横浜ヤンキー事件～冒涜の外国人墓地

■リプレイ

●横浜外国人墓地
「これもやられてましたか」
　興守・理利（明鏡の途・d23317）はロシア記念碑を残念そうに見上げた。ヤンキー戦闘員が闇討ちされた時点ではまだ細工されていなかったはずのそれにも、星条旗が巻き付けられ、
『アメリカは世界の警察である』
　という、超上から目線の文言が刻まれている。ラシュモア一味はめげずに墓地のアメリカナイズに励んでいたようだ。
「せめて旗だけでも外しておきましょう。オレンジさん、お願いします」
　上池・乙葉（両手に銃の花束を・d21658）に命じられ、ナノナノがぱたぱたと飛んでいき、高い位置で星条旗を結びつけている紐をほどいた。ばさりと落ちてきた旗を、乙葉とレイシー・アーベントロート（宵闇鴉・d05861）が受け止める。続いて少しでもアメリカンを薄めようと、千条・サイ（戦花火と京の空・d02467）が塔にロシア国旗を巻く。
「アメリカ人の墓や、アメリカ記念碑を調べてみようぜ」
　レイシーが星条旗を丸めながら、敢えて工作の施されていないアメリカ関係の墓石や碑の調査を提案する。
「そうだね、僕も調べたいお墓があるんだ」
　楯縫・梗花（流転の帰嚮・d02901）も同意し、一行は古いアメリカ人の墓がある区画に向かう……と、その道中、梗花の携帯にメールの着信が。港の見える丘公園チームの向日葵（d01061）からだ。
『ファニーちゃんのだいかつやくで、ヤンキーといっしょに行くことに♪　ヤンキー、敵の正体しらないから、あるきまわって、おとり？』
　どうやら丘公園チームはヤンキー戦闘員と行動を共にし、第三勢力をおびき寄せようとしているらしい。
「しっかしヤンキー共め、墓地で何やってんだか」
　遠野森・信彦（蒼狼・d18583）が歩きながら溜息をつく。
「もうすぐお盆だってのに、罰当たるっての」
「ホンマやで」
　ぶらり再発見で周囲の気配を探りながら、サイが同意する。
「どんな理由があるのか知らんけど、墓への冒涜はあかんよなぁ」
　灼滅者たちは一見熱心に墓地見学しているだけのようだが、もちろん警戒は怠っていない。特に御盾崎・力生（ホワイトイージス・d04166）と双葉・幸喜（正義の相撲系魔法少女・d18781）、理利とオレンジさんは警戒担当なので、仲間を囲むようにして周囲に目を配っている。
「見つけた、これだよ。この墓地でもっとも古い墓のひとつなんだ」
　梗花が目当ての墓を仲間たちに示した。大変古いが、よく手入れされている。
　レイシーが素早く写真を撮り、乙葉が一生懸命に墓碑銘を読む。
「ロバート・ウィリアムズ……さん？」
「歴史の授業で出てきたような気がするんだよね。確かペリー艦隊の水兵で、日本滞在中に労災で亡くなったんだ」
　マストから墜死したと言われている。ペリーはこの水兵の死をうけて、アメリカ人の埋葬地を幕府に要求し、それが横浜外国人墓地の始まりとなった。
「それでこの方は日本で葬られたのですね」
　幸喜の問いに梗花は真顔で頷いて。
「そういうこと。ペリー絡みってのが気になって……ペリーが実はアメリカン怪人だったとか、あり得そうで怖くない？」
