってしまったようで、玖韻の剣をぎりぎりと受け止めながら、灼滅者たちを睨み付け。
「おめ達、何者だが知らんが、おれの壮大な野望どご邪魔すんのは、許さねぞ!!」
その間に、サポート隊と優太朗と小次郎、翡桜は大学生の避難をはじめていた。
「うわあ、すげェ酒臭い……」
小次郎が大学生の1人を顔をしかめて抱き起こしていると、優太朗がやってきて、
「こういうのは適当にあしらっとけばいいんです」
嫌そうに、けれど手慣れた様子で怪力無双で抱え上げる。
そこにガラガラと、
「キャンプ場の備品借りてきたよ!」
犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)がビハインドのこまと共にリアカーを引っ張ってきた。
「美紗緒さん、グッジョブです!」
クラブの先輩の優雨が振り向いて褒め称え、サポート隊と避難係はせっせとリアカーにされるがままの大学生を積み上げた。
「さ、離れたところまで運びましょう」
優太朗がリアカーのバーに手をかけるが、
「ここからは僕たちに任せて」
上崎・湊(武蔵坂学園高等部二年・d28465)がその手を押しとどめる。
「おう、コイツらのことは俺達に任せて、水遊び楽しんでこいや」
一・葉(デッドロック・d02409)が親友の小次郎にぐっと親指を上げてみせる。
「そっか? んじゃ、ありがたく。後は頼むな」
小次郎が応え、
「ではお言葉に甘えて」
翡桜もぺこりと頭を下げ、メインの3人は戦列へと加わっていく。
「安土さん、頑張ってください……っ!」
去り際の杉下・彰(祈星・d00361)の激励に、香艶はちらりと振り向いて頷いた。
「(応援の心は置いてゆくのです……)」
「さあ、行こう」
「せえのっ」
サポート隊7名はリアカーを息合わせて動かしだし、メイン8名の耳には、ガラガラと遠ざかっていく音が聞こえてきた……が。
「うわ、待て吐くならこのポリ袋に……うあぁ!」
「わわわ、今魂鎮めの風を!」
遠ざかりつつ、そんなサポート隊の悲鳴も聞こえてきたりして……。
●ウォッカバトル
一般人が遠ざかり、後顧の憂いが無くなった灼滅者たちは、改めて体勢を固め、一郎を取り囲む。
まず、小次郎が後方から縛霊手を掲げて結界を張る。
「名水を守る怪人がお酒を湧かせる怪人になってしまうなんて……怪人を哀れむべきなのか、ロシアンタイガーを恨めばいいのか……」
優太朗がサイキックの光を放つ剣を構え、じりじりと怪人に迫り、
「どっちみち、灼滅させていただきますがね!」
向けられた水鉄砲の銃口をかいくぐって、脇腹に斬りつけた。
「うがっ、なんがするだッ……ロシアン水鉄砲の威力を思い知らせでやんぞ! くらえ、ロシアンサージ!」」
同時に怪人が引き金を引く。透明な液体が迸り、優太朗にぶちまけられるはずだったそれは、前衛にドバシャアっと。
「うわあっ!?」
強烈な水圧に前衛は尻餅をつく……と、それだけではなく。
「うわあん、これってウォッカ!? ひどいっす!」
狭霧が悲鳴を上げた。水鉄砲から発射されたのは、ウォッカだった。
「おい、未成年に何てモンを! ぺっぺっ」
香艶は慌てて口に入った酒を吐き出し、
「うむ、可能性はあると思っていたが……」
玖韻は冷静に濡れた髪をかき上げる。
「あ、そっか、おめたち未成年か。そりゃ悪……うぎゃっ」
怪人は少しばかり恐縮したようで、一旦銃を下げた。その隙に、
「あり得るかもとは予想してましたけど……非常識ですよ、未成年に!」
怒った優雨が槍から氷弾を撃ち込み、
「ルミ、舐めちゃだめだってば!」
ミカは濡れた毛を舐めようとしている愛犬を注意しながら斬艦刀で斬り込んだ。
中後衛のフォローの間に、翡桜と小次郎、きしめんは急いで前衛に回復を施す。
「唯織さん、大丈夫ですか?」
翡桜は癒やしの風を吹かせながら、何となく酔っ払ってくったりした風情のビハインドを気遣う。
素早い回復で前衛はすぐに立ち直ったが、濡れた服や髪からアルコールが蒸発していく気持ち悪いカンジは否めない。狭霧はぷうっと頬を膨らませると、
