●琵琶湖東岸にて
「おい、お前ら! 琵琶湖大橋の向こう側には、雄琴温泉があるぞ!」
西岸を刀で指しながら配下のペナント怪人を鼓舞しているのは『蛾切』という銘を持つ刀剣怪人である。
「坂本の奴らをやっつけて、大橋を我らのものにすれば、雄琴温泉に入り放題だ!」
「雄琴温泉のガイアパワーは我らのものということですね、蛾切様!」
「もちろんそうだが、雄琴温泉といえば、温泉以外の楽しみも……わかってるくせにぃ~」
雄琴温泉は歓楽街としても有名なのである。
蛾切一味は、うっしっしっしっ、といやらしく笑い合い、今まさに始まろうとしている、琵琶湖大橋争奪戦への志気を高めるのであった。
●琵琶湖西岸にて
1人の慈眼衆が琵琶湖の東岸を睨み付け、厳しい声で言った。
「大橋の東岸に、近江牛の銘店があるのを貴様ら知っておるか」
「いえ、不覚にも存じませんでした」
跪いて答えたのは、屈強な僧兵5名。
「ワシも噂で聞いただけなのだが、キメとサシが非常に細かく、脂がなんとも白く美しくてな、口に入れた時の香りとジューシーさときたら……」
じゅるり、と慈眼衆は垂れてきたよだれをすすり込み。
「琵琶湖大橋を手に入れた暁には、早速その店で馳走になろうではないか!」
「なんと良い考えにござろう!」
「きっと八幡の者どもを蹴散らしてご覧にいれまする!」
僧兵たちもよだれを垂らしてアゲアゲだ。馳走になるとか言ってるけど、ダークネスのことだ、きっと食い逃げだろうに。
慈眼衆は配下へ鷹揚に頷いて。
「近江牛めざして励むがよいぞ!」
●天下分け目の
琵琶湖の東西で争い続ける、ご当地怪人・安土城怪人と刺青羅刹・天海大僧正。
武蔵坂の介入などにより事態は混迷しつつも、両勢力はじわじわと戦力を増強させながら、機を窺ってきた。
そして、いよいよ琵琶湖を巡る戦端が開かれようとしている……。
「例の2勢力が、琵琶湖大橋を巡る戦いを起こそうとしています」
春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)が困った表情で集った灼滅者たちを見回した。
双方の戦力は拮抗しており、全面戦争ということになれば、琵琶湖周辺は人の住めない地になってしまうのは間違いない。
この被害を少なくするために、武蔵坂学園は灼滅者の介入を決めた。
効果的な介入方法は、以下の3つが考えられる。
典は指を1本立てた。
「1つ目は琵琶湖大橋に集まっている軍勢同士が戦いを始める前に、その双方を、我々が制圧してしまう事です」
成功すれば双方共、武蔵坂学園の存在を無視することができず、一定の条件で休戦を結ぶことになる。
最も平和的な解決手段であるが、戦力を2分するので困難な戦いになる。阻止に失敗した場合は、全面戦争になってしまうだろう。
また、ダークネス同士が休戦を結ぶ事は、武蔵坂にとっては不利益になるかもしれない。
「2つ目は、琵琶湖大橋の東側、安土城怪人の軍勢を一方的に攻撃します」
これにより琵琶湖大橋は天海大僧正側が制圧する事になり、そのまま安土城怪人の本拠地に攻め寄せ、雌雄を決してしまうだろう。
戦況が不利となれば、東側援軍は撤退してしまう為、安土城怪人は敗走し、琵琶湖周辺は天海大僧正勢力が支配することになる。
戦場となる東岸で被害は出るが、全面戦争に比べればかなり抑えられる。
天海大僧正が強い力を得てしまうのが、デメリットである。
「3つ目は、琵琶湖大橋の西側、天海の軍勢を一方的に攻撃する事です」
これにより琵琶湖大橋は安土城怪人側が制圧する事になり、そのまま、天海大僧正の本拠地に攻め寄せ、雌雄を決してしまうだろう。
戦況が不利となれば、西側援軍は撤退するが、天海大僧正は本拠地に籠城して徹底抗戦し、灼滅されることになる。
天海が灼滅されるのは喜ばしいが、西岸には大きな被害が出るだろう。