　灼滅者たちはぎょっとして顔を見合わせる。歴史の節目には必ずダークネスの暗躍があったと言われているが……。
　信彦はしげしげと墓を眺めて。
「なんか秘密通路とかありそうじゃね？」
「うむ、確かに怪しい。俺たちが警戒しておくから、じっくり調べてくれ」
　力生が言い、警戒班は四方に散っていく。力生とオレンジさんは手近な木に上って遠方を警戒し、理利は墓のさらに先へと目を配る。幸喜はサウンドシャッターを発動すると、豊満な長身を墓石の陰に伏せ、後方の警戒に当たる。
　残った調査担当者たちは墓に手を合わせてから、
「さて……どう調べよ？」
　サイが周辺に戦闘痕や違和感などがないか慎重に見て回りながら尋ねる。大勢の足跡が認められる。
「あの、わたしやってみたいことがあるのですが。ここは昔からアメリカナイズされている土地ですし」
　乙葉が進み出て、思いっきり息を吸って。
「開国せよ！」
　合い言葉のように墓に向かって叫んだ。
　もちろん何事も起こらない……かのように見えたが。
　――ギリギリギリギリ……ゴトリ。
「！？」
　思わず灼滅者たちは日差しに焼けた墓に耳を押し当てた。一見何事もないようだが、地下の方から何らかの仕掛けの歯車が作動したような音がした。確かにした。
「この墓は絶対何かあるな」
「よっく調べてみようや」
　信彦とサイが墓をなで回し、梗花とレイシーは、
「怪しい墓を見つけたと、連携チームに連絡しておこう」
　掌を耳に当てた。梗花は港の見える丘チームの向日葵へ、レイシーはアメリカ山チームのリューネ(d14097)へ。
「こちら墓地のレイシー。ペリー関連の怪しい墓を調べてるぜ」
『そうか……もしかしたらそっち側とこっち側、２箇所に入り口があって繋がってるのかもな』
「あ、それこっちでも言ってるヤツいるぜ！」
　連携チームからの励ましも得て、灼滅者たちは更に張り切ってあちこち押したり引いたり撫でたり……しかし手応えナシ。
「うーん」
　とりあえず考えられることを片っ端からやってみるしかない。しばし墓石に様々なちょっかいを出し続けていると、梗花の携帯がブルルと震えた。
「丘チームからメール……えッ、第3勢力はデモノイドロード、3体と遭遇！？」
「3体！？　大変じゃないか、援軍に行かなくていいのか？」
「戦闘に入ったとは書いてない……」
「そっか、交渉できるかもしれんか」
「とりあえず次の連絡が来るまで、僕たちはこの墓を調べるしかないね」
　一瞬動揺した調査班であったが、主目的は情報収集である。気合いを入れ直してまた墓のあちこちをいじり倒す……と。
　ガコン、ギリギリギリ……。
「あっ、微妙に回転しましたね？」
「今誰がどうやったら動いた？」
「わからーん、皆で一斉に触っとったから……うん？」
　サイが腰に下げていた、チーム内連絡用無線機がガリガリと鳴り出した。
「はい、こちら調査班」
『ラシュモアヘッドが現れました！』
　前方の警戒に出ている理利からだった。
「何やて！？」
『ヤンキー戦闘員を5体連れてまっしぐらにそちらに向かっています！』

