返事を聞かせて

    作者:霧柄頼道

    「で、なんだよ? こんなところ呼び出して」
     屋上にやって来た友紀が尋ねると、金網越しに校庭を見下ろしていた縁花がおずおずと振り返った。
    「いや、その……あのね」
    「なんか歯切れ悪いな。いつもの調子はどうしたっての」
     縁花は友紀と幼なじみで、小学からこの大学までずっと同じだった。気心も知れており、それが突然メールで一言だけ屋上まで来て欲しい、などとあったものだから何事だと思ったのだが。
    「……なの」
     何か思い詰めたような表情をした縁花が呟く。屋上を吹き抜ける風にかき消され、友紀は首を傾げた。
    「……え、なに? 聞こえなかったんだけど……」
    「好きなの、友紀のこと!」
     沈黙が落ちた。聞き間違えなどではなく、今たしかに好き、と言われたような。
    「……え?」
     縁花は顔を赤らめて黙りこくっている。友紀は口を開けたままぼんやりと見つめ返し。
    「えええぇぇあうぇっ!?」

     帰ってきた友紀はろくに着替えもせずベッドに突っ伏し、枕を頭にかぶって転げ回っていた。
    「やばいだろやばいってなんだよそれ……」
     結局、友紀は返事を保留にして逃げた。ろくに頭が回らず、どうしていいか分からなかったのだ。
    「あいつとは付き合い長いし、これからも普通に友達だと思ってたけど……不意打ちすぎんだろ、どうしろってんだよ」
     腐れ縁とはいえ、友紀も縁花を意識してはいた。ただ本当に自分などで大丈夫なのかと不安になる。縁花は友紀と違って何でもできて、友人も大勢いる。
     どうすればいいのかと考え込んでいる内に、うとうとと睡魔に襲われる。
     動くもののなくなった部屋に、どこからか奇妙な風体の少年が現れた。
     少年は眠り込む友紀へ近づき、そっとささやく。
    「君の絆を僕にちょうだいね」

     翌日、友紀は実に晴れ晴れとした心地で目を覚ました。昨日何かにひどく悩んでいたような気がしたが、それもすっかり忘れてしまっている。
     ふと携帯を見ると、着信に縁花からのものがあった。開いてみると、次の休日に返事を聞かせて欲しいとの文面が。
    「返事ぃ……?」
     なんだっけと首を傾げる。むしろこの女は朝っぱらから何なんだ。ストーカーか。
     以前はなんとも思わなかった縁花のメールに気分を害してしまう。そんな自分の変化に違和感を覚えつつも、友紀は大学へ向かうべく立ち上がった。

     
    「強力なダークネス、絆のベヘリタスが事件を起こすようだぜ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が集まって来た灼滅者達へ告げる。
    「絆のベヘリタスと強い関連性を持つ何者かが、一般人から絆を奪ってはベヘリタスの卵ってのを産み付けてやがる」
     この卵から次々と絆のベヘリタスが孵化したら、どうにも止められない。ソウルボードに逃げられる前に何とかして欲しい、とヤマトが前置きし、詳細な現場の説明に入る。
    「今回狙われたのは友紀という大学生だ。これまでに縁花と培ってきたもっとも強い絆を奪われ、頭に気色悪ぃ卵を産み付けられてる。この卵は一般人には見えないが、お前達なら視認可能だ。でも残念だが取り除く事まではできない」
     ベヘリタスは宿主となった友紀と親しい者達の絆を吸い上げて成長する。しかし、宿主と絆を結んだ相手に対しては攻撃力が減退し、受けるダメージも増すという。
    「つまり友紀と何らかの絆を結んだ後なら孵化したベヘリタスとまともに戦えるってわけだな。結ぶ絆は友情でも憎悪でも何でもいい。強ければ強いほど戦闘時の効果は高まるぜ。とはいえそれでも奴は手強いだろう、準備は入念にしていってくれ」
     友紀は午前十一時頃に縁花と駅前で合流し、喫茶店、映画館、ショッピングモールの順にデートした後、午後五時に訪れた公園で卵が孵化する。ベヘリタスを倒すタイミングはその時しかない。
    「二人と接触する機会は午前十一時から五時までの六時間が勝負だが、具体的にどうするかはお前達に任せる。卵が孵る公園にはひと気もあるし、友紀と縁花も混乱するだろうからそこの対処はしっかりな。本来ならこの公園で友紀が告白の返事をするはずだったのに、空気を読まねぇダークネスだぜ」
     ヤマトが肩をすくめ、それから真顔になる。
    「絆のベヘリタスさえ倒せば失われた絆は元に戻るが、十分以上経過するとベヘリタスはソウルボードへ逃走しちまう。そうなるともう手は出せねぇ。それと二人のデートはまぁ、友紀の状態が状態だから盛り上がる事はまずないだろうが、二人の仲を成功させてやりたいならうまくサポートしてやるといいぜ。せっかく友紀が絆を取り戻しても、気落ちした縁花が返事も聞かずに立ち去ってしまう可能性もなきにしもあらずだからな。友紀もそれまでの出来事は覚えてるから一人じゃ何もできねぇだろう。そこをフォローするにしても友紀と負の感情で絆を結んでいたら印象は最悪だろうから気をつけろ。二人の恋の行方はさすがにエクスブレインたる俺であっても分からなかった。すなわちお前達次第って事だな!」
     頼んだぜ、とにやりとヤマトは笑った。