「許さないっす!」
聖剣に緋色のオーラを載せて斬りかかり、玖韻は『Logical-Intuition』でまっしぐらに腹部を突き刺す。
「そもそもおのれは、チェイサーとしての水の大切さがわかっていなーいッ!」
香艶は雷を拳に宿して殴りかかった……が、それは怪人のでっかい掌に受け止められてしまった。接触部分がバチバチと火花を散らす。
「うむ、未成年に酒をぶっかけてしまったのは悪かっただ。良くねえよな」
一郎は真顔で言うと香艶を押し返し、水鉄砲の何かのレバーをジャキリと切り替えた。
「こんだばいいべ!」
水鉄砲から迸ったのは、猛烈な青い炎。
「うわああっ!?」
「フレイミングモードだべ!」
一方、大学生避難担当のサポート隊は、小さな丘をひとつ越えた木陰にリアカーを止めていた。酔っ払いを芝生に寝かせ、持参の濡れタオルで頭を冷やしてやったり、意識を取り戻した者には水を飲ませたりと、かいがいしく世話をしている。
葉が顔を上げ、
「おい、黒鳥……じゃねえ、オディール、だっけ? ここは人手が足りてるから、香艶たちのとこ行ったって」
「アラ、ありがとう、そうさせてもらうわね」
湖太郎がスカートについた葉屑を払ってすっくと身を起こす。
「あ、俺も回復の手伝いに行くわ」
エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)もSCを解除して立ち上がった。
「じゃ、介抱よろしくね……エル先輩、行きましょ」
エルメンガルトと湖太郎は丘を駆け上がった。頂上に達し、見えて来た戦場では……。
「ああっ!?」
「まあ、大変!!」
前衛が青く火だるまになっていた。
「うわああっ!?」
「フレイミングモードだべ! これなら未成年でも構わねべ?」
要するにウォッカに点火しつつ噴射しているだけのことで、ダメージは液体時と変わらないわけだが、気化しつつあるアルコールのせいで炎の勢いはいや増してしまう。
そこに、
「吹っ飛ばしてやるよ!」
エルメンガルトが吹かせた一陣の爽やかな癒やしの風が炎を吹き飛ばし、
「ロックにしてやるわ!」
湖太郎が放った氷魔法が、ビシリと一郎を固まらせた。
「今です!」
氷はすぐに振り飛ばされたが、その隙を逃す灼滅者たちではない。優雨が日本刀を大きく振り回しながら突っ込んでいって敵をひきつけ、ミカは背後に回ると注射器をぶっ刺して毒を注ぎ込む。
「ロシアンタイガーを少しでも追い詰めるために! そして酔っ払い撲滅のために……たああぁっ!」
優太朗は高く跳ぶと、積み重った酔っ払いへの恨みを込めて一郎の頭の酒瓶を拳で連打してヒビを入れた。
その間にメディックは前衛に回復を施した。玖韻はむっくり起き上がると、
「クリーニングしておいた方が良さそうだ」
と、ESPクリーニングで自らのアルコールがしみこみ、焦げた服を綺麗にした。
「そっすね、アルコールは燃えるからなぁ」
小次郎もダメージの大きい香艶をクリーニングしてやる。
「サンキュ……ところで」
香艶はエルメンガルトを振り返って。
「エル、大学生の方は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。介抱したら目ェ覚ましそうだよ。ま、しばらく頭痛や吐き気には悩まされるだろーけど、そりゃ自業自得だもんな」
前衛は安堵して、体勢を立て直す。
見れば、
「こんの野郎っ!」
一郎が群がる中後衛を水鉄砲で振り払い、苦し紛れのように放ったキックが、
「……うっ」
優雨のみぞおちにズバっと入ってしまった。腹を押さえて倒れ込む優雨に、
「ルミ、優雨さんのカバー!」
「きしめん、回復!」
主人の命令で2頭の霊犬が素早く対応し、灼滅者たちは怪人を囲み直す。
「キックのお返しっす!!」
狭霧が火を噴く『遊星』で跳び蹴りを決め、玖韻の紫の炎のような影が喰らいつく。優太朗は作務衣をザクザクと切り裂き、ミカは一郎のお尻に思いっきり注射器を突き刺した。
「いってーっ!? おれ、注射嫌いだにッ。96度スピリッツビームを見せてやんべ!」
