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夜闇に沈む武蔵坂学園の中庭に、ひとりの少女がたたずんでいた。
肩までの巻き毛に、長いまつげ。
人形細工のような繊細な容姿は、だれが見ても美少女と称するに値するものだ。
しかし胸元に『HKT』と書かれた不似合なTシャツを見れば、灼滅者でないことはすぐに知れた。
ダークネス――HKT六六六所属の六六六人衆はやがて中庭の行き止まりにつきあたり、整った眉根をひそめ、舌打ちする。
学園外へ撤退するには別の道を探し、数ある灼滅者の眼を、かいくぐらねばならない。
「まったく。なんだっていうのかしら」
東京への急な出張命令。
ハリキッテ殺そうと思った矢先の、爵位級ヴァンパイアたちの撤退。
「……でも。これってチャンスよね?」
いけすかないワニ女はめでたく失脚。
ギヨたんはゲーム三昧で、長らく遊びほうけていると聞く。
同じHKTの出張チームも、すでにほとんどが学園を離脱してしまった。
「ここで手柄をたてて帰れば、ミスターも私を無視できなくなる。……そうよね?」
『絞首卿ボスコウ』を倒したとはいえ、闇堕ちすらしていない灼滅者たちだ。
――首のひとつやふたつ、刈りとってみせるわ。
六六六人衆は愛らしい唇を歪め、ふわりと、スカートのすそをひるがえした。
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「まずは、爵位級ヴァンパイア3体の襲撃を防ぎ、サイキックアブソーバーを守り抜いてくれたことに対して礼を言いたい。皆が死力を尽くしてくれたおかげで、私たちはふたたび、こうして予測を伝えることができる。……本当にありがとう」
深々と頭をさげる一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)だったが、
「――しかし、まだすべてが終わったわけではない」
顔をあげ、すぐに灼滅者たちに厳しい表情を向ける。
「爵位級ヴァンパイアの作戦が失敗したことで、敵戦力の多くは武蔵坂学園から撤退した」
だが、撤退は完全ではない。
残されたいくらかのダークネスたちは、今も校舎内や校内の施設に籠城、あるいは潜伏している。
「よってきみたちに、学園内の残敵掃討を願いたい」
今回予測により捕捉した敵は、六六六人衆。
夜。学園中庭奥の木の上に潜伏し、通りかかる灼滅者を襲撃しようとする。
射程範囲は100m前後。
その間合いに踏みこめば、戦闘が開始される。
「敵の名を、『四枚舌』のカレンという。HKT六六六所属の六六六人衆だが、繊細な容姿に似合わず、野心家だ」
学園からの撤退は容易ではないと知りつつも、その野心から灼滅者にひるまず向かってくる。
単身学園に残ってなお勝ち抜く算段ができるのは、自信過剰なだけでなく、カレン自身、己の戦闘能力が高いことを知っているからだ。
「狙撃を得意とし、その精度は夜闇にあっても衰えることはない。『バスターライフル』と『ガンナイフ』に似た武器を扱い、ほかにも『殺人鬼』に良く似たサイキックを使ってくる」
判断力に長け、効率を重視した攻撃をしかける狡猾さもある。
特に『追撃』を含む近列攻撃は攻撃力が高く、注意が必要だ。
「なお、カレンは木に近づく灼滅者を狙うため、戦闘タイミングはある程度きみたちで調整できる」
ただし、夜になる前に木や中庭に細工をするなどした場合は、敵に逃げられる可能性がある。
作戦を開始するのは、夜、カレンが木の上に潜伏した後でなければならないと、一夜は強く念を押した。
敵は追い詰められた状況ではあるが、追い詰められた者ほど、なにをしでかすかわからない面もある。
「……もしも灼滅が難しいと判断した場合は、ダークネスが学園外へ逃走するよう退路をあける等、学園と、君たちの安全を最優先に行動してほしい」
それだけを告げ説明を終えると、一夜はふたたび、深く頭をさげた。
参加者 | |