    参加者
    真下・一生(イレヴンソウル・d00016)
    天城・桜子(淡墨桜・d01394)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    風真・和弥(冥途骸・d03497)
    斎藤・斎(夜の虹・d04820)
    志乃原・ちゆ(カンタレラ・d16072)
    師走崎・徒(春先ランナー・d25006)

    ■リプレイ


     時刻は正午。駅前から近くの喫茶店までやって来た友紀と縁花が、ドアを開けて屋内へ。
    「こっちの席、外の眺めがいいんだよ。座ろう?」
    「ん……ああ」
     気のない返事をする友紀。しかし、二人の後ろの席に陣取っていた師走崎・徒(春先ランナー・d25006)は、ちらりと友紀の頭上へ目をやり、しっかりとその原因を視界に捉えていた。
     気味の悪い感じの卵。あれのせいで友紀は縁花への絆を失ってしまっている。
    (「ほんとベヘリタスにも困ったもんだ」)
     思いつつ、パフェをつついていたスプーンを何気なく弄びながら、誰にともなく独り言を呟き始めた。
    「やっぱりこうなっちゃったか……あーあ、分かってはいたけどさ」
     恋人をデートに誘ってはみたものの、あっさりすっぽかされてそのまま待ちぼうけ、という状況である。もちろん実際にはそんな事はないのだが、現実で同じ事が起こるのは御免こうむりたいものだった。
     すぐ後ろにいる友紀の耳には届いていたようで、視線が刺さるのを感じる。それを見計らい、徒はおもむろに手を滑らせた。
    「おわっ!」
     アイスの飛沫を飛び散らせながら高々と舞ったスプーンは、友紀の肩口へぶつかって落ちた。驚いた友紀が身をすくめ、徒は大慌てで立ち上がったものである。
    「あ、あ、すみません~!」
    「い、いや、いいけど……」
     平謝りに謝る徒に、友紀もあまり強く言えないよう。
     縁花がハンカチを取り出して友紀の服をぬぐうと、徒が目を光らせた。
    「お二人とも、もしかしてデートですか。いいですね……羨ましい」
    「そ、そうですか……?」
     きょとんとする友紀とは対照的に、縁花が少し頬を染める。
    「そうですよ。僕なんて思いっきり放置されちゃってますし」
    「誰かと待ち合わせとか?」
    「頑張って勇気だしてみたんですけどね。結局すっぽかされちゃったみたいです」
     ははは、と頭を掻きながら虚ろに笑う徒に、友紀と縁花も親しみが湧いたのか、座り直して三人で軽く雑談する。
    「やっぱり背の低い男はモテないんですかね……?」
    「そんな事ありませんよ! 男の人の魅力は外見だけじゃないです」
    「君もめげずにもう一度アタックしてみたら……?」
     自信なさげな徒を縁花達なりに励ます。
     ありがとう、と徒が返したところで、時間を確認した友紀達が席を立つ。色恋沙汰の話題がよほど盛り上がったのか、気づけば一時間弱も話し込んでいたようだ。
    「あ、もうこんな時間。そろそろ行かないと映画、始まっちゃうかも」
    「なんかうまく言えないけど、楽しかったよ。彼女との事、頑張れよ」
    「お二人こそ応援してます。ほんとお似合いですし。……絶対、手を放しちゃいけませんよ」
     徒が静かな口調で念を押し、そのまま二人を見送ると、少し時間を置いてから喫茶店を出て公園へ向かった。