振り返った一郎は、銃口をミカに向ける……が。
「見切ったよ!」
狭霧が飛び込んで、ミカを押し倒すように庇った。透明な光線が狭霧の背中に突き刺さる。
ちなみに96度というトンデモナイのは、ポーランドのウォッカである。
「よくも……ッ」
その倒れ込んだ2人を跳び越えて、香艶が。
「おのれは技名がいちいちうるさいんだッ!」
エアシューズを燃え立たせながら、正面からやくざキックをぶちかました。
「うげっ」
キックが顎に決まり、一郎の巨体が仰向けにひっくり返る。
「唯織さん、狭霧さんのカバーに入って!」
銃口が、倒れこんでいる2人から離れた瞬間、翡桜がビハインドにカバーを命じ、自らは癒やしの符を飛ばした。
「よし、チャンスだぞ。一気にいこう」
玖韻があくまで平常運転で仲間たちに呼びかけると『禍憑』を思いっきり振りかぶった。刃は水鉄砲目がけて振り下ろされ、銃身はプラスチックに見えるのに、ガキリと金属質な音を立てて食いこんだ。
ガシャン!
間髪入れず、優雨の氷弾が頭の酒瓶を砕き、ミカは、
「えーいっ!」
斬艦刀をざっくりと利き腕の肩口に食いこませる。優太朗は、サイキックソードでモロに一郎の頸を狙った……が。
「うわっ」
避けられて、首筋をかすっただけ。しかし勢いよく血が飛んだ。サーヴァントたちも怪人の周囲を巡るように攻撃を加えている。
一郎は、やっとのことで、波状攻撃を振り払って立ち上がった。よろめく足を水鉄砲で支えようとするが、利き腕も傷を追っているので巨体を支えきれず、結局また膝をついてしまう。
「く……くそう」
悔しげに唸る一郎を、回復なった狭霧が鋭い視線で見下ろして。
「湧水をウォッカに、なーんて、考えただけで頭痛くなっちゃうんスよね……生活に必要な水を酒に変えるなんて、ダメ、ゼッタイ。という訳で……悪者め、覚悟ッ!」
再びオーラを『星葬』に載せて、袈裟懸けに。畳みかけようと、後方から翡桜が飛びだしてきて『Southern cross』を振るい、小次郎が作務衣の襟首を捕まえてぶん投げる。メディックの2人もここが勝負処とみて、攻撃に転じたのだ。
「ううう……こんなところでやられては、ロシアンタイガー様に申し訳がたたねぇべ……」
よろよろと立ち上がった怪人は死にものぐるいで、踏み込んできていた香艶の襟首を捕まえようと手を伸ばす。が、香艶は、滑らかに一郎の手を内側に弾いて躱し、逆に腕と襟を取り。
「名水を守るが聞いて呆れる。ウォッカで米が育つか!? 炊けるのかー!!??」
足も払って、どかーんと頭から地面に叩きつけ、そこに玖韻の聖剣がぶっすりと。
「ぐええ……ロシアンタイガー様とおれの壮大な野望が……」
怪人は瀕死のカエルのような声を上げると。
――さらさらと。
透明になりながらさらさらと溶け崩れて……湧水一郎は、秋田の大地に水となり還っていったのだった。
●水は水であるべきで
優雨がおそるおそる竹筒から迸る水を、掌に受けて舐めた。
「……戻ってます。とても美味しいお水です」
ほおっ、と灼滅者たちは肩の力を抜き、今度は我先にと湧水を飲み始める。何しろ暑い中で暴れた後である、冷たい水がことの他美味しい。
香艶は持参のペットボトルに水を汲み、
「そうだ、サポート隊と大学生たちにも持ってってやるか」
狭霧が心配そうに、
「あの人たち大丈夫っすかね? 救急車呼んだ方がいいっすか」
「どうかしら、そこまでじゃなかったと思うけど……」
湖太郎が首を傾げて答える。
「とりあえず見にいってみましょうか……まだ介抱の必要があるかもしれないですし、お水飲ませてあげたいですよ」
翡桜に促され、灼滅者たちは名水をたっぷり汲んで、仲間の元を目指すのであった。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年7月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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