---|---|
鳴神・千代(イカちゃんを愛すもの・d05646) |
アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957) |
天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508) |
或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741) |
廿楽・燈(花謡の旋律・d08173) |
刻漣・紡(宵虚・d08568) |
神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017) |
唯空・ミユ(藍玉・d18796) |
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太陽が落ち、あたりが闇に沈んだころ。
学園の中庭に続く道を、廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)、鳴神・千代(イカちゃんを愛すもの・d05646)、天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508)の三義姉妹が歩いていた。
夜風はすでに肌寒く、響く虫の音に、秋の訪れを感じる。
「はぁー。戦争も終わったことだし、ゆっくりできると思ったのになぁ」
「私、この戦いが終わったら、花火見に行くんだ……」
「じゃぁ私は、終わったら校舎の見回りに」
「そうだよね。敵はまだ学園内に残ってるかもしれないし――って、おねーちゃんたち! それじゃ、まるで死亡フラグみたいだよ!」
他愛のない会話に、戦いの前の緊張が和らいでいく。
途中、別の道をいくという千代の背を見送り、一葉と燈はエクスブレインが予測した裏庭の奥へ向かった。
2人を出迎えたのは、明かりを手にした神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)と、アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)。そして、刻漣・紡(宵虚・d08568)の3人だ。
「夏休みなのに、本当、タイミングを読まないですよねダークネスって」
「残党を灼滅できたら、夏休みの宿題、免除してもらえるのかの……?」
仲間たちの会話をよそに、刻漣・紡(宵虚・d08568)はただひとり唇を引き結んだまま、耳を澄まし、闇に目を凝らしていた。
(「学園に潜む戦争の名残り……。危険の芽は、私たちの手で、摘みとるの」)
首にさげた十字架に、そっと、指先を滑らせる。
灼滅者たちの傍らには、或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)の指示を受けたライドキャリバー『仮・轟天号』の姿もある。
5人が進むのにあわせ、『仮・轟天号』のヘッドライトが、眠る草木を光のなかに暴きだしていく。
エクスブレインから聞いた中庭の奥には、もうたどり着いている。
おそらくダークネスがいるであろう、木も、視界に入っている。
――それはすなわち、敵の射程内にいるということ。
灼滅者たちはゆっくりと中庭を周回し、
「異常なし、みたいだね」
確認するように燈がつぶやき、中庭を去ろうとした。
その時だった。
――虫の音が、止んだ。
「っ!」
真っ先に反応した一葉が飛来した弾丸を断罪輪で弾き、とっさにその場から退避。
しかしアルカンシェル、燈、紡の3人とライドキャリバーは、暗闇から撃ちこまれた弾幕を避けきれず、傷を負った。
「現れましたね、時間泥棒……!」
後方へ退避した柚羽はすかさず夜霧を展開し、仲間たちの傷を癒した。
紡もすぐにシールドを顕現させ、護りを重ねる。
「いったい、どこから……!」
手にした懐中電灯を闇にかざし、慌てたように声をあげれば、