また、安土城怪人勢力が強い力を得てしまうのも、デメリットとなる。
「どの選択も間違ってはいませんし、メリットもデメリットもあります。ですので、どちらの勢力と戦うかは、皆さんにお任せします」
ダークネスの勢力図を変える判断になるので、しっかり相談してほしい。
「それから注意して頂きたいのですが」
典はもう一度灼滅者たちと視線を合わせ。
「戦場ですから、東西岸とも多数のダークネスが集まっています。目の前の敵を倒しても、更に新たな敵が現れるかもしれません……連戦の可能性があることを頭に入れておいてください」
典は深々と頭を下げ。
「難しい選択になりますが、どうか、よろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410) |
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532) |
水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324) |
祟部・彦麻呂(誰が為に鐘は鳴る・d14003) |
華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958) |
三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230) |
阿頼耶・乃絵(天色のマレビト・d20899) |
御納方・靱(茅野ノ雨・d23297) |
●琵琶湖西岸
「ダークネス同士のケンカなんて、一般人の迷惑にならない場所でやってくれりゃいいのに。敵もあんなんだし……うーん、微妙な気持ち」
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は微妙な表情で唸った。
「織田信長VS明智光秀って考えるとテンション上がるかなー」
灼滅者たちは湖畔の松林に隠れている。先ほどターゲットらしき慈眼衆一味を見つけ、観察しているところだ。観察対象は、近江牛くうぞー、ふぁいとー! とか怪気炎を上げているので、間違いないだろう。
水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)がまあまあ、と悩む瑞樹にほほえみかけて。
「少なくとも、土地がダークネスの支配下に置かれたら一般の人々は穏やかな暮らしなんて望めないだろうから……休戦に持ち込むために、ひとつ暴れてやるとしようよ……!」
スッと懐からSCを出した。
仲間たちも頷いてSCに手をかける。
御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)は、そっと戦場を見回す。今は8人以外の姿は見えないが、大勢の仲間が周辺でサポート活動を始めていると思うと心強い。
「(戦って、そして誰ひとり欠けることなく無事に帰りたい。助けてくれる仲間達も一緒に)」
阿頼耶・乃絵(天色のマレビト・d20899)がおもむろにサウンドシャッターを発動し、三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230)が神妙な顔で。
「みんなっ、準備はいい?……じゃ、Goだよっ!」
●慈眼衆一味
「……何だお主らは!?」
突然現れた8人と3頭に慈眼衆一味は慌てた声を上げる。しかしそれには構わず、
「たあーーっ!」
祟部・彦麻呂(誰が為に鐘は鳴る・d14003)がもっとも近い位置にいた僧兵に『白蛇』をねじり込んだ。瑞樹が間髪入れず同じ僧兵を鬼神変で殴り飛ばす。まずは手下の数を着実に減らしていく作戦だ。
朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)が、
「おいしい名物を食い逃げなんて、ご当地ヒーローが絶対許さないよ!」
啖呵を切りながら前衛にシールドを展開し、旭が縛霊手を掲げて結界を張る……が、戦に向けて心構えは出来ていたのだろう。近江牛で盛り上がっていた慈眼衆たちも素早く体勢を立て直し、盾役らしい僧兵3名がリーダーである慈眼衆と傷ついた仲間を素早く庇った。
「灼滅者だな!?」
配下にガードされながら慈眼衆が断罪輪を振って癒しの陣を張り、怒りの叫びを上げる。
「一度は味方した我々に奇襲をかけるとは! 日和見の半端者共め!」
「好きなように罵ればいい」
彦麻呂が言い返す。被害を最小限にして休戦を目指すという方針が、理想論であることは重々解っている。でも。
「地元の人たちの犠牲の上に成り立つ平和なんて、私は認めないから!」
「暴力を伴う以上、我々が正義だとは口が裂けてもいえないが」
旭も穏やかな口調のままで。
「貴方たちは、自分たちのための戦争にも関わらず、一般の人々まで戦争の駒にしようとしている。叩き潰すには充分な理由だ」
「ううううるさいっ、大体お主らがこちらについておれば……ええい問答無用、大橋奪取を邪魔する者は何人たりとも許さぬ! 僧兵たちよ、やってしまえ!!」
5名の僧兵から一斉に放たれた風の刃が前衛を襲う。しかし、
「させ……ません……」
ディフェンダーの華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)と夏蓮、小枝子と乃絵の霊犬・リックとほむすび丸が、必死にクラッシャーを守る。ディフェンダーの隙間からは後衛が盾役の僧兵を集中攻撃する。靱は寄生体から生成した酸性の液体を勢いよく飛ばし、
「がんばってみんなを助けるよ!」
小枝子は前衛に向けてに素早く清めの風を吹かせ、乃絵は、
「(ダークネスにも事情はあるだろうが、この地域の人たちを私のような気持ちにさせない。理不尽な暴力から守る!)」
思いを込めて除霊結界を張った。
「おかえし……です……」
穂乃佳が放った神薙刃は盾の間をすり抜け慈眼衆にまで届き、夏蓮は仲間を背負う位置で氷魔法を叩きつけ、瑞樹は光と化した聖剣を思いっきり突き刺した。
「臨兵闘者皆陣列在前!」
旭は断罪輪を掲げてトラウマを呼び起こし、
「これでどうよッ!」
彦麻呂は明らかに弱っている僧兵にロッドを叩きつけ、眩ゆい火花が散るほどに魔力を流し込んだ。
「ぐぁ……」
僧兵は白目を剥くとくたくたと地面に崩れ落ちた。これでまずは1体始末した。
「ぬううう……よくも我の手下を、許さん!」
慈眼衆は怒りに任せ、断罪輪を振り上げて斬りこんできたが、
「とめ……ます……っ」
それを穂乃佳が傷つきつつも縛霊手でがっちりと受け止め、抑える。
「穂乃佳ちゃん、ナイスファイト!」
「行こう!」
その脇をすり抜け、仲間たちは残りの僧兵たちに襲いかかっていく。
琵琶湖大橋奪取という明確な目的のある慈眼衆一味は、統率のとれた戦いを繰り出してきた。しかし灼滅者のチームプレーは、着実に彼らにダメージを与えていった。
ついに、慈眼衆とそれを守る僧兵1人のみとなり、ボスにも容易く攻撃が届くようになっている。
「……うっ!?」
悔しそうに灼滅者たちを睨みつけていた慈眼衆が、呻き声を上げた。旭が黒い影のように近づき、素早く足下に切りつけたのだった。旭はスッと目を細めて慈眼衆を見上げ。
「逃げるなら今だよ?」
「だ、誰が逃げるかあっ!」
叫んだ慈眼衆に灼滅者が群がっていく。瑞樹の残影刃が衣を切り裂き、靱の毒光線が胸に吸い込まれる。乃絵は前衛へと癒しの光輪を送り、穂乃佳は鬼神変で殴り飛ばした。ふらふらに弱った僧兵は、霊犬たちが囲んで止めている。
