武蔵坂学園内掃討戦~体育倉庫のヴァンパイア

    ●とり残された奴隷
    「ここで少しだけ休むとしよう」
     青ざめた頬に毒々しいほどの深紅の唇の、西洋人と見える美しい青年が、傾いではいるが雨露はしのげそうな体を保っている体育倉庫に入っていく。
    「少し休めばこのくらいの傷……」
     青年は上等な仕立ての黒のフロックコートを着ているが、それはところどころ破れて焼け焦げて汚れ、彼自身も軽いものではあるが、何カ所も傷を負っている。
     ふう、と溜息を吐き、青年は跳び箱と壁の隙間に身を腰を下ろした。その拍子に、カチリ、と首に嵌まった禍々しい首輪が音を立て、彼はそれに触れた。
    「ボスコウ様……」
     この首輪を憎み厭う気持ちもある。しかし、斃れた主への思慕がそれに勝る。
     ギリ、と青年は尖った歯を食いしばった。
    「このままでは済ませません。アルフレッドは必ず灼滅者共に一矢報いてみせましょう」
     青年……奴隷ヴァンパイア・アルフレッドは、ここがまだ敵地であることを思い出したか、キリリと顔を上げると感覚を研ぎ澄まし、周辺の気配を探り始めた。
     
    ●武蔵坂学園
    「サイキックアブソーバーは守られました。本当にありがとうございます!」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちひとりひとりの手を握って頭を下げた。
    「おかげでこれからもダークネスと戦っていけます……でもその前に」
     典が机に広げたのは、武蔵坂学園のとあるキャンパスの見取り図。
    「爵位級吸血鬼と共に、敵戦力の殆どは武蔵坂学園から撤退していきました。しかし逃げ遅れ、学園に獲り残されたダークネスもいます。現在、残ったダークネスは、校舎内や校内の施設に籠城・或いは潜伏している状態です。そこで皆さんには、学園内の残敵を掃討していただきたいのです」
     灼滅者たちが頷くと、長い人差し指が校庭隅の小さな建物を指した。
    「この体育倉庫に、奴隷ヴァンパイアが逃げ込みました。敵地とあって、敵も非常に警戒していますので、全く気取られず接近し奇襲するのは難しいと思いますが、それでもできるだけ気づかれないよう近づくのが得策でしょう」
     あまり遠くから気づかれると、逃げられてしまうかもしれないし、逆に敵に奇襲をかけられてしまうかもしれない。
    「ある程度の距離まで近づけたら、いっそ挑発して誘き出すというのはどうだろう? 戦場は校庭がいいだろうし」
     灼滅者のひとりが提案すると典は頷いて。
    「それも有効かもしれません。敵もせめて一矢報いて、という気持ちがありますから、乗ってくる可能性は高いです」
     体育倉庫は戦争でかなり痛んでいるので、必要があったら壊しても構わない。
    「敵の武器はレイピアです。逃げそびれたダークネスとはいえ、戦闘力は高いですので、侮ることはできません」
     腐ってもヴァンパイア、油断は禁物である。ケガも軽傷で、戦いに影響を及ぼすほどではない。しかも追い詰められ、主の仇という気持ちもあるだろう。窮鼠猫を噛むということもあり得る。
    「もし、勝利が難しい場合は学園から逃走できるようわざと退路を空けてやる……ということも考えられます」
     不本意ではあるが、灼滅者たちも戦争で疲れ切っている。やむを得ない場合もあるだろう。
     典はまた灼滅者たちに頭を下げて。
    「まずは学園の平和を取り戻すために、どうかよろしくお願いします!」


    参加者
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    深束・葵(ミスメイデン・d11424)
    小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)
    八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)
    ユリアーネ・ツァールマン(夜天を駆ける凶鳥・d23999)
    真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)

    ■リプレイ

    ●接近
     焼け焦げ、穴だらけで傾いだ体育倉庫。そこに向かって小動物が音もなく接近していく。猫が2匹、蛇が2匹。4匹は、実は灼滅者。奴隷ヴァンパイア・アルフレッドに少しでも気取られ難くするために、変身しているのだ。