「――死ね、灼滅者!」
声とともに、赤い閃光が夜闇を斬り裂いた。
「紡!」
かばいに走ったアルカンシェルが直撃を受け、熱線に焼かれながら、はじき飛ばされる。
敵の位置を捉えた『仮・轟天号』が、威嚇するように爆音をあげ。
ライドキャリバーのハイビームの先に浮かびあがったのは、己の身長ほどもあるライフル銃を構えた六六六人衆・カレンの姿だ。
「ねえ、あなたたち。そのまま首をさしだせば、夏休みの宿題の心配なんて、なくなるわよ?」
灼滅者たちの様子に、己の優位をみて木から降りてきたようだ。
さらに追撃を仕掛けようとした、その時。
「まだ六六六人衆にいるなんて、可哀想な方ですねー」
カレンはとっさに銃口を背面に向け引鉄を引こうとするも、爆炎の魔力をこめた弾丸が、六六六人衆の身体に届く方が、わずかに、早かった。
「ぐっ……!」
降りそそぐ弾丸に幾重にも穿たれ、延焼する炎に苦悶の声をあげるダークネスへ向け、
「ほーら、ね? 早く足抜けすればいいのにー」
熱を帯びたガトリングガンを向け、現れた仲次郎が、「うふふ」と笑った。
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灼滅者たちの陽動に誘いだされ、まんまと木から降りたダークネス。
その背後に立ったのは、これまで身を隠していた唯空・ミユ(藍玉・d18796)、千代、仲次郎の3人。そして、2匹の霊犬たちだった。
中庭は整備された場所とあって見晴らしがよく、戦闘時に使えそうな遮蔽物は存在しない。
だが、中庭の植えこみであれば、学生ひとりくらいが姿を隠すには十分。
3人は陽動班とは別のルートで敵の死角へ回りこみ、挟撃のタイミングを見計らっていたのだ。
「まさか、こんなにうまくいくとは思いませんでしたが」
つぶやき、ミユはダークネスの間合いに跳躍。
異形巨大化させた腕を振りかぶり、傷だらけのカレンを殴り飛ばした。
一気に畳みかけるべく燈、一葉、アルカンシェルが立ち位置を変えようと動くも、
「吹き飛べ!!」
天上へ向けたカレンのライフルが円状の多重光線を発射し、間合いに踏みこんでいた灼滅者たちを一気に薙ぎはらう。
(「直撃する――!」)
攻撃へ転じるべく立ち位置を変えたものの、回避が間に合わない。
燈は迫る光線を前に歯を食いしばるも、
「燈ちゃん!」
転身を諦め、そくざに地を蹴った一葉が、身をていして燈をかばった。
真紅の光線を受け、細い身体が遠く、はね飛ばされていく。
「一葉おねーちゃん!」
「回復はお任せください……!」
すぐに柚羽が声をあげ、傷を受けた者たちへ夜霧を展開。
追撃を受けた一葉とアルカンシェルへは、さらに癒しを重ねるよう霊犬たちに指示を送る。
傷は癒えても、痛みは残る。
容易く下せるような敵ではないという緊張感も、危機感もある。
だがアルカンシェルは六六六人衆を前に、心躍るのを抑えられずにいた。
「侮れん相手じゃが、効率を重んじるなら逃げんかったこと、後悔させてやるからの!」
声とともにふくれあがったオーラを両手に集中させ、放出する。
しかし間一髪、ダークネスは攻撃を回避。
「往生際が悪いわね!」
美しい顔を醜くゆがめ、カレンはその場から退こうとした。
しかし。
「往生際が悪いのは、どっちかな!」
行く手をさえぎるように立ちはだかり、得物を構えたのは、千代。
「いっくよー、覚悟!!」
アルカンシェルの攻撃を回避したばかりのカレンには、その一撃を避けられようはずもなく。
六六六人衆は深々と胸を刺し貫かれ、灼滅者たちの前に倒れた。
柚羽は血に染まり、赤黒く変色していくTシャツを見おろし、
「その『HKT』Tシャツ。言ってはアレですがセンスが、ないに等しいと思います」
素直な感想を、口にする。
しかしカレンは、血を吐きながら笑った。
「ふふふ。センスなんて、どうだっていいのよ……! このTシャツの価値、どうせあなたたちには、わかりっこないんだから!」
叫びながらも、カレンは抗うように攻撃を仕掛け続ける。