●ラシュモアヘッドと墓地の秘密
　ラシュモア一味が猛烈な勢いでウィリアムズの墓へと接近しているのは、樹上の力生からも見えていた。それに先んじて、理利が必死に墓の方へ戻ろうとしているのも。
「あの墓、センサーでもついてたのか？」
　そうとしか思えないくらい敵は一直線に迫ってくる。逃げ隠れしようもない。しかしこの緊急事態を裏返せば、あの墓にはやはり何か大事な秘密があるということだから、調査は続けさせたい。
「せめて足止めを」
　素早く無線連絡を入れる。それを受け理利は墓の手前で急ブレーキをかけて武器を出現させ、幸喜とオレンジさんも後方から急いでやってくる。仲間が集まり、いよいよ敵が迫ってきたタイミングで、力生はSCを解除すると、
「たあっ！」
　思い切りよくエアライドで木から飛び降りた。

　その間も、調査担当者たちは必死に墓を調べまくっていた。
「くそっ、もう少しっぽいんやけどな！」
「開けゴマ！」
　ヤケになって墓を揺すぶったりもしてみたが、力技ではビクともしない。

「ここは通さん！」
　着地した力生がガトリングガンをラシュモアヘッドに向かって突きつける。その後ろでは、
「どすこーい！」
　幸喜が四股を踏んで気合いを入れる。敵を睨みつけながら、彼女はアフリカンパンサーとの遭遇を思い出していた。
「（ご当地幹部と縁がありますね……）」
　5体のヤンキーを引き連れたラシュモアは、夏の陽光に凶暴に光る大鉈を灼滅者たちに突きつける。
「ユーたち、どうやってあの墓が秘密基地への隠し通路の入り口であることに気づいたのだ！？」
「えッ」
　やはり隠し通路が！？
「そういうことなら、尚更ここを通すわけにはいかぬ」
　ガチリと力生が『メギド』の安全装置を外し、理利はソードを構える。
　隠し通路を発見すれば、大ボスのアメリカンコンドルに肉薄できるかも……調査班が墓を暴くまで何とか足止めを！
　嵐のような弾丸と、光の刃がラシュモアとヤンキーたちめがけて発射された……が、
「レッツ、ディフェンス！」
　ヤンキーが一斉にボスを防御し、御大には殆どダメージを与えることができない。
「What an ass!　そこを通せ……くらえ、リンカーンが大鉈を振るって奴隷解放！」
　ヤンキーの壁の後ろでぶん、と巨大な鉈が振り回され、
「うわああっ！」
「ナノ～ッ」
　強烈な黒い波動が襲いかかり、前衛を薙ぎ倒した。

「突破された！」
　猫変身で警戒班の様子を見てきた信彦は、墓に戻って変身を解くなり説破詰まった表情で。
「敵はすぐにやってくるぞ。手強い」
「戦うしかないんやな？」
「ヤツらは必死でこの墓を守ろうとしている……案の定、隠し通路があるそうだぜ」
「やっぱり！」
　そう聞いては、灼滅者としてもここをみすみす明け渡すわけにはいかない。
「よし、受けて立つと決まったら、他チームに連絡を入れておこう」
　梗花とレイシーは手早く連絡を入れる。
「もしもしッこちら外国人墓地のレイシーだ。ラシュモアがヤンキー引き連れて迫ってきてる！　ちくしょう、まだ墓の調査が終わってないのに……とりあえずこっちは戦闘に入るぜ！」
『解った！』
　アメリカ山のリューネが応答する。
『何かあったら連絡しろよ。絶対だぜ！』
　そうしている間にも、イエーとかゴーゴーとかいうアメリカンな叫びが近づいてくる。
「行くぞ！」
　灼滅者たちは覚悟を決め、一斉に飛び出した。
「ラシュモア、なかなか強そうやないか」
　サイは楽しげに呟くと、小柄さを生かし墓石から墓石へと姿を隠しながら敵へ接近し、