     蛇に化けた天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)は、うねうねと校庭の砂の上を這いながら、は虫類の眼でじっと倉庫の気配を窺う。窓等、外部への開口部の無い側から接近するつもりだったのだが、なにしろ倒壊しかけの倉庫、どの壁面も似たり寄ったりで、結局四方から囲むことにした。今のところ、ターゲットの建物は不気味な沈黙を守っている。
    「(どうも、猫変身は慣れねぇな……)」
     いつもと違う体に戸惑い気味に首を傾げたのは英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)。それでも精一杯猫らしく、気配と足音を殺して忍び寄っていく。
     仲間たちの進み具合に一生懸命合わせようと体をくねらしている、保護色っぽい茶色の蛇は八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)。
    「(蛇さんって意外と速いはず……猫さんにも負けないですよっ)」
     黒猫は小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)。残党狩りという今回の任務に、彼女は釈然としない気持ちを抱いている。しかし。
    「(だが、奴を逃がせば……また此処が、大切な人達の居場所が狙われるかもしれない。そんな事を赦してたまるか)」
     一方、少し離れた校舎の陰で待機しているのは、深束・葵(ミスメイデン・d11424)ユリアーネ・ツァールマン(夜天を駆ける凶鳥・d23999)真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)の3人。
     ユリアーネがぽつりと呟いた。
    「掃討戦、か……残党狩りみたいなことは、あんまり好きじゃないんだけど……」
     彼女は殲術病院が襲撃された際に、命からがら逃げだした経験があるのだ。
     まだ戦いに不慣れなため、少々緊張の面持ちの佳奈美も頷いて。
    「なんだか、少し可愛そうな気もするけど、仕方が無いことなんですよね」
    「兵どもの夢の跡を大掃除、ってカンジかな」
     葵が苦笑して。
    「残敵のせいで授業とか部活に打ち込む、フツーの学園生活や、青春の1ページが出来なくなっちゃったらアレだし」
    「そうだね」
     ユリアーネは気を取り直したように顔を上げて。
    「まだ戦う気なら、容赦するつもりはないよ……!」
     大切な人々と学園を守りたい気持ちは皆同じだ。
     そんな仲間たちを、上空の箒から見守っているのは瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)。敵に悟られないために、充分な高度をとっている。
    「敗残の兵を掃討って……ドラマなどなら、私たちが悪役っぽいですが……そこは気にしちゃダメですね」
     蓮は双眼鏡で倉庫に接近する動物たちを見、校舎の陰に隠れている仲間たちを確認し……。
    「もうちょっと……もうちょっと」
     ライトを汗ばむ手で握りしめ、ポケットを探ってもしもの時の防犯ブザーも確かめた。動物たちが遠距離攻撃が届く距離まで接近した瞬間に、光で襲撃の合図を出す手はずになっているのだ。
     仲間たちは着実に倉庫に近づき、中からは何者も出てくる気配はない。
     緊張が高まる。
     もう少し……もう少し……。
    「……うん、よし! Goですっ!!」

    ●急襲
     夕暮れの空に、蓮が発した合図の光が点滅した瞬間、4匹の動物は同時に変身を解いた。そして、すぐさま体育倉庫に向けて遠距離攻撃を放つ。
     黒斗はくるりと前転するとひざまづいてバスターライフルを構え、里桜は槍から氷弾を、桜は魔導書を開いて光線を放った。
     鴇臣は、
    「学園の建物を堂々と壊していいなんて、なかなかねぇよなー!」
     微妙に嬉々と、もちろん一切の躊躇なく揃えてつきだした両掌からオーラをぶちこんだ。
     ドッカーン!
     四方からの衝撃に、壊れかけだった倉庫が耐えられるはずもない。すぐにガラガラと崩れ出す。ものすごい埃が立ち、視界が白く煙る……と。
     ダンッ!