     映画館前に友紀達はやって来ていた。とはいえ上映まではまだ猶予がある。
    「あ、ちょっといいか?」
     そこに、風真・和弥(冥途骸・d03497)と斎藤・斎(夜の虹・d04820)が声を掛けた。
    「はい、なんでしょうか……?」
     プラチナチケットの効果だろう、振り向いた友紀と縁花はそれほど訝しげな態度ではない。和弥と斎は互いに名乗ってから、壁に掛けられた宣伝を示して何かお勧めの映画はないか尋ねた。
    「急にお声掛けしてすみません、その、どの映画、ご覧になられます?」
    「デートの邪魔するようで悪いけどな、良かったらでいいんだが」
    「デ、デートだなんてそんな」
    「交際一歩手前?」
     斎の追及に縁花がちらちら友紀を窺う姿に、和弥は人好きのする笑みを浮かべる内心でめらめらと黒い炎を燃え上がらせていた。
     おのれ友紀。ずっと一緒で異性としても意識していた幼馴染に告白され、しかも女の子の方から告白させておきながら返事を保留して逃げた、と……。……爆ぜろ……!
    「結局どれがおすすめなのかな。上映開始、迫ってるのもあるけど」
     18歳に変身を遂げている斎が、変装のつもりの縁なし眼鏡に指をかけながら首を傾げる。
    「一応、新作の恋愛映画見る予定だったけど」
    「へぇ。人の好みはいろいろあるが、たまにはそういうのもいいかもな」
    「私は、ふーまくんが薦めてくれたものの方が見たかったけどなー」
    「お、おいやめろ、くっつくな!」
     斎が人目もはばからずぎゅっと和弥へ腕を絡め、願望混じりに育った豊満な胸を押しつけ、袖なしワンピから覗く谷間を見せつけてみる。演技とはいえ男女の付き合いの経験のなさからやってみた行いだけれど、その仲むつまじさに友紀は所在なさげに目を逸らし、縁花はくすくすと笑っていた。
     そんなこんなで四人は映画館内へ入り、空いている席へとそれぞれ向かう。
    「あれっ、そこ私達の席……」
    「え?」
     友紀が顔を上げると、志乃原・ちゆ(カンタレラ・d16072)と字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)が、戸惑ったように立っている。
    「いや、ここにはさっき座ったばっかりだけど……」
    「っと、席を間違えてしまったか。済まないな、お二人さん」
    「ごめんなさい」
     いえいえ、と屈託なく笑う縁花に、よければ隣に座ってもいいかとちゆが問いかけた。
    「私はいいけど……友紀は?」
    「俺も別に……」
    「それならお言葉に甘えて」
     望達が横に並んで腰掛け、映画が始まるまでの時間二人と談笑する。
    「デート、なのですか? いいなぁ……羨ましいです」
    「それなら尚更邪魔して悪かったな……」
    「え、そんな事……」
    「なんか今日は、いろんな奴にそう言われるよな」
     初々しい反応の縁花と、苦笑気味の友紀。
    「二人を見てたら何だか私、大学とかに行ったら縁花さんみたいに、友紀さんの様な素敵な彼氏さん、見つけたいなって思ってきちゃいました」
    「見つけられますよ! その、ちゆさん、可愛いですし」
     年頃の少女らしく恋バナに花を咲かせるちゆと縁花。反対側では望が友紀を茶化している。
    「こんな可愛い彼女を連れて、舞い上がってるんじゃないのか?」
    「いや、そうかな……そんなもんかな」
     どこか他人事のような友紀だが、これは彼に植え付けられた卵によって絆を奪い取られているからに過ぎない。二人のためにも取り戻してやらねばならなかった。
     一方、別の席に座っている和弥と斎はといえば。
    「はい、ふーまくん、あーん」
    「だからちょっ、やりすぎだって……!」
     斎がポップコーンを指に乗せ、和弥の口へ押し込もうとしている。貴様らこそ爆発しろ。
     その後、映画を見終わった友紀達はちゆ達と別れ、再び映画館前に戻って来たところで和弥達と行き会った。
    「面白い良い映画だったぜ。教えてくれてありがとな」
     謝辞を伝える和弥だが、ほくほく顔の斎を見るにいろいろあったのか、やけに疲れた様子である。
    「あんまりお邪魔するのも悪いよ、そろそろ行こう?」
     斎が和弥の袖を引っ張り、友紀達は軽く挨拶してその場を去ろうとした。
    「ああそうだ、友紀」
    「え?」
     と、そこで和弥が向き直り、友紀を見据える。
    「誰だって今までの関係が変わるのは怖いし、それが大切な相手なら尚更だ。……だけど、覚悟を決めろ。本気の言葉には本気で答えるべきだと思うぞ」
     友紀はうろんげな面持ちで頷いて、歩き去っていく。今は分からなくても良い。決めるべきその時が来たら、思い返してくれれば。
    「……今確認できてるシャドウたちの成す事は慈愛に贖罪も大概だが、絆は随分とえげつない真似をするな……。思惑通りにはさせない」
     遅れて出て来た望とちゆが、彼らの背を見送る。
    「人の絆を奪うなど、人格を奪うも同じ。到底容赦はできません」
     表情を引き締めた斎も頷き、灼滅者達は一足先に公園へと急ぐのだった。