しかし、傷だらけの六六六人衆ひとりに、灼滅者8人。
間断なく続く攻撃に、ダークネスは回復の機を逃し、やがてすぐに追い詰められていった。
「ほらほら。このままじゃ、やられる一方ですよー? 学園に来ませんかー?」
間延びした仲次郎の言葉に、カレンが唇を噛みしめる。
すでに深手を負い、勝機は見えない。
逃走するにも、ここは敵地のど真ん中なのだ。
カレンはしばし、逡巡したのち。
血にまみれた顔をくしゃくしゃに歪め、絞り出すように、声をあげた。
「…………本当に? 本当に、私を、受け入れてくれるの?」
今にも泣きそうな顔をして灼滅者たちを見あげるカレンの前に、ミユが進みでる。
倒れたままのダークネスに、そっと手を伸べ。
「あなたに、そのつもりがあるのなら――」
「ある、あるわ! お願い! 私を学園に入れて……いいえ、かくまって欲しいの!」
ミユの手を握り締め、カレンは涙ながらに訴えた。
六六六人衆の間では落ちこぼれで、HKT六六六に所属してからも、仲間たちにひどい扱いを受けていたこと。
人間たちの生活に憧れていたこと。
灼滅者たちと共存したいと思っていたこと。
8人の少年少女たちは攻撃の手を止め、じっと、話を聞いていた。
その態度に、カレンの口調も、しだいに熱を帯びていく。
「HKT六六六のことなら、なんでも教えるわ! どんなダークネスがいて、なにをしているのか。ミスターがいったい何を望んでいるのか。あなたたちの知らないこと、全部教えてあげる!」
両の手でしっかりと手を握るカレンに。
しかしミユは応えず、灰の瞳を向けるばかりで。
「それでもまだ足りないっていうなら――」
カレンはさらに言葉を紡ごうとして。そこで、気づいた。
ミユの灰の瞳に。
己と、もう一人、別の少女が映っていること。
その、意味に。
ダークネスの後頭部にバベルブレイカーを突きつけ。
紡は、静かに。
けれどはっきりとした声で、告げた。
「此処は学び舎。争いを望む方は、どうぞ、ご退場を」
●
バベルブレイカーが唸りをあげるのと、身をよじったカレンが手に呼び戻した銃口を天に向けるのは同時だった。
杭はダークネスの頭蓋を穿つには至らず、肩を抉るに留まった。
真紅の輪光が波状となって灼滅者たちを弾き飛ばした隙を狙い、六六六人衆は即座に灼滅者たちから距離をおく。
重傷を負ってなおダークネスの一撃は重く、灼滅者たちの身を容赦なく焼きつくした。
一葉、アルカンシェル、紡、そしてライドキャリバー『仮・轟天号』が仲間たちをかばい、その身にさらに傷を負う。
霊犬『千代菊』と『三日月犬夜』が、すぐに傷ついた仲間たちの元へ走り、柚羽もだれひとり倒れさせまいと、幾度目かの夜霧を展開させる。
「勧誘なんてウソウソ、ウソですよー! 私は六六六人衆を殺すために殺人鬼になったのですからー、一人も逃がしませんよー、うふふ」
「ひどいわ! この私を、だましたのね!」
死角から斬りかかる仲次郎の言葉に、カレンは激昂し、叫んだ。
「狼少年はいつも嘘をついていたから、誰からも相手にされなくなった。常々、嘘か本当かわからない話をしていれば――つまり、そういうことですね」
柚羽の冷めた口調に、アルカンシェルも続ける。
「お主でも誤魔化せぬことを教えてやる。妾の宿題が、いまだ終わっていないという事実じゃ!」
告げる内容も、状況も。
アルカンシェルにとってはひどく切実な、予断を許さぬものであったが。
この場にてあるのは、ただ。
『強者と戦いたい』という欲求のみ。
「四枚舌は比喩か、或いは真か。引きずり倒して、暴いてくれるわ!!」
声とともに出現した赤の逆十字が、血に濡れたカレンの身を、深く引き裂いていく。
「おのれ、おのれ……!」
傷を受けてなお殺意を向けるカレンを襲うのは、燈のはなった、風の刃。
逃げようとも追いすがる風にまかれ、ダークネスは体勢を崩した。
その隙を、見逃す灼滅者たちではない。
「千代おねーちゃん! 一葉おねーちゃん!」