しかし盾を剥ぎ取られてもそこはダークネス、懐に飛び込んで拳を振るおうとしていた彦麻呂に。
「そうそう殴られはせんぞ!」
「あッ!」
凄まじい勢いで回転する断罪輪が。
「ひこせんぱい、危ないッ!」
そこに体を入れたのは。
「夏蓮ちゃん!?」
慈眼衆渾身の一撃に、夏蓮は血しぶきを上げて数メートルもふっとんだ。
「にゃーれ!」
小枝子とリックが慌てて駆け寄って、回復とガードに当たる。
「だ……大丈夫だよ、絶対私は倒れたりなんかしない……正義のヒーローは何があっても絶対に立ち上がるお約束だもん!」
夏蓮は砂浜に横たわりながらも気丈に笑ってみせる。
傷ついた仲間の心意気に、灼滅者たちは気合いを入れ直し、
「このおっ!」
瑞樹の蹴り出した2本の影『戒めの鎖』がぶうんと伸びて喰らいついたところに、彦麻呂が改めてオーラを宿した拳を、穂乃佳はガンナイフの弾丸を見舞う。靱が流星のような跳び蹴りを決め、乃絵は光輪を撃ち込んで。僧兵を始末した霊犬たちも果敢に慈眼衆に斬りかかっていく……と。
「犬畜生共め!」
慈眼衆が武器を振り回して犬たちを振り払った、が、バランスを崩したのか転んでしまう。起き上がろうとするが、弱っているせいか動きが鈍い。
「今だよ!」
彦麻呂が紅い槍を構えて突き進み、穂乃佳は巨大な腕で殴りつける。乃絵は逃げられまいと結界を張り直し、瑞樹の影の刃は衣をビシビシと切り裂いた。靱が、
「これは、どうだ!」
敵の顔へと狙い定めてDESアシッドを放つと、
「ぎゃああ!」
強酸性の液体が目に入ったらしく慈眼衆は顔を押さえて砂浜に突っ伏した。
灼滅者たちは身構えて敵の次の出方を窺う……が、慈眼衆は。
「て……天海様……お、近江牛ぅぅぬぬぬ……」
苦しげに呻くだけで、起きあがれない。
それを見て、旭が両手を揃えて突きだしオーラを漲らせて。
「ご馳走は……浄土で堪能するがいいさ」
眩しいほどの閃光と共に、慈眼衆は琵琶湖に消え失せた。
●インターミッション~仲間たち
1戦目が終わるとすぐさまサポート隊が集まってきた。樹上などの高所から偵察している者によると、西岸には天海側のダークネスがうようよしているとのこと。10分の余裕があるかは微妙ではあるが、防風林の中に退避すると、サポート隊の回復担当によって即座に心霊治療が始められた……が、やはりすぐに斥候担当が数人、息を切らせてやってきて。
「やたら美人の刺青羅刹がやってきますのよ!」
「やっぱり間に合わないっすかね……」
心霊治療を受けながら、乃絵が焦った様子で時計を見る。
「いや、何人もが足止めしようと牽制したり、話しかけたりして頑張ってるから、間に合うかもしれないよ」
「よし、急ごう!」
大勢のサポート隊が役割を分担して、本隊が戦い易いように工夫してくれているのだ。
「本当にありがたいね」
役目を終え、散っていくサポート員の後ろ姿を見送って、やはり友人に治療を受けている靱がおっとりと微笑む。
「さあ、回復しながらポジションチェンジの相談もしてしまおう」
それを聞いてぽむが、
「(チェンジする?)」
というように、へたりこんでいる主にすり寄った。穂乃佳は愛犬をむぎゅりと抱いて。
「みぅ……連戦だから……いつもより……大変、なの……でも、まだ大丈夫……よ……」
●棘姫
何とか心霊治療を終えてサポート隊が散り、本隊の8人と3頭は次の敵を待ち受けるべく松林に身を潜めた……その途端。
回復の時間稼ぎのために足止めをしていてくれた数人のサポート員が、1体の刺青羅刹を誘き出して……なのか、追われてなのかは微妙だが、目の前の砂浜へと駆け込んできた。
なるほど斥候係の言っていた通り、大層な美女だ。色白の肌に細身の長身、ストレートの長い黒髪、露出度の高いシルクのドレスと同色のハイヒール、首筋から頬へと絡みつくような色っぽい茨の刺青……。