     人の行き交うショッピングモールへ足を伸ばした友紀と縁花は、道の端で不安そうに身を寄せ合っている鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)と天城・桜子(淡墨桜・d01394)を目に留めた。
    「……珠音ちゃん、どこ、ここ?」
    「うぅ……ひぐっ……くらちゃん、ウチらお家帰れないの……?」
    「ねぇ、友紀……」
    「ん、ああ……迷子かな」
     二人は顔を見合わせ、近づいて行く。
    「ねぇ、君たち、どうしたの……? 大丈夫?」
     身をかがめて声を掛ける縁花に、桜子が顔を上げる。
    「あ、あのー、すみません……迷子に、なっちゃって……」
     気丈そうに振る舞う桜子と彼女にすがる珠音に、友紀と縁花は大体の事情を理解したようだった。
    「お父さんとかお母さんはどうしたの?」
    「真下おにーちゃんがいるんだけど、はぐれちゃって……ぐすっ」
    「そうなの……大丈夫よ、私達も一緒に捜してあげる」
     半泣きの珠音へ縁花が微笑みかけ、友紀も流されるようにして頷いている。
    「ま、ほっとけないしな……」
    「あ……ありがとう!」
     ぱっと表情を晴れやかなものにする珠音と桜子。こうして四人は保護者を捜してモール内を歩き回る事になったのだった。
     二人は初め緊張していたもののみるみる打ち解けていき、友紀と縁花の関係へ話題は変わっていく。
    「おにーちゃんとおねーちゃん……恋人さんなの?」
     友紀と縁花はほぼ同時に口ごもり、困惑したように相手を見やる。桜子が軽やかな笑声を立てた。
    「仲良しなんですねー! 羨ましい!」
    「お、大人をからかっちゃ駄目よ」
    「今の子はませてるんだな……」
    「お似合い……だと思うけど。ね、珠音ちゃん?」
    「うん、くらちゃん」
     それまでの不安もどこへやら、珠音も桜子も今では楽しそうに笑い合っており、まぁそれならそれでいいか、と友紀と縁花はほっとする。
     と、広場に立つ人影を見つけ、珠音と桜子は大きく腕を振った。
    「あっ、おっそーい! どこ行ってたのよ、早く見つけてくれなきゃ!」
     悪い、と歩いて来たのは真下・一生(イレヴンソウル・d00016)である。あらかじめ決めていた合流地点で、二人の保護者役として待機していたのだ。
    「初めまして、二人が世話になったようで……」
    「いえ、私達も楽しかったですし……ね、友紀」
    「まあ確かに」
    「はは、お二人ともいいカップルですね。せっかくですし一緒に回りませんか?」
     すかさず珠音と桜子も同意し、一行はそのまま、友紀達が公園に向かう時間まで遊び回った。
    「でね、でねー。あーんな素敵な彼女、頑張って捕まえなきゃ駄目よ?」
     んー、と生返事をする友紀。ふと時計を見て、時刻を思い出したようだった。
    「あー、そろそろ帰らないと……縁花ももういいか?」
    「え、うん……。あの、付き合っていただいてありがとうございました」
    「こっちこそ、お幸せに」
     一生が笑い、珠音と桜子が二人と握手を交わす。
    「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとお!」
    「うまくやりなさいよ、彼氏!」
     二人の手を重ねて満面の笑顔の珠音と、喝を入れるみたいに強く握る桜子。
    「……よし、俺達も公園に行こうか」
    「ここまでお膳立てしたんじゃ、後は二人次第、といったところじゃな」
     それまでの雰囲気をかなぐり捨てた珠音がにやりとし、一生達は見つからないよう二人を追いかけていく。