燈の声を受け、千代と一葉はエアシューズで地を蹴った。
「三枚舌か四枚舌か知らないけど、このまま逃がしはしないよ!」
流星の煌めきと重力を宿した蹴りは、くずおれたカレンの身を、容赦なく地面へと叩きつけ。
「可愛らしい学園の仲間が増えるなら、大喜びなんですけど」
続く一葉は加速を重ね、エアシューズを燃えあがらせる。
「――身も心も真っ黒なあなたには。早々に、ご退場願いましょうか」
たて続けにはなたれた蹴りはダークネスの身を穿ち、ぼろぼろになった身を焦がし、焼き尽くしていく。
「こん……な! こんな、はずじゃ……!」
カレンは痛む全身を引きずり、目の前に立った少女――ミユへ向け、手を伸べる。
「ねえ、助けて! 助けなさいよ! 見逃してくれるなら、なんでもするわ、だから――」
ミユはその言葉を、静かに受けとめ。
そっと、カレンの手をとった。
触れた手のぬくもりは、本物で。
けれど紡がれる言葉は、ふわふわと、頼りない。
「あなたの言葉は。どこからが『嘘』で、どこまでが『本当』、なんですか?」
カレンは、一瞬、目を見開き。
すぐに唇を噛みしめ、炎にただれた顔を、くしゃくしゃに歪めた。
「『本当』のことなんか! どこにも! ないッ!!」
叫ぶカレンの手に、ガンナイフが顕現する。
――最後の反撃。
けれどその刃がミユを貫くより、早く。
ミユの手にしたマテリアルロッドが、カレンの頬に触れた。
「さようなら」
嘘も、本当も。
すべて、いっしょくたにして。
血と、炎と、虚飾にまみれた少女の身体がふくれあがり、その輪郭を喪っていく。
「ミスター……!」
手を伸べたカレンが、最期に目にしたのは。
どこまでも透明な、灰色の瞳だった。
●
灼滅したカレンの身体は灰になり、夜風にのってあっけなく消えた。
戦い終わり、千代、燈、一葉の三義姉妹は、たがいの無事を喜び、笑顔を交わす。
「それにしても……。あのダークネスの言葉。どこまで信用して良かったのかな?」
「でも四枚舌なら、全部、嘘なんじゃないのかな?」
「『裏の裏は表』、という言葉もありますし。もしかしたら、本当のことのひとつやふたつ、話していたのかもしれませんけど」
「終わったことです」と告げる一葉に、千代と燈は霊犬『千代菊』と『三日月犬夜』の背を撫で、静かに頷いた。
紡は小さく黙祷をささげ、ほっと肩の力を抜き、仲間たちを振りかえる。
「おつかれさま。これで、学園に安心な日々が、戻るかな。……テストも、頑張らないといけないし」
その言葉に、柚羽がはっと目を見開く。
「……課題を終わらせる時間、諦めてひらきなおるしかないですかね」
課題もテストももう知りませんよと頭を抱え、「全部ダークネスが悪い」と、夜空に向かって嘆く。
仲次郎は戦闘を経てほこりをかぶったライドキャリバー『仮・轟天号』を撫で、その労をねぎらった。帰ったら、またいつものように磨きあげてやらねばならない。
乾いた血がついたままの指を見つめ、ミユは、カレンが消えた場所に佇んでいた。
「……ただ。本当のことを。知りたいと、思ったんです」
つぶやくミユの言葉に。
仲次郎は応えるでなく、夜空を仰いだ。
「今夜は、月も星も、綺麗に見えますねー」
カランと下駄の音を鳴らし、『仮・轟天号』とともに背を向ける。
「ミユ! 仲次郎! なにをしておるのじゃ! 早くしないとおいていくからの!」
遠く呼びかけるアルカンシェルと仲間たちに、仲次郎は手を振って応え。
「お呼びのようですし。行きましょうかー」
頷き、ミユは吹きつける風に誘われるように、天を仰いだ。
月と星が煌々と輝き、ふかく、静かな夜闇をやさしく照らしている。
草も、木も、虫たちも。
今度こそ、おだやかな眠りにつくだろう。
学園に潜んでいた闇は、もう、どこにもいないのだから。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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