     何かを蹴りつけたような音と共に、がれきの山と化しつつある倉庫から、黒い影が飛び出てきた。
    「うんっ!?」
     砂埃の中、受け身をとってごろごろ転がりながら校庭に着地したのは、黒いフロックコートに銀髪の青年のようだ。
    「(アルフレッドか!?)」
     埃に巻かれながら、4人は必死で青年に接近しようとするが、彼が体勢を立て直す方が早いか……?
     と、その時。
    「きゅっ、吸血鬼さ~ん、かくれんぼはお終いですよ~!」
     倉庫が倒壊する音に負けじと、割り込みヴォイスを使った佳奈美の声が校庭中に響きわたった。その声に、起き上がりかけていたアルフレッドの動作が一瞬止まった。そこへ。
    「出てきおったな、奴隷ヴァンパイア!」
     眩しいヘッドライトとエンジン音と共に、我是丸に騎乗した葵が突っ込んできた。『猿神鑼息』をぶっぱなしている。
    「おのれ灼滅者!」
     アルフレッドの手の中に細身のレイピアが出現した。繊細で美しい造りなのに、どこか禍々しい赤い光を放っている。持ち主と同じ、不吉な美しさだ。
     弾丸をものともせずにアルフレッドは葵へと積め寄っていく。その力強い動きからすると、倉庫を破壊した初撃によるダメージは、受けてはいないようだ。感づいたのか避けたのか……が、その時。
    「……この場で止留めてくれる、吸血鬼め!」
     里桜の炎の跳び蹴りが、ヴァンパイアの脇腹にジャストミートした。

    ●戦闘
     一瞬の隙のうちに、動物組4人は敵に充分肉薄することができていた。
    「アルフレッドさん、敵に向かって何ですが……助かった命は大切にすべきでしたね!」
     里桜に続いて桜が槍を捻り込み、黒斗はライフルの照準を慎重に計算する。
    「逃げおおせたら、この先また何か仕掛けてくるつもりだろ? ここできっちり倒させてもらうぜ! これ以上学園を壊されるのも迷惑だしな」
     鴇臣は雷を宿した拳でアッパーカットをくらわせ、そこへ後ろから、追いついてきたユリアーネの毒弾が撃ち込まれ、さしものヴァンパイアもよろめく。
     息を切らせた佳奈美もやってきて、
    「貴方が不本意に戦争に参加させられたのは、解ります。でもこの学校はあたし達にとって大切な場所なの。だから、ここで貴方を……きゃっ」
     レイピアの鋭い切っ先が佳奈美を襲い、緋色の光が迸った。
    「佳奈美さんっ!」
     丁度箒から着地した蓮が、慌てて癒しの風を吹かせ、その足下からは霊犬のルーが飛び出し、佳奈美のカバーに入る。
    「なんの、何を不本意なことなどあろうか」
     美しく冷たい紫色の眼差しが灼滅者たちを睨めつける。黒服は汚れてズタボロだし、傷も負っている。そして首には主無き後も遺る奴隷のしるし。しかし、さすがはダークネスの貴族と呼ばれるヴァンパイア、その立ち姿から威厳は失われていない。
    「奴隷の身に堕とされた頃には、主や我が境遇を恨んだりもした。しかし傍近くで仕えるうち、次第に私は、あの方を深く敬愛するようになった……」
     アルフレッドはスッとレイピアを中段に構え。
    「仇である灼滅者に一矢報いねば、あの方に合わせる顔が無い!」
     繰り出されたレイピアを、ガキリと受け止めたのは里桜の『蒼桜乱壊』。
    「貴様の忠義は見事だ。だが、私達にも……譲れないものがある!」
     ぎりりと里桜とにらみ合ったアルフレッドに、すかさず灼滅者たちが殺到する。桜は流星のような跳び蹴りを放ち、黒斗は里桜の陰から滑り込んで足下を狙う。下車した葵は、キャリバーに突撃命じると自らは『猿神礫手』の小光輪を纏う。回復なった佳奈美は『友愛を歌う左手のレイピア』に炎を載せて踏み込んでいき、ユリアーネは『フッケバイン・クラーレン』にトラウマを載せて蹴り上げた。
    「こ……こやつらッ!」
     ぶん、とアルフレッドのレイピアが振り回され、灼滅者たちは飛び退いた……すると突然、アルフレッドの左手が首輪に伸びた。紫色の瞳の瞳孔がぐわっと開き、びくりと長身が跳ねる……トラウマが現れたのだろうか?