     夕日の差す公園では、灼滅者達がESPを駆使し工事用の看板を準備して車道をふさぎ、残っていた一般人を追い出していた。
     どうにか一段落終える頃には、徒の携帯へ友紀達が接近中、と連絡が。
     殺界形成を解除し、その後一生達も合流する。
     全員が揃ったところで道の先から友紀と縁花が現れ、二人はぽかんとして立ち止まった。
    「あれ、あんたら……」
     その瞬間だった。みしりみしりと音を立て、友紀の卵が孵り始める。
     質量が膨張し、実体化したのは仮面をつけた山羊頭の巨漢。地面を踏みしだき、身体の動きを確かめるみたいに節々を鳴らしている。
    「なに、あれ……っ」
     縮み上がる二人を、徒の放った魂鎮めの風が速やかに眠りへつかせた。
    「手を、離しちゃダメだよ」
     せめて良い夢が見られるよう語りかけ、崩れ落ちる二人を大急ぎで安全な場所へ運び出しにかかる。と同時に殺界形成を再び展開。
    「我が名は真下・一生。人に害をなすものを絶つ者だ!」
     仲間達を守るように立ちはだかり、一生が名乗りを上げた。
    「さて、お出ましだな。絆を返してもらおうか……!」
    「悪趣味な身なりにお似合いの所業、と言った所でしょうか。おいでなさい、私なりに、可愛がってさし上げます」
    「ハッピーエンドを邪魔する奴は、ウチが纏めて吊り上げるんじゃよー!」
     望達も戦闘態勢に入り、和弥と斎がそれぞれ味方を強化する。
    「しっかり当てていくとしましょうかね、っと!」
     桜子が牽制のつもりで放った黒死斬だが、予想以上の手応えに驚く。
     効いている。これが絆の力というものなのだろうか。
    「塵の海に沈め……!」
     肉薄した望が敵を横殴りに吹き飛ばし、待ち構えていた和弥が斬りかかる。
     相手の反撃は一生がその身をもって防いでのけた。
    「雲耀剣はない、が……攻撃は通さん!」
     絆の効力もあってか耐えきれないほどではなく、オーラキャノンで弾き返す。
    「みんな、お待たせ!」
     多少遅れはしたが徒も戦線へ戻り、回復は後回しに攻撃を仕掛ける。
     なにせ一分たりとも無駄にできない。だがさしものダークネス、そう簡単にやらせてはくれなかった。
    「志乃原さん、防具万全じゃないんだから無理しないでよ?」
    「大丈夫です、この程度。天城さんの方こそ、途中でへばらないで下さい、ね」
     敵の攻撃力は低下している。しかしそれを埋めるほどの地力の高さが押し返してくる。
    「肉を切らせてッ!」
    「骨を、穿ちます」
     桜子のカバーを受け、ちゆが螺穿槍を叩き込む。
    「絆を奪った分、僕からも奪わせて貰うぞ……」
     望の紅蓮斬が敵を引き裂き、体力を奪い取る。
    「もういっちょどうだ!」
     脇を抜けた和弥も同じく紅蓮斬を見舞い、相手をよろめかせた。
    「残り二分です、急ぎましょう!」
    「回復は僕達に任せて!」
     徒と斎が懸命に仲間を支え、珠音の鋼糸を仕込んだ髪がベヘリタスの四肢をがんじがらめに拘束する。
    「にゅふふ、動けんじゃろー?」
    「これで最後だ、食らえ!!」
     望の渾身の鬼神変が追撃し、一生の一撃が敵の全身を砕いて消し去ったのだった。
    「我が武御雷に断てぬものなし!」

    「ん、っと……良い感じに記憶消えてくれるといいけどね」
     友紀と縁花に吸血捕食を行った桜子と望が立ち上がる。眠る二人は無意識に手を握り合っており、とても穏やかに見えた。
    「あれだけ絆を重ねたんだからきっと大丈夫だよね……」
    「今度は友紀、お前が彼女を護るんだぞ」
     徒が呟き、一生も頷く。
    「仲良く抱き合ってくれやがって……やはり許さん、爆発しろっ!」
     いちゃいちゃを見せつけられていた和弥がついに本性を現し、くわーっと友紀達へ飛びかかる。
    「駄目ですよ、邪魔しては」
    「お仕置きが必要じゃのう?」
     しかし斎に足を払われ、珠音に縛り上げられ、すっかり暗くなった公園に悲鳴が響き渡ってもなお、友紀と縁花は幸せな夢に浸っているのだった。

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