「でもまずお前からや！」
　先頭を切って突っ込んできていたヤンキー戦闘員にするりと『逢魔時』のオーラを伸ばした。
「オー、ノー！」
　足を引っかけるように切られ転んだヤンキーに、
「僕が……かえらせてあげるから！」
　梗花が『こゝろ』壱式を叩きつけて魔力を流し込む。続けてレイシーが槍を捻り込むと、そのヤンキーは呻いて動かなくなった。
「とりあえず１体……」
　信彦が後続のヤンキー4体とラシュモアに向かって毒を仕込んだ手裏剣を大量に投げ、乙葉がガトリングガンを撃ちまくる。しかし、
「レッツ、ディフェンス！」
　ことごとくヤンキーたちが受けてしまい、ラシュモアにはわずかなダメージしか与えることができない。
「Shit！　まだこんなにいたのか！！」
　ラシュモアの4つの岩頭が、ぎろりと灼滅者たちを睨めつける。調査班5名が慌てて墓を背に庇うと、ラシュモアの大鉈が振り上げられ、
「何人いようが、その墓の秘密を知られたからには、ユーたち、生かしては帰さん！　ルーズベルトが大鉈を振るって反トラスト法！」
「……ぐっ」
　虚空から現れた無数の刃が前衛を襲い、皮膚が切り裂かれ血がしぶく……と、そこに。
「でやーっ！」
　追いついてきた警戒班の理利と力生が、ラシュモアの背後からそれぞれ足を斬りつけ、頭にビシリとロッドを叩きつけて引きつける。そして、
「回復します！」
　幸喜が四股を踏んで断罪輪をかかげ癒やしのオーラの陣を張り、オレンジさんはピッピッピッと三三七拍子で皆を応援しながらハートを飛ばしまくる。
「（全員揃った……！）」
　回復を受け、体勢を立て直した灼滅者たちは、改めて墓を守るように陣を敷き、ラシュモア一味と睨み合う。
「ところで貴方達、襲撃してきた者の正体に心あたりは？」
　理利が異形化させた拳を握りしめながらじりっと敵に接近する。
「ふん、ミーたちは強い分敵が多いからな」
　ラシュモアはぎらりと大鉈を光らせ、ヤンキーたちも油断なくガンナイフを構えている。
「それに心当たりがあったとしても、ユーたちに教える筋合いはなーい！　Serve you right!」
「俺はアメリカで暮らしたことがあるが……」
　力生が銃を構え、
「アメリカ人はそんな変な英語は使わないぞ！」
　撃ちまくるのを煙幕に、灼滅者たちは一斉に仕掛けていく。まずはヤンキーを先に片付けて、ボスを裸にする作戦だ。理利と梗花が鬼神変で抑え込み、信彦とレイシーはビシリと氷魔法を放つ。乙葉は弱った敵を狙い撃ちにし、サイは銃弾に紛れ死角に回り込むとオーラの刃でトドメを刺す。その間、
「喝！」
　幸喜は気合いの入ったツッパリで渇を入れ、前衛に闇の契約を施していく。
「ノーッ！　ミーのキュートな子分たちに何をする……ワシントンが大鉈を振るって独立戦争っ！」
「あっ！？」
　凶悪な刃が接近していた信彦目がけて振り下ろされた。が、
「させないよ！」
　梗花が咄嗟に身体を入れて庇う。
「梗花、すまねえっ！」
　信彦は背を切られ倒れた梗花を跳び越えると、赤い炎を迸らせたエアシューズで渾身の蹴り！
「ぎゃあっ！」
　弱っていたヤンキーが燃え上がり、立っているのは2体だけとなった。庇う手下が減り、ボスにも徐々に攻撃が届くようになる。
　傷ついた梗花にはオレンジさんが素早くカバーに入り、幸喜が、
「すぐ回復しますからね……カーッ！」
　力強く掌を突き出し渇を入れる。
「強敵だが……何としても食い下がってやる」
　レイシーが『宵鴉』を構え、氷弾を撃ち込むタイミングを計りつつ敵の周囲を回る。
　――その時。