     その様子を見て、蓮の脳裏に、
    「(何を見ているのでしょう……吸血鬼の社会ってどんななんでしょうね?)」
     常日頃から抱いていた思いが浮上するが、そんな素朴な疑問を口にするには憚られる情況だ。
     ヴァンパイアは頭をぶるっと振ると、
    「無礼者共……許さぬ……赤き呪いをくらえ!」
     腕を空に向けて振り上げた。夕暮れの空に、毒々しい深紅の逆十字が浮かび上がり。
    「貴様が回復役と見た!」
     蓮を骨張った青白い指がさし、逆十字はするすると最後方へと動いていく。
    「ヤバい、瀬川先輩!」
     鴇臣が咄嗟に地面を蹴る。あの逆十字はギルティクロス。凶悪な精神作用を持つサイキックを、唯一のメディックに喰らわせるわけにはいかない!
     鴇臣は蓮を、覆い被さるようにして庇った。
    「!!」
     鴇臣の背中が十字型に切り裂かれる。
    「あ、ありがとうございます、鴇臣さん! 今回復を……」
     庇われた蓮が鴇臣を助け起こしながら、聖剣の祝福の言葉を風にし、サーヴァントたちが素早くカバーに入る。
    「ちっ」
     貴族らしくもなく小さく舌打ちしたアルフレッドに、
    「味なことをしてくれるのう!」
     葵が炎と怒りを弾丸に込めて連射し、里桜は高速回転する杭を撃ち込む。桜はエアシューズから炎を迸らせながら突っ込んでいき、佳奈美は『黒き憎悪』で跳び蹴りを放つ。続いて、いつの間にか器用にがれきの山に登っていた黒斗がバベルブレイカーを構えると、
    「舌打ちとは下品だな。主人の躾がなってないな?」
     高さをも利用してジェット噴射で突っ込んでいく。杭は深々と敵の胸元に突き刺さり、白皙が歪む。しかし、
    「ぐ……よくもッ」
    「あっ!?」
     右手のレイピアが一層不吉に赤く輝き、肉薄していた黒斗の二の腕に風の速さで突き立てられた。
    「…………あ」
     黒斗の顔色がスウッと青ざめ、それにつれてアルフレッドの胸の傷がふさがっていく。
    「ドレインですね……ルー、黒斗さんから敵を引き離してください!」
     蓮に命じられ、白い霊犬がアルフレッドに跳びかかる。
    「ぬっ、犬ごときが邪魔をするな!」
     ルーはすぐに振り払われたが、レイピアからよろりと逃れ、腕を押さえしゃがみこんだ黒斗には蓮が素早く癒やしの光を送る。
     ユリアーネは、
    「仕方ないわね……これでは倒すしかない」
     小さく呟くと『ドッペルアドラー・シュナーベル』をぎゅっと握りしめる。
     掃討戦に忌避感のある彼女は、アルフレッドに敵意がなければ見逃してやってもよいと密かに考えていたのだが、敵にそのつもりはないらしい。
    「容赦しないわ!」
     改めて掃討の決意を固めて突っ込んでいく。その上空では鴇臣の発した赤い逆十字が輝いている。
    「くっ……」
     横っ飛びに避けて鴇臣のギルティクロスは何とか躱したアルフレッドだが、とっさに合わせたユリアーネの槍を腹に受けてしまう。
    「ぐ……」
     しかし力尽くで槍の穂先を腹から抜くと、よろりと下がり。
    「半端者の灼滅者ごときに……」
     ますます青ざめた顔できりりと紅い紅い唇を噛みしめる。
     レイピアの届く距離に、里桜が恐れ気もなく踏み込んでいき。
    「その半端者に、お前の主は倒されたのだがな……私は貴様も許さぬ。此処で滅びろ、吸血鬼!」