「敵は1体のみ」
彦麻呂が呟く。
「ゲリラ戦がより効果的だね……よし、いくよ!」
本隊はサポートと羅刹の間に一気に割り込んで、初撃を放った。
旭が、霊犬と交代してディフェンダーとなった乃絵と息を合わせて縛霊手を掲げ結界を張り、やはり前に出た小枝子は縛霊手で羅刹を抑えつける。そこに靱が手始めに毒光線を撃ち込み、彦麻呂は槍を繰り出し、瑞樹は鬼神変で殴りつける。
「でえいっ、ケンカは余所でやってよね!……場所があればだけど」
穂乃佳は風の刃を放ち、夏蓮はいつの間にか上っていた立派な松の樹上から、星をきらめかせて跳び蹴りを決めた。
美女羅刹は脇からの奇襲攻撃に押され、砂浜に尻餅をついた。スカートの深いスリットから太腿が露わになる。
「良かった、間に合ったみたいッスね……自分らに出来るのはここまでッス!」
「本隊よ、後は頼んだぞ!」
サポート隊が本隊の戦いぶりを見て、安心した表情で松林に散っていく。
「い……いったいわね、何してくれんのよッ!」
羅刹が怒りの声を上げた。立ち上がりながら、ドレスについた砂を神経質そうにパンパンと払う……ってか、びっくり。声が、低い。太い。
「え……オカマさん、ですか?」
靱が思わず馬鹿正直に訊いてしまう。だってあまりにも容姿とのギャップが。
「オカマ言うな! ジェンダーフリーとお呼びなさいっ」
キッと羅刹が靱を睨み付ける……が、すぐにねっとりとした不穏な視線で灼滅者たちを眺め回し。
「ふふん、今度こそ戦う気みたいねぇ? さっきからアンタたちの仲間ってば、ちょろちょろ逃げ回るばっかりで、面白くなかったのよぉ……あ、アタシは棘姫っていうの。よろしくねぇ?」
胸元からびっしりと棘のついた鞭をぞろぞろと引っ張り出して、赤い唇をもっと真っ赤な舌でなめ回し……そうしている間に、華奢に見えていた四肢にムキムキと筋肉が盛り上がってきた。一気にマッチョの本性を現した彼女……彼を、もう女性と見紛うことはできない。
「せいぜい楽しませてちょうだいねぇ!」
ビシュルッ!
「!?」
茨の鞭が目にも止まらぬ速さで伸びて、前衛を薙いだ。ディフェンダーが庇う暇もなかった。
「リ、リッーク! 回復、クラッシャーからねーっ!」
小枝子が鞭に跳ね飛ばされて砂浜をごろごろ転がりながら、懸命に愛犬に命令を飛ばしつつ、
「次は絶対庇ってみせるからねっ!」
気合いを入れ直し、
「(速い……強い!)」
乃絵も砂に埋もれながらも、素早く体勢を立て直して、
「(さすがに単独で参戦してるだけあるっすね……でも無事に帰って、ただいま、ってあの人に言うために倒れるわけにはいかないし、みんなを倒れさせるわけにはいかない!)」
光輪を手元に光らせる。
「大丈夫、強くても敵は1体だ、いけるよ!」
旭が鼓舞の声を上げながら断罪輪を掲げ、
「お願い……効いて!」
心霊治療で大分体力を取り戻した夏蓮が、祈るようにバベルブレイカーを発射し、その間にメディックに下がった霊犬たちに回復を受けた前衛も次々と立ち上がり、敵へと向かっていく。
初めのうち棘姫は、戦うことを、弱者を嬲ることを楽しみ、サディスティックな笑顔で茨の鞭を振り回していた。しかし灼滅者たちの粘り強い連続攻撃に、次第に苛つきだしたようで……。
「ううん、もうっちょこまかと、イライラするわあっ!」
「うっ!?」
踏み込んで聖剣を振りかざした瑞樹に、巨大な拳が伸びる――。
「あ……あぶ……ない!」
穂乃佳が体を入れ、代わって砂浜へと殴り倒される。
「穂乃佳さん、ごめん……ありがとう!」
瑞樹は倒れた仲間の陰からするりと飛び出し、
「たああっ!」
光と化した聖剣を全力で、胸はないが厚い胸板に突き刺した。
「ぎゃあっ!」
渾身の一撃にさしもの羅刹も野太い悲鳴を上げる……そして。
「――あああ、もうヤメヤメッ!」