「秘密基地への隠し通路が外国人墓地にあると聞き、探していたのだが、どうやらそこらしいな」

　野太い声が墓地に響き、突如巻き起こった風の刃が、残る2体のヤンキーのうち、1体を切り刻んだ。

●第３勢力
　声と刃の主は、ラシュモア一味の背後に忽然と現れた。逞しい半裸に数珠を巻き、錫杖を持った偉丈夫。その背中には不気味な呻きを上げる刺青。額には兜巾と――黒曜石の角。やはり角を生やし刺青を背負った手下を6体連れたその男は。
「ゆっ、ユーは、クラマテング！」
　振り向いたラシュモアが驚きの声を上げた。
「（鞍馬天狗！）」
　伝説の刺青羅刹の出現に、灼滅者たちはぐっと叫びを飲み込んだ。
「新潟ロシア村といい、何故、ミーたちを襲う！？」
　金切り声を上げるラシュモアに、鞍馬天狗はゆったりと近づきながら、
「烏天狗とは旧知ではあるが、私達はロシアンタイガーの持つ弱体化装置を追っている」
　錫杖がアメリカン怪人にびしりと突きつけられる。おそらく、烏天狗とはアメリカンコンドルの事なのだろう。
「お前達が逃亡中のロシアンタイガーに資金援助をしている事はわかっている。つまり、お前達を倒せば、あの虎は逃げ続ける事はできないというわけだ」
「Oh no！　そこまで知られていたとは……雑魚は後回しだ、クラマ一味をなんとしても追い返せ！」
　ラシュモアは、ターゲットを灼滅者たちから鞍馬天狗に素早く転換した。が。
　ドォォン。
　巨大異形化した鞍馬天狗の右掌が、無謀に突っ込んでいったヤンキーを押しつぶした。そして。
「やってしまえ」
　余裕の表情の鞍馬天狗の命令一下、6体の刺青羅刹が一斉にラシュモアに跳びかかっていく。
「ど……どうしましょう？」
　幸喜が凍り付いたように断罪輪を握りしめながら訊いた。
「鞍馬天狗に敵対するそぶりだけは見せない方がいいでしょうね」
　理利が答えたが、その彼も含め、灼滅者たちはダークネス同士の戦いに釘付けになりながら、今得た重大情報を頭の中で必死に整理していた。
「（外国人墓地を狙っていた第3勢力は鞍馬天狗一味……港の見える丘に現れたのはデモノイドロード……彼らの目的はロシアンタイガーの持つ弱体化装置……つまり第3勢力の元締めは……！）」
　ラシュモアも大鉈を振り回して必死に戦った。手下羅刹1体を戦闘不能にまで追い込みまでした。しかし多勢に無勢、盾になる手下を全て剥ぎ取られ、灼滅者に多少なりともダメージを与えられていた彼は、伝説の刺青羅刹・鞍馬天狗の敵ではなかった。
「――もらった」
　鞍馬天狗は何の気負いもなく錫杖をラシュモアの頭に振り下ろした。
　ビシリ、と４人の大統領像に亀裂が入り。
「……ア、アメリカンコンドル様……ベリーソーリー……」
　ラシュモアヘッドは爆散し、バラバラと岩の欠片が灼滅者たちに降り注いだ。
　爆発で舞い上がった埃が収まると、鞍馬天狗はじっと灼滅者たちに視線を注ぎ。
「お前たちは武蔵坂の灼滅者だな……どうする？　やるか？」
　灼滅者たちの脳裏に、学園祭でラブリンスターが言い残していった不吉な予言が蘇った。

　『もし、鞍馬天狗さんが現在進めている作戦が成功すれば、皆さんの命はありません。
　だから、もし鞍馬天狗の作戦が成功して、爵位級吸血鬼達の思惑が現実のものとなったなら……一度だけ、わたしは、わたしの全軍で皆さんを助けます！
　わたし達が戦いに介入すれば、どこかに皆さんの生き残る道があるかもしれません。
　だから、一度だけ、わたし達も命を賭けます……！』

「（コイツの思惑通りにさせてはいけない……！）」
　湧き上がる強い思い。しかし鞍馬天狗一味をこの戦力で撃退できるとは思えない。その強さを目の当たりにしたばかりだ。闇堕ち――が、頭を過ぎったメンバーも何人もいた。しかし、堕ちるべきはここではない。死に場所もここではない。今日得た情報を学園に持ち帰れば、道が開けるかもしれないではないか……！
「……いや。撤退する」
　年長の力生が絞り出すように答え、
「おもろないけど、しゃーないな」
　サイが吐き捨てるように呟いた。
「それが賢いだろう。去れ」
　鞍馬天狗は鷹揚に頷き、灼滅者たちはたまらないもどかしさと悔しさを胸に、ウィリアムズの墓を後にする。
　激しい戦闘が嘘のように静かな墓地を足早に駆け抜けながら、
「あ、連絡入れとかなきゃな」
　レイシーが掌を耳に当て、
「そうだね。メールでいいかな」
　梗花が携帯を取り出す。
　レイシーはハンドフォンを作動させたが、得た情報をどういう順番で伝えたらいいのか逡巡していた。ラシュモアヘッドが灼滅されたこと、第3勢力の正体と、その狙いが弱体化装置であること、ロシアンタイガーの資金源であるアメリカンコンドルを押さえようとしていること、秘密基地への隠し通路が鞍馬天狗に確保されてしまったこと……撤退は悔しくてたまらないが、得た情報はどれも重要だから、しっかり伝えなければ。
「あっ、港の見える丘チームも撤退してるよ」
　携帯を見て梗花が声を上げた。メールが入っていたようだ。
「そうですか、丘チームも戦わず情報収集に徹したのですね」
　幸喜が頷いて、ふと空を見上げた。
　夏空に入道雲が、灼滅者たちの不安のように、大きく、大きく膨れあがっていた。

作者：小鳥遊ちどり	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年8月7日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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