     紅い切っ先を身を屈めて躱し、オーラを宿した拳の連打を槍の傷口付近に叩き込む。葵がキャリバーと共に奏者で敵を牽制し、ユリアーネはその弾丸の雨の中、トラウマで確実に傷口を抉っていく。回復なった黒斗も素早く背後に回り込んで刃を振るい、鴇臣は両手を伸ばして渾身のオーラをぶちこんだ。足下に滑り込んだ佳奈美のグラインドファイアは、
    「させるか!」
     高く飛び退いて避けられたが、着地点には桜の強烈なキックが待っていた。かなり弱ってきているとみて、蓮も最後方から氷魔法を叩きつける。
     畳みかける攻撃にアルフレッドは崩れかけたが、パラパラと氷片を落としながらも灼滅者をぎらぎらと睨み付け、レイピアを構え直した。主への忠誠と、ヴァンパイアのプライドが彼を支えているのだろう。
    「断じて……負けぬ!」
    「あっ!」
     紅い閃光が接近していた前衛を薙いだ。爆発的な威力に前衛は倒れ込む。
    「大丈夫ですか!?」
     蓮が慌ててセイクリッドウインドを吹かせると、
    「ありがとうございます……」
     桜が痛そうに腕をさすりながら起き上がって。
    「戦争後で万全でない上、こんなに弱っているのに、まだこんな攻撃を繰り出せるとは、さすがヴァンパイアと言ったとことでしょうか……あら」
     見れば、アルフレッドは苦しげに校庭に膝を突いていた。腕の力で再び立ち上がろうとしているが、今の攻撃でいよいよ体力を使い果たしてしまったのだろう。
    「ケリをつけてやろうぜ」
     黒斗がうっすらと狂気的な笑みを浮かべてライフルを構えた。
    「私の直接の復讐対象は、私の血族とその関係者だけど……ヴァンパイアってだけで殺したくなるんだ。悪いな!」
     狙いすましたバスタービームが発射されたのを皮切りに、灼滅者たちは最後の一斉攻撃に出た。鴇臣のギルティクロスは今度こそ×印の傷を穿ち、里桜は至近から杭を叩き込む。サーヴァントたちも主と共に攻撃をかけ、佳奈美は『博愛をつむぐ右腕の竪琴』に炎を載せて殴りつけ、葵も炎弾で畳みかける。ユリアーネは槍を全身の力で捻り突き刺し、蓮は魔法弾を慎重に撃ち込んで。
    「ここは大切な仲間のいる場所……ケジメをつけさせてもらいます!」
     桜の、全身に炎を纏ったようなグラインドファイア。
    「ああ……ボスコウ様……」
     とうとう、どさり、とアルフレッドは校庭に横たわった。
     ぱき、ぱき、と何かが砕けるような音がして、見れば主の灼滅にも揺るがなかった首輪が粉々に砕けていこうとしていた。
     灼滅者たちが息を飲んで見つめる中、首輪は粉々の破片となって消滅し、続いてアルフレッド自身も塵となった。
     蓮が、風に巻き上げられる黒い塵を眼で追いながら。
    「ボスコウさんって、慕われてたんですね……彼が同じところにいけるといいですね。ダークネスの亡骸は、消えてなくなりますが、死後の世界っていう感覚はあるのかなーです。天国とか地獄的な」
     どうなんだろう、と灼滅者たちは思う。
     少なくともアルフレッドは、奴隷の首輪から解放されて逝くことはできた。
     いつの間にか、夕暮れだった空に星がまたたいていた。
    「……あのー、皆さんよろしければ使って下さい」
     そこに佳奈美が人数分の濡れタオルを持ってきた。近くの外水道に用意しておいたのだ。
    「埃だらけですから……」
     ありがとう、と灼滅者たちはありがたくタオルを受け取り、笑む。
     そして実感する。
     明日から、また始まるのだ。
     いつも通りの、学園生活が。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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