棘姫は迫る灼滅者から遠ざかるように、ひとつ大きく跳び退って、ヒステリックに叫んだ。
「こんなしつこいヤツらとやってらんないわよぅ! 大体アタシはうずめ様から命令されて来てるだけで、命まで張る筋合いは無いんだからぁっ!」
茨の鞭を胸元に押し込んで。
「アタシ帰るわッ」
踵を返すと、ハイヒールにも関わらず砂浜を物凄いスピードで去っていってしまった。
「……えーと?」
小枝子がその後ろ姿を見送りながら、頭を掻いて。
「追いかけなくていいのかな?」
靱が疲れた笑顔で答える。
「いいんじゃないかな? お帰り下さったみたいだよ」
穂乃佳が霊犬たちに回復を受けながら首を傾げ、
「ん……だいぶ……いろいろな……所から……きてるみたい……ちゃんと……おうち……帰ってもらう……です?」
●インターミッション~折れない心
今回も戦いが終わったその瞬間にサポート隊がわらわらと現れて、すぐさま全員の回復と心霊治療を始めてくれた。他チームの戦いも大分進んでいるようで、見張り係によると徐々に周囲の敵は減ってきているようだ。
棘姫のムキムキの鬼神変をがっつり受けてしまった穂乃佳は、治療を受けながら、
「……あぅ……すこし……いたい……の……次は、ぽむ……前……おねがい……なの……」
愛犬にポジションチェンジを頼んだ。それを聞いて旭が心配そうに。
「ってかさ、みんな3戦目、いけるの?」
8人はそれぞれの姿を見回した。
「わたしは行けるよっ!」
小枝子は強気に言い放ったが、それでもあちこちに傷を負っている。
「次の敵も、さっきの棘姫とかいうオカマさんみたいに、適当に撤退してくれればいいんだけどね」
瑞樹も顔をしかめている。ディフェンダーはもちろん、2戦もやればクラッシャーのダメージも少なくない。
すると、サポート隊の1人が笑顔で。
「弱気になるな、脱出要員も大勢いるんだぜ」
戦闘不能に陥った時のための退避支援担当者も大勢待機している。
「何としても退避させてやるから、安心して戦ってくれ」
「もう一踏ん張りじゃ!」
「げほっ」
彦麻呂は心霊治療をしてくれている友人にバシッと背中を叩かれ咳き込んだ。
「そうですね……皆さんがいてくれるんですもんね」
靱は身を削って治療してくれているサポート員たちを、眩しそうに見やって。
「(戦場ではもちろんだけど、ここに来る前にも、修業につきあってもらったり、応援貰ったり……きっとこれからも、色々大変なこと、あるかもしれないけど、皆で乗り越えて行くんだろうな)」
……と、そこへ斥候担当が駆け込んできて。
「なんだかやたらでっかい慈眼衆がそのへんうろうろしてるぜ!」
「強化僧兵を1体連れてます」
「……よし、もういっちょ頑張ろうか!」
旭がふっきるように言って、皆は力強く頷いた。
夏蓮に治療を施している恋人が、囁いた。
「――待ってるから、絶対に無事に帰ってくるんだよ」
●巨漢の慈眼衆
「……灼滅者か」
ゲリラ的な急襲を受け、灼滅者たちと対峙した巨漢の慈眼衆は、何故か悲しそうに呟いた。
「(何だろう?)」
灼滅者たちは首を傾げたが、慈眼衆は気を取り直したように断罪輪を構えた。
「こうなっては戦うしかあるまい。いざ!」
3戦目が始まった――。
――厳しい戦いではあったが、灼滅者は3戦目にも勝利を収め、巨漢の慈眼衆を撤退させることに成功した。
そして全員無事に、サポート隊に守られながら、学園への帰途についたのだった。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月1日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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